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囚われのエルフ、ルトルー・クロミナ

 ブルーデプスの保有する商船”ボトム・ディパーチャー号”を発見したアリシア達だが、乗り込もうにも昇降部付近には敵の数が多く、少しでも安全に侵入できる別のルートを模索していた。


「アリシアが泳げないとなると、海に飛び込んで行くのは無理か」


「ふふ、心配はいらないわぁ。わたくしがアリシアちゃんを背負って泳ぐからぁ」


 煽るようにミューアの顔を覗き込み、ポンと自分の背中を叩くタチアナ。アリシアと密着できれば戦場でもなんでもいいらしい。

 

「オマエだと余計に心配なんだよ! アリシア連れて歓楽街のホテルにでも行くつもりなんだろ!」


「あらぁ、よく分かったわねぇ」


「フザけんなアホ! アリシアはアタシが背負う」


「まぁいいわぁ。作戦の成功率を上げるため、わたくしが陽動をするわねぇ」


「頼む。オマエの得意技とやらで敵を引き付けておけ」


 タチアナは世間一般には魅力的なエルフである。そんな彼女ならばヒトの気を引くなど造作もない。

 典型的な陽動を依頼しつつ、ミューアがアリシアを背負いながら泳ぐ事になり、二人は敵にバレないように港から海へと飛び込んだ。幸いにして水温は温かく、体の負荷とはならないだろう。


「すいません…またまた足手まといに……」


「気にすんな。アリシアには船に乗ってから活躍してもらうさ」


「できますでしょうか?」


「囚われている者をアリシアが救え。敵はアタシが倒す」


 なるべくなら発見されないよう潜入を果たしたいが、狭い船内では完全ステルスなど不可能だ。もし見つかってしまった場合はミューアが敵に対処し、その間にアリシアが捕まっているヒト達を救うのが順当だろう。


「ここからよじ登っていくぞ」


 水面から上がって船の側面から登っていく。このまま上部に進めば窓があり、そこから侵入できそうであった。


「よし、人影はないな」


 幸いにも窓は開いていて、すんなりと船の中へと入り込む。タチアナが引き付けてくれているおかげか、ミューアの立つ廊下にはブルーデプスは誰もいなかった。

 後ろから付いてきたアリシアも降り立ち、捕まっているエルフや人間を探してキョロキョロと周囲を見渡す。


「囚われている方々はドコにいるのでしょうか」


「こういう船は後方に物資を置いておく倉庫があるもんだ。まずはそこに行ってみるか」


 船の構造などマチマチであるが、ミューアは以前に大型船舶に搭乗した経験を思い浮かべているらしい。それが役に立つかは分からないが、アリシアはミューアを頼りにするしかない。

 慎重に船の後方へと歩を進めると、なにやら話し声が聞こえてきた。


「届いていた物は積み込んだぞ。出港の準備はもう終わるな?」


「それが、本部からの最後の積荷が来てないんですよ。何かあったんですかね?」


「まったく早くしてもらわんと困る。仕方ない、あたしらで確認しに行くぞ」


 本拠地のメンバーはアリシア達の活躍で壊滅しており、そのために積荷の準備が滞っているのだ。

 しかし、そうとは知らない他のメンバーは様子を見に行くことにしたらしい。これは好都合で、敵の人数が減ったほうが行動しやすい。


「あれが荷物を積んである貨物室か?」


 ミューアの予想通り、船の後方に貨物室と思われる部屋が存在した。

 周りを警戒しつつ扉に近づき、アリシアが開いてミューアは武器を構えて会敵に備える。


「これは当たりのようですね。沢山の荷物が積んであります」


 商品として海外に売るための物資が多数並んでおり、しかも奥には動物を入れるための檻がいくつか置いてあった。


「アレは…!」


 その檻に入っているのは猛獣などではなく十人ほどの人間であり、アリシアとミューアに怯えたような目を向けている。ボロボロの服装で一様に疲れ切った顔つきをしていて、きっと捕まってから食事もまともに与えられなかったのだろう。


「私達は敵ではありません。皆さんを助けに来たんです!」


 アリシアはサブウェポンとして持っていたナイフを取り出し、魔力を流して檻の鍵に叩きつける。ガンと激しい音がして鍵は壊れ、逃げられる状態となった。


「さあ、早く外に」


 誘導するアリシアに従って次々と囚われていた人々が檻の外に出る。久しぶりの自由に感涙する者もいれば、体が弱ってフラフラとしている者もいた。

 そして、アリシアは一人のヒト族に着目する。


「エルフの方を見つけました!」


 一番奥にいた長い耳が特徴的なその少女はエルフ族で、年齢は十四歳といったところだろう。つまりは十八歳のアリシアよりも年下となる。


「怪我はありませんか?」


「だ、大丈夫なのデス……」


「良かった。さぁコッチに」


 アリシアに手を引かれてエルフの少女は檻の外に出るが、不安そうに縮こまっていた。それもそのはずで、暫くの間監禁されていたことから心に傷を負っているのだ。


「ずっと怖かったのデス…奴隷として売られると言われて……」


「安心してください。そんな非道な事はさせません。私達に任せて」


 その不安を取り除いてあげようと、アリシアはエルフの少女を優しく抱きしめてあげる。こうして温もりを直接感じさせるのは効果的で、実際に少女は久しぶりに安堵して胸を撫で下ろしていた。


「ありがとうなのデス。ずっとこうしていたいデス」


「ふふ、甘えん坊さんですね。でも今は脱出しなければなりません」


 いつ敵が貨物室に来るか分からず、一刻も早くここから去らなければならない。アリシアとミューアの二人だけならまだしも、解放した人々も一緒なので簡単には敵の目を欺けないだろう。


「ミューアさん、どうやって逃げましょう?」


「非常用ボートが船の上部に搭載されている。ソイツに皆を乗せて逃げるしかないな」


 船が座礁した際などに活用される非常用ボートが備え付けられているのをミューアは目視で確認しており、このボートを使っての脱出を提案する。弱っている人達に泳がせるのは不可能で、安全に陸まで輸送するなら他の手はないのだ。


「問題は、絶対に敵に発見されるという点だ。となればアタシが戦う」


 ボートがあるのは船の上部で、甲板などで作業しているブルーデプスに発見されるのは間違いない。そうなれば戦いは避けられず、またしても死闘が繰り広げられることになる。


「では私も援護します」


「わたしも戦うデス!」


「えっ、アナタも?」


 先程助けたエルフの少女は、アリシアに抱きしめられたことで気力を回復し、やる気に満ち溢れているようだ。


「わたしにも手伝わせてほしいのデス!」


「じゃあ一緒に。そういえばお名前はなんと? ちなみに私はアリシア・パーシヴァルと申します」


「わたしはルトルー・クロミナというデス。宜しくお願いするのデス、アリシアお姉様!」


「お姉様!?」


 奇怪な呼び方をされたアリシアは、素っ頓狂な声を上げて驚く。お姉様などと呼ばれるほど立派なエルフでもないし、ましてや彼女の姉などではない。


「お姉様なんて私には似合いませんよ。普通にアリシアでいいですよ?」


「いえ、アリシアお姉様はアリシアお姉様なんデス!」


「そ、そうですか。ルトルーさんは戦うのは得意なんですか?」


「村に居た頃は、お稽古で武術なども学んだデス。でも実戦は初めてデス……けれど役に立ちたいのデス!」


 貨物庫には輸出用商品として積み込まれた武器が存在し、ルトルーはそこから一つの武器を手に取る。


「コレは使えそうデス」


 ルトルーが手にしたのは大きな円形の盾であった。直径一メートル程にもなり、構えれば半身を隠すことも出来る。しかも、盾の表面には数本のスパイクが装着されているので、敵に突き刺して攻撃することも可能だ。


「ミューアさん、廊下に敵はいますか?」


「いや、行くなら今がチャンスだ。皆を連れて上のデッキまで一気にな」


「分かりました。私とルトルーさんで誘導しますから」


 ミューアは剣を握り廊下へと出る。その後ろからアリシアが人々を先導し、ボートを目指して移動を開始した。


「ミューアさん……? あのエルフの方はミューアさんというのデス?」


「そうですよ。ミューア・イェーガー、私のパートナー的な方ですよ」


「ふーむ。わたしはあの方を知っているような気がするのデス。しかし、イェーガーという名前ではなかったような……」


「それってどういう?」


「昔の記憶で…もうちょっとで思い出せそうなのデスが……」


 なにやらルトルーはミューアについて知っている事があるらしい。だが、今は思い出せずに首を傾げていた。

 そんな会話をしている中、一同は船の上部へと出る。そして、緊急時に使用されるボートが置かれている場所へと急行した。


「充分に大きいから捕まっていた人間全員を乗せられるな。よしアリシア、皆をボートに」


「了解です!」


 順調にボートへの搭乗が進んでいき、後は海に降ろして脱出させるだけとなったが、


「おい、貴様達は何をやっている!?」


 もうちょいのところでブルーデプスがアリシア達を発見して大声を上げた。いよいよ戦闘は避けられない状況となってしまい、アリシアは近くに設置されていたレバーを操作してボートを海へと急いで降ろそうとするが、その降下の動作は非情に緩慢で着水するまでに時間がかかりそうだ。安全性を考慮した設計は、今はむしろ足を引っ張っている。


「ボートと、その傍にある操作盤を防衛するぞ! 敵をここで抑える!」


 ミューアとアリシア、そしてルトルーがそれぞれの武器を装備し、向かってくるブルーデプスに立ち向かった。


     -続く-

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