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人攫い集団ブルーデプス

 湾岸都市に向かう途中の山道にて、アリシアは人攫いを自称する人間族に取り囲まれてしまった。今はトイレのために一人行動をしていたため、ミューアとタチアナは傍にはいない。

 魔弓を装備しながらも敵に追い詰めれた状況に冷や汗をかく。


「くっ、どうすれば…!」


「この前捕まえたエルフと合せて、オマエと後二人の仲間も売ればアタシ達は大金持ちだ。おとなしく降参しな!」


「そんなわけにはいきません! というより、この前捕まえたエルフと言いましたか?」


「ああ言った。つい最近にも小柄なエルフを偶然にも捕まえてね。へっへっへ、アタイ達は運がいい」


 目の前の人攫いは舌なめずりをした後、短剣を構えてアリシアに突撃した。いよいよ実力行使でアリシアをねじ伏せようとしてきたのだ。


「近接戦は苦手なのですが…!」


 アリシアのメインウエポンは魔弓であり、これは近距離での戦いには不向きである。一応はミューアから譲り受けたナイフを持ってはいるが、使う機会がほとんど無かった上に訓練もしていない。これでは実戦に対応するのは不可能だ。

 回避に専念するアリシアは、迫ってきた人攫いの攻撃を避ける。集中して敵の動きを見れば、ある程度は見切る事自体は出来るようになっていた。


「なんとか突破しないと!」


 包囲されていてはミューアのもとへと逃走するのも困難だ。一人の攻撃を躱したところで、他の方向からも襲い掛かってくる。


「どうにもなりませんね……こうなれば、私に出来ることは…!」


 黄金の魔弓に魔力を流して矢を形成する。そして勢いよく解き放ったのだが、矢が飛翔する先には敵は一人もいなかった。

 人攫い達は単にアリシアの手元が狂ったのだとしか思わず、あまり強くない楽勝な相手だと侮って余裕の表情を浮かべている。


 だが、アリシアの真の狙いは別にあった。




「アリシアは遅いな……」


 キャンプ地にて待つミューアは、退屈そうにアクビをしながらアリシアの帰りを待っていた。お花摘みに行くと場を離れてから少々時間が経っており、次第に不安が募っていく。


「乙女のおトイレ事情に首を突っ込むのはよくないわよぉ」


「そーじゃなくてだな、単純に心配なんだよ。こんな暗い山ん中で迷子にでもなられたら大変だろ」


「それはそうねぇ。なら、わたくしが様子を見てこようかしらぁ」


「オマエが行ったらトンデモないコトになりそうだからアタシが行く」


 ミューアは立ち上がってアリシアの後を追跡しようとしたのだが、直後に魔力を感じ取ってハッとして立ち止まる。


「なんだ…! コッチに強い魔力が向かってくるのか!?」


 ミューアの直感は当たっていた。目の前の木々を縫うようにして光る何かが猛スピードで飛翔しており、その光がミューア達の目の前で上昇をかけて空にパッと散る。


「今のはアリシアの矢のように見えた。いや間違いない」


「あらぁ。どうしてアリシアちゃんは矢なんかを?」


「何かあったんだ! これはアリシアがアタシ達にピンチを伝えるために飛ばした合図みたいなモンだろうよ!」


 このミューアの推測は正しく、アリシアは無駄に矢を射ったのではない。逃走して合流するのは不可能だと判断し、ならばと矢を信号弾代わりにしてミューア達に異常を知らせたのだ。トイレに行ったハズのアリシアが矢を使ったとなれば、何かしらの事態が起きたのだと判断してくれるだろうと懸けたのである。

 そして、アリシアは懸けに勝った。ミューアは矢が飛んで来たことの意図を理解し、タチアナと共に駆けだす。




 一方、矢のコントロールに集中していたアリシアは地面に押さえつけられて捕まってしまった。魔弓は取り上げられて、手首は縄で縛られて自由を奪われる。


「よーし、まずは一人。後二人も奇襲して捕まえるよ」


 人攫いはアリシアを確保して、残るミューアとタチアナも襲うために移動を開始しようとした。

 しかし、急速に接近する足音が聞こえて警戒を強めて立ち止まる。


「なんだ? 近づいてくるヤツがいる」


 武器を構えて迎撃の体勢を整える人攫い達。その内の一人はアリシアを踏みつけて逃がさないように力を籠めている。

 

「お前らは残りのエルフか」


 足音は徐々に減速し、木々の暗がりからその姿を現す。長い耳が特徴的なエルフ族そのものであり、アリシアの要請を受けて参上したミューアとタチアナで間違いなかった。


「おいテメェら…アリシアに手を出しやがったな…!」


「許せないわねぇ。アリシアちゃんを連れ去ろうというのかしらぁ」


 鬼、もしくは悪魔のような形相をした二人は殺気と共に相手を威圧する。アリシアが苦しそうに呻いているのを見て、もはや正気を保つなど不可能であった。


「アイツらは青いバンダナを巻いているな。ブルーデプスとかいう人攫い連中の特徴に似ている」


「わたくしも聞いたことがあるわぁ。ブルーデプスはシーカールに拠点を置いていて、所有する商船に捕まえた人間を乗せて海外に売り払うとねぇ」


「ゴミカスと呼ぶに相応しい所業だな。てことは、アリシアも同じように売ろうとしていたわけか」


 悪名高いブルーデプスという組織は、アリシア達がこれから向かおうとしていた湾岸都市シーカールにアジトを持ち、連れ去った人々を船に乗せて海外に売却しているのだ。

 ミューアとタチアナはブルーデプスの噂を耳にしたことがあり、まさに目の前の集団がそのメンバーだと確信する。


「コッチはアンタらの仲間のエルフを人質に使えるんだよ。おとなしく降伏するんだね」


「アリシアちゃんを盾として使おうなんて本当に命知らずなヤツらね。わたくし自ら殺してあげるわ」


 タチアナの怒りのボルテージはますます上昇し、普段のフワフワとした口調ではなく、突き刺さるような冷たくトゲトゲしいものへと変貌していた。このようにタチアナが口調を変える程に機嫌が悪くなるのはレアパターンであり、それほどアリシアを大切に想っているのだろう。


「アリシアちゃん、そのまま伏せていてちょうだいね」


 アリシアはタチアナの言葉に頷く。どちらにせよ地面にうつ伏せで抑え込まれている状態では動けないので、もうミューアとタチアナに全てを任せるしかない。


「このわたくし、タチアナ・レガチを敵に回した事を後悔するといいわ」


 低く呟いたタチアナは握っていたナイフを投げつけた。

 ヒュンと空気を裂きながら真っすぐに飛んでいくナイフ。その軌道はアリシアを押さえつけるブルーデプスのメンバーに向かっており、額に直撃して分厚い頭蓋骨を貫通し、鋭い刃が脳を裂く。

 死神の息がかかったような殺意に溢れる一撃で一人を倒したタチアナは、次なるターゲットにもナイフを投げつける。


「アリシアの救出はアタシに任せろ!」


 タチアナの最初の攻撃の時点でミューアは突撃を敢行していて、立ちはだかった敵を躱しながらアリシアを抱え起こすことに成功した。


「もう大丈夫だからな」


 斬りかかってきたブルーデプスメンバーを踏み台にしてジャンプ。そのままタチアナと合流してアリシアを降ろした。


「アリシアは休んでいて。コイツらはアタシとタチアナで片付ける」


 人質となっていたアリシアを助け出した今、もうミューアとタチアナが遠慮をする必要はない。好きなだけ暴れまわり蹂躙するだけだ。


「タチアナ、準備はいいな? ここからは本気でいくぞ」


「ふふ、ミューアちゃんに頼られる日が来るなんてねぇ」


「言ってる場合か。アリシアを守るためなら何だって使うという意思表示みたいなもんだ」


「結構よぉ。わたくしもアリシアちゃんのためなら何だってする覚悟だものぉ」


 ある意味で好敵手の二人は同じ目的のために団結する。それは、アリシアという存在を身を挺してでも守りたいという強固な決意だ。


「チッ、ナメるんじゃないよ! エルフだからって勝てると思うな!」


 エルフ族が人間族よりも身体能力が高いというのは定説であるが、だからといって怖気づいたりはしない。何故なら、エルフ三人に対して六人のブルーデプスという数の差で有利だからだ。戦いとは基本的に物量差が勝敗を決定づけるものであり、倍の人数であれば負ける道理は無いと余裕を持っている。

 しかし、戦争は予想通りに進むものではない。


「ブッ殺す…!」


 力一杯地面を蹴ったミューアは太い木の枝に飛び乗り、そこから急降下して敵の一人を頭部から両断する。もともとエルフは自然界で生きてきた種族であり、軽い身のこなしは並みの人間では追従できはしないのだ。


「次はテメェだ!」


 すぐ近くにいたブルーデプスメンバーの胴体を切断し、短時間の間に二人を撃破してみせる。


「タチアナだけじゃねぇ…このミューア・イェーガーをキレさせた事も後悔させてやる!」


 睨みを効かせるミューアは更に斬撃を繰り出す。

 人攫い集団ブルーデプスは、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったとようやく認識を改めるが、それに気がつくには少々遅かったようだ。


   -続く-

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