マッサージの権利で差をつけろ!
ミューアの過去について聞きながら夕食を終えた頃、特務騎士隊の隊長ベルギットが宿に現れた。ブルーデプスとの戦闘について、アリシア達から事情聴取を行う予定があったのだ。
「ふむ、なるほどな。大体のことは分かった。最初にヤツらに襲われた際にエルフ族が捕まっていることを知り、それで本拠地の調査をして船にも乗り込んだのか。しかし凄い行動力だ。悪党にたった三人で挑むとはな」
おおまかな説明を受けたベルギットは脳内で要約し、聴取を終える。港で宣言した通りにアリシア達を捕縛する気は無く、何があったのかを簡潔に知りたかっただけなのだ。
「だが、キミ達もよく生き残ったものだ。最近、エルフ村は攻撃を受けて壊滅したとの情報が王都に届いてな。女王陛下も心を痛めていらっしゃる」
「村の事を人間の女王様もご存じなのですね」
エルフ村が焼失したという情報は王都にも伝わっているようだ。遠距離通信手段のない世界なので、誰か村を訪問した者が知らせたのだろう。
「我がビロウレイ王国はエルフ族との親交が深く、王都には人間との交流を目的として働いているエルフもいる。生存者であるキミ達がいると分かれば、さぞ喜ぶことだろう。だが、一体何があったのだ?」
「ピオニエーレというエルフが魔物と結託し、村を焼き払ったのです。そして、秘宝である世界樹の枝を奪い、エルフの雷という武器をも狙って暗躍しているんです」
「エルフの雷……城で聞いた名前だ。確か、過去の魔物との戦争を終結に導いた強力な武器だったか?」
「はい。その武器はビロウレイ王国のどこかに封印されたらしいのですが……」
「そうか、それで調査隊が立ちあげられたワケか……」
エルフの雷について王都でも動きがあったらしく、ベルギットは一人で何かに納得している。
「実はな、昨今の魔物の侵略に対抗するべく、女王陛下はエルフ族に協力要請をするおつもりだったのだ。エルフの雷を用いて、魔物の一掃を計画されたのだな」
現在のビロウレイ王国には多数の魔物が蔓延っていて、侵略行為を働いているのだ。これに手を打つためには、エルフの力を借りる他にないと考えたのだろう。
「その矢先、村の悲劇が伝えられたのだ。女王陛下は王都のエルフを招集し、エルフの雷捜索を決定された。魔物の脅威を一刻も早く取り除く必要があるからな」
「魔物によって悲劇は広がっていく……確かに、エルフの雷がビロウレイ王国には必要なのですね」
「ああ。だから調査隊が結成され、今とある遺跡に派遣されている」
「遺跡…?」
「王家の書物庫にて、大昔にエルフ族の拠点の一つとされた地があるという記録が見つかったんだ。だが、そこは現在は魔物のテリトリーになっていて誰も近づかない」
これはミューアも知らない情報で、エルフに関わる遺跡が村以外に存在するようだ。そもそもミューアが族長家に属していた期間は短いので、知らないのは仕方ないと言えるが。
「そんな場所があるとなれば、エルフの雷という武器が秘匿されている可能性もゼロじゃない。しかし、なんで村に武器を隠しておかなかったのだろう? いざという時に使えなくちゃ意味ないと思うのだが?」
「前に母上が言っていた……あまりにも強力すぎる故、悪用されるのを防ぐために厳重に保管し、族長のみしか場所を知らないと。だが確かにベルギットの言う通り、イザという時に使えないのでは意味はないな。しかも村が滅んでいるんだから尚更だ……」
「特殊な保管方法が必要なのかもしれないな。普通の武器ではないというのだから、我々の常識では考えられない特徴を持っているとか、限定的な条件下でしか出現しないとか」
普通に扱える武器であるのなら、起動のキーとされる世界樹の枝と共に保管すればいい。それが出来ない特殊な事情があるがために別所に隠されていると推測できる。
「キミの母親はエルフの雷の詳細を知っているような口ぶりだな?」
「ああ。そりゃ、アタシの母は族長だからな」
「なんだと!? じゃあキミは族長の娘なのか?」
「ミューア・エルフリード……もう捨てた名前だけど」
「ほう…? ともかく族長の血族が生きているとなれば、女王陛下もお会いしたいと考えるはずだ。それこそエルフの雷や、今後の種族そのものとの関わり方など、トップ同士の話し合いの場を設けたいと」
「アタシには荷が重いな……」
族長が亡くなってしまい、エルフ族をとりまとめる存在がいなくなってしまった。であるなら、この緊急事態下では族長の血を引くミューアが代表として人間族と関わるべきであろう。
「私達も一緒ですから、大変なことをミューアさんだけに押し付けたりしませんよ。命を助けてもらいましたし、私は全力でミューアさんを支援します」
「ありがとう、アリシア。できる限りでやってみるか」
なにも一人で背負い込むことはないのだとアリシアが教えてくれる。大切なパートナーである彼女のサポートと支援があるのだから、戦いの時のように二人で頑張ればいい。しかもタチアナとルトルーという仲間も増えたわけで、一人で傭兵をやっていた頃のように孤独ではない。
「どうせ王都を目指していたんだし、人間の女王様に挨拶をしにいくか。でも、その遺跡も気になるな」
「なら、先に遺跡の調査隊に合流し、彼女達を手助けするのはどうだろう? エルフリード家のキミならば何か分かることもあるかもしれない」
そもそもエルフの雷は、一部のエルフと人間の王族のみしか知らないものであった。一般のエルフには情報は開示されておらず、遺跡で何かヒントを得ても理解できない可能性が高い。
「そうするか。で、その遺跡はドコにあるんだ? あんまり遠いと移動が大変だけど……」
「このシーカールから割と近い位置にあるんだ。馬を使えば一日で到着できるだろう。ここから王都に向かうよりも距離は短いぞ」
「丁度いいな、そりゃ。じゃ、明日の朝に向かうとするよ」
「分かった。私と部下の一部も同行し、キミ達を遺跡まで運ぼう」
徒歩で移動してきたミューア達は馬を所有していないので、ベルギットの申し出はありがたいものだ。
また明日に宿のエントランスで落ち合う約束をし、食事を終えたアリシア達は部屋へと戻って休息を取ることにした。
宿の二階、そこにミューアは二部屋を確保していた。一つはアリシアとミューア用で、もう一つはタチアナ用として用意したものである。
アリシアは先日も宿泊した部屋へと先に入り、扉の前ではミューアがコホンと咳払いをして後ろを振り返る。
「これは二人部屋でな、隣同士ではあるが別室になる。つまり…分かるな?」
「あぁ、わたくしがコッチねぇ」
「いや、アッチだ」
タチアナは一切の迷いも無くアリシアが入った部屋を指さすが、瞬時にミューアが隣の部屋を示した。
「ちょっとぉ、わたくしがアリシアちゃんと同室でないのは納得できないわぁ」
「オマエと二人きりにさせるわけないだろ。ンなことしたら、明日の朝にはアリシアが再起不能になっちまう」
「わたくしに依存した状態までもっていきたいわねぇ」
「アホか。ともかく、オマエは隣だ」
「やはり一戦交えるしかないかしらぁ。強引にでもアリシアちゃんを譲ってもらうわよぉ!」
「おう、続きをしようってのか」
この二人はアリシアに制止されたことを忘れたのだろうか。
再びバチバチに火花を散らしている中、アリシアが扉を開けて顔を覗かせる。
「あ、またやり合おうとしてますね」
「いや、コレには深いワケが……」
「ダメですよ、仲良くしないと。さ、ミューアさん、武器は仕舞ってください。昨日は私がマッサージしてもらったので、今日はお返しに私がミューアさんをほぐしますから」
再び諭されたミューアはバツの悪そうな表情で頭を掻くが、マッサージをしてくれるとの一言で元気を取り戻す。
内心ガッツポーズをしながら、意気揚々とアリシアに続いて部屋へと入っていく。
「マッサージですってぇ……!」
「う、羨ましいのデス! アリシアお姉様に体中を触って頂けるなんて羨まし過ぎるのデス!!」
当然ながら、残されたタチアナとルトルーの二人は嫉妬に駆られていた。まだアリシアと出会って日の浅い二人だが、その心は完全に惹き付かれている。
しょんぼりとしながら隣室へと足を向けるも、新たな決意もまた芽生えていた。
「最大のライバルであるミューアちゃんは必ず討ち倒すわぁ。わたくしは執念深いダークエルフだということを分からせてやるんだからぁ」
「わたしも参戦するのデス。ここは一時協定を結び、対ミューアさん同盟を結成するのデス」
ナゾの結束を固め、拳を合わせる。アリシアを巡る戦いは、更に加速しそうだ。
「ハックション!! うぅ、なにか寒気というか悪寒を感じる……」
そうとは知らないミューアは、盛大なくしゃみをしながら風邪でも引いたかと鼻をすする。
「大丈夫ですか? 体調が悪いのなら秘薬を使います?」
「いや、平気だ。早速、その……」
「マッサージですね。ささ、ベッドにどうぞ」
ニコやかにベッドをトントンと叩くアリシアに、ミューアはテンションを上げて頷き返すのであった。
-続く-




