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寄生体”コ・パラサイトモスカ”

 ソトバ村にて知り合った少女ラミーと共に神殿へと向かう事になったアリシア達。この村の異常事態を引き起こしていると思われる敵、パラサイトモスカの拠点になっている可能性があるので調査に赴くのだ。

 そのラミーの構えた武器は魔弓であり、同じく魔弓使いのアリシアは親近感を覚えた。


「あら、ラミーさんも魔弓を使うので?」


「うん。アンタのは金ぴかやけんね」


「そうなんですよ。結構上物の魔弓でして、強い魔物を撃ち落としたこともあるんです」


「ふーん。なら、あの技も使えるかもしれんね。アンタはエルフだから魔力精製量も人間族より多いわけやし」


「あの技?」


 頷くラミーはコホンと咳払いして説明を始めた。


「隣町に買い出しに行った時にな、図書館に寄って武器に関する本を読んだんけど、そこに書いてあったんね。昔、優れた魔弓使いがおって、デッカい魔物すら一撃で葬り去る技を繰り出していたんだと。その技っちゅうのが”シューティングスター”ってのらしい」


「シューティングスター? どういうんです?」


「魔力全てを使い切る勢いで放つ技でね、その閃光はまるで空を奔る流れ星のように見えるらしい。強固な守りの魔力障壁すら破れる威力なんけど、この技を繰り出すためには高性能の魔弓と、大量の魔力が必要なんよ。アタイのような平凡な人間にゃあ無理だし、魔弓も安物だしさぁ。それに比べてアンタはエルフだから人間よりも質の良い魔力を作れるし、魔弓もなんやら強そうやけんな」


 シューティングスターとは、大量の魔力を用いて精製した矢を放つ技のようだ。通常の矢よりも遥かに攻撃力が高く、ラミーの話では魔力障壁すら突破できる破壊力を発揮できるらしい。

 だが、その強力な技を使うには使用者の魔力量が多い必要があり、又、魔弓自体も高性能な物でなければならないのだ。この点で言えば、アリシアは適合しているように思える。


「そんな大層な一撃を私が……自信はありませんねぇ」


「あとで練習すればええやん。最初は誰でも失敗するもんよ」


 訓練と練習を重ねることで技や実力は身に着くものだ。

 アリシアはラミーの言葉に頷き、シューティングスターという存在を頭の片隅に記憶しておく。この戦いが終わった後、ミューアと共に試してみるのも悪くない。


「んじゃ、行くぞ。アタシが先行するから、二人は後ろから援護してくれ」


 ミューアは剣を構え、ラミーの家の玄関を開ける。その先には豊かな田畑などの自然が広がっているが、間違いなく平和を乱す何者かが村に潜んでいるのだ。


「視線を感じる……ん、人影が?」


 幾度となく戦場に身を置いたミューアは、一般人よりも勘が鋭い。自分達へと向けられている視線を察知し索敵を始めた。


「あれは村人か、ラミー?」


「少し離れた場所に住んでるビーサさんに間違いない。様子が変やね……」


 ミューアが指さす先、ラミー家へと真っすぐに歩いてきているのは中年の女性だ。しかし、その足取りはフラつき、ゾンビのような怪しい挙動である。


「よく見てみな。あの人の背後をさ」


「なんかくっついとる。例のハエ…?」


 目を凝らしてよく見てみると、ビーサの背後に何かが蠢いていた。触覚のような器官の生えた生物で虫のハエに似ている。つまりミューアの想像は当たっていて、それは魔物のコ・パラサイトモスカであった。


「コ・パラサイトモスカに寄生されてコントロールをされている。やっぱり、どこかに司令塔である女王格のパラサイトモスカがいるんだな」


「ミューアさん、あの方を救えますよね?」


「寄生しているコ・パラサイトモスカを撃破すればね。やってみよう」


 接近を続ける理性を失ったビーサに対しミューアは走りだす。


「さて、上手く魔物だけ狙えるか…?」


 普段の戦闘であれば単にターゲットとなる相手を叩き切ればいいだけだ。しかし、今回の戦いでは村人自体を傷つけず、背中の魔物だけを倒さなければならない。

 いつもとは違うプレッシャーを感じながらも、ミューアは至近距離まで迫った。


「攻撃は遅いな!」


 操られているビーサはミューア目掛けて伐採用の斧を振り回してくるが、大振りな攻撃で簡単に避けられる。非戦闘員には恐怖の相手となっても、戦士ミューアには全く驚異的ではない。


「このハエ野郎め! オマエは離れろよ!」


 そして、ビーサの背後にピッタリと密着しているコ・パラサイトモスカに剣を突き出す。約一メートル近い大きさを誇るハエ型魔物のソレは気色悪いの一言で、引き剥がすとしても素手では触りたくない魔物だ。


「避けた!?」


 先程まではのっそりと緩慢であったが、いざ自身に危機が訪れていると分かると機敏な動きを見せた。寄生先のビーサを必死に操り、刃から逃れるように素早く体を捻ったのである。


「チッ! 一人で対処するのは案外ムズかしいかも。アリシア、ラミー! 頼めるか?」


「お任せを!」


 ミューアが交戦している隙にアリシアとラミーも近くに来ていた。

 

「あの化け物みたいなハエをやっつけりゃええんね?」


「そうみたいです。ミューアさんが敵の気を引いてくれていますから、私達で魔物を撃破しましょう」


 とはいえ、魔弓という武器では相性が悪い。ターゲティングしようにも、魔物を正確に貫くのには高度なテクニックが要求される。

 だが、アリシアであれば不可能でもない。ある程度であれば射線をコントロールして矢の軌道を変えることができるからだ。


「直撃させてみせます!」


 アリシアは黄金の魔弓を構える。精製された魔力の矢を引き絞り、コ・パラサイトモスカを狙った。


「そこっ!」


 ビーサの斧とミューアの剣がかち合って鍔迫り合いになった瞬間、アリシアは矢を放つ。光の尾を引きながら飛翔しビーサの背中に接近する。


「ここで射線を曲げれば…!」


 ビーサに直撃しないように少しだけ射線を曲げた。すると、僅かにカーブを描くように矢の軌道が変わり、コ・パラサイトモスカだけに直撃させることに成功する。


「アンタはスゴイんね。矢の動きを曲げるなんて信じられん」


「この魔弓のおかげなんですよ」


 驚きながらも感心するラミーに若干ドヤ顔をするアリシア。戦闘面で褒められるという希少体験に嬉しくなっているようだ。

 しかし、直撃を受けたコ・パラサイトモスカはまだ生きていた。体の一部が弾けとんで弱ってしまっているが、死にまでは至っていない。


「コッチに来る!?」


 ビーサから離れ、コ・パラサイトモスカは近くにいたミューアへと襲い掛かる。死なばもろともの精神なのか、羽を激しく羽ばたかせ触腕で掴みかかろうとしていた。


「アタシはオマエの養分になるつもりはない!」


 さすがの反射神経と言うべきか、ミューアは咄嗟に剣を下から上へと振りあげる。この刃の餌食となり、コ・パラサイトモスカは左右に真っ二つとなって今度こそ絶命して動かなくなった。


「ふぅ……ったく、往生際が悪いヤツだ。最期まで抵抗するってのは戦士としては合格かもしれないがな」


「ミューアさん、大丈夫ですか?」


「うん、アタシは平気。しかし、さすがアリシア。救助するべき相手を傷つけずに魔物だけ射るなんてね」


 ミューアは地面へと倒れたビーサの首元に手を当て、生きている事を確認してアリシア達に頷く。


「ビーサさんは生きているんね?」


「ああ、衰弱気味ではあるけどね。ここに放置するのは危険だから、ラミーの家に匿ってあげてくれ」


「勿論!」


 村が侵略され、暗澹たる気持ちに陥っていたラミーは久しぶりに希望を感じる。こうして魔物を排除することにより、共に生活し社会を築いてきた村人を取り戻せると分かったからだ。

 ミューアがラミーの家へとビーサを運び入れ、再び村へと繰り出す。


「この先も同じように寄生された村人と出会うはず。そん時は、さっきと同じように魔物だけを倒すんだ」


「はい。次も上手く射抜いてみせます」


 アリシアは黄金の魔弓をグッと握り、周囲を警戒する。

 先程の戦闘で他のコ・パラサイトモスカにも気づかれたかと思ったが、今のところ接近してくる影はない。


「村の中心に向かうほどリスクは高まるだろう。気を抜かずにね」


 ソトバ村の規模はそれほど大きいわけではないが、中心区画ほど住宅の件数は多くなっている。その周辺では当然ながら村人に出会う可能性は高い。


「もう死んでしまった村人の命は戻ってこん……でも、まだ生きているのならば全力でアタイが救ってみせる!」


「一緒に頑張りましょうね!」


 拳を突き上げるアリシアも闘志が湧いていた。自分の村は失ってしまったものの、同じような悲劇を自分の手で回避できるかもという望みがある。その一心で戦地へと向かうのだ。


    -続く-

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