裂ける空、躍動の叛逆者
遺跡にて発見された特殊なバングル、その光が指し示したのは他でもないエルフの村であった。物語の始まりの地、ここが最終目標となるとはアリシアもミューアも考えてもおらず、最強の武器グライフィオスが眠っているなど誰が想像したであろう。
「導きの光は村の中央に向かって…?」
「そこには枯れた噴水があったハズよねぇ」
「ああ、確かにそうです。大きな噴水用装置ですがモニュメントとしての意味しかなく、あそこから水が噴き出ているシーンは見たことありません」
タチアナの言う通り、村の中央部には巨大な噴水装置が存在している。金属製のソレは村の象徴的な装飾機器として認知されているが、噴水口があるものの水が実際に出ている姿を見たエルフは一人もいない。そもそも河川も水路も繋がっていないので、最初から機能するような作りではないのだ。
「原型を留めていますね。多少焦げたように見えますが」
アリシア達は話題に上った噴水まで移動する。巨大な円形の台座に塔が刺さるような形状をし、本来は白銀であったのだが火災の影響なのか黒ずんでいた。
普段は誰も近づくこともなく、実際にアリシアも至近距離まで迫るのは初めてだ。
「バ、バングルが外れた!?」
噴水塔にアリシアが触れた瞬間、これまで接着剤で固めたように外れなかったバングルがガチッと音を立てて落下する。もう自らの役目は果たしたという意思表示であろうか。
「この噴水がグライフィオスだというのか? しかし、武器には思えないケド……ン? 文字が書かれているのか」
ミューアは噴水塔の側面に文字の羅列を発見した。錆び付き、掠れて読みにくいが、古代書物に似た古い文字であるらしいとは分かる。
となればルトルーの出番だ。
「ルトルー、何が書かれているか読めるか?」
「ちょいとお待ちをデス……えっと、”日ノ本エレクトロニクス”と書かれているデス」
「なンだ、ソレ。どういう意味だ?」
「サッパリ分からないデス」
解読したはいいものの、全くもって理解できない単語である。この噴水を建造した組織の名称なのかもしれないが、意味不明なままでは困るのだ。
「あ、もう一つ……鍵を捧げよ、とあるデス」
「鍵というのは、世界樹の枝だな。この台に捧げるんか?」
塔の文字列の下には小さな台が設置されている。ビンを一本置くぐらいが精一杯の面積で、台というよりはタダの出っ張りのように見えるが。
「アリシア、やってみせてくれ」
ミューアの言葉に頷くアリシアは、世界樹の枝をサイドバッグから取り出す。いよいよ、鍵としての世界樹の枝の出番が来たのだ。
「ココに置けば……っ、何の光!?」
虹色の枝を台に置いた瞬間、噴水全体がバッと発光を始めた。ここ最近、何かと光る物体ばかりを見てきたが、それらよりもひと際強い光量で、アリシアは後ずさりながら手で目を覆う。
「うわっ、振動が…ッ!」
そして地響きも襲い、いよいよ立っていられなくなってしまう。
エルフも騎士隊の人間も平衡感覚を失うようなショックに恐怖を覚えるが、その感覚器官へのダメージはすぐに回復し、瞼を開けて噴水を改めて観察する。
「噴水が変形をした…!?」
中央部にある塔が構造を組み変え、台座部分が隆起することで地下に続く大きな階段が形成された。どうやら、この先に求める物が隠されているようだ。
こうなれば後はもう地下へと突入するだけだ。遺跡の時のようにアリシアが封印を解く力を解放し、グライフィオスを獲得すればいい。
だが、この瞬間を待っていた悪意ある者が遂に行動を開始する。
「ふふふ、ようやく……」
そう、他の誰でもないデボラが叛逆の狼煙を上げたのだ。
エルフや騎士が階段に注目を集めている中、デボラはリュックを降ろして開く。中には大量の魔結晶が仕舞われていて、どれもが真紅のカラーに染まっていた。
「さぁ、次なる時代の幕開けですよ……」
両手で魔結晶を掴み取り、前方の人だかりに向かってブン投げると、カランと乾いた音と共に分散して地面を転がった。
その落下物を目視したミューアには見覚えがあり、戦慄が走って咄嗟に身構える。
「なんだ…? 魔結晶爆弾か!?」
推測は当たっていて、デボラが投げた魔結晶は爆弾として加工された物だ。ミューアが湿地帯におけるルマーカスラグ戦で使用した物と同様の武器である。
ミューアは咄嗟にアリシアを庇うように自らが盾となり、直後、魔結晶爆弾は一斉に炸裂して爆煙を巻き上げた。
「一体なにが!?」
状況を呑み込めないアリシアは、目の前の出来事が理解できなかった。いきなりの爆裂が周囲を破壊し、仲間が次々と倒れていく。
「ミューアさん!?」
アリシアを守ったミューアは近くで起きた爆発にもろに巻き込まれ、全身を負傷して血にまみれている。瀕死の重傷を負って意識は無く、絶命寸前であった。
パニックに近いアリシアは震える手でミューアを抱き起して名前を叫ぶが、応答は一切ない。
「あとは、アナタを確保すれば終わりですね」
「デ、デボラさん…?」
「ピオニエーレと呼んで頂く」
化けの皮を脱ぎ捨て、というよりも出自を隠すための仮面をアリシアの前で装着するデボラことピオニエーレ。こうなれば正体を秘匿しておく必要もなく、むしろ宣戦布告の意味を籠めた敢えての行動だ。
「世界樹の枝は、こうも使えるんですよ」
爆発の影響で台から落下していた世界樹の枝を握り、ピオニエーレは頭上に掲げる。
すると、ピオニエーレの上空が淀むように歪み始めた。空間そのものに介入して変化をもたらしたようで、超時空振が発生しているのだ。
「出でよ、わたしの可愛い子供達……シフト!!」
自信満々なピオニエーレが何かしらの術を行使する。その気合に呼応するように世界樹の枝から魔力が迸り、上空の時空の歪みに直撃した。
「な、なにが起きて…?」
呆然とするアリシアの視界の中、空が裂けるようにして歪んだ空間が広がっていく。そして、その空間から多数の人型が出現し始めたのである。
「ティタン・ゴーレムは貴様達を蹂躙するための兵器なんですよ!」
ピオニエーレが密かに準備をしていた魔道兵器ティタン・ゴーレムは、王都研究所地下から空間転移を果たし、次々とエルフ村に降下する。
勝利を確信したピオニエーレが自作の杖を振ると、エルフや騎士達に対して攻撃を始めた。
「やっと出番か。ピオニエーレは上手くやってみせたんだな」
ティタン・ゴーレムの軍勢の中にはミューアの姉、ナスターシャも存在し、彼女もまたピオニエーレの術によって召喚されたのだ。
二人の強敵が立ち塞がり、アリシアにジリジリと近づく。
「アリシア・パーシヴァルには我々と共に来てもらいますよ」
「なんで私を!?」
「ハイエルフのアリシアでなければグライフィオスの真価を発揮できないのですから、わたしの野望に付き合ってもらわなければ困るんです」
「勝手な理屈を…!」
ミューアを傷つけられて激怒しているアリシアは、ピオニエーレの言う事など聞く気はない。
しかし、
「来てもらうと言った!」
焦れて飛び出したナスターシャが強引にアリシアの腕を引っ張る。そのせいでアリシアに抱えられていたミューアは地面に伏して倒れてしまう。
「ミューアさんが重傷なんですよ!? お姉さんなら妹の心配をしないんですか!?」
「アレはあたしの運命を捻じ曲げた元凶だ。ともすればココで死んでもらうのがスジというものだよなぁ!」
充分過ぎる程の殺気を纏い、ナスターシャはミューアにトドメを刺そうと勢いづく。だが、そんな蛮行を許しはしないアリシアは、ナスターシャの足を踏みつけて阻止してみせた。
「オマエはッ…!」
不愉快さを隠せないナスターシャは思わずアリシアを殴りつける。強力なパンチであったためにアリシアは脳震盪を起こしながら倒れるが、まだ気を失わず最後の希望に懸けてみることにした。
「ルトルーさん、タチアナさん…ミューアさんを頼みます!」
アリシアの視界に仲間の二人が写り込んだのだ。その一人であるルトルーは魔結晶の爆発を盾で防御し、彼女の近くに居たタチアナもまた無傷で、窮地に陥ったアリシア達を救援しにきたのである。
ルトルーはピオニエーレを奇襲して退かせ、タチアナがミューアを確保しつつアリシアの救助も試みる。
「アリシアちゃんを返してもらうわ!」
キレて口調が変わったタチアナのナイフがナスターシャ目掛けて投げつけられるが、ギリギリのところで回避されてしまった。ブルーデプス戦の時のような、鋭く冷酷な一撃必殺となるハズの攻撃を避けるとは、ナスターシャもタダ者ではない。
「そうはいくか! クソッ、ミューアめ…!」
タチアナと交戦してミューアを確実に仕留めたい欲求に駆られるナスターシャ。
だが、危険を冒すべきは今ではなく、アリシアを使ってグライフィオスを獲得する方が優先されるべきだ。最強の武器さえあれば、宿敵を消し去るなど造作もないのだから。
「ピオニエーレ、頼むぞ!」
「任せてくださいよ」
ルトルーを蹴り飛ばしたピオニエーレは、ティタン・ゴーレムに更なる命令を下す。それは、敵対者を徹底的に潰せというもので、攻撃は更に苛烈なものになっていく。
「どうして…何故こんな事に……」
一度火の海に沈んだエルフの村は、再び戦火に包まれてしまった。
地獄のような景色を目の当たりにするアリシアは、ナスターシャに抱えられながら意識を失う……
-続く-




