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新たな行動指針

 廃坑での戦闘を終え、ピオニエーレから奪取した高純度の魔結晶を携えて二人はスティッグミへと帰還した。

 一応は当初の目的を達成したが、討つべき敵であるピオニエーレを倒せなかったことは心残りではある。


「にしても、アリシアの魔弓には驚いたよ。脳内イメージによる誘導攻撃が可能なんてさ」


「私もビックリですよ。扱いが難しいので最初は合わない武器かもと思いましたが、慣れると便利なので今後も使っていきたいです」


 アリシアは背負っていた魔弓を手に持ち、黄金色の表層を優しく撫でる。この魔弓のおかげでデモン・イーグルという空戦型の魔物を追い払えたわけで、以前に使用していたミューアから貸してもらっていた魔弓ではピンチを乗り越えられなかっただろう。


「それに嬉しいんですよ。こんな私でもミューアさんのお役に立てたことが」


「アリシアの功績はめっちゃデカかったもんな。でも、そんなに気負わなくていいんだよ? 出来る範囲で戦ってくれればさ」


「ミューアさんに救われたこの命は、ミューアさんのために使おうという所存ですので!」


「お、重い決意だね」


 グッと拳を握るアリシアの決意表明は、ミューアにとって嫌なものではない。むしろ、誰かが自分のために頑張ってくれるというのは幸福なことだ。

 しかも、その相手がアリシアなら尚更である。というのもミューアは間違いなくアリシアを特別な存在として見ており、傍に居て欲しいという欲求を持ち始めていた。


「別にさ、そのさ……アタシとしては、アリシアが一緒に居てくれるだけで嬉しいからさ……」


 ウブな片思いをしているように、ミューアは頬を赤く染めてブツブツと呟く。普段は豪快に剣を振るっているエルフとは真逆の印象だ。


「そんな事でいいんですか?」


「ま、まぁね。だから無理して死なれてしまったら最悪だよ」


「えへへ。じゃあ、ぎゅーってしちゃいます!」


 ほんわか笑顔のアリシアがミューアの腕に抱き着いた。無邪気な子供のような振る舞いは愛らしく、ミューアの鼓動がスピードアップしていく。


「ヤバい…マジで可愛い……」


「ん? なにか言いましたか?」


「あ、いや。なんでもないよ」


「もしかして、汗臭かったですかね!?」


「全然んなことないよ。むしろアリシアの汗なら…ううん、落ち着けアタシ……」


 泳ぐ目を空に向け、激しく打つ心臓の音が聞こえないように冷静さを必死に取り戻そうとするが、柔らかく温かなアリシアの感触をダイレクトに味わっている現状では不可能だ。

 腕にアリシアをくっ付けたまま、酔っているかのように千鳥足で宿へと戻って行くのであった。






 宿の部屋へと帰還した二人は、木製の床に座って一息つく。ミューアはアリシアが腕から離れてしまってので少々ガッカリしているが、密着している間は妙なテンションになってしまうのでクールダウンする必要もあるだろう。


「あの、ミューアさん。エルフの秘薬とはどう作るのですか? その魔結晶を使えば出来るのですよね?」


「おう。じゃあ早速とやってみようか」


 奪ったカバンを開けて中の魔結晶を取り出す。その総数は四つであり、一つ一つが拳大の大きさである。


「では、まずは魔法陣を展開するよ」


 ミューアは床に向かって掌をかざす。すると淡い光が床から立ち昇りはじめ、やがてマンホール大の円形に収束していく。


「おお! 床に丸い紋様が現れましたね」


「エルフ族の魔力を籠めた魔法陣さ。アリシアにも後でやり方を教えてあげる」


 そして、その魔法陣の上に魔結晶を置いた。これでエルフの秘薬を作る準備が整ったようだ。


「でな、ここからが大変なんだ」


「どうするんです?」


「ひたすらに魔力を送り続ける!」


 なんとも単純な作業であるも、かなりの重労働だ。ここから先、秘薬が完成するまでの間ずっと魔力を流し込み続けなければならず、休憩もできないのだから。


「どのくらい時間が掛かるのですか?」


「うーん、だいたい六時間くらいか。トイレにも行けないから辛いんだよね」


「結構な時間ですね。でもでも、私も協力すれば半分の時間で済むかもですね」


「なるほど。アリシアの魔力も流してもらうというわけだね。確かにエルフ族のアリシアであれば問題ないな」


「お任せください!」


 ミューアのマネをし、アリシアも魔法陣に対して手を伸ばす。その直後、魔法陣の光はより一層輝きだしていき、上に乗っている魔結晶が軽く振動していた。


「なんだか、共同作業感がありますね」


「確かに。戦闘の時だっていわば共同作業だけど、平和にしたいものだよねぇ」


「ふふ、新婚さんみたいですね、私達」


「新婚!?」


 そういうことを恥ずかしげもなく言えるのがアリシアで、ある意味で小悪魔的でもある。

 ミューアは魔法陣を挟んで対面にいるアリシアをチラチラ見ながらも、秘薬作りの手はなんとか止めずに続けていた。






 それから約三時間後、魔法陣に置かれた魔結晶が強く振動して、ひと際強く輝きを放った後に動きを止める。二人で魔力を送ったおかげで、本来の製作時間の半分で完成したのだ。


「よっし、おーけー」


「ほわぁ、疲れましたぁ。使う時は一瞬ですけど、作るにはこうも労力が必要なのですね」


「物作りってのは苦労の塊なのさ。でも、これで多少は安心して戦えるね」


 ミューアは秘薬を持って出来栄えをチェックし、その内の二つをアリシアに渡した。


「半分こで持っておこう。そうすりゃ互いに怪我した時にフォローし合えるから」


「あ、はい。なるべくなら使う機会は無いほうがいいですね」


「だな。いくら重症でも治せるとはいえ、怪我すりゃ痛いし」


 しかし、戦いには負傷と死のリスクは付き物だ。どちらかというと、無傷で帰れるほうがレアケースである。


「じゃあエルフの秘薬作りは完了として、明日からの予定を立てないとな」


「今は特に依頼などを引き受けている状況ではないですし、どうしましょう?」


「まず、アタシ達がやるべき事はピオニエーレの討伐だね。アイツがいる限り、新たな被害が出るのは間違いない」


「はい。ですが居場所が分かりません……廃坑では偶然に遭遇しましたが、ピオニエーレが何処を根城にしているか不明ですし……」


「そこでな、アタシは”エルフの雷”を探すのはどうかなと思うんだ」


「ピオニエーレの探している伝説の武器ですね。しかし、存在が疑わしいのでは?」


 ミューアは以前、エルフの雷と呼ばれる伝承を信じていないと言っていた。そのため、アリシアはどのような心境の変化なのかが気になったのだ。


「うさんくさい話の物だと思っていた。けど、ヤツがあんなに真剣に求めているとなれば、なにかしら存在の確証があっての事なのかもしれない。アタシ達が知らないだけで、エルフの雷に関する情報をヤツは知っているかも」


「もしそうならズルいです! フェアじゃありません! 私も知りたいです!」


「お、おう……で、となればアタシ達も情報を集めよう。もし実在するならばヤツより早く入手して、破壊するなり対処しないとならないし。さもないと、ヤツはエルフ族長を名乗って傍若無人な行いを働くだろうからね」


「しかしエルフ族の村は無くなってしまいましたし、どうすればいいのでしょう……」


 肝心の手掛かりとなるエルフの村は滅亡してしまった。そんな状況で伝承を調べるには骨が折れることだろう。


「情報ってのはヒト族の集まるところに集約するもんさ。つまり、人口の多い街にこそヒントが転がっている可能性がある」


「なるほど!……つまり、ドコに行けばイイのです?」


「王都さ」


「嘔吐?」


「いや吐くほうじゃなくて……このビロウレイ王国で最も大きな中心都市のことだよ」


 村の外の世界を知らないアリシアには王都という言葉すら新鮮なようだ。そんなアリシアがこの先を生きていくには、もっとミューアが色々と教えていく必要があるのは間違いない。


「エルフ村の上層部は人間の王族や貴族達と深く関わりがあったようだ。村はビロウレイ王国領土内にあったわけだから当然だけどね。そうなれば、王都にエルフ族に関わる情報があるだろう。もしかしたら、エルフの雷のことも」


「おお! じゃあ早速行きましょう!」


「待て待て。明日からの予定と言ったっしょ。今日は秘薬作りで魔力を消耗してしまったし、回復してからでないと道中魔物に襲われたら対処できないぞ」


「ですね。確かに疲れました」


「そもそも王都までは結構な距離があるし、すぐに辿り着けるもんじゃない。暫くは旅をすることになるから、こうしてゆっくり休める機会には休んでおこうな」


 旅ともなれば、その道中では野宿が基本になるだろう。途中にある人間族の町や村に立ち寄りはするが、キチンとした宿があるとも限らない。

 二人は秘薬を仕舞い、寝床に就く前に体を洗い流すのであった。


    -続く-

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