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お肌の触れ合い

 湿地帯を支配していたルマーカスラグを辛うじて撃破したものの、アリシアはボロボロの状態で地面に仰向けに倒れている。体中に泥とルマーカスラグの粘液が付着しているが、それすら気にならない程に弱っていた。


「アリシア、勝てたよ。これも魔弓の矢で敵の気を引いてくれたおかげだ」


「いえ、私の矢による陽動など些細なものです。ミューアさんの戦いこそ凄かったですよ。魔結晶爆弾をルマーカスラグの体内に放り込んで倒すなんて」


「ふっ、アリシアはもっと誇っていいのに。きみの手助けがアタシを勇気付けてくれたのさ」


「そう言ってもらえるだけで嬉しいです。でも、こんなにダメージを受けて死にかけてしまって……」


「生きてりゃ儲けモンだよ。今、治してあげるからね」


 アリシアを抱き起したミューアは、ウエストバッグからエルフの秘薬を取り出す。これは、アリシアとミューアが共同で作った世界最高峰の性能を持つ薬であり、重症であっても治療することが出来る。


「秘薬を? 勿体なくないですか?」


「何言ってんの。こういう時に使うものだよ。むしろ、アリシアが苦しんでいるのに使わないなんて選択肢こそ無いさ」


「でも、あまり傷はありません。どう使うのです?」


「アリシアの場合、この衰弱が問題だ。つまり、体内から治療するために飲んでもらうことになる」


 アリシアの外傷は軽く、かすり傷程度のものである。どちらかというと、強引に魔力と体力を奪われたことによる衰弱が問題なのだが、これも秘薬なら癒せるのだ。


「の、飲む…? ですが秘薬は魔結晶なのですから、ガチガチな鉱石ですよ?」


「当然このまま服用したら危ない。だから、こうするの。ほれ、口を開けて」


 あーんとアリシアが口を開くと、ミューアは秘薬を近づけた。直後、結晶体であった秘薬はドロドロに溶けだしていく。


「この状態で外傷部分に塗れば傷は完全に塞がるけど、これを飲んで吸収することで体内に効果を発揮するんだよ」


「な、なんだかマズそうですね?」


「アタシも前に口にしたけどね……なんていうか……覚悟したほうがいいよ」


「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」


「早くしないと辛いままだし、頑張れ!」


 アワアワとしているアリシアの口内に、液体となった秘薬を流し込んだ。量としては少ないのだが、


「オ、オエェェェエエ…!」


 舌に触れた瞬間、この世のものとは思えない吐き気を催すマズさが襲ってきた。他に例えようが無い不快な味であり、とにかくゲロマズなのである。

 アリシアは目を白黒させながら必死になって喉へと通そうとするが、本能がそれを拒む。


「ひぃ~…コレは本当に体内に入れていいモノなのですか!?」


「薬ってのはマズいモンだろ? 薬草だって苦いし。ほら、気合で一気に!」


 笑顔で秘薬を注ぐミューアはドSと言ってもよく、好きなコをイジりたくなる心理に近い感情が動いているようだ。勿論、アリシアに早く良くなってもらいたいという気持ちも忘れてはいない。


「うびゃぁあああ……逆に体調が悪くなりそうな…あ、なんだか元気になってきました」


 無理して秘薬をごっくんと食道に流し込んだアリシアは、途端にパッと顔色が良くなる。かなり即効性のようで、光の無かった目にも生気が宿り、体力も戻ってスッと立ち上がった。


「めっちゃ気力も湧いてきます! 元気ハツラツです!」


「お、もう大丈夫だね。エルフの秘薬に籠められた魔力が作用しているんだよ」


「空をも飛べそうなくらい体も軽いですし、ビンビンに目も冴えています! もう怖いものなしですよ! ばっちこーい!!」


「なんだかヤバい薬をキメちゃったみたいなテンションだね……」


「さあミューアさん! 先に進みますよぉーー!」


 ガッツポーズするアリシアは、キラキラと瞳を輝かせながら湿地帯を進んでいき、ミューアは慌てて後を追うのであった。






 それから暫く歩き、二人は無事に湿地帯を抜けた。魔物さえ居なければ特に危険のある地域ではないので、ルマーカスラグ亡き今は安心して通行することができる。


「ふぅ。ちょっと落ち着きました」


「普段のアリシアに戻ってくれて良かったよ。秘薬にあんな副作用があったとは知らなかった……」


 秘薬による高揚感が切れたのか、アリシアはいつも通りの穏やかな顔つきに戻っている。以前にミューアが服用した時は特に変化は無かったので、ヒトによって副作用が発生する可能性があるのだろう。


「さてと。このままの格好ではチョット居心地が悪いし、服とかを洗いたいよね?」


「そうですね。私は髪とかも汚れていますし、お腹とか胸はルマーカスラグの体液でベトベトなので……」


「あのナメクジどもめ…!!」


 アリシアを穢したナメクジの魔物達への憤怒と憎悪に取り付かれつつも、ミューアは頭を振って平静を装う。


「おあつらえ向きに小さな川が流れているから、あそこで休憩を取ろう」


 湿地帯を抜けた先の平原には細い川が流れていた。水流は穏やかで、その水の流れる音は癒しスポットであることを主張している。

 二人は汚れた服を脱ぎ、裸になって川へと入っていった。水の高さは二人の腰までであり、上半身まで浸れるほどの深さはない。


「冷たくて気持ちいいですね。火照った体には最高です」


「なんか卑猥なんだよな……」


 ミューアは逆に体温が上がるような感覚だ。なめらかで、麗しいアリシアの裸体を目の前にすれば当然の反応とも言えるが、当のアリシア自身は全く気にする様子もなく大胆に全てを露出していた。

 そんなドギマギとしているミューアの隣で水をすくい上げ、アリシアは付着した汚れを洗いはじめる。


「うーん…前はこれで綺麗になりましたかね? どうでしょうか、ミューアさん」


 腕を広げ、パッと体の前面を晒す。豊かなバストの自己主張に、ミューアは思わず目が釘付けとなっていた。


「う、うん。もう綺麗になってるよ」


「胸の下あたりは自分では見えにくいので、確認していただけますか?」


 バストが大きい場合、その下側を自分の目で見ることは困難だ。となれば、鏡などの反射を用いる必要があるが、今はそのような道具は無いので他人の目を借りるしかなかった。


「デッカい…じゃなくて、胸の下も汚れてないよ」


「よかったです。あの、背中のほうはミューアさんに洗ってもらえないでしょうか?」


「ア、アタシが!?」


「タオルとかがあれば自分で出来るのですけど、手でやるしかなくて……それだと自分では届かないんです」


「わ、分かった。やるよ」


 アリシアは湿地帯で仰向けに倒れたこともあり、その背中は主に泥にまみれている。水流で流すにも限界があり、やはり人の手で落とさなければ完全には綺麗にならない。

 

「じゃあ、触るよ」


「はい…ひゃっ!?」


 ミューアの指先が皮膚に触れた瞬間、アリシアはビクッと身を震わせる。


「ご、ごめん。痛かったりした?」


「い、いえ。指先のひんやりとした感触に反応してしまっただけなので大丈夫です」


「そっか。続けるね?」


「お願いしますね」


 今度は掌を背中に当て、ゆっくりと撫でながら動かして泥を落とす。


「肌触りが良過ぎる……」


 その柔肌を堪能するように、肩付近から腰まで手を滑らせた。くびれた脇腹部分の健康的な肉付きが一層ミューアの心をざわつかせる。


「うひゃひゃ! くすぐったいですよぅ」


「我慢我慢。もうすぐ終わるから」


 できればずっと触っていたいという欲求がミューアの中にあるも、さすがにやり過ぎては嫌われてしまうだろう。そんな事態だけは避けたいので、多少は触り心地を堪能しながらも真面目に取り組む。


「さ、こんなもんだろ」


「ありがとうございます。凄くサッパリできました」


 アリシアはクルリと振り向き、満面の笑顔で感謝する。その太陽のような笑顔を見てしまえば、ミューアは邪な思いを持った自分が情けなくなり、反省と共にバツが悪そうに頭を掻いた。


「今度は私がミューアさんを洗ってあげます!」


「べ、別にいいよ。アタシはそんなに汚れてないからさ」


「遠慮しないでください! 是非やらせてください! やりたいんです!」


「そ、そう…? なら頼もうかな」


「はい!」


 気恥ずかしさで遠慮したのだが、アリシアのキラキラとした目による圧に耐え切れず頷くミューア。実際のところ、逆にアリシアに触られるというのはご褒美でしかなかった。


「ミューアさんの体って引き締まっていてイイですね。柔らかな肌の下に、うっすらと浮かび上がる筋肉が美しいです」


「そう言われると照れる……あまり自分には魅力なんて無いと思っていたから……」


「なに言ってるんです! ミューアさんは魅力ありまくりです! マシマシ魅力です!」


「マシマシ魅力とは一体…? まあ、アリシアに褒めてもらえるなら、それだけでアタシは嬉しいよ」


 顔を赤らめ、ミューアは自然と口角を上げる。他の誰からよりも、アリシアに認めてもらえる事が幸福なのだ。


「えへへへ。もっと触っていいですか?」


「え? い、いいけど」


「じゃあ、またぎゅーってしちゃいます!」


「!?!?!?」


 後ろから抱き着かれたミューアは、天国にも昇るような気分で意識が飛びそうだった。


    -続く-

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