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ミューアの酒癖

 アリシア達を労うための宴も終わり、深夜となって二人は解放された。

 無料で食事が振る舞われたこともあって、たらふく食べて満足なアリシアは用意された宿に向かうべくミューアに声をかける。


「ロートの役所の方が私達に宿を確保してくれたそうですよ。今日は疲れましたし、もう帰って休みましょう」


「うにゃ~……まだ飲ませてくれよぉ~」


「ミュ、ミューアさん…!?」


 アリシアが食事をしている間に、ミューアは完全に酔っぱらっていたようだ。呂律の回らない口調で、しかも視線は泳いで焦点が合っていない。

 いつもは頼れる存在であるミューアが、こうもヘロヘロになっているのを見て、アリシアは目を丸くして驚いている。


「ミューアさんは沢山お酒を呑まれていたので……アルコールに強いと思ったんですけど、案外そんな事はなかったみたいですね」


 共に酒を呑んでいたカナルが、フラつくミューアを支えて座席に座らせた。


「お二人に用意された宿はココから近いので、ミューアさんをお運びしましょう」


「あ、はい。ありがとうございます、カナルさん」


 一人で歩くことが困難なミューアを、アリシアとカナルが両側から抱えながら酒場を出て、近くにある小さな宿へと運んでいく。その中の一室、質素なベッドとテーブルだけが置かれた部屋が今日の宿だ。


「あとは私が。助かりました、カナルさん」


「いえいえ。では、明日になったら役所に併設された保安課へお越しください。今回の依頼の報酬が支払われますので」


 そう言ってカナルは敬礼し、宿を後にする。

 アリシアはミューアを寝かしてあげようと、整えられたベッドへと誘導した。戦闘を経ての夜なので、本当ならお風呂に入らせてあげたいとも思うが、酔っている状態では入浴など不可能だ。


「疲れたでしょうから、ゆっくり寝てくださいね」


 ミューアをベッドの上に横たえた、その瞬間、


「わわっ!? ミューアさん!?」


 強い力で引っ張られ、アリシアもベッドの上に転がる。しかも、その上にミューアが覆いかぶさってきたのだ。


「ど、どうしましたか!?」


 二人の体は密着し、お互いの柔らかな感触が伝わり合う。

 

「アリシア…可愛いよ」


「ほ、本当にどうしたんですか!? 酔った時のクセが強いですね!?」


「アタシのコト、嫌い?」


「嫌いなわけないですよ。もし嫌いだったら、二人きりになったりしません」


「そっか。じゃあ……」


 ミューアは顔を近づけ、熱を帯びた唇をアリシアの耳元に寄せる。


「今夜はアタシの好きにさせてくれる?」


 ドキッと鼓動が跳ねるアリシアは、普段とは違いすぎるミューアの行動に戸惑いつつも、しかし拒絶する気持ちではなかった。


「べ、別にかまいませんが…?」


 何故かは本人にも分からないが、まるで魅了されたように全てを受け入れている。それは、アリシアもミューアを他のエルフや人とは違う特別な相手と認識しているからだろうか。


「お酒のニオイが……わ、私まで酔いそうです」


 ミューアから漂うアルコールのニオイが鼻孔を刺激し、一滴も呑んでいないにも関わらずクラクラとしてしまう。飲酒経験の無いアリシアには少々キツかったようだ。


「ちょ、ミューアさん!?」


 そんな中で、ゆっくりとミューアは体を動かしていき、アリシアの胸の谷間へと顔を埋めた。温かく、少し汗で濡れた柔肌が、ミューアの整った顔を包み込んでいく。


「なにをして!?」


「むふぅー……うへへぇ~、たまらないっす……」


「く、くすぐったいです…あまり動かないでください……」


「どーしてぇ~? いいじゃんさぁ~」


 ビクッと体を震わせるのが面白いのか、ミューアはワザと頭を動かしてアリシアに刺激を与える。

 

「ええーい! こうなれば服も脱いでしまおう!!」


「ぬわーっ!? ふ、服はご勘弁を!」


「よいではないか! よいではないかぁー!」


「ひぃー! お助け~!」


 駄々をコネるように抵抗するアリシア。しかし、本気の力は入れておらず、もはやされるがままだ。

 そのうちにミューアは大人しくなっていった。

 

「……ん?」


 やっと落ち着いたのかと、ミューアの様子を確認する。すると既に気持ちよさそうな寝息を立てていて、ぐっすりと夢の世界に落ちていた。

 さっきまでアレほど騒いでいたのに、なんという切り替えだとオカシクなってアリシアはフフッと小さく笑う。今は、まるで嵐が過ぎ去ったかのような静寂が部屋を支配している。


「ふふ…おやすみなさい、ミューアさん」


 ミューアに布団を被せ、アリシアも隣で横になって向かい合いながら瞼を閉じる。

 その夜は、これまでにない程の安眠であった。






 翌朝、目を覚ましたミューアはガンガンと痛む頭を抑えながら、上体を起こして自分の置かれた状況を確かめる。記憶にある限りでは、酒場での宴で多量に飲酒をしていたのだが、それ以後の事は全く憶えていなかった。


「あ……ここはベッド? どこかの宿にいるんかな?」


 カーテンから差し込む太陽の光が眩しく、目を細めながらキョロキョロと周りを見渡す。

 すると、隣で密着するようにアリシアが寝ている事に気がついた。


「ア、アリシア…?」


 小さな寝息を立てるアリシアの愛らしい顔をジッと見つめるミューア。そして、我慢できずにそっと頬に手を伸ばす。


「んぁ…みゅーあさん…?」


「お、起きた!?」


 体を少し揺らし、アリシアも目を覚ましてゆっくりと首を動かす。

 ミューアは伸ばしていた手を慌てて引っ込めて、触ろうとしていたコトがバレていないかヒヤヒヤとしていた。だが、昨晩の痴態を考えてみれば、この程度は些細なものであるも、当の本人に記憶が無いのだから仕方がない。


「おはようございますぅ…えへへ、もう起きていたんですね」


「アタシもさっき起きたところだよ。てか、ココはドコ?」


「え、ああ、ここは宿ですよ。ロートの役所で手配してくれたんです。で、昨日の宴が終わった後に私とカナルさんでミューアさんを運んできたんです」


「なるホドね。いやぁ、飲んでた時の後を全く憶えてなくてね」


「じゃ、じゃあ…昨晩の事も…?」

 

 参った参ったと頭をポリポリと掻くミューアに対し、アリシアは顔を赤らめながら視線を逸らす。かなり恥ずかしがっている様子で、もじもじと太ももをすり合わせていた。

 その色っぽい仕草に、ミューアは目を離せずにいる。


「昨晩? 一体、何が?」


「私を押し倒して、胸を好き放題に……」


 若干語弊を招く言い方であるが間違いではない。


「!? そんなコトをしたのか、アタシは…?」


 頭を抱えてミューアはうずくまる。いくら酔っていたからとはいえトンデモない迷惑行為を働いてしまったわけで、これでは嫌われてしまって当然だろう。


「ゴメン!! 今更言ってもだけど、本当にゴメン……」


 ベッドの上で綺麗な土下座をきめる。このまま殴り飛ばされようが、踏みつけられようが構わないという覚悟も併せてだ。


「いえ、いいんです。頭を上げてください」


「けどさ……」


「確かに少し驚きましたけど、なんていうか、酔っているミューアさんは…魅力的でした」


「えっ?」


「嫌じゃなかったですよ。あっでも、ミューアさんが相手だからであって、もし他の方だったら嫌ですけどね!」


 何故か謝られているアリシアが言い訳をするように早口である。それは、誰にでも押し倒されて喜ぶようなエルフだと思われたくなかったからだ。


「ふふ、それにしても、きっとミューアさんは欲求不満だったんですね?」


「あ、いやぁ…そうだったのかもしれん……」


「それに、命に関わる事態に直面すると、子孫を残そうとする本能が働いて欲求が強くなるんですって。なので、特に前衛を務めているミューアさんなら尚更その本能が高まったのでしょう」


「そうなの…? 意外な知識を持っているね?」


「えっへん! 博識エルフさんと呼んでください」


 胸を張って知識自慢をするアリシア。ともかく、彼女が気にしていない雰囲気だと分かってミューアは安堵している。


「さて、今日はロートの保安課に向かいましょう。昨日の依頼の報酬を渡してくれるそうですよ」


「分かった。じゃあ、支度をしちゃおうか」


 軽く体を洗い流し、衣服を整えた二人は宿を出るのであった。






「ここに居たさね! 探したよ、エルフのお二人さん」


 アリシア達が報酬を受け取った後、保安課の外にて赤いスカーフを身に着けた女性、ノブルが手を振りながら近づいてきた。そもそも、ノブルを探すためにロートを訪れたのだ。


「あ、ノブルさん! 怪我が無くて良かったです。アナタのお母さんが心配していましたよ」


「まさか首狩り族に攫われるとは思ってもみなくてさ。二人のおかげで助かったよ。本当にありがとうな」


「いえいえ。お役に立てて私も嬉しいですよ。ささ、スティッグミに帰りましょう」


 もしアリシア達が来なかったら、ノブルは首狩り族によって命を絶たれていただろう。その悲劇の未来を阻止し、自らの行動で救うことが出来てアリシアも満足であった。


   -続く-

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