再会の母娘
ビロウレイ城の謁見室にて、その場にいる全員の注目を浴びるアリシアは、遺跡にて発見した特殊なバングルを胸の前で小さく掲げてみせる。これこそがグライフィオスへの道標となるアイテムであり、女王も強い興味を惹かれていた。
「遺跡の地下に秘匿されていたバングルか。一見すると、ありふれたアクセサリーのように見えるが」
「このバングルに魔力を流すことでグライフィオスがある方向を示してくれます。こうやって……」
論より証拠と、アリシアがバングルに魔力を流すと光の筋が現れる。その矢印のような光は一点を指し示し、一同はその方向に目をやった。
「その先にグライフィオスがあるのだな? となれば事は簡単だ。そなた達には引き続きグライフィオスの捜索を行ってほしい」
「はい。ピオニエーレという村を消滅させた黒幕に渡さないためにも、私達で絶対に確保します」
「うむ。では、今日は城の来賓用宿舎で休むといい。明日になったら我が特務騎士隊を護衛とし、そなた達の手助けをさせて捜索に協力しよう」
「ありがとうございます」
女王はアリシア達のために、城内部にあるゲスト用の宿泊施設の利用許可を出してくれた。普通であれば他国の高官のみが使えるものであるが、現状ではアリシア達こそが王国の希望を担っていることもあり、むしろ城に匿う目的もあるようだ。
「デボラ、そなたもアリシア殿に手を貸すといい。故郷を想い、ピオニエーレというダークエルフを憎む気持ちはそなたも同じであろう。そして、二つの種族を繋ぐ外交官としての役割を果たすのだ」
「かしこまりました」
そのピオニエーレ当人であるデボラは、無の表情でお辞儀をしている。本心では女王の言葉などはどうでもよく、今後の作戦でも考えているのだろう。
「それと、我が王都では数人のエルフ族を保護しておる。その者達と面会するとよかろう」
僅かな生き残りのエルフが王都に匿われているようで、アリシア達に会うよう勧める。この現状で同族とコミュニケーション取れる機会は貴重であり、アリシアは顔をパッと明るくして期待を籠めていた。
女王との謁見が終了し、アリシア達は下層部にある大きな食堂へと通される。ここは城で勤務する職員用であるが、今はデボラの計らいでエルフ族の貸し切りになっていた。
そのデボラは避難民のエルフを連れてくると離席していて、彼女を待っている間に少し早い夕食が運ばれてくる。
「これで軽食だって? 高級料亭の豪勢な料理並みじゃないか」
ミューアはテーブルの上に並ぶ料理の数々に目移りさせている。城のシェフには急な支度だったので軽い食事しか用意できなかったと言われていたが、希少な魚類や肉類を用いたモノまであり、ビロウレイ王国がいかにエルフに期待を寄せているかが分かる。
「い、いいんですかね? 食べてしまっても」
「アタシ達用だからな、ありったけ頂いちまおう」
と、遠慮無しにミューアはナイフにフォークを振り回す。食事は取れる時に取っておくのが戦士の基本であり、シーカールの宿を出て以降ロクな物を口にしていなかったために腹が減っていたのだ。
ミューアの食い意地に誘われるようにアリシアも皿に料理を盛っている時、食堂の扉が開く。
「どうです? ここのシェフの腕前はなかなかでしょう?」
「あ、はい。デボラさんも一緒にどうです?」
「いえ、わたしは大丈夫です。それより、王都に避難しているエルフの方達をお連れしましたよ」
扉から現れたデボラは避難民を引き連れていて、食堂内に案内する。その面々とはアリシアも村の集会などで会ったことがあり、知っている顔と故郷から離れて会うとこうも安心するのかと思う。
お互いの無事を喜んでいる中、タチアナもまた奇蹟の再会を果たしていた。
「もしかしなくてもママじゃないのぉ!!」
タチアナが最も安否を確かめたかった相手である母親を発見したのだ。
「あんた、タチアナかい!?」
「そうよぉ!!」
もう何十年と会っていなかったため、二人共最後に目にした時とは年齢を重ねて風貌も変わってしまっていたが、一発で親と子であることを直感させる。
普段は飄々としているタチアナも、今回ばかりはまるで小さな赤子のように母親に抱き着いた。
「このバカ娘!! 一体ドコをほっつき歩いて……だいたいにして、その格好はなんだい!?」
「わたくしは踊り子としてソコソコに名を上げたのよぉ?」
「まったく、あんたというヤツは……よく生きていてくれたよ。ロクでもない行いでダークエルフとなったと呆れていたけれど、それでも娘であるのは変わらない。ずっと心配していたんだよ」
追放されて離れ離れとなったが、母としての気持ちが失われていたわけではないようだ。いつかの再会を思い描き、このような形とはいえ実現したことを喜んでもバチは当たるまい。
「ところで、気に入った女の子に手を出すクセは治ったのかい? 誰かに迷惑になるような行為はしてないかい?」
「えっとぉ……それはまぁいいじゃないのぉ。他者との交流を持つことは大切でしょう?」
「バカ!! まだやってるんだね!?」
まさに鉄拳制裁。グーで握られた拳がタチアナの頭頂部に炸裂し、涙目になってタチアナはしゃがみ込む。
「いったぁい……久しぶりの娘にするコトじゃないわよぉ……」
「他に誰がやるってんだい! もう、残念無念だよ。トホホだよ」
そんなやり取りをしている二人に、アリシアが挨拶のため近寄る。感動の時間を邪魔しないようにと思っていたが、どうやら別の意味で二人に涙が流れているようなので今なら問題ないだろう。
「あの、初めまして。私はタチアナさんと共に旅をしているアリシア・パーシヴァルです」
「あら、可愛らしいエルフだね。わたしはフロリア・レガチ、タチアナの母親だよ。まさかタチアナと一緒に旅をしてくれる仲間がいたなんてねぇ」
フロリアは意外だと驚きつつも、ありがたいとアリシアの手を握って感謝している。自分の子供に理解者が居てくれるというのは、親として嬉しいことに違いない。
「ママに紹介しようと思っていたんだけどぉ、アリシアちゃんはわたくしの運命の相手なのよぉ。他の誰とも違う、赤い運命の糸で結ばれているのよぉ」
という戯言を口にするタチアナに対し、ビンカンに反応するのはミューアとルトルーだ。先程までエルフの生存者と会話をしていたのだが、瞬時に殺気の籠った視線をタチアナに送っている。
「きっとアリシアさんにも沢山迷惑をかけているんだろうね……」
「い、いえ。タチアナさんには助けられていますので」
「もし何かあったらブン殴っていいからね。我が娘ながらお恥ずかしい……」
申し訳なさそうにしているフロリアに、アリシアはブンブンと首を振りながらフォローを入れる。実際にタチアナの活躍でブルーデプスから逃れられたし、嘘は言っていない。
そうして生き残りのエルフ達が交流を行っていく中、デボラもまた行動を開始する。
「アリシアさん、少しよろしいでしょうかね?」
「はい、なんです?」
「世界樹の枝をお借りしたいと思いまして。この王都には研究所がありまして、そこで少し調査をさせて頂きたいのですよ。エルフの秘宝とされる世界樹の枝の仕組みを解明できれば、今後の魔物との戦いに有用な武器が作れるかもしれません」
「なるほど、それであるなら」
アリシアはサイドバッグから世界樹の枝を取り出し、デボラに手渡す。これではピオニエーレに再び奪還されたも同義であるが、この場にいる誰もデボラの正体を知らないので仕方がない……
「ありがとうございます。早速、調査を行ってみますね」
そう言ってデボラは食堂から退室していく。思い通りに事が進んでいると悪い笑みを浮かべながら。
王都中心部の城から少し離れた場所に、デボラの言う研究所が存在していた。時間は既に夕刻となっているので職員の数は少なくなっていたが、それでもくたびれた白衣を纏う研究員らしき人間が魔結晶などを解析している。
「あ、デボラさん。遺跡の調査からお戻りになっていたんですね」
「ええ、まぁ。また明日にはエルフの雷を捜索しに出掛けなければならないのですがね」
「そりゃお忙しいですねぇ。外交官として毎日激務に追われているようですが、お体には気を付けて」
「エルフは頑丈ですから大丈夫ですよ。わたしは地下の研究室で明日の準備をしますから」
デボラはこの研究所の一員でもあるようで、自身専用の研究室を持っているようだ。
広大な施設内の階段を下り、地下へと降りたデボラは最奥にある部屋へと入る。
「世界樹の枝を奪われた時はヒヤヒヤとしましたが……これで一安心ですな」
一人呟きながら研究室内の解剖用テーブルを動かす。すると、テーブルのあった床にハンドルのような丸い物体が現れて、デボラは力を籠めながら回した。
直後、ギギッという錆びた金属が擦れる音がして、ハンドルが備え付けられた床の一部がゆっくりと開く。
まるで隠し扉のような仕組みになっていて、デボラは開いた床から更に地下へと向かう。
「さぁ、我が兵器達よ……目覚めの時は近い」
球場ドームほどの広さを持つ秘密の部屋に降り立ったデボラは世界樹の枝を掲げ、淡い光が放たれる。
その光に照らされるは無機質な兵器達。岩塊と金属が融合したような、いわゆるゴーレム状の物体が、何十体も静かに鎮座していた。
-続く-




