空を穿つ閃光、シューティングスター
ソトバ村のシンボルでもあった神殿に隠れ潜んでいたパラサイトモスカは、その建物を盛大に破壊してアリシア達の目の前に現れる。ハエ特有の複眼に似た目は敵意を示すように赤く染まっていて、太陽光を反射するようにギラギラと輝いていた。
「正面はヤバそうだ。散開して三方向から敵を囲むぞ!」
ミューアの指示でアリシアとラミーは動き、パラサイトモスカの背後へ回り込む。こうすれば視覚から外れ、一方的に攻撃も可能だろう。
しかし、図体のデカい魔物は、そういう弱点もカバーしているものである。
「くっ…触手が邪魔ですね」
パラサイトモスカの胴体には何十本もの触手が生えており、それらは探知器官としての能力も持っているようだ。追尾する触手の先端がアリシア達へと向けられ、そこから魔弾を発射してくる。
「魔弾を飛ばしてくるとなれば厄介ですね…でも、私の魔弓で触手を破壊してしまえば!」
魔弾を回避したアリシアは、すぐさま反撃に移った。遠距離攻撃対決で負けたくないし、ジャンプしないと届かないような高所から生えている触手も魔弓ならば狙撃できる。
「いきます!」
ビュンと風を切るような矢の一撃が触手の付け根に直撃し、周囲の皮膚ごと抉って撃破した。これで一本の触手を無力化できたわけだが喜んでいる時間はない。
残る触手が更に攻勢を強め、厄介な三人の人型を倒すべく魔弾を撃ち出す。
「この敵を倒すには生半可なやり方では無理ですね…一体全体、どうすれば……」
「あの技なら倒せるかもしれんよ。アタイが言った、シューティングスターって大技なら」
アリシアは敵の攻撃から逃げ伸びたラミーと合流し、出撃前に聞いた魔弓用の大技シューティングスターとやらを思い出す。極めて威力の高い矢による射撃のようだが、高性能な魔弓と大量の魔力が必要になるらしい。その点ではエルフは人間族よりも精製魔力量が多く、黄金の魔弓は通常の魔弓以上のポテンシャルを秘めている事からアリシアなら使える可能性があるらしい。
「その自慢の黄金の魔弓に、ありったけの魔力を流し込んで矢を作るん。全身全霊で」
「ぶっつけ本番で出来るでしょうか…? それに、ここまでの戦闘で魔力が減ってしまっていますし……」
「試してみる価値はあると思うんよ。コレも使って」
「魔結晶ですか?」
ラミーはポーチから魔結晶を取り出す。度々登場するこの結晶体だが、今回はどのような用途で活用できるのだろうか。
「この魔結晶にはアタイの魔力が籠められてるんね。アタイは魔力量が少ないから、狩りの時とかにパワーダウンしないよう予備として持ってたんよ」
魔結晶は魔力の貯蔵庫としても使用でき、予め魔力を注入しておくことで、戦闘中に魔力が尽きてしまった際などに補給ができるのだ。簡単に言えば予備のバッテリーみたいなものである。
「この魔力を補助にして。そうすりゃシューティングスターだって使えるけん」
「やってみます! 援護を頼みます!」
アリシアは状況を打開するべくシューティングスターを試してみる決意をし、一度後退をかける。魔結晶から魔力を吸収し、魔弓に送り込むためには少々時間がかかるようだ。
「ミューアさん! アリシアを守ってやらなにゃ!」
「おうさ! 敵の注意を引き付けるのなら得意だから任せろ!」
ミューアは直接アリシア達の会話を聞いていたわけではないが、何かプランを思いついたのだろうなと察する。だからこそ、危険と分かっていても自分が囮になるべくパラサイトモスカの体の上に飛び乗ったのだ。
「こいよ、このハエ野郎!」
剣を乱雑に振り回してパラサイトモスカの背中を切り裂いていく。しかし、表皮を切るだけで致命傷には全くならない。
だが、これでパラサイトモスカはミューアを脅威とみなし、胴体の側面部から生えている触手の多くを対ミューアのために動員させていた。
「こうも不甲斐ないとは…アリシア、任せたよ」
これまではミューアがリードしてアリシアを導いてきた。しかし、今はミューアに打つ手は無く、アリシアに懸けるしかないことを情けなく感じているのだ。いくつもの戦地を巡って強くなったにも関わらず、守るべき相手に頼らざるを得ないというのは戦士失格と自分を責めていた。
とはいえ、ミューアが気に病む必要など無いのだ。全ての敵に対して優位に立ち回れるなど有り得ず、アリシアとて着実に成長しているのだから役割分担して戦いを進めるというのは間違っていない。
「ミューアさん、ラミーさんチョット待っていてくださいね。えっと…とにかく魔力を魔弓に流し込みまくればいいんですかね…?」
一方、アリシアは焦りを感じながら魔弓に魔力を送り込む。以前使用していた魔弓の場合、セーフティがかかっていたので許容量以上の魔力は流せない仕組みになっていた。そうしなければ負荷に耐え切れず壊れてしまうからである。
「この魔弓は私の魔力をドンドン吸収していく……」
しかし、黄金の魔弓は際限なく魔力を取り込んでいく。そして徐々に発光しはじめ、虹色の燐光が魔弓を包むようにキラキラと瞬く。
「ついでにラミーさんから頂いた魔結晶からも…!」
ブーストをかけるように、ラミーから譲り受けた魔結晶からも魔力を送る。人間族由来の平凡な魔力ではあるが間違いなく足しになっているようだ。
だが、その圧倒的なパワーはパラサイトモスカも探知していた。本能的な危機感を覚えたようで、恐怖も相まって退避を選択する。
「コイツッ! 逃げるつもりだな…うわっ!?」
羽が力強く振動し、浮上を開始したパラサイトモスカからミューアは振り落とされてしまった。受け身を取って負傷は避けたものの、再び飛び乗ることは不可能だ。
「ちょ、ちょっと!? アタイを連れ去る気なんかね!?!?」
そんな中、ラミーは生き残っていたコ・パラサイトモスカに体を持ち上げられてしまった。これは村人に寄生していた個体だが、女王であるパラサイトモスカの位置を探るため、あえて泳がせていたコ・パラサイトモスカである。多少の傷を負っていたものの回復をして女王の援護に現れ、行き掛けの駄賃とばかりに餌となるラミーを手に入れようとしたのだ。
「ひぃー! 気持ちわるい…!」
連行されたラミーはパラサイトモスカの背中の上で触手に拘束され、身動きが取れない。これでは飛び降りることすら出来なかった。
「しまったッ…! どうする、アタシ…!」
救助策を練るも、ミューアに出来ることはない。その事実を頭で漠然と理解し唇を強く噛みしめる。
「私がやります! ラミーさんを助けますし、あの魔物は倒します!」
「いけそうか、アリシア!」
自信満々なアリシアの周囲は太陽のように輝いている。正確には彼女の魔弓から強烈な光が漏れ出していて、ラミーから伝えられた大技の準備が整ったことを示していた。
「これ以上、ヤツの好きなさせません!」
この魔力をオーバーチャージした状態はアリシアも初見であるが、魔弓から伝わる感触には手ごたえがあった。
魔弓の中央にセットされた矢は今まで見たこと無いほどの重厚さを持っていて、矢というよりはミサイルのようだ。
「これが私の全力…! いけっ、シューティングスター!!」
叫びと共に、閃光の奔流が空に向けて解き放たれる。流星が地上に降り注ぐのとは逆の、宇宙へと駆け上がるような一筋の軌跡。
「光が…突き抜けてく……」
戦場に居るにも関わらず、ミューアは心から美しいと思える光景を見た。至近距離から打ち上がった光に恐怖を感じることはなく、希望の象徴のような物として目が釘付けになっている。
そのシューティングスターと呼称される一撃は、離脱を開始していたパラサイトモスカを逃がさない。背後から巨体へと迫り、胴体を後方から前方に向けて貫いてみせたのだ。
更に、最後の一匹となっていた配下のコ・パラサイトモスカも巻き込まれており、線香花火のように儚く蒸発して誰にも認識されないまま死を迎えていた。
「パラサイトモスカが崩れる…!」
体を内部から破壊されたパラサイトモスカは、頭部までもが粉砕されて残骸が宙を舞った。醜い肉塊が飛び散り、千切れた羽が四散する。
「うわーーっ!! 落ちるーーっ!!」
そんな中で悲鳴が周囲に響き渡った。声の主はラミーであり、背中に囚われていた彼女はパラサイトモスカの死によって解放されたものの、無慈悲な自由落下を始めたのである。
このまま地面と激突すればパラサイトモスカと同じように肉片となるわけだが、どうやら安心していいらしい。
「アタシがキャッチしてやる!」
まだ体力の残っているミューアは最後の仕事とばかりに全力ダッシュして、ラミーの落下地点で待ち構える。
「ひぃ!! 怖い怖い!!」
「大丈夫! そのまま体を丸めて!」
せめて落下時の衝撃を和らげようとラミーはダンゴムシのように体を丸めており、直後、全身に魔力を通わせて肉体を最大まで強化したミューアが受け止める。
結構な高度からの落下だったので衝撃は強かったが両者共に無事なようだ。怪我をしている様子も無く、ヨロッとフラつきながら地面に立ったラミーは安堵で胸を撫で下ろした。
-続く-




