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ルマーカスラグの恐怖

 行商人の忠告を受けながらも湿地帯を進んでいくアリシアとミューア。

 この先はルマーカスラグと呼称される大きなナメクジ型の魔物が群れで支配している地域となり、そこに足を踏み入れれば交戦は免れられない。


「泥のぬかるみが強くなってきたな。また足を取られないように気を付けてね」


「はい。一度目は油断しましたが、今度は大丈…おわっ!?」


「ア、アリシア!?」


「ひーん…また足がズボッって泥に嵌っちゃいました……」


「またか……」


 完全なるデジャブであるが、再びアリシアは緩い泥の中に足を突っ込んでいた。確かに歩きにくくなってきているとはいえ、これが魔物との交戦中であれば致命的である。

 困り眉のまま脱出したアリシアを連れて歩いていると、


「ストップ。敵がいる」


 ついにルマーカスラグの姿が見えてきて、ミューアが手でアリシアを制止した。

 エルフの頭部並みの大きさのルマーカスラグは、地形の悪さをものともしないように地面を這っている。その動きは緩慢で、目視できる限りでは二十体が群れを築いていた。


「あのナメクジさん達が……相手はコチラに気がついていませんし、先制攻撃をかけましょう」


「やってみるか。しかし、爆弾を投げ込もうにも、わりと散らばっているな」


「魔結晶爆弾の火力でもダメそうですか?」


「一軒家くらいなら吹き飛ばせる威力はあるけど、これでも足りないな」


 敵はそれぞれ仲間との距離を取っていて、一か所に固まらず分散しており、このままでは魔結晶爆弾を投げつけたとしても全滅させられない。たった一発しかないので、使用するならもっと有効打となるタイミングで見計らいたいものだ。


「なら、私が射撃します。距離はありますし、一方的に倒せるハズです」


「まぁそうなんだけど、ヤツらは交戦状態になると結構なスピードを出してくる。さすがは魔物といったところで、普通のナメクジとは違うんだ」


「案外素早いのですか……」


「あと、ルマーカスラグは心臓を破壊しない限り再生するから気を付けろ。確実に、一撃で仕留めないと数を減らせない」


「ふむふむ。ともかく、やってみるしかないですね」

 

 アリシアは背負っていた黄金の魔弓を装備し、魔力の矢を形成した。そして狙いを定めようとしたのだが、


「ルマーカスラグが私達に気がついた…!?」


 先程までノンキな低速移動をしていたルマーカスラグ達が、一斉にアリシアの方を向いたのだ。攻撃準備をしている事を察知したらしい。


「敵は魔力を探知する力に優れているらしい。アリシアの矢は強力な魔力の塊だし、嗅ぎつけたな」


 魔力を主食としているルマーカスラグ達は、久方ぶりの食事の時間であると興奮しているようだ。捕食器官である口を大きく開けて、まるで地面を泳ぐようにして勢いよく突撃を始めた。

 もはや通常のナメクジとは根本的に異なる機動力であり、アリシアは驚きながらも引き下がらない。


「やってやるです!」


 昔の彼女なら逃げ去っていただろう。

 しかし、修羅場を経験したアリシアには度胸が付いている。


「頭の中でコントロールできるのだから…!」


 放たれた矢の遠隔操作を脳内で行い、接近するルマーカスラグへと軌道修正して直撃させることに成功した。その個体の体はグチャッと弾け、前後に真っ二つになって動きを停止する。

 だが、静止したのは一瞬であった。直後、心臓を内包したほうの残骸が、もう一つの残骸へと移動をして合体したのだ。


「再生していますね…!」


「本当に厄介な敵だ。行商人の言う通りに爆弾で弾き飛ばすのが最適解なんだろう……けど、倒せないわけではない!」


 ミューアは剣を抜き、敵に目掛けて駆け出していく。アリシアに語った通り、以前にもルマーカスラグと交戦した経験があるので、ある程度は対処できる自信はある。


「弱点さえ潰せば勝てる!」


 飛びかかってきたルマーカスラグに対しミューアは縦振りに剣を振り下ろした。鋭い刃によって見事なスライスが完成して、正面から二分されて力なく落下していく。


「これで復活することはできないな!?」

 

 ミューアは的確に心臓を破壊していたのだ。それによって完全に絶命して、もう再生することはできない。


「さすがです! ミューアさん!」


「へへ! 見習ってくれたまえよ」


 称賛を受けるミューアは得意げな顔で返答し、次に襲い掛かってきた一体も撃破する。

 ミューアのもともとの戦闘力の高さもあって優勢に進んでいると思えたが、ルマーカスラグも攻勢を強めて反撃に移った。


「ワラワラと寄ってきやがって!」


 ミューアの魔力も感知したルマーカスラグは部隊を九体ずつの二つに分け、二人のエルフに対して同時攻撃を開始する。

 

「フン…コイツらは突撃するしかない脳筋とは違うってか! アリシアと一度合流するべきだな…!」


 知能が有るようには見えない魔物なのだが、その思い込みは間違いであるようだ。ただ一辺倒に突進するのではなく、均等に戦力を分けエルフを孤立させて殺そうと画策しているのである。

 こうなればアリシアとミューアは個別にではなく、連携して戦ったほうが勝率も上がるハズだ。

 しかし、


「アタシとアリシアとの間に割って入ろうというんか!?」


 ミューアの行く手を阻むようにルマーカスラグが立ち回り、合流することを阻止しているように見えた。


「邪魔をして!!」


 苛立ちを隠せないミューアは強引に突破しようと全身に力を籠める。この程度の敵であればミューアの身体能力の方が上回っているので、そう難しいとは思えなかったが、


「コイツら、鬱陶しいな! 纏わり付いて…!」


 前、横、後ろからルマーカスラグが飛びかかってミューアの体に纏わり付く。

 確かに敵が単体であれば容易に振りきれるだろう。だが数の暴力の差を前にしては、個体の戦闘力など覆ってしまうのだ。


「簡単にやられるかっての!」


 ミューアはルマーカスラグを振り払い、一体を剣でトドメを刺す。

 この強烈な攻撃を目にすれば人間ならば怯え竦んでいたろうが、恐怖という感情を知らない敵は攻撃の手を緩めない。


「チッ! こうも足止めをくらっては……アリシアは…!?」


 こうなれば気になるのはアリシアだ。

 傭兵として駆け抜けてきたミューアであれば劣勢でも逆転の道を探す事ができるだろうが、まだ素人の域を出ていないアリシアではパニックに陥ってもおかしくない。


「ぴゃーーーっ!!」


 案の定、アリシアは魔弓を抱えたままルマーカスラグから逃走を図っていた。

 魔弓は遠距離戦において有効な武器であるも、近接戦ともなれば後れを取るのは当然だ。

 一応はサブウェポンとしてナイフを持っているが、いかんせんアリシアの近接戦闘力は高くない。この窮地を脱するだけの力とは成り得ないだろう。


「おわーーっ!?」


「ア、アリシア!?」


「足がズボァと泥に嵌ってしまいましたー!」


「また!?!? って、このやりとりも三回目だ!」


 そろそろ足場の悪さを学習するべきところだ。まあピンチで慌てているので今回は仕方ないとも言える。

 だが、これが更なるピンチを招く事態であるのは間違いない。そう、まさしく今は戦闘中なのだから。


「ルマーカスラグが…!」


 足を止めてしまったアリシアは、ルマーカスラグにとっては格好の餌食にしか過ぎなかった。

 焦ってぬかるんだ泥から抜けられないアリシアに対し、最大スピードで迫っていく。


「うわっ!」


 そして、アリシアはルマーカスラグ達によって押し倒されてしまった。グチャッと音を立てて盛大に泥を飛び散らせ、アリシアの背中や髪の毛を汚す。


「か、身体に這い回って…!」

 

 蛆虫のように餌であるアリシアに群がっていくルマーカスラグ。服をめくり、その柔肌に直接口を吸いつけた。

 通常のナメクジはヤスリ状に並んだ歯によって、餌を削りながら体内に摂取している。しかし、このナメクジ型魔物の口に歯は無く、吸盤のように対象にくっ付いて魔力を吸い取るのだ。


「や、やだ……」


 魔力を無理矢理奪われるアリシアは、もはや体に力が入らず身をくねらせる事しかできない。当然ながら、その程度の動きで敵が振り落とされるわけもなく、おぞましい食事は止まらなかった。

 話に聞いていたルマーカスラグによる捕食を身をもって体験するアリシアの意識は徐々に薄れていく。


「くそっ、アイツらアリシアの身体に…! うらやま…じゃなくて、全くけしからん行動はヤメロ!!」


 その光景に激怒するミューアの心には魔物共への嫉妬心というか、明らかな不純な感情も含まれてはいるが、ともかくアリシアの身を案じているのは確かだ。

 自らの周囲に群がるルマーカスラグを振り払い、あるいは蹴り飛ばしてアリシアのもとへと駆けだした。


    -続く-

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