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爆裂、魔結晶爆弾

 大柄なナメクジ型の魔物”ルマーカスラグ”と遭遇し交戦するアリシアとミューアだが、その最中でアリシアはドジを踏んでしまった。今までの戦いの中でもトップレベルのピンチに陥っている。


「力が……もう入らない……」


 ルマーカスラグ複数体に押し倒されて、魔力をどんどん奪われていく。このままでは全ての魔力を吸われた後、生命力までもを奪われていき、最終的には干物のように干からびて死を迎えることだろう。

 そんな絶望の中にいるアリシアを救うべく、ミューアは急いで彼女のもとへと救援に向かう。


「どけよ! テメェの相手をしている暇などない!」


 立ち塞がるように目の前に飛び出してきたルマーカスラグの一体を両断した。

 防御力という観点で言えば、魔物の中でもルマーカスラグは最低レベルであり、容易に倒すことができる。


「チッ、仕留め損ねたか!」


 弱そうに見えるこの魔物の驚異的な点は再生能力だ。他の魔物も自己再生が可能であるも、これほどまでに速く、完全な再生を行う種は少ない。

 慌てていたこともあり、弱点である心臓の破壊に失敗してしまったのだ。そのため、せっかく切断したルマーカスラグが元通りの姿へと瞬時に再生する。

 

「けど今はアリシアを救うほうが先決なのだから…!」

 

 ひとまずアリシアを救助してから体勢を整えればいい。一度撤退する事も視野に入れるべきだろうが、生きていれば反撃する機会だってある。


「アリシアから離れろ! このバケモン共めが!」


 まさしく鬼の形相でミューアはアリシアに取り付いたルマーカスラグを引き剥がし、投げ飛ばして排除していく。

 さすがに脅威を感じたのか、アリシアの上に跨る残った個体も退散しはじめ、ミューアから距離を取る。


「おい! 大丈夫か、アリシア!」


「うぅ…すみません、みゅーあさぁん……」


 ぐったりとしているがアリシアは生きていた。しかし、致命的な被害を受けてはいないものの、これでは戦闘復帰は不可能だ。


「だが、逃げるのも至難の業か……」


 逃走するにも敵の追撃を振り切らなければならないが、いくらミューアの身体能力でもエルフ一人を背負ったままでは脚力も落ちるし、戦うにしても満足にはいかないだろう。


「どうするか……ン? 敵に動きがある…?」


 思案するミューアは、意外な光景を目の当たりにした。

 なんと、ルマーカスラグが次々と仲間と合体し、一つの巨大なルマーカスラグへと変貌を遂げたのだ。


「あのナメクジ共が合体をする…!?」


 このような生態についてはミューアでも知らなかったが、その全長は八メートルにも達する程の大きさである。しかも、皮膚はブヨブヨと厚くなっており、脆弱だった防御力もかなり増しているようだ。


「いやいや、いくら十体以上が合体したといっても、ここまではデカくならないだろ……いろいろと常識を無視した現象を見ているけど、これはアリシアの魔力を沢山吸収したからなのか…?」


 魔力を多量に吸収したことにより活性化し、成長も同時に行われていた結果でもあるのだろう。

 巨体へと進化したルマーカスラグは、頭の先から生えている二本の触覚を動かす。


「アレは目、じゃないな…?」


 ナメクジの目は頭部の触覚に存在しているが、どうも合体後のルマーカスラグは違うらしい。目の代わりに、触覚の先端には砲口のような器官が生えている。


「何かくる!」


 ミューアの予感は当たっていた。

 ルマーカスラグの砲口が発光して、魔弾をミューア達めがけて発射してきたのだ。


「魔弾だとッ!」


 咄嗟にアリシアを抱えてジャンプしたため直撃を避ける事に成功したものの、ミューアは冷や汗をかく。合体もそうだが魔弾まで使ってくるとは思ってもいなかったからだ。


「パワーアップしたからって……けど、コッチにも奥の手はある」


 ミューアは腰のウエストバッグに仕舞った魔結晶爆弾を取り出す。行商人の老婆から譲り受けたこの武器こそ、劣勢を覆すための切り札に成り得るものだ。

 だが、魔結晶爆弾を投げつける前に、ルマーカスラグは次の魔弾を飛ばしてくる。


「あの射撃をどうにかしないと埒が明かないな」


「なら、私に任せていただけませんか?」


「無理するな、アリシア。こんなにボロボロなんだから」


「でも一つ考えがあるんです。確実とは言えないですけど……」


 ボロボロながらも意識を保っていたアリシアは何か作戦を思いついたらしい。

 ミューアは敵の魔弾をギリギリで回避しながら、それを聞いてみることにした。


「どうするの?」


「ルマーカスラグは魔力に反応するのですよね?」


「ヤツらの主食は魔力だからね。餌を見つける能力には優れているんだろう」


「なら、私の矢を囮にするんです。魔弓による矢は魔力の塊ですから、敵は狙うハズです」


「そうかもだけど…うまく誘導できるかな」


 アリシアの言う通り、ルマーカスラグは魔弓の矢に反応を示すだろう。実際に不意打ちをかけようとした時、その矢の魔力を探知してきたのである。


「でも無理はするな。残っている魔力だって少ないだろう?」


「一射しかできないですね。でも、現状を打破するためにも懸けてみたいんです」


「…分かった。敵がアリシアの矢に注意を逸らした隙に、アタシが敵に接近して魔結晶爆弾を確実に叩きこむ」


 投げつけたところで、爆発する前に逃げられでもしたら一巻の終わりだ。それならば絶対に仕留めるためにも、敵の体に直接ぶつける勢いで仕掛ける方が勝率も高い。


「よくも私の身体を好き放題してくれましたね…!」


 体内の魔力は僅か少なく、体力も消耗しているために立ち上がることもできないが、膝立ちの状態で魔弓を構えた。

 そして絞り出すように魔力の矢を形成し、狙いも付けずに空へ向けて発射する。


「敵の背後に回り込ませれば……」


 矢は遠隔コントロールされて半円の弧を描くようにして飛び、ルマーカスラグの背後へと回り込むことに成功した。

 その魔力の塊である矢に対し、狙い通りにルマーカスラグは反応しているようだ。


「敵は矢に注意を向けたな!」


 砲口が搭載された触覚までもが矢を追尾するように動いている。ロックオンから外れた今こそミューアにとっては絶好のチャンスだ。


「サンキュー、アリシア! 後はアタシに任せて!」


 魔結晶爆弾を握り、全力のダッシュで突撃するミューア。このまま至近距離へと肉薄すればタッチダウンを決められる。

 しかし、ルマーカスラグも猛スピードで迫る者に気がつき、触覚を振り向かせて迎撃の姿勢を取る。 

 

「そうも隙を晒したんだ。今更攻撃しようとも、もう遅い!」


 勢いに乗るミューアはスポーツ選手が極集中している状態にも似た、いわばゾーン状態へと意識が突入していた。そのため、敵の魔弾の軌道を予測するように見切り、スライディングを駆使してくぐり抜けるという芸当すらこなしてみせる。


「至近距離まで迫れば魔弾は使えんな?」


 ミューアとルマーカスラグの距離はもう二メートルもない。こんな近くでは魔弾着弾時の爆発に使用者自身も巻き込まれてしまうわけで、威力の高さがアダとなって使えないのだ。

 

「接近戦ならアタシが有利だ!」


 剣戟の一閃によってルマーカスラグの体が裂かれるも、その傷は瞬時に塞がれていった。異常なまでの再生能力は更に進化し、ダメージを受けた瞬間から治っていっているらしい。


「コイツは無敵か? けど、生命力の中心である心臓さえ破壊してしまえば…!」


 この敵を撃破するためには、一撃必殺をもってして勝負を決めるしかないのだ。

 ジャンプして触覚の一本を切断し、頭部の上へと着地した。ぐにゅっという気色の悪い柔らかな感触が靴を通して足に伝わり、ミューアは不愉快そうに口角を下げる。


「弱点となる心臓を直接攻撃するには、こうさせてもらう!」


 魔結晶爆弾にミューアの魔力を注ぐことで起爆準備を整えた。こうする事で数秒後に結晶体内部から炸裂して爆発を引き起すのである。

 そして、起爆寸前の魔結晶爆弾は大きな魔力反応を示す。つまり、ルマーカスラグに餌と誤認させる事もでき、それがミューアの狙いであった。


「ほれ、コイツなら喰っていいぞ」


 ヨダレを垂らして歪んだ口を開くルマーカスラグ。ともかくも魔力を吸収したい大喰らいなこの魔物は、頭の上に乗る獲物を丸飲みするべく身を反らした。

 そんな相手の口を狙い、ミューアは魔結晶爆弾を投げつける。


「ったく、自分が口にするモンくらい確認しなよ」


 ルマーカスラグには言葉は通じないので、ミューアの忠告など当然理解することもなく、魔結晶爆弾は食道器官へと呑み込まれていく。

 直後、カッと眩い光がルマーカスラグの体内から発せられた。魔結晶爆弾が爆裂したのだ。


「…やったな」


 巨大ナメクジの体は粉々になって砕け散る。体内での強烈な爆発だったため、間近にあった心臓などひとたまりもない。一瞬にして消滅し、ルマーカスラグの命は再生など出来ずに完全なる死を迎えた。

 グチャグチャの残骸が周囲に撒き散らされて、退避したミューアにも振りかかった。


「うげぇ……ま、まあ勝てたし、一件落着だな。やったよ、アリシア」


 額を拭いながら、アリシアへと振り返る。すると、ぐったりとしながらも弱々しい笑顔を浮かべ、アリシアは小さなピースサインを送っていた。

 ミューアは一安心して、その彼女のもとへと戻っていくのであった。


    -続く-

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