エルフリードの使命
遺跡の地下室、そこには大きな魔結晶が保管されていた。しかも、魔結晶の中には何か物体が埋め込まれていて、それがグライフィオスかもしれないので取り出そうと近づく。
しかし、魔結晶に触れたミューアとルトルーは拒絶されるように吹き飛ばされてしまった。
「では、やってみますよ……」
そんな中、アリシアは今度は自分の番だと緊張しながら世界樹の枝をかざして魔結晶を軽く突っつく。
直後、
「あわ!? う、動いた!?」
雷のようなピカッとした光が拡散され、魔結晶が激しく振動を始める。少し怖くなったアリシアは後ずさりし、事態が収まるのを待ってみた。
「す、すげぇ…アタシ達の時とは反応が違う」
「アリシアお姉様にあんな風に突っつかれたら誰でも反応しちゃうデス」
「いや、うん…分からんでもない……」
ミューアとルトルーがそんな会話をしている中、次第に魔結晶の振動は小さくなっていく。
すると、魔結晶の中央部分に窪みが出来て、内部に埋め込まれていた物体が排出された。まるでガチャから商品が出てくるようなやり方である。
「コレは…バングルと手紙?」
アリシアの目の前に転がり出たのは二つの物体で、一つは腕に装着するバングル状の黄金のアクセサリーだ。幅広で手首全体が隠れる大きさがあり、装飾品としては少々派手めではある。
そして、もう一つは手紙であった。魔結晶内で厳重保管されていたこともあり、紙質は劣化しておらず新品そのものだ。
「書かれている文字は、デボラさんから預かった古代書物と同じようデス」
「ルトルーさんなら解読できます?」
「やってみるデス。少々お待ちをデス」
古代文字に精通しているルトルーは、手紙と睨めっこをしながら解読を進める。文章量が多いため、真剣かつ慎重に目を這わせていた。
それから十数分後、大体は理解できたと音読を開始する。
「封印を解きし者へ。この魔結晶から手紙を取り出せたということは、アナタこそエルフリードからの信任を得たハイエルフなのでしょう。グライフィオスの導き手として、同胞を守る戦士として……さあ、そのバングルを手に取るのです。さすれば、グライフィオスへの道を開くことが出来ましょう。そして終着点に着いた時、世界樹の枝を捧げることで全壊の力はアナタのモノとなる。願わくば、悪意あるハイエルフの手に渡らないことを願って……」
これが手紙の内容らしい。要点を抽出すると、一緒に入っていたバングルこそがグライフィオスを見つけ出すキーアイテムのようだ。
「ほーん。コレがグライフィオスの場所を示してくれるってか。でも、やっぱりアタシには反応しないな……」
試しにミューアがバングルを手首にハメてみるが全く反応は無く、ただのアクセサリーでしかない。
となれば、この場で唯一期待出来るのはアリシアだ。
「アリシアならバングルの効果を発揮できるかもしれん。なにせ、魔結晶の封印を解いたしな」
「やってみますね」
アリシアはバングルを受け取り、自らの手首に当てがう。
すると、彼女の魔弓にも似た黄金色の輝きを放ち、まるで意思があるように巻き付いた。
「ピッタリと腕にくっ付いて……は、外せません」
一度バングルを外そうと試みるが、強力な接着剤で固められたように離れなくなってしまった。焦るアリシアはアワアワとしながら懸命に引っ張るものの、微動だにしない。
「呪いのアイテムじゃないよな、コレ……」
「グライフィオスを見つければ解除できるかもデス。紛失防止の策なのかもしれないデス」
「ふむ……アリシア、そのバングルでグライフィオスをサーチできるか?」
半泣きのアリシアはコクンと頷き、バングルに魔力を流してみる。
その直後、今度は淡く青白い光がバングルの外周部から放出されて、収束してから一点に向けられる。どうやら、その光の筋が指し示す方向にグライフィオスがあるらしい。
「この光が導く方に行けばいいんだな? そうすればグライフィオスに辿り着く、と」
「いよいよですね……世界樹の枝もありますし、全てのピースは揃いましたね」
「にしても、アリシアには驚いたよ。きっと…いや、間違いなくアリシアはハイエルフなんだ。封印を解き、バングルを使えたんだし」
「実感はありませんが……翼なんて生やせませんし……」
古代文書によれば、ハイエルフは魔力の翼を背中に展開し、さながら天使のように空を飛翔する事が可能らしい。
しかし、アリシアは翼の出し方も知らないし、特別な家系に産まれたわけでもない。ごく普通のエルフだと自認している彼女にとっては信じがたい事実である。
「ほうほう…アリシアさんはハイエルフなのですか?」
地上の調査を終えたデボラが、驚いたように目を丸くしながら地下室に現れた。ピオニエーレである彼女にとっても、ハイエルフという存在は予想外であったのだろう。
「かつての大戦を勝利へ導いたハイエルフがいると分かれば、更に希望が持てるというものですな。是非、一度王都へ赴き、人間の女王陛下と謁見を」
「ですが、グライフィオスを獲得した方がいいのでは…?」
「グライフィオスが眠っている地には、どのような危険が待ち受けているか不明なのですから、充分に体勢を整えた方がいいですよ。それに、必要な物は我らの手中にあるわけで、焦らなくても大丈夫でしょう」
急いては事を仕損じるとも言う。ここは一度しっかりと準備をするなり休憩を取るなどをして、確実にグライフィオスへと辿り着くための時間を置くべきなのかもしれない。
「王立研究所というものもあるので、そこで世界樹の枝やアリシアさんを解析させてほしいですな。何か少しでも情報があれば今後の手助けにもなりましょう」
「分かりました。デボラさん達と共に王都へ向かいます」
アリシア達の同意を得られたデボラは安堵したように小さな笑みを浮かべる。何かを企んでいるのは間違いなく、それを察知されないよう人畜無害なエルフという演技は忘れない。
「魔物との戦いなど危険も一杯ありましたが、無駄な努力ではなかったとホッとしておりますよ。さぁ、ベルギットさん達にも成果を報告して差し上げましょうぞ」
計略を練るデボラの思い通りに事態は進んでいく。
グライフィオスを巡る混迷は、次の段階へと移行したのだ……
アリシア達の成果をもってして、遺跡の調査は終了となった。
あとは王都へ向かうだけだが、調査隊が乗ってきた馬車は道中で魔物に破壊されていたため、ここからは再び徒歩での移動となるので多少面倒ではある。
「そういえば、手紙に書かれていた内容で気になることがあります。エルフリードに信任を得たハイエルフという文言……エルフリードとは、ミューアさんの家系で間違いないのでしょうか?」
移動しながら遺跡地下室での出来事を回想していたアリシアは、ミューアに手紙に記述されていたエルフリードについて訊いてみた。他にエルフリードの姓を持つ者はおらず、家出をしたとはいえミューアならば何か知っているかもしれない。
「恐らくは……とすると、ちょっと母上の言葉にヒントというか、思い当たるフシがあるな」
「どういうんです?」
「それはね……」
ミューアは再びエルフリード家にいた頃を追憶する。
それは、まだ幼いミューアが戦闘トレーニングに励んでいる時の事であった。
村の奥地にあるエルフリードの屋敷には広い訓練場が併設されていて、そこで剣の腕を磨くのがミューアの趣味の一つになっていた。
今日もまた模擬剣を振り回しながら己の技量を試していたのだが、来訪者が現れたことを察知して動きを止める。
「母上、おはようございます」
訓練場の扉を開いたのは母親である族長で、ミューアは丁寧にお辞儀をしながら迎える。
「うむ。朝から気合が入っておるな。しかし、そうでなければ守護者たり得ない」
「守護者とは?」
「まだ詳しくは話せないが、エルフ族長には代々受け継がれてきた使命がある。強大な力を秘めた宝を隠し、時が来たらその力を振るう資格のある者を守るというな」
「…よく分かりませんが」
「オマエが族長になれば教えてやろう。それまでに、より成長してもらわんと困る」
と、それだけを告げて族長は訓練場を後にする。族長の自室からわざわざ足を運んでそれだけかと、幼いミューアは首を傾げながらも訓練を再開した。
昔の自分はピンとこなかったが、今になってよく考えてみれば守護者という言葉の意味も分かるというものだ。
「強大な力を秘めた宝とはグライフィオスや世界樹の枝を差すのだろう。そして、その力を振るう資格のある者とはハイエルフだな」
「それを守護する一族こそがエルフリード……」
「ああ。族長にはアタシの計り知り得ない秘密や使命があったんだな……」
肝心の族長の安否は不明だが、屋敷の炎上具合を見るに生存はしていないと思われる。魔物の襲撃は世界樹の枝を目的としていて、まっさきにターゲットとなって総攻撃を受けたのだから。
「家を離れたアタシだけど、その使命は引き継がせてもらうぞ母上……やるべきコトをアタシは理解したからな」
「やるべきコト?」
「秘宝もそうだけど……アリシア、きみを守るということだ。ハイエルフの守護者として、きみだけの騎士となる」
ミューアは決意を籠めた勇ましい眼をアリシアに向ける。
それは、愛の告白にも似た真摯なものでもあった。
-続く-




