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華麗なる戦場、ぶつかり合うダークエルフ

 タチアナは自分の好みにドンピシャに当てはまっているアリシアを別荘に連れ込むも、そのアリシアに信頼するパートナーがいることを知って嫉妬に駆られていた。今までは遊びとしてオンナのコを抱いてきたが、アリシアに対しては本気の気持ちを抱いていたからだ。

 しかし同時に、これまでの経験全てを活かして彼女の身も心も手中に収めようという野心も芽生えていた。


「あらぁ、どうしたのぉ? そのキラキラな魔弓でわたくしを攻撃する気ではないのかしらぁ?」


「くっ…! 体が思ったように動かない……」


 視界が揺らぎ、足から力が抜けていく。更には全身が熱を帯びたように朱を帯び、戦う姿勢など取れたものではない。


「どうして…?」


「わたくし特製のクッキーと言ったでしょう? アレの中には、わたくしが長年の研究を経て独自に調合した媚薬が隠し味的に入っているのぉ。名付けて”メロメロクッキー”よぉ」


「うっ、卑怯です……」


「お菓子程度で簡単に釣られてしまうアリシアちゃんが悪いのよぉ。アナタは世間の厳しさを知らないようねぇ」


 それはタチアナが正しく、警戒すべき相手にホイホイと付いて行くアリシアも軽率であった。もし、もっと慎重になっていればピンチを招く事もなかったはずである。


「そんなアリシアちゃんだから可愛いとも言えるけどねぇ。まあ安心なさぁい。アナタを殺したりはしないからぁ」


「死よりもヒドい結末が待っている気がします」


「いやいやぁ。天に昇ったまま降りてこられなくなるくらい快楽で染め上げてあげるだけよぉ」


 勝利を確信したタチアナはゆらりとアリシアに近づく。そして、アリシアの耳に淫靡に息を吹きかけた。


「はぅ…!」


「刺激が強いでしょう? あの媚薬で全身が疼いて仕方がないハズよぉ」


「うぅ……」


 息も絶え絶えなアリシアは潤んだ瞳でタチアナを見上げることしか出来ない。

 もう思考も乱れてまとまらず、座り込んだアリシアはタチアナに抱きかかえられてベッドへと連行されてしまう……






 一方その頃、タチアナがショーを行う店について情報を得たミューアはアリシアとの合流地点で待っていた。だが、アリシアの姿は無く、ミューアは不安感に苛まれながらキョロキョロと周囲を見渡している。


「アリシア、ここに集合と言っておいたの聞いていたよな? ったく、いつまで時間を掛けているんだ」


 もしかしたらアリシアもタチアナの情報を入手して、先に行動を起こしたのかと考え、ミューアは仕方なく移動を開始する。

 そして、アリシアが立ち寄った酒場へと入店した。


「ここにタチアナがいるらしいが……」


「いらっしゃいませ! お一人様でよろしいでしょうか?」


 明るく接客をモットーにしてそうな店員に出迎えられたミューアは、とりあえずタチアナについて訊いてみることにした。それがアリシアへ近づく道標となるかもしれない。


「ん、ああ。それより、タチアナが来ていると聞いたんだけど?」


「あー、残念ながらタチアナさんのステージは終わっちゃたんですよ。どうやらお客さんと同じくエルフ族のコを連れ帰ったようですし、今日はもう会えないですね」


「んだと!? その連れ帰られたというエルフのコはアリシアって名前じゃなかったか?」


「ど、どうでしょう。初めて見るお客さんで名前までは知らないです」


 と店員は言っているが、タチアナにお持ち帰りされたエルフとはアリシアで十中八九間違いないはずだ。となれば追う他にやる事は無い。


「タチアナが何処に行ったか知ってるか!?」


「えっと…た、多分別荘じゃないですかね。この繁華街から少し離れた場所にある郊外に城のようなカタチをした別荘を買ったらしいんです。そこに気に入った女の子を招待しているってウワサですが……」


「なるほどな。サンキュー!」


 ミューアは反転して店を飛び出し、ディガーマの郊外エリアと全力で駆けていく。その姿は猟犬かの如く勢いで、俊足は残像をも描きそうなほどだ。


「待ってろよ、アリシア!!」


 人気の少ないエリアに差し掛かり、郊外へと立ち入る。話によると、ココのどこかにタチアナは城のような別荘を購入して、お楽しみの場としているらしい。


「タチアナめ…アリシアに手を出しやがったらボコボコにして確実に息の根を止めてやるからな!」


 大きな高級住宅の一軒一軒を観察し、タチアナの根城へと徐々に近づいていく。






 完全に動けなくなってしまったアリシアは、装備を外されてベッドに寝かされる。抵抗手段を失い、タチアナに自らを差し出す他に出来る事は無い。


「ああ、なんて可愛いのかしらぁ……アリシアちゃん、アナタ本当に最高よぉ」


「アナタに褒められても嬉しくないです……」


「その内にわたくしから掛けられる言葉全てに悦楽を感じるようになるわよぉ」


 タチアナの手がアリシアに迫り、衣服を脱がそうとした。

 その瞬間、


「見つけたぞクソがッ!!」

 

 ガシャン!! と派手な音と共に何者かの声が響き渡った。驚いたタチアナがソチラを見ると、ガラスを突き破って一人のエルフ族が侵入してきていたのだ。


「アリシアをッ…! テメェだけはマジでブッ潰す」


「アナタがミューアとかいうエルフねぇ。よくココを発見できたわねぇ」


「妙な城型の別荘なんざ他に無かったしよォ…この部屋だけ灯りが点いていたから見つけンのは簡単だったぜ」

 

 静かに、しかし確実に怒っているミューアは剣を抜く。そこに纏う殺気を感じ取ったタチアナも臨戦態勢となり、アリシアを押し倒したベッドから飛びのいた。


「最期に詫びをいれる時間くらいは与えてやるぜ」


「大した自信ねぇ。自分がヤラれるという発想はないのかしらぁ?」


「あ? この勝負の結末は、アタシがテメェをブッ殺して終わりだって決められてンだよ。だからアタシが負けるなんて考える必要もねぇンだわ」


「わたくしのとは違いますわねぇ。勝利したわたくしがアリシアちゃんを手籠めにしてハッピーエンドで終了ですわぁ」


「減らず口が鬱陶しいぜ!」


 焦れたミューアが飛び出し、タチアナ目掛けて剣を振り下ろした。その瞬発力の高さと、ハイスピードの剣戟は容易に回避できるものではなく、大抵の魔物や人間ならば死んでいただろう。

 しかし、タチアナは違った。


「なんとッ…!」


「甘いわねぇ。甘々よぉ」


 なんと、ヒラリと軽々しく躱してみせたのだ。

 まるで舞うような美しい軌道で、戦うというよりは普段行っているショーのような魅せる動作そのものである。


「そんなんで避けられるのか!?」


「わたくしは踊り子。ビロウレイ王国でも最高の踊り子なのよぉ。ステージの上でのキレのある舞いは、こういう使い方も出来るのぉ」


「ますます鬱陶しいヤツだ。だがな、いつまでも躱せると思うなよ!」


 戦場と化したベッドルームでキレるミューアは追撃を試みる。この目の前の敵を排除しなければアリシアを確保することもままならない。


「チィ!! 小賢しいぞ貴様!!」


「脳筋エルフにはわたくしを倒すなんて不可能よぉ。さぁ、わたくしを斬ってごらんなさぁい」


 だが、ヒョイと再びタチアナは剣先から逃れてしまう。ビロウレイにおいて最高の踊り子を自称する彼女の身体能力はダテではなく、しなやかな肉体は華麗に動き回る。


「テメェも武器を抜きやがれ! アタシと真っ向から勝負しろ!」


「いいわよぉ。タチアナ・レガチの本気を見せてあげるわぁ」


 片足立ちでポーズをキメるタチアナは、腰の裏に隠していたナイフ二本を引き抜く。反り返った刃は鋭く、殺傷能力は極めて高そうだ。


「近接格闘戦は身軽な方が勝つわぁ。つまり、わたくしが有利ということよぉ」


 逆手に構えたナイフは魔結晶の光を反射して鈍く光る。

 そして次の瞬間、攻勢に打って出たタチアナがミューアの目の前まで一瞬にして距離を詰めた。


「速い…!」


 タチアナは、いよいよ本気を出したのだろう。先程までの軽薄な笑みは消え去り、暗殺者のような冷たい眼光がミューアの首筋に注がれている。


「コイツ、手練れか!?」


 視線に導かれるようにナイフがヒュンと空気を裂く。もしミューアがバックステップで退いていなければ、代わりに裂かれていたのは彼女の首だった。


「わたくしは別に戦いを好んではいないわぁ。ただ、こんな物騒な世の中なのですから護身術くらいは身に着けておきませんとねぇ」


「護身術のレベルを超えている気がするけどな。でも結末は変わらない」


「次こそはアナタの血管を両断してあげるわぁ。部屋が汚れるのは困るけれどぉ、血を見るのはキライじゃないのぉ」


「ホントにイカれてんな。まっ、でも血が流れるのは確かだ。貴様の血がなッ!」


 タチアナが強者と分かったが、ミューアが怖気づくことは無い。

 再び駆けだし、アリシアを奪還するという意思を乗せた剣がタチアナに迫る。


    -続く-

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