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ミューア対ナスターシャ、姉妹の確執

 デボラが遺跡から出て行って暫く経ち、なかなか戻ってこないことをアリシアは心配していた。外はもう暗くなっていて、何かトラブルに巻き込まれたのではと気が気でない。


「デボラさんは大丈夫でしょうか……この周囲は魔物の支配地域ですし、もしかしたら魔物に襲われたんじゃあ…?」


「どうデスかね……少し外の様子を見に行くデス?」


 ルトルーの提案に頷き、魔弓を携えて立ち上がる。もしかしたらデボラは助けが必要かもしれず、以前の自分と状況を重ね合わせての行動だ。

 アリシアが動くとなれば、当然ながらミューアとタチアナもセットとなる。結局、キャンプで休息を取っていたエルフ全員で向かうことになった。


「ベルギットさん、デボラさんがどちらに行ったか分かりますか?」


「いや、知らないな。デボラさんは遺跡から出たのか?」


 遺跡周囲を警備していたベルギットはデボラが遺跡から離れていたとは知らず、部下にも確認を取るが誰も目撃していなかった。これは、デボラことピオニエーレが隠れながら離脱を試みたためである。

 そうとは知らない一同は、調査隊護衛の兵士も動員してデボラの捜索に当たる。


「トイレなら、そこまで遠くには行っていないと思いますが……ン? この声は…?」


 真夜中の荒野に響き渡るのは獣の遠吠えだ。しかし、ただの動物のものとは考えられないほどに重低音で、とても恐ろしい印象である。


「なんか嫌な予感がするな。アリシア、アタシの傍から離れるなよ」


 ミューアは本能的に警戒して周囲を見渡した。これは、一つの可能性を思い立ったからで、その予感が当たっていれば間もなく遺跡周囲は戦場と化す事となる。


「夕方に戦ったフェンヴォルフを憶えているな?」


「あの狼型の魔物ですよね?」


「そうだ。成長すると、最大で四メートルくらいまで大きくなるという話も憶えているか?」


「はい。私達が戦ったフェンヴォルフは、人間サイズで成熟し切っていない個体でしたね。もしかして、今の遠吠えは大型なフェンヴォルフなのですか?」


「あり得るよ。この周囲一帯はヤツらの縄張りだったのだから、どこかに大型の個体が潜んでいてもおかしくない。むしろ、仲間がやられたのを察知して、アタシ達を排除しようと来たのかも」


 ミューアの推測を聞いたアリシアは、緊張感で額に汗を浮かべながら魔弓を手に持った。声の発する方向を特定できなかったので、もし本当に大型のフェンヴォルフが迫って来ているのなら、どこから襲われるか分からない。

 耳を澄ませ、足音などを探知するべくエルフ達は注意深く観測を行う。


「聞こえる……重い足音が向かってきているぞ!」


 叫ぶミューアは、足音が来る方向を突き止めた。それは、なんと真正面に存在する森林帯で、乱立する木々を避けながら巨影が大地を踏み鳴らして駆けている。


「大きなフェンヴォルフ…!」


 森を抜けて姿を現すのはフェンヴォルフだが、その大きさは優に四メートルはあるだろう。赤く発光する目は見る者全てに恐怖を与え、凶悪な大剣のような牙を何本も生やしている。


「背中にヒトがいますよ!」


 指さすアリシアも驚きつつ、巨大フェンヴォルフの背に乗っている人影を凝視した。どうやら二人組のようで、アリシア達の前方で停止したフェンヴォルフから飛び降りて武器を構える。


「アレはピオニエーレですよ! ヤツが戻ってきた……」


 二人組の内の一人はアリシアもよく知っている人物で、仮面で素顔を隠したピオニエーレで間違いない。

 しかし、ミューアはピオニエーレの隣に立つエルフに驚愕して、他の存在は視界に入っていなかった。


「姉上…!? ナスターシャ・エルフリードが何をしている!?」


「久方ぶりだな、ミューア。アンタとは、あの選定戦以来か」


「何をしていると訊いている!! 隣にいるのは村を壊滅に追い込んだ張本人なんだぞ!!」


「知っている。何故なら、あたしとピオニエーレは手を組んでいるからだ。あの村の秘宝やらの情報を与えたのもあたしだ」


「ンだと……」


 ミューアは姉が裏切り者の一人だと信じたくはなかった。彼女とてエルフリードの家系に生まれ、選定戦の行方によっては種族全体の指揮を執る地位に就く可能性のあった存在であり、そんなナスターシャがピオニエーレの仲間となるなど絶対にあってはならない。

 ナスターシャはミューアを嘲笑し、刀を差し向ける。


「もはや貴様には語るまい。あたしの前から消えてもらうだけだ。ピオニエーレ、始めるぞ」


「うっひっひ。偶然に手に入れたフェンヴォルフのヌシの性能を見せてもらいましょう。我々に歯向かうエルフも人間も叩き潰しなさいよ」


 世界樹の枝を頭上に掲げるピオニエーレは、フェンヴォルフを支配下に置いているようだ。以前にも魔物を制御し、自らの駒としてアリシアを襲っていて、その時のようにフェンヴォルフに指示を与えたのである。


「魔物のほうは任せる。アタシはナスターシャをやる!」


 近くにいたタチアナにフェンヴォルフを仕留めるよう頼み、ミューアは姉であるナスターシャと対峙する。他の誰でもなく、自分の手で始末しようと考えていた。


「なんで貴様は! 村の惨劇になにも感じないのか!」


「ミューア…! オマエが選定戦であたしに勝ちを譲っていればよかったものを!」


「あれで負けたからピオニエーレに協力していると!?」


「あたしこそが次期族長に相応しかったのに!」


 恨み節を全開にしてナスターシャはミューアの剣を弾いた。運命の分岐点となった選定戦の時よりも強くなっているようで、ミューアにも引けを取らない力を発揮している。


「貴様のような器量の小さいヤツに族長が務まるものか! そんな貴様よりも、皆を思いやれるアリシアの方が遥かに適正があるぞ!」


「誰だソイツは!? どこぞの雑魚エルフとは血統が違うんだよ! あたしはエルフリードの血を引くのだぞ!」


「血筋がなんだってンだ! 生まれの境遇に甘んじていたダークエルフめ!」


「だから鍛えたんだ! 貴様に二度と負けないためにもな!!」


 二人の激しい鍔迫り合いによって火花が散る。お互いに一歩足りとも退かず、相手の命を奪うことだけを考えていた。

 あまりに殺意の高い戦闘に誰も介入できず、ひとまずナスターシャはミューアに任せ、アリシア達は大型フェンヴォルフに立ち向かう。


「以前のフェンヴォルフと違い過ぎです!」


 巨体でありながらも重量を感じさせない軽快な動きで戦場を蹂躙し、武器を向けてくるエルフや人間を容易く蹴散らしていく。まともに反撃することも困難で、人間の兵士一人があっという間に押しつぶされて死亡した。


「生半可な威力の攻撃では勝ち目は無いわぁ。それこそアリシアちゃんのシューティングスターでないとダメねぇ」


 身軽なタチアナは上手く大型フェンヴォルフに肉薄して、ナイフによる素早い斬撃を繰り出すものの有効なダメージにはならない。皮膚の表面を裂かれたに過ぎず、軽いささくれ程度の痛みしかフェンヴォルフは感じていないようだ。

 致命傷を与えるには、アリシアの大技を叩きこむ以外に方法はなく、騎士のベルギットすらも苦戦していた。


「ブルーデプスの船を撃沈した技がシューティングスターというのか? 確かにそれをお願いしたいところだな」


 しかし、アリシアに注目しているのはピオニエーレも同じだ。遺跡へと向かう道中、黄金の魔弓による一撃必殺の大技の話を聞いていたことから、一番の要注意人物としてマークしている。


「魔弓での攻撃など、させるわけにはいかないのでね!」


 ピオニエーレは大型フェンヴォルフの背中に騎乗したまま、短い杖を装備してアリシアを狙う。そして、低威力の小さな魔弾を発射した。


「当たるものではないが…!」


 暴れまわるフェンヴォルフの上からでは正確な射撃など不可能だ。あまりにも射線がブレてしまい、アリシアの近くに着弾させるので精一杯である。

 とはいえ、無駄な攻撃ではない。アリシアへの牽制としては充分で、実際にアリシアは魔弾を恐れてシューティングスターを放つための準備に取り掛かれないでいた。


「ルトルーさん、お願いがあるのですが!」


「アリシアお姉様の頼みであるならば、わたしは命だって懸けるデス!」


「頼もしいです。盾を使って、私の大技の準備ができるまで守ってほしいのです」


「お安い御用デス! へへへ、盾を奪って来て正解だったのデス!」


 ルトルーの盾は魔力を流すと強力な防御性能を発揮できる。これならば魔弾をも弾き、大型フェンヴォルフの牙や爪からもアリシアを守れるハズだ。


「敵は、私が仕留めます!」


 これ以上の被害を食い止めるためにも、力を振るわなければならない。

 目の前で盾を構えるルトルーに防御を任せ、アリシアは魔弓に自身の全魔力を流し始めた。


    -続く-

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