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大地を駆ける流星

 ピオニエーレが操る大型フェンヴォルフの強襲を受けたアリシア達は、体勢を立て直しつつ反撃に移る。通常攻撃ではダメージを与えにくいので、黄金の魔弓を用いた大技シューティングスターで仕留める作戦に打って出た。


「そうはさせませんがな!」


 アリシアの考えなどピオニエーレとてお見通しで、世界樹の枝でコントロールしている大型フェンヴォルフを突進させる。大技を放つには魔力を充填する必要があり動くことが出来ないので、その前に喰い千切ろうという算段であった。


「アリシアお姉様に傷は付けさせないデス!」


 敵の攻撃に備えるルトルーは、気合を入れて盾を構え直す。ピオニエーレの妨害を行おうとベルギットやタチアナが立ち塞がったが、彼女達を容易に振り切った巨体が目の前まで駆けてきている。

 

「そんな貧弱な盾では!」


 自身満々に呟くピオニエーレ。世界樹の枝を掲げ、その光に反応するかのように大型フェンヴォルフは大口を開いてルトルーの盾を噛み砕こうとした。

 鋭い牙がルトルーの頭上から覆いかぶさるように迫る。あまりの恐怖に失禁しそうになるが、敬愛するアリシアを背後にして逃げ出すなど有り得ない。


「やらせないのデス!」


 強力な噛みつきに対し盾を突き出した。この円形の分厚い装甲の表層は魔力で強化されて、岩をも砕く牙を見事弾いてみせる。


「なんとっ!? しかし、二撃は保ちませんな!」


 一撃目を弾かれたとしても、もう一度攻撃を行えば突破できるハズだと、再度大型フェンヴォルフに指示を与える。次こそは盾を破壊し、まずは邪魔なルトルーを排除すればいい。


「なら、これでも喰らえデス!」


 追撃を防御するのはリスクがあると判断したルトルーは、盾の中央部に備え付けられた魔道砲を発射する。敵は至近距離にいるため、射程の短い拡散魔道弾の有効射程範囲内に収まっているのだ。

 盾から照射された光の波動は、四散しながら大型フェンヴォルフの頭部に直撃する。さすがに防御力が高いため、頭部そのものを破壊するには至らなかったが、皮膚を焼き、牙の一本を粉砕した。


「クッ……こうも邪魔だてをするとは…!」


 苦虫を噛んだように表情を歪めるピオニエーレは、憎悪を増幅させながら大型フェンヴォルフを制御しようと試みる。

 しかし、一歩遅かった。ルトルーの決死の奮戦で時間を稼いだ結果、アリシアは大技の準備を整えていた。盾の後方で眩い発光現象が起こり、直後、ルトルーは射線から退避してアリシアとフェンヴォルフは一直線上に並ぶ。


「いけ! シューティングスター!!」


 魔力の塊である矢から指を離し、重粒子ビームのような閃光が黄金の魔弓から射出されて空気を振動させた。

 機動性の高いフェンヴォルフならば回避も可能であったであろう。だが、近距離であったこと、そして頭部を負傷して動きが鈍っていたことが災いし、まともに動けなかった。


「うわっ…!」


 シューティングスターは大型フェンヴォルフを正面から捉える。喉元から突き刺さって胴体を貫通し、背中に乗っていたピオニエーレは呻きながら地面へと落下していく。

 太陽光にも匹敵する光量で大地を照らしたシューティングスターは、大型フェンヴォルフを肉塊に変えて塵と消える。もう凶暴な咆哮が轟くことは無いだろう。


「しまった……」


 そんな中、ピオニエーレは負傷もなく無事であった。高所から落下したものの、受け身をとっていたためにかすり傷一つも受けずに済んだのだ。

 なんとも生命力の高いピオニエーレだが、ピンチに追い込まれてしまった。虎の子の魔物を失い、これでは形勢が逆転して不利に追い込まれてしまう。

 こうなれば戦闘を継続するのは自殺行為であり、ピオニエーレの失態を目の当たりにしたナスターシャは不本意ながらも撤退を決意する。


「ピオニエーレめ、しくじったな!」


 せっかくミューアと互角に渡り合えて勝機すら見えたというのに、ナスターシャはイラ立ちを隠せず舌打ちをしながら刀を翻した。


「逃がすものかよ!」


「あいにくだけど逃げさせてもらう!」


 剣を突き出して頭部を狙ってきたミューアを蹴り飛ばし、ナスターシャは後退をかける。そして、ピオニエーレとの交戦に入ろうとしていたベルギットを斬りつけ、森へのルートを確保した。


「下がるぞ、ピオニエーレ」


「チィ…こうもヘタを打つとは……」


「言っている場合か!」


 ピオニエーレを背負ってナスターシャは跳躍し、夜の森へと姿を消す。

 だが、これを逃す手はなく、まだ動けるタチアナとベルギットの部下である騎士が追撃を開始した。


「アリシアお姉様、大丈夫デス?」


「魔力をほとんど使ってしまったので、暫くはまともに動けないですね……ミューアさんとベルギットさんは?」


 膝を付いて呼吸を整えるアリシアは、首を回して仲間の様子を確認する。

 腹部を蹴られたミューアは痛みで立ち上がれないでいたが致命傷ではなく、ベルギットも斬られたとはいえ纏っていた鎧が損壊しただけで肉体にはダメージは無いようだ。


「あの刀の切れ味と、ナスターシャというエルフのパワーは凄まじいな。鎧を魔力コーティングしていなかったら即死だった」


 砕けた鎧を捨て、軽装なインナー姿になったベルギットは人間の兵士の安否も確かめる。暴れまわった大型フェンヴォルフのせいで死者も負傷者も出ており、十人ほどいた兵の半分は行動不能になっているようだ。

 アリシアはミューアの傍まで近寄り、しゃがんでお腹をさすってあげながら気になったナスターシャについて聞いてみた。


「あのエルフ…ミューアさんのお姉さんの……」


「ナスターシャ・エルフリード……ヤツが暗躍していたとは夢にも思わなかった」


 村の焼失に関わったエルフの一人がナスターシャというわけであり、あのピオニエーレと組んでいるとなれば一族の敵である。ミューアはアリシアのおかげもあって和らぐ痛みとは真逆に、不愉快さと怒りで眉を歪めていた。


「ルトルー、選定戦がどうなったか知っているか? 議会メンバーの家系のルトルーなら何か情報を得ていないか?」


「選定戦は無期限の延期になったと聞いているデス。族長さんは四百六十歳を超えて老化の一途にあったので、時間はあまり無いのにと議会は焦っていたようデスが……」


「そうか……アタシが抜けた後は延期されていたのか」


 ミューアは一応選定戦に勝ち残ったエルフで、そのミューアが急に離脱したことで続行するのは困難だと判断されたのだろうか。

 詳細は不明だが選定戦は一旦中止されて、だからこそ本来始末されるはずのナスターシャは生きていたのだ。


「あの時、アタシがナスターシャを殺していれば……」


「こうなるなんて予想も出来ない事態だったんです。ミューアさんが自分を責める必要はありませんよ」


「アタシは……ともかく、ヤツは仕留める。今度こそ、確実にアタシが息の根を止める」


 決意を固めるミューアは悲壮そのものであった。エルフリード家を捨てた理由はナスターシャを殺したくなかったからなのに、今度は絶対にトドメを刺すべき相手として再会してしまったのだから……

 そんな暗い雰囲気が漂う中、アリシアは小さな光源を視界に入れて、そちらを注視した。


「アレって、世界樹の枝では!?」


「ピオニエーレめ、落としたことに気がつかなかったんだな」


 ピオニエーレが落ちた場所にあるのは世界樹の枝で間違いなかった。淡く小さな輝きを放ち、持ち主を失って地面に転がっている。

 その世界樹の枝を回収したアリシアは、ひとまず悪の手からエルフの秘宝を取り戻せたことに安堵していた。






 敗走するナスターシャは森の中で背負っていたピオニエーレを降ろす。追撃が来ているので、ピオニエーレはデボラへと戻って追手に保護を申し出て、ナスターシャを確実に逃がす算段を立てたのだ。


「わたしがタチアナ達を引き付ければ脱出できるハズですな」


「頼むぞ。ここで捕まるわけにはいかない」


「はい……って、世界樹の枝が無い!?」


「なんだと!? どこにやったんだ!?」


「多分、フェンヴォルフを撃破された時に……」


「落としたのか!? クッ、まあいい。後のことは後で考える」


 ナスターシャは更に跳躍して森の奥深くへと去り、ピオニエーレは仮面とマントを脱いでリュックに押し込んだ。

 その直後、追いかけて来たタチアナ達の足音が近くで聞こえる。


「おーい! 皆さん!」


「あらぁ、デボラさんが何故ここにぃ?」


「いえね、トイレのために森に入ったら、妙なエルフを見かけたんですよ。で、観察していたら巨大なフェンヴォルフまで現れて……怖くなったわたしは戻ろうとしたんですけど、迷ってしまって……」


「そうなのねぇ。多分ソイツらがこの近くに逃げ込んだのだけれど、見なかったかしらぁ?」


「さぁ…? 確かに何かが走って行く音は聞こえましたが、ビビッて身を隠していたので……」


「そう。でもアナタが無事で良かったわぁ」


 うまく騙せたようで、デボラは内心ほくそ笑んでいた。ここでタチアナ達の足止めをできたので、ナスターシャにもう追いつくことは出来ない。

 作戦勝ちをしたと小さく口角を上げつつ、デボラとして遺跡へと戻っていくのであった。


    -続く-

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