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ボトム・ディパーチャー号

 裏口から第八倉庫に潜入したミューアとタチアナは忍びのように音を殺して歩き、ブルーデプスのメンバーへの接近を試みる。シュメリーから聞き出した情報通り、ここに敵は本拠地を移転していて、何か作業を行っているようだった。


「ヤツらはブルーデプスで間違いない。積荷の準備をしているようだな」


「ということは、船が出港間近ということねぇ。早くしないと連れ去られた人の行方も分からなくなってしまうわぁ」


「ああ。その前に敵を締め上げてやろう」


 コソコソ話をしている中、一人のブルーデプスメンバーが作業場を離れてミューア達の方へと向かってきた。裏口から外へ出て休憩でも取るつもりなのだろう。

 これはチャンスとばかりに物陰に隠れ、ターゲットが通り過ぎてから尾行を行う。


「コイツを捕まえるぞ」


 裏口の扉を開き、ターゲットが倉庫から出た瞬間にミューアが背後から取り押さえる。声を出せないように口を手で塞ぎ、その隙にタチアナがナイフを顔面に突き付けた。


「動かないでちょうだいねぇ。もし大声を出したりすれば、ナイフがアナタの首をスライスする事になるわぁ」


 恐ろしい脅しにターゲットは頷き、不服そうにしながらも抵抗せずに従うと了承する。

 ミューアはゆっくりと相手の口から手を離しつつ、剣を背中に当てがいながら尋問を始めた。


「オマエはブルーデプスだな?」


「そ、そうだ…!」


「捕まえた人達をドコへ連れていった? ここが本拠地だろうに見当たらなかったが?」


「もう少しで船が出るんだ。その船に積み込んだんだよ」


 どうやらブルーデプスの商船の出港が近いらしい。海外に売り飛ばす”商品”は既に積み込まれていて、倉庫に残っているメンバーは最後の荷物の準備をしていたようだ。本拠地でありながらも人数が少なかったのは、他のメンバーは乗船していたからである。


「クソがッ…! 船はどれだ? どこに停泊している!?」


「言うと思うか?」


「でなければ死ぬだけだ」


「ブルーデプスをナメてんじゃねぇ。おーい! 敵襲だーッ!!」


 自らの命も顧みず、大声で叫んで仲間に危機を知らせる。脅されながらでありながらも大した度胸であるが、これは反撃して生存できるという自信があったからだ。

 

「コイツっ!」


 ミューアが捕まえたブルーデプスメンバーは肘打ちをして、拘束から逃れようと画策した。そうすればミューアをよろけさせ、正面に立つタチアナからも距離を取って逃走できると脳内でシミュレートしたのである。

 しかし、相手が悪かった。


「なんだとッ…!?」


 このような不意打ちはミューアもタチアナも想定していた。

 肘打ちを仕掛けようとした瞬間、逆にミューアの膝蹴りを受け、更にタチアナのナイフが肩を貫く。

 見事なコンビネーションで相手を制圧した二人は、駆け付けたミリトアにブルーデプスメンバーの身柄を引き渡す。


「コイツを縛っておけ。アタシ達は残る敵に対処するから、ブルーデプスの船が停泊している場所を取り調べといてくれ」


「了解したであります! 本官も警官でありますから、取り調べは任せるであります!」


「アリシアはアタシの後ろに。援護を頼む」


 ミリトアと一緒に待機していたアリシアを引き連れ、ミューアは多数の駆け足音がする方へと向き直る。倉庫内のメンバーが近くまで迫ってきているのだ。


「くるぞ! 敵がな!」


 バンと勢いよく扉が開かれて敵が集結する。その人数は六人で、武器を構えて一斉に襲い掛かってきた。


「ここからは手加減ナシでいくからな! 死にたくないヤツは退け!」


 ミューアが威圧しながら剣を振り抜く。先程の相手は一人だったので怪我をさせるだけで済んだが、こうも多数で攻撃してくる敵に対しては全力を出さざるを得ない。


「おいおい、邪魔者はエルフかい。コイツらも捕まえれば金になるな」


「許せません! そうやって他者を奴隷商品として売るなんて!」


「我々以外のヒトなんぞ商品に過ぎないんだよ! 抵抗するのなら死ねよや!!」


 アリシアもまた一人のブルーデプスに襲撃されていた。近接戦に対応するのは困難だと今までの戦闘で痛感したところであり、怒りに震えながらも冷静な理性は保っている。


「こうなれば距離を取りながら矢を叩きこむ…!」


 斧による攻撃を後方にジャンプして回避し、その回避行動中に矢を装填。そして着地と同時に発射してみせた。


「当てる…!」


 距離が近かったこともあり正確な狙いをつける暇は無かったが、アリシアの魔弓には特殊な能力がある。そう、脳とリンクして矢を遠隔コントロールするという能力だ。

 魔力で形作られた矢はアリシアの念じた通りに射線を少し変更し、ブルーデプスメンバーの武器を破壊してから右腕を粉砕する。

 痛みに悶える敵は悲鳴を上げ、のたうち回っていた。


「申し訳ありませんが、恨みっこはなしですよ……」


 これは命を懸けた戦いである。敵もこちらの命を奪う勢いでいるわけで、徹底的に非情にならなければ死ぬのはアリシアだ。


「アリシアはよくやっているな。だからアタシも全力でやる!」


 ミューアはアリシアの戦いを確認しつつ、自らも奮戦する。

 ナタによる斬撃を受け流し、反撃に転じて敵に刃を突き立てた。


「次は貴様か!」


 そして更に一人を刺し貫く。アリシアとは異なり、ミューアの高い戦闘力ならこの程度の敵など造作も無い。


「タチアナは…心配ないか」


 タチアナは軽い身のこなしでナイフを両手に舞う。普通の戦士とは違うトリッキーな動きはミューアですら初見では苦戦したもので、並みの戦闘力しか持たない者では対処のしようもなく斬り裂かれていく。

 物量差で劣っていたにも関わらず、瞬く間に敵戦力を撃滅したエルフ達。人間族よりも身体能力で勝っているのもあるが、このような下劣な者に負けたくないという意思と怒りが力に変換されたからでもある。


「こんだけ騒ぎを起こしてしまったら後が厄介だけど、手を退くわけにはいかない。ミリトア、コイツから船について聞けたか?」


 唯一確保した敵を尋問していたミリトアは首を横に振る。まだブルーデプスの船が港のどこにあるか聞き出せていないようだ。


「続きはアタシがやる。おい、船はどこだと訊いている!」


 捕縛された相手の胸ぐらを掴んで前後に激しく揺する。脳震盪を起こしそうな勢いだ。


「ヒィ…! 分かった、分かったから手を放してくれ!」


「放すものかよ。アタシはダークエルフだからな、テメェを仕留めるのに全く心は痛まないんだわ」


「も、もし喋ったら解放してくれるか?」


「あ? まあいいだろう。約束してやる」


 今にも殴りかかりそうなミューアを制止し、ブルーデプスメンバーはいよいよ諦めて喋ることにした。近くの味方は全滅し、こうなってしまったら逆転の目はない。


「三番港だ。そこにボトム・ディパーチャー号という商船がある。それが我々の船なんだ」


「ああそう。嘘だったらマジで覚悟しておけ」


「嘘なもんか! なぁもういいだろう? 喋ったら解放してくれる約束なんだから早く縄を解いてくれ」


 ミリトアによって全身を縄でグルグル巻きにされており、それを解くようにミューアに懇願する。


「確かに解放すると言った。だがな、アレは嘘だ」


「なんだと!?」


「ダークエルフだからな、嘘も普通につくんだわ。ミリトア、悪いんだけどコイツを引っ張ってきてくれ。まだ船に関する情報が正しいとは限らないから、もし違ったらまた尋問しないといけない」


 頷くミリトアはブルーデプスメンバーを背負い、港へと走り出したミューア達の後を追った。






 湾岸部に建設された港は広大で、いくつもの接岸口が存在している。

 その内の三番港とされている場所に巨大な船舶が佇んでいて、これこそが目標であるボトム・ディパーチャー号のようだ。


「ふむ、どうやら間違いないらしい。青いバンダナを巻いているヤツらが乗り降りしてるからな」


 ブルーデプスの象徴とも言える青いバンダナを巻いた集団が積荷を忙しなく運んでいる。他にこのようなお揃いのアイテムを着けている者はおらず、捕虜のメンバーの情報は正しいと分かった。


「な、本当だろう? もういいから縄を……」


「ミリトア、コイツを港の事務所にでも届けておけ。当然だけど逃がさないようにな」


 もう捕虜としての価値は無いし、負傷していることもあって医務室もある港の事務所へと連行するように伝える。


「了解であります。皆さんはこのまま乗り込むでありますか?」


「そのつもりだ」


「本官も後で合流するであります。どうかご無事にであります!」


「心配するな。ミリトアが合流する前に、捕まっているエルフや人間を救出して決着を付けておいてやるよ」


 自信家のようにガッツポーズするミューアに敬礼を返し、ミリトアは捕虜を連行していく。

 残った三人のエルフはボトム・ディパーチャー号を見上げ、侵入経路を探る。しかし、船へと繋がっているのは接岸部のみであり、その周囲は敵がワラワラと存在していた。


「乗り降りするための場所は敵が沢山いますね。どうやって乗り込みますか?」


「そうだな……海に飛び込んで泳ぐか。んで、船の下からクライミングの要領で昇っていくってのはどう?」


「……私、泳げないんです」

 

 正面突破は危険極まりないし、前途多難である。


    -続く-

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