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お似合いの二人

 ギラビーの群れを撃破したアリシアとミューアは、一路ディガーマという街を目指していた。この人間族の街を経由して王都へ向かうコースを辿っているのである。


「街はもうすぐだ。ここまで来れば魔物に襲われる心配もないな」


 アリシア達の往く平穏な平原はディガーマのテリトリーであり、この周囲一帯は人間の兵士が巡回を行っているために魔物は棲みついていない。

 つまり安全に進む事が可能であり、ミューアは手に持っていた剣を鞘に納めた。


「ルマーカスラグにパラサイトモスカ、そしてギラビーと連戦してきたから、ディガーマに着いたら少し休息を取ろう。ピオニエーレの事を考えたら悠長にしている余裕も無いけれど、まともに休みもないんじゃヤツと遭遇してもマトモに戦えないからね」


 ここ暫くの間、アリシアとミューアは幾度となく危機に陥り、様々な魔物と戦いを繰り広げてきた。エルフ族は人間族と比べて体力があり身体能力も高いが、疲れと無縁というわけではない。見た目には健康そのものに見えるとはいえ、蓄積された疲労とストレスを癒さなければ旅を続けられなくなってしまう。


「ほれ、見えてきたぞ」


 顎でミューアが示す先、背の低い石垣によって囲われた街が見えてきた。それは、まるで防壁のように広がっており、魔物の侵入を拒むための設備であることが分かる。

 その街、ディガーマの規模はアリシアが予想していたよりも大きいようで、無限にも思えるほどに石垣は広がっていて、内側には数えきれないほどの住居等の建物がひしめいている。


「スティッグミやロートよりも遥かに大きいですね」


「ディガーマはビロウレイ王国の中でもトップ3に入るほどに栄えている街だって聞いたことがある。アタシはあまり騒がしいのは好きじゃないけど、こういう街を作れる人間族はスゴイって思うよ」


 二人の故郷であるエルフの村は喧噪とは程遠い静かな場所なので、ディガーマとは正反対の性質を持っていた。そんな田舎から来たアリシアは物珍しく感じるが、少々ビビッてもいる。威圧感のような感覚を覚えているのだろう。


「ちょっと足を踏み入れるのに勇気がいりますね。あまりヒトの多い場所は得意でないので……」


「一人じゃないし、アタシがいるから大丈夫だ。さて、まずは宿探しだな」


 兵士が守りを固めている検問所を通り、二人は街の中へと入る。魔物でなければ通行許可は簡単に降りるようだ。


「人間さんがこんなに! ビックリです!」


「迷子にならないでくれよ。こんだけ人がいるんじゃ探すのも大変だからね」


「じゃあ手を繋ぎましょう。放さないでくださいね」


 アリシアはミューアの手をギュッと握り、肩を合わせる。これなら人混みの中でも迷子になることはないだろう。


「えへへ。安心感があります。ミューアさんの手は温かいですし」


 甘える妹のように寄り添うアリシアを直視できないミューア。上昇する心拍数が脈拍を速くしているが、それがアリシアに伝わってしまっていないか心配で仕方がない。


「じゃ、じゃあ行こうか。まずは宿を確保しないと」


「どの辺に宿泊施設はあるのでしょう?」


「繁華街付近じゃないかな。街の中央区画付近の辺りのさ」


 街の入口にはディガーマを案内する簡易的な看板が立っており、外からの来訪者にも親切な表示がなされていた。

 その看板によると、中心部となる行政区の隣に規模の大きい商業区があるようで、宿泊施設も近くにあると思われる。


「ここ最近で結構稼げたし、良い宿に泊まるのもアリだな」


「頑張ったご褒美みたいなものですね」


「そういうこと。安眠できる場所じゃないと気が休まらないからね」


 二人は手を繋いだまま歩き出し、軽く観光をしながら街の中心へと向かう。






「かなり上質な部屋だ。貧乏生活を続けてきたから新鮮だよ」


 繁華街の裏通りにはいくつかの宿が点在していて、その中でも一番豪勢な所を選んで泊まることにした二人。なかなかに料金が高かったが、備え付けのベッドなどは質の高い物であったし、セキュリティとしてエントランスに用心棒まで配置されているので安全性も確保されている。この街の治安について詳しくは知らないが、用心するに越したことはないだろう。


「そういえば、ディガーマにはダークエルフがいるんでしたよね?」


「ラミーによるとね。酒場とかで人を誘惑してお持ち帰りするヤツ、だったか」


「ただの歴戦のナンパ師のようなカンジに思えますね」


「確かにな。けど、ソイツのせいでイロイロと迷惑を被っている人がいるんだろうね。滞在中に出会うことがあれば、同族として対処もできるかもだけど……」


「少し調べてみませんか? ちょっと気になっていまして」


 アリシアはミューア以外のダークエルフと会ったことがなく、他のダークエルフの名を与えられた存在に興味を持っていた。特に今となってはエルフ自体が壊滅状態であり、元は同じ種族の相手が近くに居るとなれば会いたいと思うのも当然ではある。


「そうねぇ…まあ聞き込みくらいなら。せっかくの憩いのひと時だし、繁華街を見て回る方が健康的だと思うよ」


「ですね。さっそく行きましょうか」


 キャンプ道具を宿に置き、二人は街へと降りる。休息の時間なのだからワザワザ面倒事に巻き込まれにいく必要はなく、夜の淫猥なダークエルフは二人の管轄外だ。

 多くの人々が行き交う大通りへと出て、露天商などの商店が立ち並ぶエリアを共に歩く。


「アクセサリーの他にも武具類も沢山売っていますね」


「スティッグミで剣を失って困っていた頃が懐かしいよ。この街を拠点にしていれば簡単に買えたのにね」


「確かに。でも、それをキッカケとしてノブルさんを助ける事ができたのですから、あの苦労も無駄ではなかったですよ」


「だな」


 アリシア達のおかげで救われた命は確かにあって、自らの行動で死の定めにあった人間を救えたというのは充実感がある。

 そもそもアリシア自身も本来なら故郷で命運尽きていたので、いわば今は人生の延長戦みたいなものだと思っていた。


「アリシアは装備を変えるか? ここなら良い装備も手に入れられるハズだし」


「うーん……イロイロと強そうな武器がありますが、ようやく慣れて要領が掴めてきたので変更はしなくてもいいかなと」


 いくら強力な武器を装備していても扱いこなせなければ役には立たない。重要なのは使い勝手や慣れであり、手に馴染む武器こそ戦場での友となる。


「その黄金の魔弓は他にはない機能を持っているしね。この街で売っている魔弓の中に遠隔操作可能な物は存在しないだろうよ。まっ、こういう物騒なモンじゃなくて、アリシアには可愛い装飾品の方が合ってるな」


 ミューアは露店形式のアクセサリーショップの前で足を止め、年頃の女の子が着飾るために着用するイヤリングや首飾りを品定めしている。


「私みたいな平凡なエルフには、そんなキラキラなアクセサリーは似合いませんよ」


「いやいや、どこが平凡なの。アリシア程に可愛いエルフなんて滅多にいないさ」


「も、もう! ミューアさんこそ顔立ちが美しくて整っているじゃないですか。私なんかとレベルが違いますし……」


 アリシアは最初に出会った時からミューアの美しさに心を奪われていた。だから時折ミューアを無意識のうちに見つめてしまうのだが、実際に言葉にしてみると直視できなくなってしまう。普段は照れも無く接することが出来ているのに、意識してミューアの良さを認識すると途端に体温が上がっていく。


「なんだい、アンタらは付き合いたてのカップルかい?」


 そんな二人を見ていたのは他ならぬアクセサリーショップの店主である。目の前でバカップルのようなやり取りを繰り広げられればヤレヤレと呆れても仕方ない。


「いや、カップルとかじゃなくて、アタシ達は戦友というかパートナーというか……」


「そう否定しなくてもいいじゃないの。お似合いだと思うわよ」


「そりゃどうも……」


 店主は二人をカップルと勘違いしているが、訂正するのも面倒なのでミューアは小さく頷いて言葉を引っ込めた。それに、決して不愉快な勘違いではないし、アリシアもポッと赤面したまま否定しない。


「こういうアクセサリーを取り扱っているとな、カップル客を相手にする事が多いんだよ。プレゼントとして最適だし、お揃いの物を見繕うことで特別感を演出できるしな。で、もう何十年と様々なペアを見てきたせいか、長続きするかしないか自然と分かるようになってしまってな」


「はあ……じゃあアタシとアリシアはどう見えるんだ?」


「うーむ……アンタらは死の瞬間まで添い遂げる程に相性が良いと見える。運命の赤い糸で結ばれた相手同士と言えるだろう」


 その店主の分析にミューアもアリシアも悪きはせず、むしろ内心喜んでいた。


「ふふ…ですって、ミューアさん。死ぬまでご一緒することになりそうですね」


「まっ、アタシ達は結構良い関係ではあるしな」


 やっぱりバカップルじゃないかと店主はジト目を送りつつ、商売の機会だと二人に売りつけるアクセサリーを選び始めるのであった。


   -続く-

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