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新たなる仲間、アリシアを守護せし者

 ディガーマから旅立とうとしていたアリシアとミューア。その彼女達の前に昨日倒したハズのタチアナが現れ、声をかけてきたのである。

 

「オマエ、アタシ達をストーキングしてきたのか?」


「違うわよぉ。昨日、アナタが戦いの後で言っていたじゃないのぉ。この南門から王都の方角を目指すってねぇ」


「アリシアとの会話を聞いていたのか。いや、それも立派なストーキングでは…?」


 戦闘後、ミューアは翌日の予定をアリシアに話していた。その時、タチアナは崩れた別荘の下敷きになっていたのだが、地獄耳なのか全部聞いていたのである。


「で、ここで待っていたんか。目的はなんだ? リベンジか?」


「違うわよぉ。もうアナタと戦う気はないものぉ」


「じゃあなんだ? まさかアリシアを置いていけとか言う気じゃないだろうな」


「それもアリねぇ。まあ冗談は置いておいて、わたくしが言いたいのはアナタ達に同行させて欲しいというコトよぉ」


「なんとっ!?」


 予想を超えてビックリな発言である。

 アリシアをミューアから奪って手籠めにしようとした者がタチアナで、その彼女が旅に同行したいと願うのは何故なのか。


「どういう風の吹き回しだ?」


「ミューアちゃんの言っていたエルフ村が襲われて焼失は本当なのぉ?」


「間違いない。アタシの目の前で村は焼失して、アリシアは数少ない生存者だ」


「わたくしもねぇ、ダークエルフとして追放された一人よぉ。でもねぇ、村にはママが住んでいたのよぉ……ママが生きているかは分からないけれど、ミューアちゃんの言うピオニエーレが何故村を焼き払ったのかとか知りたいのよぉ」


 タチアナの母親が村には住んでいたようだ。その母親の安否など確かめようもないが、娘として真実を知りたいと思うのは当然のことであろう。


「けどアンタを信用しろと言われてもね。沢山の女の子をナンパして堕落させてきたようなヤツをさ」


「わたくしが手を出したコ達はチョット特殊な性癖に目覚めただけよぉ。ちゃんと社会復帰できるように手加減してあげたしぃ」


「それでもロクでもないのは事実だろう。どうする、アリシア?」


 一人で決めるのもなと、ミューアはアリシアにも意見を伺う。今回の一番の被害者はアリシアなので、個人的にはタチアナの参戦は反対であるが彼女の意思を確認したかったのだ。


「うーん……確かにタチアナさんは良くない事をしてきたようですし、反省するべき点は多々あるのだと思います。ですが完全な悪人には見えないのです。例えばピオニエーレからは邪気を感じましたが、タチアナさんにそうした感覚は無いのではと」


 アリシアの目には、タチアナは純粋悪として映っていないらしい。


「さすがアリシアちゃんねぇ。見る目があるわぁ」


 詳細な年齢は不明であるも、年上お姉さん感のあるタチアナは子供のように素直に喜んでいる。反省を促されながらも、一応は完全悪ではないと判断された事が嬉しいようだ。


「いいのか? アイツはアリシアをその…エロい目で見ているようなヤツだぞ」


「ま、まぁ……私の貞操はミューアさんに守っていただければと……」


「任せろ、イザとなればアタシが直接仕留めてやるから」


 かくいうミューアも大概で、時折アリシアに邪な感情を抱く場面がある。それを棚に上げる形になりつつも、ミューアは大きく頷いてアリシアの貞操を守る事を約束するのだった。


「アリシアの許可が出たからアンタの同行を特別に認めてやろう。ただし! アリシアに触れたり、二人きりになるのは禁止だ」


「ええーっ! 生殺しじゃないのぉ……」


「いや当たり前の処置だろ」


 タチアナとアリシアを二人きりにするなど、猛獣と子猫を同じ檻に入れるのと同義だ。速攻で喰い散らかされてしまう。


「タチアナさん、悪さはしないと約束してくださいね」


「勿論よぉ。エルフ村焼失の黒幕をとっちめたいのも事実だけどぉ、単純にわたくしはアリシアちゃんに心惹かれたから、アリシアちゃんを守りたくて一緒に行きたいと思ったのぉ。そのアリシアちゃんに嫌われたくないものねぇ」


「そんなにも私を…?」


「一目惚れという経験を始めてしたわぁ。なので昨日のコトは謝らせてほしいの」


 そう言うと、なんとタチアナは綺麗な土下座をしてみせた。有名踊り子である彼女が地面に頭を付けて謝罪の体勢に入るなど、よほどの覚悟であるのは間違いない。


「罪滅ぼしとなるかは分からない。けれど、アナタの矛となり盾となって戦うと誓うわ」


 飄々とした態度を取ってきたタチアナは、ここにきて至極真面目な騎士のように誓いを立てる。これが演技ではなく、彼女の本心であるとアリシアは見抜いていた。


「分かりました。じゃあ一緒に行きましょう」


 土下座を崩さないタチアナに対し、アリシアは手を差し出す。その姿が女神のようにも見えて、ミューアはアリシアの慈悲深さに脱帽する気持ちであった。


「ありがとう、アリシアちゃん。わたくしはコレでも結構強いし役に立つわよぉ」


「ふん。まあアタシ程の強さではないけどな」


「あらぁ、そうかしらぁ? 別荘ではまだ本気を出してなかったけどねぇ」


「んだと…? アタシだって本気じゃなかったし? あんくらい準備運動のうちだし」


「じゃあ、わたくしの本気を試してみるかしらぁ?」


「おう、望むところだ!」


 バチバチのライバル関係のような二人は、今にも刃を交えそうな勢いだ。

 そんな二人の間に割って入ったアリシアが両手を広げてストップをかける。


「あわわ、待ってください! 私達は仲間になったのですから、喧嘩している場合ではありません!」


 と、アリシアに言われれば武器を鞘に納めざるを得ない。このパーティはアリシアを中核として成り立っている状態であり、今後もアリシアが調停しつつ導くしかないのだろう。


「私達の討つべき敵はピオニエーレです。さぁ、王都方面へと向かいましょう」


 門を指さして先導するアリシアに続き、二人のダークエルフが守護者のようにくっついていく。ある意味でアリシアは姫のような存在となったのかもしれない。






 ディガーマでは一悶着あったが、タチアナという仲間を加えてアリシアは王都のある方角へと進んで行く。街をひとたび出れば、魔物の脅威など様々な危険が待ち受けているわけだが今は平穏そのものであった。

 砂の多い荒野を歩いている中、アリシアはタチアナのことで気になっている事を質問してみる。


「あの、失礼ですがタチアナさんは何歳なのでしょう? オトナのお姉さんという雰囲気がありますが……」


「あらあらぁ、わたくしに興味を持ってくれて嬉しいわぁ。わたくしは百三十歳なのよぉ」


 エルフ族の寿命は五百歳とされており、これは人間で換算するなら百歳程となる。つまり五倍近い寿命を持つわけで、百三十歳と言っても人間の二十六歳なのだ。タチアナの容姿も丁度それくらいで、おっとりとしたお姉さんという彼女への印象は多くの人が抱くものだろう。


「エルフはヒト族の仲間だけど老化が遅いからぁ、一見しただけでは正確な年齢は分からないものねぇ」


 人間であれば見た目から年齢を推測するのも容易だ。しかし、エルフ族は二十歳を超えた時点から老化しにくくなるため、見た目だけでは分からない。


「わたくしが村を追放されてから何十年が経過したか忘れてしまったわぁ。ダークエルフとなってからは旅に出て様々な人間族の街を巡ったものよぉ」


「そんなに昔のコトなのですか?」


「ええ。村で暮らしていた時間よりも外にいる時間の方が長くなってしまったわぁ。でも別に楽しかったからいいのよぉ。沢山の可愛いオンナのコと出会ってきたしぃ、踊り子としての仕事はタイクツしなかったものぉ」


「あれだけ綺麗に踊れるのですから、相当な努力も積まれたんですね」


「ふふっ、努力だなんて大したものではないわよぉ。まっ、わたくしの才能が開花した結果でしょうねぇ」


 タチアナの言葉は自信過剰というわけではない。実際に誰もが見惚れるような、しなやか且つ美しい踊りはセンスや才能あってこそだろう。努力の先、一握りの才覚ある者だけが辿り着けるゾーンに彼女は到達している。

 

「確かに踊り子という職はタチアナさんには天職なのでしょうね」


「アリシアちゃんのために特別ステージを開いてあげるわぁ。まぁこのように好き勝手生きてきたわたくしだけど、故郷の事を気にしていなかったわけではないのよぉ」


「お母さまがいらっしゃったんですよね…?」


「ママは厳しくも優しいエルフだったわぁ……そのママと、いつかまた一緒に暮らせる日が来たらなぁと思っていたんだけどねぇ……」


 タチアナは過去を追想するように空を見上げた。その切なさの現れた表情は、いつもの余裕に満ち溢れたタチアナと正反対であるが、他者を思いやる気持ちを持っている証である。

 ミューアですらも口を挟む事なく話を聞いており、気の毒だなと一応は同情するのであった。


     -続く-

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