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解放された村の中で

 アリシアが解き放った大技、シューティングスターによってパラサイトモスカは大地に散った。それによって囚われの身であったラミーも救い出され、ソトバ村は侵略者による魔の手から遂に解放されたのである。

 しかし、寄生された村人に襲われ命を落とした者や、破壊された神殿等のように被害は大きく、これから復興していくにも困難は待ち受けていることだろう。


「アリシア、大活躍だったね! あんな化け物みたいなハエを退治できたのも、ひとえに大技のおかげだよ」


「成功して良かったです。とにかく必死だったものですから……」


 ラミーから伝え聞いたシューティングスターの繰り出し方は、魔力を大量に使って矢を形成するというもので、どの程度の魔力量とか具体的な内容は分からなかった。

 そのため、アリシアは直感に任せて大技を放ったのである。戦士としての経験が浅い彼女にやらせるには多少リスクのある事だが、もはやアリシアに頼る以外に解決策が無かった。


「前までは魔物にダメージを与えるのも大変だったので、自分でも驚いています。この魔弓のおかげですね」


「それもあるけど、アリシアの素質が覚醒しはじめた証拠だよ。もともとセンスがあったからこそ、あんだけ強い技を出せたんだ」


 戦いのセンスがあって嬉しいかと問われれば首を傾げざるを得ない。本当なら、もっと平和的なスキルの技量がある方が望ましいと思っている。

 しかし、アリシアはもう無垢なエルフではなく、この世の残酷な一面を目の当たりにして非常さを学んだ。戦わなければ大切なモノを守ることも、取り返すことも出来ない。その時、徐々に発揮されつつある戦闘力が役に立つのであれば、アリシアは存分に力を振るうだろう。


「村人さん達のところに帰りましょうか…って、およよ…?」


 疲れながらも、ふにゃっとした笑顔を浮かべたアリシアであったが、足元がおぼつかず倒れそうになる。魔力をほぼ使い切ってしまったうえ、初めての大技による肉体への負荷もあって目眩を起こしたのだ。


「大丈夫か?」


「ミュ、ミューアさん……」


 すかさずミューアがアリシアを支えて転倒を防いだ。両者の顔が至近距離まで迫る。

 肩を優しく抱かれ、慈愛の目を向けられたアリシアはポッと顔を赤くしながら俯いた。


「村の中心部までアタシが運んでやる。だから、休んでいてよ」


「は、はい」


 ミューアは背中に掛けていた剣鞘を手に持ち、アリシアを背負う。


「お、重くないですか…?」


「剣より格段に軽いよ。フワッフワな感じ」


「も、もう! 背負うのがしんどくなったら、ちゃんと言ってくださいね?」


「アリシアならドコまでも背負っていくさ」


 死闘が終わった途端にバカップルのような会話を繰り広げる二人。

 そんな彼女達をラミーはニマニマしながら眺めていた。最初からアリシアとミューアの絆の強さは感じ取っていたが、思っていたよりも距離感が近いことが微笑ましかったのである。


「ありゃもう立派なパートナーなんねぇ~」


 崩壊してしまった神殿を後にし、三人は村の中央まで戻っていくのであった。






 女王パラサイトモスカとの激闘が繰り広げていた間に、寄生から解放された村人達は意識を回復していた。魔力や生命力をジワジワと吸われていたので衰弱はしていたが、どうにか命だけは取り留めていたようだ。これは、死に至る量は吸収をしないというコ・パラサイトモスカの特性による命拾いである。


「おお、ラミーよ。ソナタは無事であったか……」


 村の中でもひと際大きい住宅は村長宅であり、そこを訪ねたラミー達を老齢な細身の女性が出迎える。


「皆さんも大丈夫なんね?」


「なんとかなぁ…今は生き残った村人をこの家に匿っておる」


 村長宅の中には村人達が一時的に避難をしており、弱りながらも食料を分け合うなどして互いに励まし合っていた。身の回りで起きた惨劇の詳細については充分に理解していないだろうが、それでもまずは助け合いの精神が働いているのは立派なものだ。


「魔物のように大きなハエが空からやって来たのは覚えとる……問題は、その後で何があったのかでなぁ。まるで記憶がスッポリと抜けてしまっていてのぉ」


「それならアタイが説明しちゃるけん……かなり嫌な話になるけれども」


「村長たるわたしは聞かにゃならんね。話してみぃ」


 村長とて寄生されていたのだから体調はかなり悪いはずだが、長としての覚悟があるからこそラミーの話に耳を傾けるのだ。




 それから十数分後、悲劇の全容を知った村長は沈黙と共に涙を流す。つい先日まで平和そのものであったソトバ村を記憶に呼び起こしながら、なんという理不尽が起きてしまったのかと思わずにはいられない。

 しかし、いくら嘆いても失われた人命は戻ってこない。寄生を免れつつも、コ・パラサイトモスカにコントロールされた村人による襲撃で亡くなった者達に対しては、せめて安らかに眠ることを祈るしかできないのだ。


「ソトバ村は多くのモノを失った…が、オヌシ達のおかげで守れたモノもある。我々は生きているのだから、必ず村を復興させて日常を再び手にしなければならん」


 決意を表明する村長にラミーは強く頷く。彼女にとっての大切な故郷は傷こそ負ったものの、まだ消え去ったわけではない。


「アタイも頑張るんね、村長!」


「ラミーのような若者がいることこそが未来への希望となる。とはいえ背負い過ぎぬようにな。オヌシにはオヌシの人生があるのだから」


「アタイの人生はソトバ村の中にあるけん。ここが、アタイの生きる場所なんよ」


 グッとサムズアップしてラミーはウインクする。彼女はこの村に骨を埋めることを望んでいるのだ。


「エルフのお二人さんにも大変なご迷惑をかけてしまって申し訳ない」


「いえいえ。私達はソトバ村の事件を聞いて、何か出来る事があるかもと自ら訪れたのですから気にしないでください」


「お二人が気にかけてくださったからこそ解決に繋がったのです。ちょっと待っていてくだされ」


 村長は一度自宅へと戻り、少し間を開けて小包を手にして戻ってきた。これはアリシア達に救ってもらったお礼としての物品のようだ。


「少ないですが、どうか受け取ってくだされ」


「ありがとうございます! って、金の小判ですか!? 初めて持ちました!」


 掌ほどの大きさのある小包を軽く開けてみると、中には金によって作られた小判が五枚ほど見えた。

 ビロウレイ王国やエルフ村における通貨として、金貨や銀貨などの小さな硬貨が使用されているが、この小判は硬貨よりも大型で価値の高い通貨である。特に金製の小判は一般庶民が持てるような物ではなく、目にする機会も少ない。


「金の硬貨一枚でも宿で一日贅沢できるのに、金の小判はその十倍の価値があるのですよね…? これだけあったら当分の期間生活していけるレベルですが…よろしいのですか?」


「それはヘソクリじゃけん、なんも問題ないよ。無駄に結構貯めておったけど、使いどころを失っていてな。こういう時に使わにゃな。ですから心置きなく持っていってくだされ」


 ニコやかな村長に促され、アリシアは金貨をミューアに預けた。こういう貴重品を自分で持っているのは不安でしかなく、しっかり者であるミューアに託す方が遥かに安全だと判断したのだ。


「今日はアタイの家に泊まっていくとええんよ。もう夜が近づいているけん、村の外に出るのは危ないもんね」


「じゃあ、お言葉に甘えまして!」


 日が傾いたソトバ村の中、三人の若者は武器を納めたままラミーの家を目指す。今朝出撃した時のような緊張感とは真逆の、安堵感と達成感に包まれながら。






「それで、アンタ達は明日からどうするんね?」


「アタシとアリシアは人探しの旅をしていてね。一応は王都を目指しているんだ」


「人探し?」


「ピオニエーレと名乗るダークエルフさ。ソイツはエルフ族の村を焼き払った黒幕なんだ」


「エルフの村を!?」


 ミューアの話を聞いたラミーは目を丸くして驚いている。自分よりも二人のエルフの方が過酷な目に遭っていたという事実は衝撃的だった。


「完全に滅んでしまったん…?」


「ほとんどのエルフは死んでしまったからね。あの地獄の中で、アタシが唯一救い出せたのがアリシアだったんだ」


 そのアリシアはボロボロのソファの上で寝息を立てており、ミューアとラミーの話に加わっていなかった。よほど疲れているようで、ラミーから軽食を振る舞ってもらった直後に就寝していたのである。


「ピオニエーレとかいうダークエルフは王都に住んでるん?」


「いや、ヤツの居住地は不明なんだ。でもヤツはエルフの雷という封印された特殊な武器を追い求めていて、その武器についてアタシ達も探るべく、情報の集まる王都へ行こうとしているんだよ」


「そうだったんね…なのにソトバ村を助けてもらってしまって……」


「そこは気にしないでくれ。エルフ村のような悲劇を防げたわけだしさ。特にアリシアは自分の経験からも絶対に見過ごせなかったんだ。ソトバ村から逃げてきた夫婦から事情を知った彼女は、自ら率先して助けに来たんだよ。あのコの行動が物事を良い方向に転じさせたのは間違いない」


 ミューアに自慢げに称賛されるアリシア。しかし、そうとは知らずにぐっすりと夢の世界に浸っているのだった。


    -続く-

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