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夜の女王はダテじゃない!

 ターゲットであるシュメリーを連れたタチアナは、街の中心部近くにある高級ホテルへと場所を移す。ここであれば雰囲気も良く、他者の邪魔も入らないだろう。


「こんな高そうなホテルを無料で使わせてもらえるなんて、アナタは凄い特権を持っているのねぇ?」


「私はこの街の治安部門を統べる者だ。その私には様々な権限が与えられている。ホテルだろうとレストランだろうとタダで利用できるのさ。まぁ一般庶民とは異なる上級市民と言ったところだよ」


「へぇ、そんなアナタに益々魅力を感じるわぁ」


 心にも思っていないセリフを口にするタチアナだが、シュメリーはお世辞と気がつかない。むしろ、気分を良くして高慢な態度を強くしていく。


「見る目があるエルフだ。そうだ、私のモノにならないか?」


「わたくしがアナタのモノに?」


「ああ。キミの事を気に入ったよ。私の傍にいればキミも特権階級になれるぞ。今後、不自由の無い生活を送れるんだ」


 シュメリーはタチアナの頬に手を当て、愛撫するように撫で上げる。


「あらぁ、嬉しいお誘いねぇ。じゃあ、わたくしはアナタにご奉仕して尽くしてあげればいいのかしらぁ?」


「そうしてもらおう。今後、キミの全ては私のモノだ」


「いいわよぉ。なら早速キモチ良くしてあげるわねぇ」


 手慣れた手つきでシュメリーの衣服のボタンを外していく。ここから先は、文字通りの裸の付き合いとなるのだ。

 

「さぁ、ベッドに横になってぇ。わたくしのテクに酔いしれるといいわぁ」


 自らも踊り子衣装を瞬時に脱ぎ去り、極上の裸体を晒した。その姿に一層シュメリーは独占欲を掻き立てられる。

 舌なめずりするタチアナは悪役のようだが、これでも一応は正義のための作戦の一環なのだ。






 そのタチアナが奮闘? している頃、アリシアとミューアは別の宿に宿泊していた。ミリトアは一度自宅へと帰り、明日にまた合流する手筈となっている。


「タチアナさんは上手くやっているでしょうか…?」


「そりゃ夜の女王なんて自称してるんだから大丈夫だろ。どんな方法かは聞きたくもないけどね。まっ、せっかくの宿なんだし気にせずゆっくりしよう」


 ディガーマを出て以来、数日ぶりの宿泊施設なのである。自然を愛するアリシアにとって野宿はイヤなものではなかったが、こうしてリラックスできる場所でしっかり休むのも悪くない。


「しかしな、ブルーデプスなんて犯罪組織と裏取引して野放しにするなど、アタシのようなダークエルフ以上に悪いヤツらがいたもんだ」


「街自体は素晴らしいのに、人を平然と傷つける者達が影に隠れているというのは不気味ですね」


「タチアナの作戦が成功すれば、明日はそうした悪党と戦うことになる。もし怖いならアタシとタチアナで潰してくるけど?」


「いえ、私なら大丈夫です。囚われているエルフの方を救うためにも、そしてミューアさん達が頑張っている時に待っているなど私にはできません」


 明日の戦いは本格的な対人戦闘となる。これまでのアリシアは魔物とのみ交戦してきたわけで、エルフに近いヒト族を倒すなど経験してこなかった。

 それでもアリシアは引き下がらない。例え相手が人であっても、到底許せる相手ではないので手加減をする気もなかった。


「本当にたくましくなったな。誰に似たんだか」


「そりゃあ一人しかいませんよ。近くで一緒に戦ってきた勇猛果敢な戦士を参考にしているんですから」


「ふっ、参考にする相手を間違えたな?」


「いえいえ。これ以上にない最高のお手本ですよ」


 ダークエルフなど本来であれば手本にするような相手ではない。しかし、アリシアにしてみれば村の外の世界で生き抜くために最も手本とするべき存在なのだ。


「アタシは対人戦も慣れている。アタシがいつも通りに前衛を務めるからアリシアは援護を頼むよ」


「はい。ミューアさんの背中は私が守ります」


 グッと親指を立てるアリシア。一度はブルーデプスに襲われて恐怖もあったが、臆する気持ちを抑えられるのもミューアがいるからだ。むしろ敵に対する怒りの感情の方が大きくなっていて、彼女なりの正義心を燃やしている。


「あとはタチアナのヤツが上手くヤッているのを祈るとするか……」


 イマイチ信用しきれないものの、今はタチアナに懸けるしかない。


「結果が分かるまではアタシ達にはどーにもできないしな。アリシア、マッサージでもしてあげようか? 明日に向けて疲労は解消しておかないとな」


「じゃあお願いします!」


 一抹の不安を憶えつつ、ミューアはベッドに横になったアリシアの身体に手を伸ばす。こうしてアリシアに触れている時間がミューアにとっては至極の幸福となっていた。






 翌日、アリシアとミューアの姿は合流ポイントとして設定した繁華街の入口にあった。


「ミリトアはもう来ていたのか。制服を着ていると本当に警官なんだって思えるよ」


 既にミリトアは集合場所で待っており、しかも警官隊に支給されている正式な制服を着ている。昨日は不審者にも見えたが、今のミリトアはキッチリとした正義の味方だ。


「街の見回りという言い訳をして抜け出してきたであります。今日中に解決できればいいのでありますが……」


「肝心のタチアナ次第だな。と、噂をしていれば」


 高級ホテルのある方向から悠遊とタチアナが歩いてくる。そして、アリシアを見つけるなりヒラリと舞うような動きで近づいてきた。


「あらぁ、今日もアリシアちゃんは可愛いわねぇ」


「ど、どうもです。それで、どうでしたか?」


「わたくしを誰だと思っているのかしらぁ? まさに完璧な仕事といったトコロよぉ」


 クルクルとアリシアの周りを回りつつ誇るタチアナ。口ぶりによると、どうやら求めていた情報を手に入れたようだ。


「シュメリーちゃんによると、ブルーデプスの本拠地は湾岸近くの倉庫エリアに移転したようよぉ。荷物をスグに詰め込める場所という事で選んだようねぇ」


「倉庫エリアでありますか? あそこは海外からの物資を保管、貯蔵しておく場所でありますが、倉庫は大きくいくつもあるので探すのは大変そうでありますな……」


「心配いらないわぁ。どの倉庫かもちゃんと聞き出したものぉ。第八倉庫こそが敵さんの巣窟ってねぇ」


 そこまで情報を吸い出せたのは流石でり、タチアナこそ警官になって取り調べでもすればいいのではとミューアは心で思った。


「よくまぁイロイロとシュメリーに喋らせたものだな」


「生物というのは快楽には抗えないものよぉ。ふふ、今頃シュメリーちゃんは骨抜きになっていて、暫く動けないでしょうねぇ」


「ある意味で怖いよオマエは」


 同時に強力な味方であると再認識させられる。これはタチアナのハートを掴んだアリシアの功績だ。


「では倉庫エリアへと行きましょう。絶対に敵を逃すわけにはいきません」


 力強いアリシアの言葉に皆が頷き、湾岸方向へと移動を開始するのであった。






 海からの爽やかな潮風を肌で感じつつ、しかし緊張感を伴いながらアリシア一行は進んで行く。

 港には多数の船舶が停泊し、貨物の積み込みなどが忙しく行われているが、その中に悪意を持った人攫い集団もいるのかもしれない。

 とはいえ、積荷を一つ一つ調査する時間は惜しく、タチアナが手に入れた情報通りに倉庫エリアに向かうのがベストだろう。


「この港の奥、あそこが倉庫エリアであります」


 ミリトアの示す先、大型倉庫がいくつも立ち並ぶ区画が見えてきた。外観は何の変哲も無い建造物であり、まさかブルーデプスが潜んでいるなど想像できはしない。


「第八倉庫だったな?」


「そうよぉ。ここからは慎重に行ったほうがいいわねぇ」


「そうだな。アタシ達は港の労働者には見えないし」


 倉庫エリアに侵入を果たし、物陰に身を潜めながら目標の第八倉庫を探す。幸いにも立て看板に大きく振り分けられた番号が記されているので、発見するのは難しい事ではなかった。


「アレですかね?」


「のようだな。周囲に人はいないか」


 見張りのような人間は確認できない。これなら近づいて内部の様子を確認できる。


「ここから先はどうなるか分からない。準備はいいな?」


「はい。いつでも」


 アリシアの眼差しを受けながらミューアは頷き、忍び足で第八倉庫に接近して窓から中を覗きこむ。すると、木箱などの物資の他に、生活感のある日用品や家具類を確認できた。


「ココに住んでいるヤツがいる。あの奥に誰かが…?」


 倉庫の奥に動く影がある。それは数人の人間のものであり、ミューア達は注視して観察を続ける。


「あの青いバンダナ…全員が巻いている。こりゃブルーデプスに違いないな」


「そうですね。やはり敵の本拠地で確かなようです」


「数は十人もいない…思ったより少ないな」


「私達ならやれますね?」


「当然!」


 それぞれが武器を抜き、裏口へ回る。正面突破が簡単だが、不意打ちで優位を取る方が生存率も上がるというものだ。

 関係者用の出入り口に手をかけ、静かにノブを回す。


「アリシアの武器は目立つ。暗殺に向いているのはアタシとタチアナだから、二人で先行して敵を叩く」


「わたくしはアリシアちゃんとのペアがいいのだけれどぉ?」


「うるせぇ、行くぞ」


 ドアを開けて倉庫内に足を踏み入れ、ミューアとタチアナが先陣を切る。この二人ならば暗殺も大立ち回りも存分にこなせるだろう。

 

   -続く-

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