謁見、人間族の女王
エルフリードの名前は捨てたものの、ミューアはハイエルフを守る守護者としての役割を全うする意思を示す。それは、ハイエルフである可能性の高いアリシアのためであり、自分の命を投げ捨ててでも絶対にアリシアだけは傷つけさせないと誓う。
その宣誓を正面から受け止めるアリシアは鼓動が高鳴り、耳まで赤くして目も潤みそうになっていた。
「私がもしハイエルフなのならば……やるべき事を成し遂げたいと思います。ですから、傍で見守っていてください」
「ああ。アタシは族長ではないし、その器のあるエルフでもないけれど……最後までアリシアの隣にいるから」
グライフィオスを獲得する資格のあるハイエルフとして選ばれたアリシアは、自らの手首に巻き付いているバングルを軽く撫でた。このバングルの指し示す方角にグライフィオスは眠っていて、王都で人間の女王と会談を行ったら、そこを目指すことになる。
来たるべき旅の終わりを予感しつつ、アリシアはミューアに寄り添った。
「ぐぬぬ……あのお二人は良い雰囲気なのデス……」
「さすがに邪魔をする場面ではないわねぇ。ああも覚悟を完了した者というのは、眩しく感じるわぁ」
ルトルーとタチアナは変人に分類されるエルフであるが、最低限の良心は持っているようだ。ミューアとはアリシアを取りあうライバル関係にあるも、今の状況で横槍を入れるのは完全な野暮であり、後方から二人を見守ることに徹する。
「わたくしにとっては、アリシアちゃんがハイエルフだとかは関係ないのぉ。アリシアちゃんはアリシアちゃんだし、どのような境遇だろうが種族だろうが必ず守るわぁ」
「同感デス。アリシアお姉様という存在に惚れこんだわけデスし、あの方の笑顔を曇らせないのがわたし達の役割デス」
「そして、いつかはアリシアちゃんのハートを掴んでみせるわぁ」
「わたしだって、やってやるデス」
かと言ってアリシアを諦めたわけではなく、正々堂々とミューアと競い、時間がかかってもアリシアを振り向かせたいという気持ちを固める二人。
想ってくれる者達からの愛情に包まれるアリシアは、これから先の困難もきっと乗り越える事が出来ると確信している。グライフィオスの獲得もそうだが、決着を付けるべきピオニエーレとナスターシャという宿敵も忘れておらず、村の壊滅から始まった悲劇に終止符を打つ気合は充分であった。
それから暫く歩き、道中に魔物との交戦を行いながらもビロウレイ王国の王都へと辿り着くことが出来た。
王都の中心部には巨大な城がそびえ立っていて、街の規模自体もこれまでに訪れたディガーマやシーカールなどよりも遥かに大きい。さすが王国の中枢部であり、アリシアは目を丸くして驚いている。
「人間さんは本当に凄い街を作るんですねぇ……あの巨大なお城こそが女王様のお家ですか?」
「女王陛下は城の上層部におられる。中層部から下層部にかけては政治機能を有する議会があるんだ。城は王国の象徴でもあり、女王陛下をお守りする最後の砦でもある」
「はえ~……」
ベルギットの解説を受けながら城を見上げ、アリシア達は特務騎士隊に導かれながら中へと入っていく。
外観も壮大な雰囲気を醸し出していたが、内部もまた豪勢な装飾やらによって美しく整えられており、別世界に迷い込んだかのような感覚を覚えるほどに煌びやかだ。
白銀の階段を使って上層を目指して行く途中、厳重な警備に固められたゲートが立ちはだかる。その警備達も騎士のようで、ベルギット隊の着用する甲冑よりも更に頑強そうなゴツい物を着込んでいた。
「この先は女王陛下の生活圏に入るのでな、許可無き人間は立ち入れないんだ」
ベルギットは前に出て警備の騎士に事情を説明する。女王直属の特務騎士を率いる彼女の要請であれば、普通では面会できない女王も時間を作ってくれる可能性は高い。
そして連絡係が女王に話を通しに行くと、すぐに戻ってきてゲートを開いた。
「我らが女王陛下はエルフ族の皆様にお会いしたいと仰っている。ベルギット、キミも共に謁見室へ」
「うむ。では、コッチだ」
アリシア一行とデボラ、そしてベルギットの通行許可が降り、城の上層部へと足を踏み入れる。
下層部や中層部には議会に関わりのある職員などがいたが、女王のテリトリーとなる上層部には人影も無くシンと静まり返っていて、廃墟かと錯覚してしまう程であった。ある意味で息苦しく、自然環境の織り成す爽やかなメロディーをアリシアは恋しく思う。
そうして進む内に漆黒の扉が現れる。全高は三メートルにも及ぶ高さで、いわゆる観音開きの二枚扉は白銀のラインで枠取られて威圧感を感じさせる。
「この先に女王陛下がいらっしゃる。大丈夫だとは思うが、くれぐれも失礼のないようにな」
「勿論……と言いたいトコロなんだけど……」
ミューアが口ごもるのも仕方がない。なにせ、ミューアも含めて服装が偉いヒトに会いに行く格好ではないのだから。
「アタシもタンクトップにホットパンツと軽装だが、特にタチアナがヤバいな……」
半裸を通り越して、ほぼ裸も同然なのがタチアナだ。もはや歩く猥褻罪であり、コレでよく城への入場を認められたものである。
「まあ、その……我々人間と文化も違うのだから格好も独特にもなると言い訳は出来るだろう……多分」
とはいえ、予備の服があるわけでもないので仕方がない。女王が寛大な心を持っていることを祈りつつ、謁見室の扉を開いた。
「陛下、お客人をお連れいたしました。彼女達こそが我々に協力してくださったエルフ族の生き残りの者達であります」
「待っておったぞ。我らが王都へようこそ」
謁見室の奥にある玉座には、真紅のドレスのような装いの女王が座っていて、訪れたアリシア達を迎える。
女王の風貌は六十台後半という雰囲気で、歳相応に老いがあるものの、眼差しは力強く衰えを感じさせない。さすが国家のトップであり、皆をまとめるだけの威厳のようなオーラが背中から発しているようにアリシアには見えた。
「エルフの村に起きた惨劇は聞いておる。よくぞ生き残り、ここまで辿り着いてくれたものだ。しかもエルフの雷の捜索にも助力をしてくれた恩には礼を言わせてもらう」
「アタシ達にしても目的は同じでしたし、こちらこそ助かりました。ありがとうございます」
普段は相手を敬うような言い方をしないミューアだが、こういう時には丁寧な言い回しが出来るようだ。さすがにタメ口でいくのはマズいという気持ちがあるらしい。
「ときに、そなたがエルフリードの血を引くエルフか?」
「はい、アタシがミューア・エルフリードです。しかし、アタシは家を出てエルフリードの名は捨てていたのですが……」
「そうか。にしても族長殿によく似ておるから一発で分かった。我はそなたの母上である族長殿と顔を合わせたことがあるが、特に勇ましい目元などはソックリだ」
女王は懐かしむようにエルフ族の族長との過去の会談を思い起こす。お互いに民を束ねるトップで、個人的にも親近感のようなモノを感じていたらしい。
「我々ビロウレイ王国は、長くエルフ族と交流を行ってきた。それはビロウレイ王国の領土内に村があったからでもあるが、そもそも互いに協力して魔物を追い払い、だからこそ共に歴史の中で共存してきたのだ。種族は違えど友であるそなた達の力になるし、再び脅威として盛り返してきた魔物に対抗するためにも、そなた達の力も借りたいのだ」
「ありがたい申し出です。エルフ族は現状壊滅状態にありますが、残った我々としても種族を再興する目標がありますし、これにはビロウレイ王国の皆様のお力添えが不可欠です。魔物の侵略を止めるという目的は我々も同じで、エルフ族の能力で貢献できるのであれば、是非戦線を共にしたいと思っています」
「人間族を超える身体能力を持つというエルフ族と共闘できるのは頼もしい限りである。ここにエルフの雷も加えてもらえれば、王国の勝利は揺るぎないものとなろう」
魔物との戦いに決定打を与え得る存在のグライフィオスを女王は求めているわけで、だからこそエルフの古代遺跡の調査を本格的に始めたのだ。
ミューアは女王の言葉に頷き、近くに控えていたアリシアを紹介する。
「アリシア・パーシヴァルはハイエルフと目されるエルフです。エルフの雷ことグライフィオスの隠し場所まで導いてくれる力も持っています」
「ほう、ハイエルフのことは族長殿から聞いていたが、そなたが……」
女王の好奇心を帯びた視線を受けるアリシアは緊張しつつ、手首に巻かれたバングルを手で押さえながら前に出る。
-続く-




