古代の遺産
ピオニエーレ一派を撃退したアリシアは、エルフの秘宝こと世界樹の枝の奪還に成功した。世界樹の枝はグライフィオスの起動に必要なキーアイテムであり、これによりピオニエーレの野望は実現不可能となったのである。
「案外サクッと回収できましたね。ピオニエーレとは何回も戦って苦戦したものですが、ようやく世界樹の枝を取り戻すことが出来ました」
「ああ。だけど、ヤツらが簡単に引き下がるとは思えない。きっとまた襲ってくるだろう」
ミューアの言う通り、これで楽観的になってはいけない。ピオニエーレは魔物を利用し、同族を殺してまでも世界樹の枝を求めたのだ。そんな手段を使っておきながら一度失敗した程度で諦めるなど有り得ず、再び姿を現して襲撃してくるのは容易に想像できる。
「どっちみちピオニエーレは許せない存在だし、今度来たら必ず倒す。ナスターシャもまとめてな」
「はい……でも、私達にアドバンテージがあるわけですし、グライフィオスも発見できれば勝利も見えてきますね」
「後は、あの遺跡の調査結果次第ってとこか」
古代文書に記されていたエルフの遺跡へとミューアが振り返る。
すると何か違和感を感じ、顎に手を当てながら凝視した。大きなピラミッド型の遺跡であったハズだが、頭頂部のトンガリが失われて台形になっているのである。
「うーんと……三角形型だったよな?」
「そのはずですが……上の部分が無くなっていますね」
アリシアも観察を開始した直後、激しい轟音と振動と共に遺跡が崩壊を始めた。砂煙を撒き散らし、まるで地面に呑み込まれるように形を失っていく。
「あーーッ!? 遺跡が崩れていきますよ!」
「なんてこった……調査隊は無事なのか?」
遺跡の入口近くにはキャンプが設営されていて、そこでは王都から派遣された調査隊が休憩を取っているのだ。彼女達は非戦闘員であり、今回の戦いには参加していない。
アリシア達は急いで遺跡へと向かい、調査隊の安否を確認する。
「皆さん、ご無事ですか!?」
「え、えぇ。我々に怪我はありません」
「良かったです。一体、何があったんです?」
「戦闘中に放たれた矢のような閃光が遺跡の上部を貫きまして、そのすぐ後に少しずつ崩れ始めたんです。我々はその時点で外へと退避したところ、完全に崩壊したんです」
「矢のような閃光……あっ」
調査隊員の証言通りなら、原因として思い当たるのは一つしかない。そう、アリシアの大技シューティングスターである。
話を聞いたアリシアは顔面を真っ青にしつつ、自分のせいで起きた事だと理解して何度も頭を下げた。
「も、申し訳ありません! 私がもっと注意して技を出さなかったばかりに……」
「不測の事態だったのですし、何より我々調査隊は魔物から守っていただいたのですから、どうぞお気になさらず」
「はい……ですが遺跡はボロボロに……」
「経年劣化もありましたから、今まで原型を留めていたことが奇蹟だったんです。それに、探せば有益な情報や物品が残っているかもしれません」
ひとまず周囲の安全を確認し、明日の朝に予定通り調査を行う事となった。
逃走した二人のダークエルフの捜索に当たっていたタチアナ達も戻り、キャンプを再設営する一同。
その中に事件の黒幕たるデボラことピオニエーレがいるとも知らずに……
翌日、陽が昇ってから調査隊と共に瓦礫と化した遺跡を調べ回るアリシア。建物の半分以上が壊れていて、まるで災害に見舞われたような状態になっている。
金属やコンクリートの残骸をどかしつつ、アリシアはグライフィオスに繋がる何かを探す。
「うーん……目ぼしい物はありませんね」
しかし、視界を埋め尽くすスクラップの群れには期待できそうにない。遺跡を形作っていたコレらの物体は、今ではただの無機物へと還ってしまっている。
自分の失態さえなければと、アリシアはしょんぼりしながら半壊した階段を見つけて下っていく。
すると、
「ン…? 地下へと続いている…?」
目を凝らして階段の先を見ると、遺跡の地下へと伸びているようだ。だが終着点は暗闇に包まれていて、地上からはどうなっているのか分からない。
「ミューアさん、この階段を降りてみませんか?」
「地下か。行ってみる価値はあるだろうけど、生き埋めにならないことを祈るよ」
灯り用の魔結晶を取り出したミューアが先導し、慎重に地下を目指す。周囲の地盤は遺跡の崩壊で不安定になっているので、これ以上に崩れた場合は極めて危険ではあるが。
「こうして魔結晶の灯りを頼りに地下へ降りるというのは、エルフ村での族長邸探索を思い出させるな」
ミューアの提案で族長邸に立ち入った時と似たシチュエーションで、二人は感傷に浸っていた。
思い返せば遠い過去のように感じるものの、実際にはつい先日の出来事である。これは、時間の経過を忘れる程に様々な事件に遭遇し、濃密な体験をしたからこそと言えよう。
「あの時に求めていた世界樹の枝はこうして手元にあるのですから、これまでの頑張りは無駄ではなかったと少しは自信になりますね」
アリシアはエルフを代表して世界樹の枝を持つことになり、大切そうにウエストバッグに収納していた。折れてしまうのではと心配になるが、普通の木の枝とは全く異なる材質で頑強であった。そのため枝を破壊するには武器を用いなければならないレベルで、バッグに押し込んだ程度では傷さえ付かない。
「あらぁ、ドコに行こうというのかしらぁ? アリシアちゃんを独り占めなんてズルいわぁ」
「アリシアお姉様と暗所で密着…エッチ過ぎデス!」
などと口にするタチアナとルトルーも加わり、地下へ到達したアリシアは幅広な通路を進んでいく。ここにも崩壊の影響は及んでいて、金属製の通路のアチコチにヒビ割れが発生していた。
「この道の先には部屋がありますね」
魔結晶の光によって浮かび上がる広い空間、終着点には大きなホール状の部屋が存在している。外周は円形で、部屋の中心部には四角形のコンテナが置かれていた。
そのコンテナは全高三メートルにも及び、物資運搬に適したもので、大昔には海上船舶に乗せて実際に使用されていたかもしれない。
「なぁ、もしかして、あの箱の中にグライフィオスが入っているんじゃないか?」
「そう願いたいですね」
過去には軍事要塞として運用され、今は古代遺跡となった建物の地下に安置された鉄製のコンテナなど重要アイテムでしかない。
錆び付いた側面の扉を取り外し、内部を照らす。すると……
「魔結晶、ですね……」
姿を現したのは、二メートルにもなろうかという魔結晶であった。通常の魔結晶は掌サイズが定番で、それこそミューアが灯り用に使っている物は十センチ程度である。
これほどの大きさともなれば貴重で、ミューアは結晶体の中を覗き込む。
「何か入っているぞ。よく視えないけど……」
「魔結晶は物を入れて保存するにも適しているんですよね?」
アリシアの言う通り、魔結晶は加工を施すことでコールドスリープ装置としても使うことが可能だ。内部に格納しておけば、劣化させずに物でも生物でも半永久的に保っておけるのである。
こうしてまで保管しておきたかった物は何なのかと、ミューアは魔結晶に手を伸ばして触れる。
「反応は無いな。どうすれば開封出来るんだろう」
「コレを使ってみてはどうです?」
世界樹の枝を取り出し、アリシアはミューアに手渡す。グライフィオス起動のキーというのなら、今こそが使いどころなのかもしれない。
「やってみるか……うわっ!?!?」
魔結晶に世界樹の枝を接触させた瞬間、強い衝撃波が放たれてミューアは後方に吹き飛ばされる。まるで拒否反応そのもので、干渉を許さないという意思すらも感じさせるものであった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとかね……しかし、一体なんなんだ?」
困惑するミューアは腰をさすりながら立ち上がり、魔結晶を観察する。衝撃波を放った後は微動だにもせず、沈黙を貫いていた。
「もっとこう、丁寧に触れればいいんデス。アリシアお姉様の肌に触れるかのように……あわーっ!?!?」
「ルトルーさん!?」
ルトルーが代わりに世界樹の枝で撫でるように触れるが、同じように勢いよくフッ飛ばされてしまう。まともに受け身を取ることが出来ず、ミューア以上に盛大に床を転がり目をクルクルと回している。
「この魔結晶はなんなんでしょう? 普通ではありませんね」
「次はわたくしが試してみるわぁ」
「タチアナさん、ここは私がやってみます」
「危険よぉ? もしアリシアちゃんに何かあったらぁ……」
タチアナに制止されながらも、アリシアはルトルーが落とした世界樹の枝を拾った。
そして、緊張しながらも魔結晶に近づいていき……
-続く-




