大切な仲間達
次期エルフ族長を決めるための選定戦において、ミューアは見事勝利して姉であるナスターシャを下した。
これで族長の座に一歩近づいたのだが……
「早くしろ、ミューア。ナスターシャの首を斬り落とせば簡単に済むことだ」
その姉を殺すように現族長である母親に指示されたミューアは躊躇い、選定戦の敗者は殺害するというエルフの掟に背こうとしていた。
「アタシには出来ない。実の姉を殺すなどという所業は」
「それは掟を破ることになる。オマエはダークエルフの烙印を押され、永久に追放処分となるのだぞ?」
「ああそうかい! やってられるか、こんなの!」
「愚かな…オマエには目を掛けていたのだがな」
強引に止めるべく、族長は長大な薙刀を構えた。かつて、老いる前の族長は優れた戦士としても名を馳せており、今でこそ現場を退いているが強いプレッシャーをミューアに感じさせる。
「やめときなよ、母上。もう歳なんだから」
「ナメられたものだな。オマエのような小娘一人くらい造作もない」
族長は薙刀を振るい、ミューアに強烈な斬撃を行う。空気すら振動させる重さが迫り来るが、
「まだこれほどのパワーを…! けれども!」
攻撃を受け流し、ミューアは剣を下段から振りあげて族長に突き付けた。先程の一撃を繰り出しただけでパワーダウンするくらいに族長は弱体化しており、もう戦闘を継続できる状態ではない。
「さぁ、その勢いのままにワタシを殺せばいい」
「できるものかと言っている。悪いケド、アタシは選定戦を辞めさせてもらう。勝手にやっていてくれ」
ミューアは剣を鞘に納め、族長と姉に背を向けた。これはつまりダークエルフの道を進むということになり、エルフリード家と決別するという意思表示である。
「例えダークエルフに身を墜とそうとも、家族を殺す覚悟など……ならば、アタシは新たな生き方を見つけに外の世界に出る。だから、さようならだ」
エルフの寿命は長い。その中で、新たな生き方と安住の地を見つけ出せばいいだけだ。
屋敷を出たミューアは寒空の下歩み出し、村の外へと姿を消すのであった。
「はい、これで回想終わり。ゴメンね、長くて」
時は現代に戻り、シーカールの宿にてミューアは自分の過去話を終える。これでも色々と省略しているのだが、少々長くなってしまったかとアリシア達に謝った。
「いえいえ、聞きたいと言ったのは私ですし、ミューアさんの事を知れましたので」
「なら良かった。とまぁ、こんな感じでアタシは家出をしたんだな。で、掟を破ったダークエルフになったワケよ。どう? ツマラナイ話でしょ?」
「つまらないなど、そんな事はありません。なんというか…大変でしたね。まさか族長さん一家でそのような事が起きていたとは、一般エルフの私は全然知りませんでした……」
「あの時はアタシもまだまだ子供だったから、反抗心もあって飛び出したけど……今では後悔していることもある。もし村に残っていたのなら、魔物の襲撃から皆を守れたんじゃないかってな……」
自分がいれば魔物を退けられたのではという思いが消えないのだ。そうすれば多くのエルフの命を救えて、村の焼失を避けられたかもしれないと。
「それは己惚れねぇ。ミューアちゃん一人がどうこうしたからと、結末が変わるなんてあり得ないわよぉ。それにねぇ、当時はこんな事態が起こるなんて予想もできないのだから、自分を責めるのはお門違いというものよぉ」
「そうかもしれないな……ン? もしかしてタチアナがアタシを慰めようとしている…!?」
「バカを言うんじゃないわぁ。わたくしがイロイロと慰めたいのはアリシアちゃんだけよぉ。それこそ勘違いも甚だしいわねぇ」
「コイツ…!」
言葉では否定するタチアナだが、実際にはミューアを慰めようとしたのは事実である。アリシアを取りあうバチバチのライバルではあるものの、共に旅をする仲間という意識はちゃんと持っているし、淫乱でオカシイ存在とはいえ良心はあるのだ。
「しかし、よくルトルーはアタシがミューア・エルフリードだと分かったな? 族長以外のエルフリード家の者は一般のエルフとは交流しないから、存在を知られてすらいないのに」
ミューアのような族長の子供は、普通のエルフ達にはお披露目されない。族長直属の戦士エルフと行動することはあっても、アリシアのような庶民エルフと交わることはないのだ。
となると、ミューアの存在を知っていたこと自体が不思議ではある。
「わたしの母はエルフ議会のメンバーだったんデス。それで、年に数回ある族長家を交えた議会懇親会にわたしも参加させてもらって、ミューアさんをそこでお見かけしたんデス」
「そういうことか」
いわゆる上流階級のエルフだけが参加する懇親会の場にて、ルトルーはミューアを知ったようだ。それでもミューアがエルフリード家に所属していたのは昔のことであり、よく思い出したものである。
「わたしにとって懇親会は退屈な場だったのデスが、今となっては懐かしいデス。もうあのような時間は戻ってこないのデス……」
「長い時間をかければ村を再建できますよ。きっと新しい生活だって始められるはずです」
「アリシアお姉様……あの、わたしもお姉様に付いていっていいデス?」
「私にですか? この旅は戦いを避けられませんが…?」
「わたしも戦うのデス! アリシアお姉様の役に立ちたいデスし、ピオニエーレは許せないのデス!」
食堂の机に身を乗り出してルトルーは主張する。どのみち村を失ったルトルーに帰る場所はなく、同胞であるアリシア達に付いて行くしかない。
そんなルトルーに対し、ミューアとタチアナは新たなライバルが出たものだと闘争心を燃やしているのはアリシアには内緒だ。このパーティ、なんと三人共にアリシアに好意を抱いているのである。
「じゃあ、ご一緒しましょう。エルフの意地と怒りをピオニエーレにぶつけましょう」
アリシアは快く承諾し、ルトルーがメンバーに加わった。最初は二人きりであった旅も、いよいよ人数も増えてきたものだ。
「皆の身の上話に乗じて、わたくしが何故ダークエルフになったか興味ないかしらぁ?」
「いや別に。なんとなく察しがつくもんな」
「あらミューアちゃん、どうしてだと思っているのぉ?」
「どうせアレだろ? 村のオンナに手を出しまくったからだろ?」
「よく分かったわねぇ」
「他にないだろ……」
大正解とタチアナはミューアに拍手を送っているが、逆にバカにされているように感じてミューアはジト目で呆れていた。
「実はわたくし、族長直属の戦士の家系に生まれたのよぉ」
「え!? タチアナさんも名家の出身なんですか!?」
「いやぁ、名家なんてほどでもないわよぉ。まぁ、昔から戦闘訓練を受けさせられたしぃ、礼儀にもうるさい家柄ではあったわねぇ」
意外な事実にアリシアは驚き、ミューアは嘘なのではと疑問を抱いている。タチアナがマトモな家柄のエルフとは考えにくかったからだ。
「その内に窮屈に感じてねぇ……ストレス発散のため、夜に家を抜け出しては村でナンパしていたのよぉ。そうしたらダークエルフとして追放されてしまったわぁ」
「さもありなん……」
「でもねぇ、その時に身に着けた性技が外の世界では役に立ったわぁ。おかげで金持ちを抱き込んで骨抜きにし、沢山のお金を得ることができたものぉ」
「意外なコトが有効に活用できるものですね……」
タチアナは自分の欲求に従って生きていて、それは生まれの家が厳しかった反動なのだろう。自由に舞える村の外の方が彼女の性に合っていて、だから長年に渡って踊り子を続けていたのだ。
「戦闘のスキルは戦闘訓練で身に着けたんですね。タチアナさん、とても強いですし」
「これは自己流なのよぉ。村での訓練は形式的なものでしかなかったし、あれでは強力な戦士は育たないでしょうねぇ。魔物の襲撃が少なくて割と平和な世の中が続いた故に危機感を忘れていたのねぇ」
かつて、エルフ族は人間族と共に魔物と戦争をしていた。だが、エルフの雷で勝利を収めた後は魔物の数が激減し、村への襲撃も散発的で小規模のものでしかなかったのである。
こうなると比較的平和に感じるようになって危機感も薄れてしまい、戦闘訓練も厳しいものではなくなっていくのだ。これは、いわゆる平和ボケであり、村が急襲に対応できずに滅んだ要因でもある。
「戦士の家系であったからタチアナにも戦闘の素養があったんだな。ま、アタシほどは強くないけどな」
「あらぁ、わたくしの別荘での戦いを忘れているのかしらぁ? あのまま続けていたら、わたくしが勝っていたのよぉ?」
「あ? どう考えてもアタシの勝ちだったろ?」
「仕方ないわねぇ……アリシアちゃんを懸けて、ここで決着を付けましょうかぁ?」
「やってやらぁ!!」
二人は闘気を漲らせて武器を抜く。大切なアリシアを懸けるとなれば、二人は本気の全力全開を出して戦うことだろう。
「すとっぷ! すとーっぷ! 私達は仲間なんですから、争いはいけませーん!!」
今にも斬り合おうとしている二人の間に割って入ってストップをかけるアリシア。こうなれば言う事に素直に従うのがミューアとタチアナで、ここはアリシアに免じて許してやるとお互いに武器を納める。
しかし、こうした騒ぎも平穏無事な証拠だと、アリシアは苦笑いしながら思うのであった。
-続く-




