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タチアナ討伐作戦

 囚われの身となったアリシアを救助するべく単身でタチアナに挑むミューアは、持ち前の強気な攻撃スタイルで攻め込む。

 しかし、身軽なタチアナは踊り子としての能力を活かした舞うような動きで翻弄し、両者は一進一退の攻防を続けていた。


「私が不甲斐ないばかりに……ミューアさん、申し訳ありません」


 そんな中、消え入るようなか細い声で謝るアリシア。媚薬を盛られてベッドから動けずにいたが、ミューアの激闘を目の当たりにして意識が徐々に戻り始めていた。

 熱を帯びる体を引きずるようにして這い、どうにかミューアを援護するべく自身の魔弓を探す。


「魔弓さえあれば…!」


 ベッドから少し離れた床、そこに黄金の魔弓は落ちている。通常時であれば問題ない距離であるも、フラつく今のアリシアでは遠く離れているように感じるレベルであった。

 だからといって動かないなど有り得ない。ドジを踏んだ自分のために来てくれたミューアに対し、少しでも恩返しをしなければという思いがアリシアに力を与える。




 アリシアの行動を視界に入れる余裕などない死闘を繰り広げる二人は、幾度も刃をぶつけ合う。火花が四散し、魔結晶の灯りよりも激しい光を放つ。


「まったく、テメェのようなエルフがいたとはな。傭兵となったって食っていけるだけの実力はあるだろうよ」


「わたくしが食べるのは可愛いオンナのコだけよぉ。アナタも良い線はいっているけどねぇ…わたくしの趣味ではないわねぇ」


「テメェなんかに気に入られても嬉しかないが、メッチャムカつく!」


 剣でタチアナを押し切り追撃を行う。突き刺すような一撃が胸部を狙うが、


「ダメかッ…!」


 ナイフで弾かれて軌道が逸れ、タチアナには当たらない。

 姿勢を崩したミューアは追撃のナイフをギリギリで避けるも、タチアナの膝蹴りが右腕に直撃し、その衝撃で握っていた剣を落としてしまった。

 主武装を失ってしまい、ミューアは下唇を噛みながら後退をかけようとする。しかし、


「わたくしの勝ちねぇ! 逃がさないわよぉ!」


 勝利を確信したタチアナの方が一歩速い。すぐさまミューアの懐に肉薄してトドメを刺しにかかった。

 このままではナイフの餌食になるのは明白だ。ミューアはダメージを覚悟しながらも、致命傷さえ喰らわなければエルフの秘薬で治せるハズと消極的な考えをしている。勝気な彼女が完全回避を思い浮かべないのは、それほどにタチアナの戦闘力が高いからであろう。

 だが、ミューアに刃は迫ってこなかった。


「!? 天井が!?」


 大きな魔力の反応を感知した瞬間、ミューアとタチアナの頭上の天井が爆発するようにして崩れ始めたのである。そして両者に残骸が降り注ぎ、戦闘どころではなくなってしまったのだ。


「一体どうして……ン、アリシアが?」


 無事に後退できたミューアは背後に目をやると、そこには魔弓を手にしたアリシアがぺたんと床にへたり込んでいる。


「アリシア、大丈夫か!?」


「あ、はい…申し訳ありません、ご迷惑を……」


「いいのさ、気にすんな。それより今のはアリシアが?」


「私の魔弓で矢を飛ばしたんです。遠隔コントロールできるとはいえ、あの状態でタチアナさんを狙うのは無理だったので、どうにかしてお助けしようと……」


「マジで助かった。あのままだと死んでいたかもしれん」


 ある意味で廃坑でのピオニエーレ戦を参考にした戦法であった。あの時は廃坑が崩れたためにピオニエーレは難を逃れたわけで、強制的に戦闘を食い止めるためには周囲環境を破壊することが有効と無意識のうちに理解していたのかもしれない。


「タチアナめ、逃げたか?」


 やっと煙が落ち着いてきたが、そこにタチアナはいない。ミューアに対してタチアナが優位に立っていたとはいえ、不意の状況を警戒して距離を取るのは彼女が極めて冷静な判断力を持っているからだ。


「けどヤツは別荘のどこかにいる。必ず見つけ出して殺す」


 この城型の別荘はタチアナのテリトリーなわけで、うまく潜んでミューア達の様子を窺っているのだろう。


「敵地とはいえビビる必要はない。アタシ達は二人だからな」


「でも私は体が…その……」


 アリシアは疼く体が重く、いつものような戦闘を行うことはできない。思考がまとまらない現状では矢を脳波コントロールも出来ず、もはや魔力の塊を飛ばすだけで精一杯であった。


「立てないのか? ならアタシが……」


「ひゃん!」


 肩に手を添えただけでもアリシアはビンカンに反応を示し、ミューアはドキッと鼓動を跳ね上げる。邪な感情が芽生えているが、しかし冷静且つ理性を働かせて気持ちを整えた。


「ご、ごめん」


「い、いえ大丈夫です。どうにかミューアさんを援護したいのですが……」


「なら、そうだな……魔弓での大技は使えるか?」


「頭がクラクラするので細かい狙撃などは出来ません。けど魔力を流せるので、無理矢理に大技を放つのであれば」


「結構。アタシがヤツを城の上部にある塔部分に引きつける。そうしたらアリシアは大技で塔ごと敵をブッ飛ばしてくれ。ヤツを崩落に巻き込んでペチャンコにして倒す」


 別荘の上には目立つ塔がそびえ立っている。その中には展望フロアがあるようで、そこから街全体を眺める事ができるようだ。


「アタシが破壊した窓から外に出て、チョイと上に昇れば塔を狙える位置に出られるハズだ」


「でもミューアさんも危険では?」


「心配すんな。アリシアの攻撃が来ると分かっていれば問題ない」


 グッと親指を立てたミューアは作戦を開始し、剣を拾ってから廊下へと出る。薄暗い幅広な廊下には不気味な雰囲気が漂っていて、さながら心霊スポットだ。


「タチアナ、どこだ…?」


 姿は見えないが気配は感じる。確かにタチアナはミューアを監視しているのだ。


「ふん、隠れて不意打ちをしようとしているな。けど簡単に首を取られてたまるものかよ」


 神経を研ぎ澄ませたミューアは、僅かに物音を感知した。エルフの耳は人間よりも音を聞き分ける能力に優れており、集中すれば服が擦れる音でも聞き取れる。

 ミューアの耳にした音はまさに布が擦れた小さな音で、タチアナが動いたために発生したものだと断定した。


「ソッチか。今度こそ終わらせていやる」


 どうせ敵にはコッチの位置はバレているのだと、ミューアはタチアナがいると思われる方向に向けて走り出す。


「!? タチアナのナイフかっ!!」


 目指すべき方角から空気を振動させてナイフが飛び出してきた。これはタチアナが持っていたナイフに違いなく、自分の場所まで目掛けて突進してくるミューアに奇襲を仕掛けたのだ。


「暗殺者気取りかよ!」


 怒鳴りながらも吶喊するミューアは、その気迫で敵を威圧する。しかしタチアナからの返答は無く、ひたすらに冷酷な殺人者のように投擲を続けてきた。


「何個あるんだナイフは!」


 二本、三本と投げつけられるナイフ。タチアナは貯蔵していたストックを引っ張り出して猛攻撃をかけてきているらしい。

 ミューアは途中に見つけた階段を見つけて上の階へと退避する。


「フ、かかったな……タチアナはアタシを追ってきている」


 このミューアの行動は誘い込みであった。目的地である塔へと誘導するべく、わざとナイフに追い込まれたように演出してみせたのだ。

 そして、ミューアを仕留めることに躍起になっているタチアナが背後から追ってきているのを感じる。作戦は案外順調に進んでいた。


「この近く…アレか?」


 廊下の先、円形のエントランスホールのような部屋が見えてきた。そこには螺旋階段も存在し、階段を昇って行けば塔の展望フロアへと繋がっている。


「この先は行き止まりよぉ」


「そうかい。さながらテメェは獲物を追い込んだハンターってとこか?」


「わたくしは気に入った相手を逃さない狩人。アリシアちゃんを手に入れるためにアナタには退場してもらうわぁ」


「テメェの思い通りに進ませるものかよ」


 不敵な笑みでナイフを構えるタチアナに言い返すミューアは螺旋階段をジャンプして昇る。決戦の地は展望フロアであり、アリシアに伝えた計画では大技でココを吹き飛ばしてもらう予定だ。


「いい景色でしょう? わたくしは一人でいる時に外を眺めるのも好きなのよぉ」


「だったら永遠にココに引き籠っていればいい」


「でも一人ぼっちは寂しいものぉ。誰かと情熱的に過ごす夜というものもステキなのよぉ」


「あっそう。じゃあ、ちゃんとしたパートナーを見つけて迷惑をかけるような行動をしなければいい」


「その相手こそがアリシアちゃんって寸法よぉ」


「それはマジで許さん」


 両者の間に闘気が増していく。

 一触触発の、どちらが先に動くかという焦れた時間が始まる。

 

    -続く-

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