エルフの雷とは…
遺跡に向かう途中で王都の調査隊と合流したアリシア達。そこでデボラというエルフとも出会い、村での悲劇を始めとした旅の経緯を要約して話す。
「なるほど……そのピオニエーレというのが魔物と結託して秘宝である世界樹の枝を奪った、と」
「はい。ですから、ピオニエーレがエルフの雷を発見する前に私達で回収しなければならないのです」
「ふむ…まあ、難儀なことですね」
デボラは静かに聞きつつ、何かを考えるようにして空へと視線を移す。村の家族や友人のことに想いを馳せているのか、それとも……
そんなデボラが気になったアリシアは、今度は自分から質問を投げてみる。
「デボラさんはずっと王都に?」
「わたしは言うならば外交官でして、族長の指示により五十年前から王都に派遣されていました。人間の女王様のもとで働きながら種族を超えた交流を行っているんですよ」
「五十年前から……失礼ですが、今は何歳なんです?」
「今年で二百三歳です。いよいよ中年に足を踏み入れたところですね」
エルフでいう二百歳近くならば、人間に当てはめると四十歳といったところか。若々しさが無くなってきているのをデボラも自覚しているようで、中年の仲間入りをしていると自虐している。
そうした会話をしている内に遺跡は間もなくという位置まで近づき、デボラは背負っていたリュックから一冊の古びた本を取り出した。
「なんです、それ?」
「これは王家の書庫に保存されていた書物です。見ての通りボロボロで欠落している部分も多いのですが、大昔のエルフ族について記されていて、あの遺跡の位置もコレで判明したんですよ」
本は大判の書籍並みの大きさがあり、デボラは両手でページを開く。すると、そこにはビロウレイ王国の地図が描かれていて、今目指している遺跡も記されていた。
「遺跡の隣にエルフの絵が添えられていたので、恐らくエルフ族と何かしら関係があるのではという推測で調査隊は動いています。なにせ他に手掛かりもなく、一つづつ可能性のある場所を調べるしかないのでね……」
「文字で何か書かれているようですよ?」
「これは古代語ですので、わたし達が使用している言語文字とは異なるために読めないんですよ。恐らく、この本は千年以上前に製作されたのだと思います」
本には文字も書かれているのだが、古い文字であるためにデボラやアリシアが読んでも理解できない。現在使用されている文字と似ている部分もあるとはいえ、キチンとした意味を見出すことは不可能だった。
そんな古代文字に興味を示したのはルトルーだ。デボラの持つ本を覗き込みつつ、フムフムと小さく頷いている。
「ルトルーさん、分かるんですか?」
「歴史の勉強で見たことがあるデス。ちょっと本をお貸しくださいデス」
ルトルーはデボラから本を受け取り、いくつかのページを開いて目を通す。そして、次第に興奮するように目を輝かせていった。
「こ、これはスゴいのデス!!」
「文字を解読できたんですか?」
「ある程度は読めたのデス。で、この本についてなのデスが、エルフ村に伝わるおとぎ話の原本とも言うべき歴史書デス」
エルフ村では、過去の魔物との戦争にまつわる様々な伝承やおとぎ話が語り継がれてきた。この中でエルフの雷なる最終兵装が登場し、当時の戦いがいかに苛烈かを想像できるものであったのだ。
その伝承やおとぎ話の元になった本だとルトルーは断言する。つまり、エルフの雷に関しても記されているかもしれないのだ。
「当時のビロウレイ王国……いえ、まだ王国そのものが存在していない時期の話のようデスね。エルフと人間が結託し、この地域にて激しい戦争をしていたようデス」
「その戦争でエルフの雷を使用し、エルフと人間の連合軍を勝利へと導いたのですよね?」
「そう書かれているデス。あ、エルフの雷らしき情報もあるデス!」
「本当ですか!?」
「ほうほう……魔物を殲滅した強大な武器、その本当の名前は”グライフィオス”というらしいデス。エルフの雷というのは、グライフィオスから放たれた閃光状の攻撃を形容する言葉だったようデス」
「グライフィオス……」
アリシアやピオニエーレが探しているキーアイテムの真の名前はグライフィオスというらしい。だが、この場にいる誰も聞き覚えが無いので、どちらにせよ何も思い当たらなかった。
「グライフィオスとは杖や魔弓のような形なのでしょうか? 強い閃光を放つのなら、遠隔攻撃が可能な武器だと思うのですケド……何かヒントは乗っていませんか、ルトルーさん?」
「絵などが無いので形状は分からないデス……ここに記述されているのは、名前と魔物の大群を一撃で殲滅し得るだけの火力があるというコトだけデス」
「もっと詳しい情報があれば良かったのですが……となると、遺跡に懸けるしかないみたいですね」
「あの遺跡は過去の大戦でエルフ陣営の要塞として使われたらしいデス。平和な世の中になった後もエルフが駐留していたようデス。今となっては種族の記憶から忘れられた存在デスが」
魔物に対抗するための軍事要塞であるのなら、グライフィオスに繋がる何かがあるかもしれない。ますます期待が膨らみ、アリシアは目指すべき建造物全体を見渡した。
「ん、遺跡の周囲に陣取っている影があります!」
「魔物だな、アレは」
ピラミッド型遺跡の周囲にはいくつもの魔物の影が揺らめいている。近づくアリシア達に気がついているようで、遺跡の内部からも増援が出てきた。
「ありゃフェンヴォルフだな。狼のようなカタチの魔物で、機動性能が高く極めて獰猛だ。アタシも以前に交戦したことがあるけど、なかなかに厄介な魔物だぞ」
四足歩行型の魔物は狼に似ていて、それはフェンヴォルフと呼ばれる魔物であった。白銀の毛並みは美しいが、鋭い眼光と牙を剥き出しにして威嚇している。
「全高はエルフや人間と同じようなサイズですね」
「ヤツらはまだ成熟し切っていない若造ってトコだな。成長すると四メートルくらいの大きさになる個体もいるらしいし。でも若いヤツらとはいえ、純粋なパワーはアタシ達の数倍にもなって、噛みつかれたら一瞬で腕や足なんか千切られるから気を付けろよ」
「ヒェ……」
「ま、アリシアはアタシが守るから安心しろ。敵は全てアタシが潰す」
と、カッコつけるミューアであるが、すぐさまタチアナとルトルーがアリシアの正面に立ってポーズを決める。
「わたくしだってアリシアちゃんを守護せし踊り子よぉ。舞いながら障害となるモノを消し去ってみせるわぁ」
「わたしだって戦えるんデス。この盾を使えばアリシアお姉様に迫る攻撃など防いでみせるのデス」
なんとも頼もしい仲間達に守られるアリシアは、さながら姫のようである。
だが、アリシアだって戦士として成長してきたのだ。皆の戦いをただ見ているだけなどできない。
「私は後方から援護することしかできませんが、少しでも皆さんの助けになるよう頑張ります」
やる気に溢れるエルフに呼応するように、ベルギット麾下の騎士隊、調査隊を護衛している人間の兵士達も武器を抜く。この戦いを生き残らなければ遺跡を調べられないし、フェンヴォルフと呼ばれる危険な魔物を倒さなければ近い街や村が被害を受ける可能性もある。
「敵もコッチに来るみたいだ。テリトリーを冒されたと怒ってんだな。必死にやんないとマジで死ぬぞ」
「ふふ、ビビッているのかしらぁ、ミューアちゃんはぁ」
「ビビッてねーし! フザけたこと言ってるとブッ飛ばすぞ」
タチアナを睨みながらもミューアも剣を手に取る。フェンヴォルフは目に攻撃色を灯し、全力で駆けて来ているのだ。
四足歩行型の生物が多数接近してくる様子は恐ろしいものではあるが、アリシアは魔弓を構えて第一射を放った。
「直撃をかけます!」
魔力の矢は光の尾を引いて飛ぶため視認性が抜群で、目視で簡単に捉えることが出来る。反射神経の良い魔物であれば回避も可能となり、フェンヴォルフの群れは正面から飛来する攻撃から退避しようとした。
しかし、アリシアは魔弓の能力を使って射線を曲げ、避けたと思いこんだ一匹のフェンヴォルフを貫く。
「アリシアに続け!」
ミューアの号令のもと、戦士達が一気に攻勢に打って出る。アリシアの射撃のおかげでフェンヴォルフの突進は妨害され、矢を警戒して防御の陣形を取っていた。
黄金の魔弓による第二射と共に、ヒト族対フェンヴォルフの集団戦が始まり、怒号と咆哮が荒廃した大地に轟く。
-続く-




