お色気作戦!?
シーカールの地下に潜入したアリシア達だったが、既にブルーデプスは本拠地を移転した後であった。ミューアやミリトアはココが敵地と思っていたため、落胆気味に肩を落としている
しかし無駄足ではなく、そこで出会ったアッシーワという女性が食料と引き換えに情報を提供してくれる事になった。アッシーワは閉鎖されたこの地下施設に無断で住居を構えており、以前はブルーデプスとも交流があったようだ。
「あれは引っ越しの当日のことなんだけど、ブルーデプスのメンバーと共にココにいるハズの無い人物がいたんだよ」
「それは誰だ?」
「シーカール治安部門の統括さんだ。警官隊の総指揮官でもある女さ。前に街のパレードで演説しているのを見ていたから一発で分かったし、間違いない」
本来であれば犯罪組織を取り締まるべき警官隊のまとめ役が引っ越しに立ち会っていたという。それを聞いたミリトアは複雑そうに眉をひそめつつ、やはり当局の上層部は敵と繋がっていたのだという確信を得た。
「統括の名前はシュメリーというであります。普段はシーカール庁舎内にて警官隊の指揮を行っているであります」
「ふーん。ソイツならブルーデプスの引っ越し先も知っているだろうな」
「そうみたいであります。本官は本当に残念であります……」
しかし、これで次の一手は決まった。警官隊のボスであるシュメリーを問い詰めればブルーデプスに近づく事が出来るのだ。
「ですが、訊いても簡単には教えてくれなさそうですね……」
「だな。そういう明らかな悪役ってのは往生際も悪いだろうし、ヘタ打ってアタシ達がお尋ね者になっても困るし。ま、アタシはダークエルフだから追われる身になってもオカシクない存在だけどな」
自虐気味に言いつつも、ミューアの言う通りで口を割らせるのは難しいだろう。自分の保身のため、きっと死んでも罪を自白するようなマネはしない。
「ミリトアなら近づいて聞き出せないか?」
「無茶であります。ただでさえブルーデプスの事は禁句でありますから、質問なんてしたら本官が消されてしまうであります」
「打つ手は無いか…?」
こうなれば正面切って突撃を敢行するしかないかとミューアは覚悟を決めるが、タチアナが自信満々な雰囲気でヒラリと舞うように皆の前に立つ。
「ねぇ、ミリトアちゃん。そのシュメリーという方は女性なのよねぇ?」
「ハイであります。若くして治安部門の統括になったと街でも話題の方で、美人さんなこともあって人気は高いであります」
「うふふふふふ。であれば、わたくしの出番ねぇ」
何をどうしてタチアナの出番になるのか一同は理解できなかったが、親切にも説明を始める。
「わたくしは夜の女王とも呼ばれたダークエルフなのよぉ。最強のテクニックを持つわたくしなら堕とせないオンナのコはいないわぁ」
「オマエはナニを言っているんだ…?」
「つまりねぇ、シュメリーちゃんから話を聞き出すのなら、わたくしが抱いてしまえばいいのよぉ。そうすれば極上の快楽に抗えず、自白剤でも飲まされたかのようにペラペラと喋るわねぇ」
「……オマエのスキルを頼らざるを得ないか」
まさかのタチアナを使う作戦でいくしかないようだ。確かに普通では対処できない相手には奇策で挑む価値はある。
「シュメリーちゃんにはドコで会えるのかしらぁ?」
「統括殿は退勤後に歓楽街へと酒を呑みにいくのが楽しみらしいであります。なので酒場とかバーを探せば会えるかもしれないであります」
「おあつらえ向きねぇ。まるで、わたくしをアリシアちゃん達が探していた時の再現よねぇ」
ディガーマの街にて、アリシアとミューアはタチアナを捜索するために酒場一帯を巡った。まさに、その時と似たような状況であるが、しかし今はある意味で頼りがいのある存在がいる。
「夜の歓楽街など、わたくしのためにあるフィールドよぉ。今晩中にケリを付けてくるからぁ、明日の朝には良い報告が出来ると思うわぁ」
「ったく、自信があるのは結構だけど、やり過ぎるなよ」
「あらぁ、ヤリ過ぎなんてないのよぉ。いつだって全力全開で相手を満足させるのがわたくしの流儀だものぉ」
「ああそうかい。とりあえず歓楽街に行くとするか」
モグモグと食べ物を口にしているアッシーワに別れを告げ、ミューア達は地下施設を後にした。
目的地である歓楽街は街の中心部近くに存在し、多くの人々が訪れて繁盛している。日が暮れて星が瞬く夜ともなれば、尚更に人手は多かった。
ここでシュメリーを探すのは骨が折れそうに思えたが、ミリトアがアッと声を上げて指を差す。
「あの人であります! 統括殿はあの人であります!」
それはシックなスーツに身を包んだ女性であった。年齢は三十台といったところで、いかにも優秀そうなオンナという雰囲気を醸し出している。
「いいわぁ。ああいう一見するとカタブツに見えるオンナのコって、本性は実は淫乱だったりするのよぉ。それを引き出し、欲求のままに乱れさせるのって楽しいのよねぇ」
「あンな、これは重大な任務なんだぞ。お遊び気分じゃ困るんだからな」
「分かっているわぁ。わたくしに任せなさいなぁ」
ウインクをキメるタチアナの視線の先、シュメリーは一軒の酒場へと入っていく。かなり庶民的な店であるが、むしろ高級店よりも雑多な店舗の方が落ち着けるのかもしれない。
「タチアナさん、頑張ってくださいね!」
「あぁ……アリシアちゃんに期待されるなんて最高に興奮するわぁ。アリシアちゃんを抱けるなら、もっと興奮するんだけどねぇ」
スッとアリシアに伸ばした手はミューアに弾かれ、サッサと行けと目線で訴えられる。
タチアナはハイハイと頷き、シュメリーと同じ店へと踏み込んで行く。
酒場はそれなりの規模で、店内は盛況でほとんどの席が埋まっている。これでは偶然を装って隣に座るなど不可能だ。
だが、タチアナには踊り子という側面がある。
「ねぇ、アナタがこの店の店主よねぇ?」
厨房の近くにいた店長と思わしき人物に声を掛けるタチアナ。この店でステージを開催し、ファンサービスとして客席を回っている時にシュメリーに話しかける算段のようだ。
「ええ、そうですが。って、アナタはタチアナさんじゃありませんか!?」
「あらぁ、わたくしを知っているのぉ?」
「知っていますとも! 前に私がディガーマを訪れた時、アナタの踊る姿を観たのです。いやぁ、あの舞いは凄かった」
タチアナは長年踊り子をしていることもあり、その知名度は高く、この店の店主も前にタチアナの舞いを観たことがあるらしい。
「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわねぇ。たまたまシーカールに立ち寄ったのだけれど、ここでわたくしのステージを開催したいと思ってねぇ」
「おお! 是非お願いしますよ! タチアナさんのステージはむしろコチラから頼みたいほどですから」
「では、やらせて頂くわぁ」
店の奥、開いているスペースへとタチアナが向かう。その姿を見た者達は、次々と目を奪われていった。
「なんだ、あの美人なエルフは?」
「もしかしてタチアナとかいう伝説の踊り子じゃないかしら」
アリシアやミューアの前ではただの変人にしか思えないタチアナであるも、他の人々からすれば超絶美人でグラマラスなエルフなのだ。身に纏う踊り子衣装の露出度も相まって、あらゆる者達を釘付けにしてしまう魅力がある。
そして、それはシュメリーも例外ではなかった。
「ほう、見知らぬエルフだが…素晴らしい美の塊だ」
タチアナは一同の注目を浴びる中で滑らかな舞いを始める。あらゆる踊り子や舞子を上回る煌びやかさと淫靡さを体現し、独特な雰囲気を醸し出す彼女は店内の全てを自らの支配下へと置く。もはや彼女以外を脳が認識することが出来ず、本来は酒店なのだが誰も酒を口にしない。
そうして数分に及ぶタチアナのステージは終了し、拍手と歓声に優しい笑顔で応対しながら標的であるシュメリーへと近づいていく。
「どうだったかしらぁ? わたくしの舞いは中々のモノだったでしょう?」
「ああ、とても良かった。オマエは何者だ?」
「わたくしはタチアナ、踊り子よぉ。前にもシーカールを訪れた事があったけれどぉ、アレは数十年前の話だから若いアナタが知らなくても仕方ないわねぇ」
タチアナは様々な街を巡っており、昔にもシーカールで芸を披露した事があるようだ。彼女にとってはついこの前の事のように記憶しているが、実際には数十年経っていてシュメリーが産まれる以前の話だった。
「ねぇ、この後の予定はあるかしらぁ?」
「いや、別に無いが…?」
「ならぁ、わたくしとステキな夜を過ごしましょうよぉ。ふふ、日頃の疲れを忘れるような極上の時間を提供してあげるわぁ」
「たまには普通とは違う刺激を味わうのも悪くないな。今夜はオマエに付き合ってやる」
誘いにシュメリーは乗ってきた。こうなればタチアナの独断場であり、アリシアから託された任務を遂行するのは勿論のこと、存分に夜を楽しもうと気合を入れるのであった。
-続く-




