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バングルの示す場所、旅の最終地点は…

 王都研究所の地下にはデボラが管理する秘密の部屋が存在し、ここでデボラは独自の兵器開発を行っていた。

 その兵器というのが金属フレームを骨格として、岩石によって外部装甲を形成したゴーレムだ。既に量産されており、約三メートルにも及ぶ巨体が数十体並べ置かれている。


「待ってたぞ。この研究所に入る時、毎回裏口からコソ泥のように侵入しないとならないから緊張するよ」


 暗闇から姿を現したのはナスターシャ・エルフリードだ。彼女はピオニエーレことデボラの協力者であり、この秘密の部屋を知るもう一人のエルフである。


「我々の作戦が上手く進めば、もうコソコソと隠れる必要も無くなりますよ。わたしが城の仕事を押し付けられることもね」


「エルフの外交官さんは大変だもんな? 異種族間の交流を目的としているわけだから、城の役人共に逆らって関係にヒビを入れるわけにはいかないし」


「アイツらはコッチが強気に出れないのを分かって面倒な事案に巻き込むんですよ。それに外交官はわたし一人ですから……この激務を長年やっていればオカシクもなりますわな」


 デボラは自嘲し、肩をすくめる。

 エルフ族と人間族のパワーバランスは、現代においては圧倒的に人間族の方が上であり、それは人口数の差やビロウレイ王国の発展からくるものだ。過去のエルフ族の栄光は既に錆び付いていて、リスペクトの精神など無くなっている。

 しかも、エルフ村はビロウレイ王国の領土内にあることから、城の中では”我々の土地に住まわせてやっているのだ”という考えが広がっているのだ。

 そのため、外交官エルフを雑に扱ってもいいという風潮が出来上がっているのが現実である。


「それより、世界樹の枝は取り返せたんだな?」


「はい。これを使い、わたしが創り出したティタン・ゴーレムを起動状態に。そうすれば決戦時に我らの戦力として活躍してくれますよ」


 ティタン・ゴーレムという名称であるらしい兵器群は未完成であり、世界樹の枝を用いた最終調整を施す必要があるのだ。


「アリシア・パーシヴァルがまさかのハイエルフらしく……ヤツの持つバングルがグライフィオスまで導いてくれると」


「へぇ。じゃあアリシアとやらを利用しないとならないんだ?」


「ヤツにグライフィオスを見つけさせた後でティタン・ゴーレムを使って襲撃をかけます。そうして邪魔者を排除しつつ、アリシアは確保すればいいんですな」


「しかし、この王都から遠く離れている可能性があるんだろ? 一体どうやってティタン・ゴーレムを運ぶ?」


「秘策がありますからご安心を。世界樹の枝の神秘を使えば造作もありませんがな」


「そりゃ頼もしいよ。なんせ、あたしには世界樹の枝をコントロールできないからな……」


 エルフリード家の血を引くナスターシャだが、世界樹の枝を使って何か術を行使する等は出来なかった。逆にデボラは魔物を支配したり、魔道兵器開発に利用するといった多岐に渡って駆使することが可能であった。その理由は現状不明で、だからナスターシャはデボラに託すしかないのである。

 得意げな表情で胸を張るデボラは、野望のために最後の仕事に取り掛かる。ティタン・ゴーレムを起動させ、全ての戦いにケリを付けるために。

 





 デボラの暗躍など知らないアリシア達は、交流を兼ねた夕食を終えて城内のゲスト用宿泊施設に移動していた。

 王国の権威を見せつけるという目的もあってか、女王の暮らすエリア並みの装飾が施されているが、正直なところリラックスできるような空間ではない。特にアリシアのような自然環境に慣れ親しんだエルフには息苦しさもあった。

 そんなアリシアが提案し、宿泊施設に併設されたバルコニーへと出る。夜風が吹き抜け、城下を見下ろしながら旅を共にする四人が揃い並ぶ。


「いよいよグライフィオスが手に入る時がくる……長かったような短かったような」


「沢山の戦いを経験してきましたからね……」


 オークやゴブリンとの戦いから始まり、道中に様々な強敵と交戦してきた。そしてピオニエーレという宿敵を追い、グライフィオスと呼ばれる武器を求めて王都まで来たのである。

 人間の女王や仲間の期待を受けるアリシアは、しかし自身がハイエルフである可能性について懐疑的だった。


「ルトルーさん、ハイエルフについて他に情報はありませんか?」


「古代書物に興味深い記載があるのデス。黄金の魔弓についてなのデス」


 ルトルーはデボラから預かった古代書物を広げ、とある挿絵を指さす。そこにはエルフ戦士が描かれ、金色の魔弓を携えていた。


「ハイエルフの戦士イザベラ専用装備として、黄金色の魔弓が用意されたらしいデス。発射した矢の遠隔操作が可能で、イザベラ氏のセンスも相まって凄まじい戦果を挙げたと書かれているデス」


「私の魔弓が同一の物かは分かりませんが、特徴は似ていますね」


「ちなみに、メガ・アロー・ランチャーという名称のようデス」


 アローは矢を示す言葉で、ランチャーは撃ち出し機という意味を持ち、これらを合わせると矢の発射機となる。造語としては雑なように感じるが、武器なのだから強そうな名称の方が良いだろうという判断があったのかもしれない。


「ハイエルフ専用武器の性能を引き出せているって事実も鑑みれば、アリシアは間違いなくハイエルフの能力を有していると考えられるよ」


「私は未だ信じられていないのですが…その力があるのならば、ただ役目を果たすだけです」


 アリシアは自分が生き残った意味を悟り、明日からの遠征に期待と不安を抱きつつ星空を見上げた。

 その視線の先、一つの流れ星が駆けていくが、願い事を唱える前に消えゆく。自らの大技シューティングスターを想起するアリシアは、メガ・アロー・ランチャーと名付けられた魔弓を優しく撫で、頼りにしているよと小さく呟くのであった。






 翌日、特務騎士数十人に護衛されるアリシアは、王都を出発してバングルの示す光を追う。ビロウレイ王国の好意で移動用に馬も用意してもらえたので、スムーズに目的地まで移動できるだろう。


「コチラはお返しします。アリシアさんがグライフィオスを起動する際に必要でしょうからね」


 デボラはアリシアに並走して世界樹の枝を返却する。本来であれば手中に収めておきたいのだが、グライフィオスへの道標を有するアリシアに持たせた方が良い。ヘタに怪しまれて正体がバレては元も子もないのだ。


「世界樹の枝の解析結果はどうでした?」


「いやぁ、それが成果は得られませんでした。他の魔道道具とは根本的に質が違うようでしてねぇ……」


 白々しい態度で適当な返答を返す。ティタン・ゴーレムの調整をして、解析も調査もしていないのだから大嘘である。


「実際にアリシアさんが使うシーンが来たら、それを観察をさせて頂きますよ」


 これは本心であり、グライフィオスの起動キーとしてどのような現象が起きるのかは純粋に興味があるらしい。

 ミューアの駆る馬に同乗するアリシアは、バングルの指す先に目をやる。この進行方向は、アリシア達が王都へ向かう旅をしてきた道順を逆行していて、湾岸都市シーカールの近くを通りかかる。ここでのベルギットやルトルーとの出会いが、グライフィオスに更に近づく契機になった。


「なんだかシーカールでの出来事も懐かしいですね……」


 そうしてビロウレイ王国を二日程かけて縦断し、途中にはディガーマの傍も通過する。この街ではタチアナと出会い、最初こそ敵対したが今では頼れる仲間となった。


「ふふ、アリシアちゃんとの巡り合いは本当に運命的だったわねぇ。誰かさんに邪魔を受けてしまったけれどぉ」


「ふん……アリシアにヘンなコトをしないというのが同行の条件だと忘れていないな?」


「うふふ、最近物覚えが悪くてねぇ」


「丁度いいからディガーマに置いていくぞ……」


 そんなやり取りをして暫く後、アリシア達一行はとある街に到着した。比較的小さく静かな街であるが、アリシアには見覚えがあって馬を降りて全体を見渡す。


「あれれ? ここって、スティッグミではありませんか」


「そうだな。アタシが拠点としていた場所だ」


 このスティッグミにはミューアが常宿としていた小さな宿があり、アリシアが初めて訪れた人間族の街である。アリシアの服を買ったり、近くの農業地帯ではピオニエーレとの遭遇も果たした。


「まさかとは思うが、終着点は……」


「有り得ますね……」


 スティッグミは大きな森の近くに存在していて、その森はエルフ族にとって馴染み深い場所だ。ミューアだけでなく、エルフ全員が動揺しながら同じ想像をしている。

 その想像が当たっているかを確かめるべく、アリシア達は馬をスティッグミの馬宿に預けて森の中を進む。

 すると、次第に木々が少なくなり、開けた大地が見えてきた。


「この地に再び戻ってくるとはね……」


 皆の眼前に広がるのはエルフ族の村そのものだ。焼き払われてしまったので建造物は消し炭となり、生存者もいない。物悲しい廃村と化した光景には胸が苦しくなる。

 そんな悲劇と旅の始まりの場所が、最後の目的地となるとは……


「バングルの反応が強くなりました。やはり、村に隠されているようです」


 バングルの光量が増し、軽く振動している。これを鑑みるにグライフィオスが近くにあるのは間違いない。

 アリシアは鼓動を昂らせ、村の中を走りながら捜索を開始した。以前暮らしていた頃に思い当たる物はなかったため、とにかく調べ回るしかない。


「ますます反応が強くなっていく……一体ドコにあるの?」


 そのアリシアに付いていくデボラもまた興奮を隠せないでいた。追い求めた最強の武器は目の前となり、野望が成就する瞬間が刻一刻と迫ってきているのだから。

 

       -続く-

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