淫靡な誘い
ディガーマの夜を乱すダークエルフのタチアナは、アリシアが見守る中で踊り子としてステージに立つ。ほぼ全裸であるが全く羞恥心など無いようで、むしろ積極的に見せつけているようだ。この点から彼女が相当な自信家であることが伺える。
「凄く綺麗……」
一人の客としてタチアナの舞いに見惚れるアリシア。踊り子としての才覚は確かなもののようで、引き締まりながらも女性的な柔らかさを主張する肉体は芸術品のようだ。
その美麗でありながらも、どこか淫猥な雰囲気を醸し出すタチアナのステージに店内の人間全てが魅了されて熱狂している。彼女が悪い噂を跳ねのける実力者であることは理解できたが、そんなタチアナにどう接触したものかとアリシアは頭を悩ませていた。
「どうだったかしらぁ? わたくしのステージは?」
華麗なステップを踏み終え、タチアナの踊りはラストを迎えたらしい。拍手と歓声の中、タチアナは笑顔で手を振って愛嬌を振り撒く。
「ああ、わたくしへの賛美……たまらないわぁ」
全身で受け止めるように皆の称賛を浴びるタチアナは恍惚としたように身をくねらせている。
そんなタチアナはステージから降り、客席へと移動する。ここからが彼女のお楽しみの時間だ。
「さぁて。今日は可愛い子猫ちゃんがいるかしらぁ」
客席をファンサービスの一環として回りつつ、品定めするように今宵の獲物を探す。こうしてタチアナは自分好みの女性を見つけて持ち帰るのだ。
「うーん、今日はイマイチかしらねぇ……ん?」
どうにも興味をそそられる相手を発見できなかったが、途中で一人のエルフ族の少女に目を留める。頭を殴られたかのような衝撃を受け、時が止まったかと思う程にタチアナはそのエルフの少女に釘付けとなっていた。
「あらあらぁ……これは運命に違いないわぁ。遂にわたくしの探し求めていた相手そのものに出会えたのねぇ」
タチアナは勢いよく目当てのエルフに近づく。愛くるしい顔つきのエルフ、アリシアのもとへと。
「アナタ、名前はなんていうのぉ?」
「わ、私はアリシア・パーシヴァルです。アナタはタチアナさんですね?」
「ええ。エルフを代表する踊り子のタチアナよぉ。うふふ、本当に可愛いわぁアナタ」
「ど、どうもです。実は私、タチアナさんに会いたくて探しておりまして……」
「あらぁ、わたくしを求めてくれていたのぉ? もう結ばれるべきねぇ、わたくし達はぁ」
タチアナはアリシアの顎を指でつまんでクイッと自分の顔に向けさせる。そしてジッとアリシアの顔全体を観察し、改めて好みド直球な相手であることを確認していた。
「こんなトコロでは邪魔が入るかもしれないし、二人っきりになれる場所へ行きましょうよぉ。そこでアナタを抱かせてほしいのぉ」
「抱く!?」
「わたくしのテクで最高にキモチイイ体験をさせてあげるわぁ。ねぇお願いよぉ」
完全にアリシアの身体を狙っているようだが、ここで引き下がればタチアナを逃してしまうかもしれない。
「わ、分かりました。いいですよ」
「ああ良かったわぁ、同意してもらえてぇ」
「は、はい……」
「そう緊張しなくていいのよぉ。わたくし特製のお菓子も用意してあってぇ、店では売っていない絶品なのぉ。食べたら極楽を味わえる最高のクッキーなんだけどぉ、それをご馳走してあげるからぁ」
「え、そんなに凄いクッキーなんですか? 是非、食べたいです!」
アリシアはミューアの忠告を聞いていなかったのだろうか。
「素直なコは大好きよぉ。さぁ、行きましょう」
魅惑的なウインクをしながらタチアナはアリシアの腕を掴み、立ち上がらせて引き寄せる。そうして自らの胸にアリシアを抱き、舞うようにエスコートしながら店の外へと出た。
「わたくしは各地で踊り子をしているのだけどぉ、ディガーマはお気に入りの街の一つで別荘を買ったのよぉ。そこにアナタを招待してあげるわぁ」
「あ、ありがとうございます」
本来ならミューアにタチアナについて知らせ、二人で対処する予定であった。
だが、タチアナはアリシアを掴んだまま放さず強引に連行していく。そのため逃げようにも逃げられないし、完全にタチアナのペースに呑み込まれているのでアリシアは付いて行くことしかできなかった。
「ここがアナタとの愛の巣となるわたくしの別荘よぉ。結構大きいでしょう?」
繁華街を離れたディガーマの郊外。その一帯は金持ち達の住居が並んでいて、タチアナの所有する別荘も荘厳に佇んでいる。
「はい。小さなお城のように見えますね」
レンガの壁に囲まれた別荘は城のような形状をしており、小国の王家が住んでいると言われても納得できるようなものであった。特に、奥に存在する鋭い塔が印象的で、そこからディガーマの街を一望できる仕組みになっているらしい。
このような建物は一体どれほどの値段がするのか気になるが、疑問を問う間もなく門をくぐってタチアナがアリシアの手を引いていく。
「わたくしは金持ち達も骨抜きにして資金を得ているのぉ。ふふ、でも相手はオンナのコのみだけどねぇ」
「そうなんですか……」
自慢のように語られてもアリシアも反応に困るし、ついに城の中に連れ込まれて急に緊張で足が震えはじめた。外であるならともかく、タチアナのテリトリーに入ってしまったら彼女の独断場でしかない。
「さぁ、コッチよぉ」
エントランス正面にある幅広な階段を昇り、二階の一室にアリシアは案内される。そこには天蓋付きのクイーンベッドが置かれており、近くには煌びやかな椅子とテーブルがセットされていた。
タチアナは魔結晶にフッと魔力を吹き込んで明かりを灯す。
「そこの椅子に座っていてねぇ。まぁ事を急ぐなら早速ベッドでもいいけれどぉ?」
「あ、いや、椅子に……」
「照れ屋さんなのねぇ。顔が真っ赤よぉ」
口に手を当て笑うタチアナは育ちの良いお嬢様のようにも感じるが、彼女から漏れ出す欲望をアリシアも感じざるを得ない。
「約束のお手製お菓子を持ってくるわねぇ」
と言って部屋から去るタチアナ。
それを見送ったアリシアは対タチアナ対策を考えるも、有効な策は思い浮かばなかった。ミューアがいれば任せてしまう場面だろう。
ソワソワしながら暫く待つと、ガチャッとドアが開いてタチアナが戻ってきた。その手にはウエイトレスが持つような銀のプレートが乗せてあり、上には二つのカップと皿に盛られたクッキーが添えられている。
「お待たせぇ。夜も遅いケド、小さなお茶会を開きましょう」
テーブルに静かに置かれたカップには紅茶が注がれていて、優しい匂いがアリシアの心を落ち着かせる。
そして肝心のクッキーは市販されているようなシンプルな物ではなく、中心部には赤い球体が埋め込まれていた。何かフルーツを練ったものだろうか。
「どうぞ召し上がれぇ」
「いただきます」
アリシアはクッキーの一つを口に運ぶ。その味は甘く、疲労の残る体には丁度いい刺激となる。
欲張りだと思われるかと躊躇する心もあったが、クセになるような美味をもう一度味わいたいと追加で口に放り込んだ。
「ふふふ。気に入って頂けたようで嬉しいわぁ」
「とても美味しいですよ。あの、ご馳走になっておいてアレなんですけど…質問があるんです。私がアナタを探していた理由にも繋がるものでして」
「いいわよぉ。何が訊きたいのぉ?」
「さっき資金を得るために金持ちの方を抱き込んでいると仰っていましたが……それ以外にも沢山の女の子をお持ち帰りしているってのは本当ですか?」
アリシアはタチアナの悪癖を止めるために捜索していたわけで、まずは事実確認をしなければならない。
この直球な問いにタチアナはニッコリとした表情を変えることはなく、コクリと小さく頷いた。
「ええ、それは数々のオンナのコを抱いてきたわよぉ。ビロウレイ王国一の快楽至上主義者だと自認しているわぁ」
「そのタチアナさんの趣味のために迷惑している人達もいるんです。抱かれた方達が骨抜きになって堕落させられてしまっていると」
「こればかりはヤメられないわねぇ。もしヤメてほしいのならぁ、アリシアちゃんがわたくしの欲望全てを受け止めてくれるというのならいいけれどぉ?」
「うっ、それは……」
話に聞く限りタチアナは相当に淫乱で、そんな相手をしていたらアリシアが壊れてしまう。
「アリシアちゃんはピュアピュアなエルフちゃんねぇ。わたくしのようなダークエルフはねぇ、誰かの言う事なんか聞かないわよぉ。ならず者の烙印を押された者に倫理と論理が通ると思っているのかしらぁ?」
「ダークエルフだからって完全な悪とは限りません! 私のパートナーであるミューアさんはダークエルフですが、理性と正義感を持っている立派な方です!」
「……パートナー? アリシアちゃん、アナタにはパートナーのエルフがいるのかしらぁ?」
「はい。ミューア・イェーガー、最高の私のパートナーです!」
「妬けてきたわねぇ……こんなに嫉妬に狂いそうな気持ちになるのは初めてよぉ」
ニコやかな顔から一変、ギラつく視線が刺すようにアリシアに向けられる。
本能的に危機を察知したアリシアは魔弓を装備しようとするが……
-続く-




