表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/86

大海を裂く決着の一撃

 囚われていた人間族を救出したアリシアは、追撃をかけようとしているブルーデプスに立ち向かう。敵の数は十数人とコチラの戦力を大きく上回っているが、引き下がる事なく魔弓に魔力を流し込む。

 手助けを申し出てくれたルトルーも円形の盾を構えてアリシアの前に立ち、迎撃体勢は万全であった。


「アリシアお姉様はわたしがお守りするデス! なので防御は考えずに魔弓での攻撃に集中してくださいデス!」


「ど、どうも……」


 お姉様という呼ばれ方には全く慣れずに困惑もある。しかし、ルトルーが慕ってくれているのは分かるので、まあいいかと彼女の言葉に頷いた。


「では先制攻撃をさせていただきます!」


 魔弓に装填された魔力の矢が発光して、アリシアが手を放した瞬間に飛び立つ。

 高速で飛翔した矢はアリシアの脳波コントロールを受けて軌道を修正し、ブルーデプスメンバーの一人に直撃した。


「相手はエルフの三体だけだ! エルフは高値で売れるのだから、なるべくなら生け捕りにしろ。抵抗するようなら殺してしまっても仕方ないがな」


 数で勝っていれば負けなど考えもしないだろう。ブルーデプスの指揮官と思わしき体格のガッシリとしている者が号令をかけ、仲間が倒れても躊躇する事なく部下達は攻勢を強める。


「チッ! コイツらは本当にカス共だな!」


 前衛で戦うミューアは敵の一人を切り捨てつつ唾を吐く。虫唾が走るような外道こそがブルーデプスであり、どんな状況でも他者を奴隷用商品としか考えない姿勢に目眩すら覚えるほどだ。


「そういう相手には手加減もしないし、叩き潰しても心は全く痛まないから全力でいくぞ!」


 キレるミューアの奮闘を目にし、アリシアは更に魔弓による射撃で援護する。

 だが、そんなアリシアを厄介だと判断した数人のブルーデプスが迫って来た。対多人数戦を不得手とするアリシアにはピンチだが、待ってましたとばかりにルトルーが立ちはだかる。


「わたしが防いでやるのデス!」


 敵のナタによる斬撃を盾で弾いたルトルー。相手は姿勢を崩してよろける。


「倒すのデス!」


 そして、目の前の敵に突進をかけた。盾の表面周囲から突き出ている鋭利なスパイクが見事に敵の胴体を刺し、一撃で撃破することに成功する。


「アナタ達のせいで酷い目にあったのデス…許さないのデス!!」


 自らを捕縛し、海外に売り払おうとした相手に対して憎悪を抱くのは当然だ。アリシアやミューア以上の怒りがアドレナリンを大量に分泌させ、次なる攻撃を実行する。


「コレでもくらえデス!!」


 ルトルーの掴んだ盾にはもう一つの特徴があった。それは、盾正面中央部の穴であり、これは単なるデザインではない。

 盾に魔力を流し、グリップ部分のスイッチを押し込むと穴がパッと光を放つ。すると、その光が前方に拡散していき、数人の敵をまとめて倒したのだ。


「魔力の弾、ですか?」


「予想通り、この盾には魔弾を発射する力があるみたいデス」


 しかも単なる魔弾ではない。散弾のようにいくつかの小さな魔弾が飛び散り、広範囲にダメージを与える事が可能のようだ。とはいえ射程は極めて短く、単発あたりの威力は低いので、敵が至近距離まで迫った時にこそ有効な武器だ。

 この拡散魔道砲ともいうべき装備を有効活用しつつ、アリシアとルトルーのコンビは敵を迎え撃つ。

 

「敵の増援はまだ来るか……ボートは着水したな」


 ミューアは敵を蹴り飛ばし、後方の様子を確認する。

 助け出した人間が搭乗する肝心のボートは、無事に船から降りて海へと着水していて、このままなら間もなく着岸できるだろう。しかも、タイミングよくミリトアが戻ってきたので、彼女に誘導してもらえれば逃げ出せるはずだ。


「アタシ達もトンズラするぞ!」


 船の上部は地形的に不安定であり、戦うには不向きの場所である。特に高速機動戦を得意とするミューアには手狭なため、広い陸の上で戦う方がやりやすい。

 

「また海に飛び込むので?」


「そうなるな。でも心配すんな、アタシがまた背負うから。ルトルーは泳げるか?」


 ルトルーは頷き、三人は敵から逃れて一斉に海へとダイブを敢行する。

 そのアリシアをミューアが背負って岸に上がり、ルトルーも盾をビートバンのように使用して遅いながらも泳いで脱出した。


「皆さん、無事で良かったのであります!」


「なんとか一番の目標である救出作戦は成功しました。ミリトアさんにはボートの上にいる方々を安全な場所まで誘導をお願いできますか?」


「了解であります。市民の安全確保は警官の本懐なのであります!」


 敬礼をするミリトアはボートから降りる人達に手を貸している。途中で陽動を行っていたタチアナも合流し、人畜無害そうな柔らかい表情で救助を手伝っていた。

 そんな中、ブルーデプスは船の上からアリシア達の様子を窺う。


「ヤツらめ…! だけど、なんで警官が手を貸しているんだ? 保安課上層部と市長は買収して我々への捜査はしない約束なハズなのに」


「裏切ったのじゃないですか? アイツらは保身を何より考える連中ですから、我々との関係がバレそうになって手を切ってきたとか?」


「となればマズい事態だ……」


 ブルーデプスは金品を使ってシーカールの権力者達を抱き込んでおり、自分達が商売しやすいように捜査の手が及ばないよう働きかけていたのである。それなのに警官がブルーデプスの活動に反するような行為を行っているのは紛れもない裏切りだ。

 ミリトアは船からの視線を感じ取り、自分の方を見ているブルーデプスに向かって叫んだ。


「この船は間もなく警官隊に包囲されるのであります! 諦めて船から降りるのであります!」


 これはハッタリである。保安課の警官の中でもミリトアのみが正義感で動いているので、他の警官が手助けに来てくれることなど有り得ない。

 しかし、奇襲を受けて焦るブルーデプスに事実確認をしている余裕はなく、本当に警官隊が駆け付けると信じてしまった。


「おい、船を出せ! シーカールの拠点は捨てる!」


「どうするんです!?」


「ビロウレイ王国でなくても商売はできる。他の国に拠点を移し、そこでまた奴隷として売れそうな人間を探せばいいんだ」


 すぐさま出港の準備に取りかかり、帆を張ってボトム・ディパーチャー号は離岸していく。


「アイツらは陸まで追いかけてこない!? そうか、シーカールから逃げ出すつもりだな!」

 

 陸まで追撃してきた敵をタチアナやミリトアと合流して撃破する想定であったが、商品を捨ててでもシーカールから離れることを選んだのだ。


「そうはさせません!」


「アリシアは何を!?」


 ここで敵の逃走を許してしまえば、ブルーデプスによる被害は他の地域に広がってしまう。それを阻止するためにも、ここで足止めをしなければならない。


「船は止めます! 私が撃沈します!」


「どうやるんだ!?」


「こうやるんです!」


 立膝を付いて姿勢を整えたアリシアは、体に残る全魔力を魔弓に流した。これによって、通常時とは比較にならないほどの大きさと輝きを持つ矢が精製されていく。


「私の大技シューティングスターは巨大なパラサイトモスカを粉砕できました。この力を使えば船でも破壊できるはずです!」


「そうだな。頼む、アリシア!」


「いきますよ…全力全開! シューティングスター!!」


 パラサイトモスカ戦以上の怒りを乗せた一撃となり、空を貫く流星の如き一筋の極大閃光が放たれる。太陽光よりも眩く、近くにいたミューア達は直視できなかった。

 その光の塊は目標であるボトム・ディパーチャー号目掛けて飛び、熱量で海水を蒸発させ飛沫を上げながら船の左斜め後方へと迫っていく。


「なにが光っちゃって!?」


 船上のブルーデプスメンバーに事態を把握する暇は無い。視界の端で煌めきが発生したなと思った直後、世界がひっくり返ったかのような激震に見舞われ、一瞬にして意識はブラックアウトする。


「スゴイ威力だわぁ……」


 初めて見たアリシアの大技にタチアナは目を丸くしていた。大型の商船がたった一撃で粉砕され、粉みじんの残骸を撒き散らしながら海の藻屑と化していくのだから、驚かずにはいられないだろう。


「さすがアリシアお姉様デス! ますます惚れてしまったのデス!」


 ルトルーもまた興奮気味に息を荒くしている。自分の怨敵であるブルーデプスを海に沈めてくれたという点でもそうだが、大技を繰り出す彼女の凛々しさにドキドキが止まらないのだ。


「これで少しは平和に近づいたでしょうか」


「ああ、勿論だ。ヤツらを野放しにしていたら、これから先も被害者が大勢出ていた。それを阻止したのだから、未来を救ったとも言えるね」


 海の上に漂う商船の残骸を眺めながらミューアはアリシアの肩をポンと叩く。


「アリシアお姉様、そして皆さん、本当にありがとうなのデス。皆さんに助けてもらえなかったら、間違いなくわたしは奴隷として人生を終えていたのデス……この感謝をどうやってお返ししたらいいのか……」


「お返しなんて気にしなくていいですよ。ルトルーさんが無事ならば、私達も頑張った甲斐があるというものです」


「ここに天使がいるのデス…!」


 ルトルーは涙を浮かべてアリシアに抱き着く。この優しく温かい感触が忘れられず、何よりも安心するのだ。

 そのルトルーに対し、若干二名のダークエルフが嫉妬の目を向けているが、今は黙って見守るのであった。


    -続く-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ