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試される理性! 媚薬に悶える清純エルフとダークエルフ

 ミューアは作戦通りにタチアナを塔まで誘導することに成功し、後はアリシアの大技を待つだけだ。塔の崩壊に巻き込んでタチアナを仕留める算段なのである。

 そんな中で、フと疑問に思ったことをミューアは口にした。


「一つ訊いておきたいんだが。テメェは知っているかよ…ピオニエーレというダークエルフをよ」


「いや知らないわぁ。どちら様なのかしらぁ?」


 どうやら本当に知らないようで、しらばっくれているワケではなく純粋に訊き返してきたようだ。


「アタシとアリシアが追う宿敵だ。ヤツはエルフ村を焼き払った黒幕だからな」


「エルフ村を…!?」


 ミューアの言葉にタチアナは明らかに動揺していた。彼女もダークエルフという追放されし存在であるが、村はただ一つの故郷なのだ。その故郷には家族や友人などの大切なエルフもいたであろうし、感情が揺さぶられても当然ではある。

 それに、この反応はタチアナにも心があることを示していた。彼女がロクでもないダークエルフなのは間違いない事実であるも、マトモな感性が残っているのだ。


「まあいいさ。テメェがピオニエーレを知らないならな。どっちにせよ倒すのみだ」


 ショックを受けて深く考え込むようにしているタチアナは、ミューアの話を聞いていなかった。既に闘気も失われ、もはやタチアナに交戦の意思は無いように見える。

 とはいえ、それで止まるミューアではない。


「アリシアの攻撃がくるっ…!」


 展望フロアには外を眺めるために幾つかの窓が備え付けられている。その窓から何かピカッと光る輝きが見えて、アリシアが魔弓で大技シューティングスターを準備しているのだと理解するのに時間は必要ない。

 来たるべき塔への攻撃に備え、ミューアは足に力を籠めながら待機する。

 直後、


「な、なにっ!?」


 展望フロアのすぐ下を閃光が貫いた。ドカンと爆発音が響き渡り、石造りの塔の基礎が破壊されて崩れ始める。


「よくやってくれた、アリシア! 後は任せてもらう!」


 床が粉々になって足場が無くなるが、ミューアはまるでサーカスでもするように破片から破片へと飛び移りタチアナに迫った。


「じゃあな!」


 そして、タチアナを蹴り飛ばして瓦礫の中へと叩き落とす。回避も出来ない状況での足蹴りを防御もできず、粉塵へと踊り子エルフの姿は消えていった。

 これで強敵を撃破できたが、脱出できなければ完全成功とはいえない。ミューアはそのまま大きくジャンプし、急速に落下する外壁を飛び越えて城の屋上へと着地した。


「見事に壊れたな……」


 城の中央部にそびえていた塔は跡形も無く失われ、連鎖するように城のアチコチがボロボロになっていく。もう別荘としての価値も消滅したと言えるだろう。

 陥没した城の中央を見下ろしていると、背後に気配を感じて振り返る。重い身体を引きずりながらもアリシアがミューアを迎えに来てくれたのだ。


「勝ったんですね」


「アリシアのおかげさ。アイツは中々に手強いヤツだったから、アタシでも真っ向勝負ではどうなっていたか分からない」


 ピオニエーレにも匹敵する強さを感じたのだ。戦闘レベルが高いミューアですら苦戦したわけで、もしアリシアが一対一で対峙しても勝てる相手ではなかっただろう。

 もっとも、タチアナはアリシアを本気で叩き潰すような事はしなかったと思われるが。


「これで懲りたろうな。ま、生きていればの話だけど」


 生存していたら軌跡だ。塔の残骸に呑み込まれて消えゆくのを確かに目撃したわけで、普通は潰れて死んでいるハズだ。


「今日は宿へ帰ろう。で、明日になったら南門から出て次の街を目指す」


「まだ王都は先なのですね?」


「うん、まだ距離はあるねぇ。天使のように空でも飛べればスグに着くんだけどね」


 そういう点で言えばピオニエーレが羨ましい限りである。彼女は飛行型の魔物をコントロールして自在に空を駆け巡る事が可能で、今頃はエルフの雷を探してビロウレイ王国のアチコチを探索しているに違いない。

 アリシアとミューアは煙の立ち昇るタチアナの別荘を後にし、宿泊している宿へと戻って行くのであった。






 宿の部屋に帰ったアリシアはフラフラと椅子に腰かける。タチアナに盛られた媚薬の効果がまだ切れていないようで、蒸気した顔は真っ赤なままだ。


「体調が悪いのか? ヤツの別荘にいる時からフラついていたけど」


「はいぃ…実はタチアナさんに媚薬入りクッキーを食べさせられてしまって……」


「!?」


 なんとけしからん事をしたのだとミューアは怒りに燃えるが、倒した敵にキレても仕方がない。


「ふみゅー…もっと頭がぼーっとしてきましたぁ」


 薬の効果はむしろ強まってきているのか、アリシアの思考回路は更に酩酊したような状態で呂律も次第に怪しくなってくる。


「汗が凄いじゃないか。そんなに暑いのか」


 疼きと火照りでアリシアの全身から汗が噴き出していた。そんなでは服を着ているのも不快だろうし、拭いてあげなければ布団に横になることも出来ない。

 ミューアは手荷物から小さめの布製タオルを引っ張り出し、アリシアに手渡そうとする。


「ふいてくれませんかぁ? えへへぇ」


 甘える子猫のようにアリシアは上目遣いし、服を大胆にも脱ぎ去って真っ裸になってしまった。二人きりだからいいものの、これが外だったら大事件になりかねない。

 ミューアはドキンと心臓が飛び出しそうになりながらも、必死に理性をフルドライブさせる。ここでアリシアを押し倒そうものならタチアナと同類になってしまう。


「わ、わかった。ほれ、じゃあ背中を……」


 小さく頷くアリシアは背を向けて軽く猫背になる。

 そして、ミューアがタオルを肌の上に滑らせるが、


「あっ……」


 と上ずった嬌声にも似た声を出してアリシアはビクッと体を震わせる。どこもかしこも鋭敏になってしまっていて、背中であっても甘い感覚が生じているようだ。


「急に喘がれるとアタシも…その……」


「ふみゅう…すっごくキモチイイでふよぉ」


「これもう成人向けの店みたいだ……」


 いわゆる風俗店での一幕のような状態にミューアはクラクラとして、一度タオルをアリシアから離した。


「うぅ、もうおわりれすかぁ? もっとしてくださいよぉ」


「なんとか正気に戻せないものか。この症状にはエルフの秘薬も効かないだろうしなぁ」


 試してみなければ分からないが、こんな事に秘薬を使うのも勿体ない気がしてならない。とはいえ、このままだと本当にミューアの理性がフッ飛んでしまいそうだった。


「もっとぉ……前もしていいれすからぁ」


「ちょい待ち! こんなんで前はマズいだろ!」


 背中であの反応なのだ。もっとビンカンな神経のある部位が多い体の前面部分など触れようものなら、更に成人向けになってしまう。


「ど、どうすれば!?」


 と、ミューアが珍しく焦っていると、アリシアはぐてっともたれ掛かってくる。いよいよアリシアが派手に要求してきたのかと思ったが、そうではなかった。


「寝た!?」


 すぴーっと寝息を立てるアリシア。疲れもあったためか眠ってしまったようだ。


「ふぅ。なんていうか、これまでにない緊急事態を乗り切れた気がする」


 単に強敵と戦うのとは違い、完全に翻弄されていたミューアは一息つく。もしアリシアが眠りにつかなかったら、最後はどうなっていたかは想像も出来ない。


「けど服を着せてあげないと風邪を引いちゃうよな……」


 産まれたての姿で寝ているわけで、服も無しでは風邪を引いてしまう。それなら秘薬でも治せるとはいえ、放ってはおけない。


「さすがに明日までには症状も良くなっているよな?」


 タチアナ特製の媚薬の性能について詳細は不明だ。もしかしたら、明日もアリシアはオカシクなったままかもしれない。

 そうならない事を祈りつつ、アリシアをベッドに運んでから自分も眠りに就く。






 翌日、アリシアとミューアの姿は街の南門の近くにあった。ここから南進し、王都方面へと向かうのである。


「体調は本当に大丈夫なんだな?」


「はい。昨日はご迷惑をおかけしました。宿に帰ってからは記憶がアヤフヤで」


 媚薬の効き目が強くなってきた頃からアリシアの記憶は飛んでいるらしい。つまり、裸でミューアに汗を拭くよう頼んだ時のコトは詳しくは憶えていないのだ。

 ある意味ホッとするミューアだが、何故か惜しいとも思う気持ちもある。


「でも何故か、凄くキモチイイ感覚があったような……記憶も曖昧なのにそのような感覚を忘れていないなんて、もしかして私は欲求不満なんでしょうか!?」


「し、知らないよ!」


 どんな質問だよとミューアはあたふたしつつ、首をブンブンと振っている。

 そんな二人に、一つの影がゆらりと近づく。


「あらぁ、アリシアちゃんってば欲求不満なのねぇ。なら、わたくしにカラダを預けてくれればよかったのにぃ」


 ほんわかとした明るい声を掛けられた二人だが、ギョッとして警戒態勢を取った。それもそのはずで、声の主である女性に見覚えがあったからだ。


「オマエはタチアナ!? 生きていたのか!?」


 ウインクを飛ばして投げキッスを飛ばすのはタチアナである。相変わらず柔和な笑みを浮かべており、公共の場では露出し過ぎな踊り子衣装を纏っていた。

 あの塔の崩落から生き残り、再び現れたタチアナの目的とは……


   -続く-

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