第十章 動詞 前
354. 動詞の屈折を活用と言います。 活用に際して、動詞の語根は、 何らかの接頭辞や終端が付加されることで、 形を変えます。 そうすることによって、 態、時制、法、人称、数 の違いを表します。
355. 態には二種類あります。
能動態、パーリ語 parassapada (直訳: 他人のための語)
反射態、パーリ語 attanopada (直訳: 自分のための語)
356. 能動態 parassapada は、その動詞の意味する行動の成果や結果が、 主語や動作主とは異なる別の人や物に渡るときに使われる、ということができます。 反射態 attanopada は、その動詞の意味する行動の成果や結果が、 他ならぬその動作主に生じるときに使われます。 反射態は、その動作主が、その語根に表される行動をとる能力を持っている、 あるいは、その語根に表される状態にある、ということを 暗示するのみです。
357. ここで注意しなければいけないのは、反射態はその重要性を かなりの部分失ってしまっているということです。 能動態と反射態の区別は、全てとは言わずともほとんど失われてしまい、 能動態と反射態の使い分けは大部分、韻律の要請によって決まります。 従って、反射態、あるいは「中動態」とも呼ばれる態が使われるのは、 詩に限られます。散文にはまれにしか出てきません。
358. 時制には六種類あります。
現在: 現在と、歴史的現在 (訳註: 元の語は its[=present] preterite。現在形を使って過去のことを表すこと) を表します。
未完了: 元々は特定できる程度の昔を表していました。
アオリスト: 最近過ぎた過去を表していました。 今はこれがパーリ語で唯一の本物の過去時制です。 非常に広範囲に使われます。
完了: 元々は特定できないほど昔のことを表していました。この時制が使われるのは 非常にまれです。
未来: 一般的な未来と、歴史的未来を表します。 (訳註: 歴史的未来という用語は訳者のでっち上げです。 元の語は its[=future] preterite。苛立ち・驚き・嘆きなどの感情を未来形で表現できるのですが、その場合、過去のことでも未来形にします。 おそらくそのことを指しています)
条件: 何か過去のものと比べて未来の時間を表します。 また、実行に際して何か障害があって、完遂できない 行動を表します。
359. 現在時制には法が三つあります:
直説法
命令法
希求法
360. 現在時制、完了時制、未来時制には、 それぞれに関連付けて呼ばれる分詞があります。
現在分詞
完了分詞
未来分詞
注意: 完了分詞はほとんどの場合その語根から作られて、 主に、過去かつ受動の意味になります。 また、中動の意味になることも時にあります。
361. 必要の分詞、あるいは未来受動分詞、 可能分詞と呼ばれるものもありますが、 これは単に動詞的形容詞のことです。
362. 現在分詞と未来分詞は、作るときに元にする語基によって、 能動の意味になったり受動の意味になったりします。
363. 動詞的名詞には二種類あります:
不定詞: 対格形です。まれに与格形のこともあります。 活用せず、時制とも関係しません。パーリ語の不定詞は、 英語の不定詞と同じ普通の意味です。
いわゆる動名詞: これは単に、絶対分詞 (訳注: 英文法で言う「絶対分詞(独立分詞)構文」) の 意味合いをもつ派生名詞の格形のことです。
364. 数には二つあります: 単数と複数です。
365. 人称には三つあります: 一人称、二人称、三人称です。
366. 以上から、時制のグループは明確に四つの系統に分けることができます。
現在系統
-直説法現在時制、と歴史的現在
-未完了時制
-命令法現在時制
-希求法現在時制
-現在分詞
アオリスト系統
-アオリスト時制 (のみ)
完了系統
-完了時制
-完了分詞
未来系統
-未来時制
-条件時制
-未来分詞
367. 現実的でない虚構的な分類ですが、 特殊時制と一般時制に分けることもあります。 このように分けると、特殊時制は特殊な語基、 つまり語根に修正を加えた形から作られて、 一般時制は語根そのものから作られる、という風に 考えてしまいがちです。しかしそれは間違いです。 後に注意しますが、特殊時制と一般時制で語基が交換されることは、 まれではありません。
368. ではどういう分類かというと、 現在系統は飛びぬけて最も重要であって、活用の違い、すなわち 動詞の分類の基礎となるものですから、 これを「特殊時制」と呼ぶのです。 次の節で、現在系統 (特殊時制) の語幹・語基の作り方を説明します。 それには十種類あり、七つの活用に分けられます。 これらの語基を「特殊語基」と呼びます。
369. 動詞の活用は、さらに原始活用と派生活用に分けられます。
(A) 原始動詞
現在系統の特殊語基の作り方
活用
370. 第一活用の動詞には、現在幹・語基の作り方が、以下のように四つあります。
(1) 語根が子音で終わり、a を付加するだけで語基・語幹ができるもの。
例
語根 //// 語基
√pac料理する //// paca
√labh得る //// labha
√mar死ぬ //// mara
√rakkh守る //// rakkha
√yāc乞う //// yāca
√vad言う //// vada
√tar渡る //// tara
√jīv生きる //// jīva
√bhar運ぶ //// bhara
371. i,u + 子音 で終わる語根は、母音(i, u)を強調する場合があります。 しない場合もあります。 いずれの場合も、この区分に属します。
例
(強調しないもの)
語根 //// 語基
√tud突く //// tuda
√phus触る //// phusa
√likh書く //// likha
√nud追い払う //// nuda
(強調するもの)
語根 //// 語基
√gup見守る //// gopa
√subh輝く //// sobha
(2) 活用の標識 a を使わないもの。各時制の人称語尾は、 語根に直接つなげます。
例
語根 //// 語基
√yā行く //// yā
√vā吹く //// vā
√ṭhā立つ //// ṭhā
√khyā告げる(接頭辞āとともに) //// khyā
√brū話す //// brū
注意 (a) i, ī, u, ū で終わる語根のうち、a を付加したときに 対応する半母音形に変わらず、強調形 (109, 104-107) になるものは、 ここに分類できるといえます。
例
語根 //// 語基
√nī導く //// ne(もしくはnaya→(3))
√ji勝つ //// je(もしくはjaya→(3))
√hūである //// ho
√ku鳴る //// ko(もしくはkava→(3))
注意 (b) これら一見純粋な語根に見える、変形した語根に、 人称語尾が付きます。語根 yā, vā, ṭhā (→(2)) と同様です。
注意 (c) これらの語根は二つの特殊語基を持ちます。 語根末尾の母音が i, ī のときは e もしくは aya の形になり、 語根末尾の母音が u, ū のときは o もしくは ava の形になります。
(3)語根が i, ī もしくは u, ū で終わり、活用の標識 a を付けると、 各々 ay, av に変化するもの (103-110)。
例
語根
語基
√nī導く //// (√nī+a=) //// naya
√ji勝つ //// (√ji+a=) //// jaya
√bhūである //// (√bhū+a=) //// bhava
√ku鳴る //// (√ku+a=) //// kava
√khi統べる //// (√khi+a=) //// khaya
(上記 (2) の注意 (a), (c) も参照のこと)
(4) 語根を畳音することで特殊語基を作るもの。
例
語根 //// 語基
√ṭhā立つ //// tiṭṭhā
√dā与える //// dadā
√dhā置く //// dadhā
√hā捨てる //// jahā
√hu捧げる //// juho
注意: これらは、現在時制や命令法の人称語尾が後ろに続いても、 長い ā を保持します。
372. 畳音の規則は以下のようになります。
畳音とは、語根の中の最初の子音とその次の母音を、 繰り返すことです。 語根が母音で始まる場合は、その母音のみが重ねられます。
喉音には、対応する口蓋音を重ねます。
無気音には、常に無気音を重ねます (§9 の表を参照)。 つまり、無気音には、常にそれ自身を重ねるということです。
語根が h で始まる場合、j を重ねます。
帯気音には、無気音を重ねます。
v には、一般的に u を重ねます。
畳音の音節内では、長母音は短くなります。
-a, ā は、畳音内では a になります。
-i, ī は、畳音内では i になることがあります。
-u, ū は、畳音内では u になりますが、a になることもあります。
-語根の i は、しばしば e に変わります。
-語根の u は、時々 o に変わります。
-語根の最初の子音に続く a は、時々 ā と長くなります。
例
語根 //// //// 畳音した語基
√dhā置く //// (372,5,7-a) //// dadhā
√dā与える //// (372,3,7-a) //// dadā
√kit癒す //// (372,2,7-b;88) //// cikiccha
√gam行く //// (372,2,7-a) //// jagama
√khaṇ掘る //// (372,2,7-a) //// cakhaṇa
√har運ぶ //// (372,4,7-a,f) //// jahāra
√has笑う //// (372,4,7-a,f) //// jahāsa
√budh知る //// (372,3,7-e) //// bubodha
√suc嘆く //// (372,3,7-e) //// susoca
√pac料理する //// (372,3,7-a) //// papaca
√chid切る //// (372,5,7-d) //// cicheda
√bhūである //// (372,5,7-c) //// babhuva
√vas生きる //// (372,6,7-f) //// uvāsa
√vad言う //// (372,6,7-f) //// uvāda
√ah言う //// (372,1;22) //// āha
注意: 上記の畳音規則は、完了時制にも適用できます。 ですが、パーリ語の完了時制は非常にまれですので、 学習者は、読んでいく中で実際に見つかるまでは、 完了時制形の存在を考えるべきではありません。
373. 第二活用の動詞は、語根の末尾の子音の直前に ニッガヒータを挿入し、さらに、 第一活用のように後ろに a を付加することで、 特殊語基を作ります。 ニッガヒータは普通の連声規則 (39) に従います。
例
語根 //// 語基
√rudh抑える //// rundha
√muc解放する //// muñca
√chid切る //// chinda
√lip汚す //// limpa
√bhuj食べる //// bhuñja
√pisすりつぶす //// piṁsa
374. 第三活用の動詞は、語根に ya を付加するのが特徴です。 ya の同化規則 (70 ff) が、いつもどおりに適用されます。
例
√yudh戦う //// √yudh+ya(74,vi)= //// yujjha
√budh知る //// √budh+ya(74,vi)= //// bujjha
√pas見る //// √pas+ya(76,i)= //// passa
√dus苛立たせる //// √dus+ya(76,i)= //// dussa
√gā歌う //// √gā+ya //// gāya
√jhā考える //// √jhā+ya //// jhāya
注意: この活用の語根のうち、長い ā で終わるものは、 時々 -e の形で提示されることがあります:
ge = gā 歌う
ve = vā 織る
jhe = jhā 考える
375. -ā の形 (gā など) で提示された場合は、 すでに見たように第三活用です。 ですが、-e の形で提示された場合は、 第一活用の第三区分に属すことになり、-a を付加することで語基を作ります。
ge + a = gāya
ve + a = vāya
注意: 末尾の e + a が、(一つめの a を延ばすことで) āya となることに注目してください。
376. 第四活用の動詞は、語根に ṇu か ṇā (語根が母音で終わる場合)、 もしくは uṇu か uṇā (語根が子音で終わる場合) を付加することで、 現在幹・語基を作ります。
注意 (a) ṇu, uṇu の u は、強調して o になることがあります。
注意 (b) この u や o は、 母音で始まる人称語尾が続くとき、 v に変わることがあります (27,ii a,b)。
例
語根 //// 語基
√su聞く //// suṇā,suṇo
pa+√āp=pāp達する //// pāpuṇā,pāpuṇo
注意 (c) ṇā, uṇā の ā は、現在時制と命令法の人称語尾が付いても 長いままです (三人称複数を除く)。 ですが、短い形で出てくることも多いです。
注意 (d) ṇ が脱-舌音化して、歯鼻音の n に 変わる場合が少数あります。サンスクリットからの類推によるものです。
377. 第五活用の動詞は、語根に nā を付加することで、語基を作ります。 この語根は必ず母音で終わります。
注意 (a) もし語根の末尾の母音が長い (2) 場合は、 nā を付加すると短くなります。
注意 (b) サンスクリットで r, ṛ を含んでいた語根では、 その影響で、時々 nā が舌音化して ṇā となることがあります。
例
語根 //// 語基
√ci集める //// cinā
√kī買う、物々交換する(Sansk.krī) //// kīṇā,kiṇā
√dhū振る //// dhunā
√ji勝つ //// jinā
√as食べる //// asnā
√jā知る //// jānā
√yu混ぜる、関連づける //// yunā
注意: nā の長い ā は、現在時制と命令法の全ての人称 (三人称複数を除く) において、 保持されます。短い形 na もしばしば見つかります。
378. 第六活用の動詞は、語根に u を付加することで、 特殊語基を作ります。この u は、一般的に強調されて o になります。 これに母音で始まる語尾が付くと、v に変わります (27)。
例
語根 //// 語基
√karする //// karo
√tan伸ばす //// tano
√kuṇ音を立てる //// kuṇo
√van乞う //// vano
注意 (a) √kar の活用は非常に不規則で、複数の語基から作られます。 後に完全な形で述べます。
注意 (b) この活用に属する語根は著しく少ないです。
379. 第七活用の動詞は、語根に aya を付加することで、 特殊語基を作ります。これは縮約して e に置き換わることがあります。 e の形の方が、aya の形より、一般的です (第一活用第三区分と比べてください)。
注意: 以下のことに細心の注意を払ってください。
注意 (a) 語根の母音が u のとき、その後ろに結合子音が続く場合を除き、 o になります。
注意 (b) 語根の母音が a のとき、その後ろに一つだけ子音が続く場合は、 一般的に延ばされます。ですが、短いままのことも時々あります。
注意 (c) 上記のことから、第七活用の動詞は二つの語基を持つことがわかります。 e で終わる形と、aya で終わる形 (第一活用第三区分と比べてください) です。
例
語根 //// 語基
√cur盗む //// core,coraya
√gup守護する //// gope,gopaya
√pus養う //// pose,posaya
√bandh縛る //// bandhe,bandhaya
√tīr完遂する //// tīre,tīraya
√chaḍḍ捨てる //// chaḍḍe,chaḍḍaya
√kath言う //// kathe,kathaya
380. 同じ語根から二つや三つ、ものによってはほとんど全ての活用型に従って、 複数の語基を作れる場合が非常にたくさんあります。 その場合、同じ語根から作られた各々の特殊語基の意味は、 たいてい、その語根自身の元々の意味と異なります。 いくつか例を見たほうがわかりやすいでしょう。 語基の後ろの数字は、活用型を表しています。
例
語根 //// 語基 ////
subh //// sobha(1)輝く //// √subh+a=sobha
subh //// sumbha(2)投げ飛ばす //// √subh+ṁ+a=sumbha
kus //// kosa(1)呼ぶ、切る //// √kus+a=kosa
kus //// kussa(3)抱く //// √kus+ya=kussa
tik //// teka(1)行く //// √tik+a=teka
tik //// tikuṇā(4)圧迫する //// √tik+uṇā=tikuṇā
rī //// re(1)伸ばす //// √rī+a=re
rī //// rīṇā(5)知らせる //// √rī+ṇā=rīṇā
lī //// laya(1)液化する //// √lī+a=laya
lī //// līnā(5)近づく //// √lī+nā=līnā
tan //// tana(1)助ける //// √tan+a=tana
tan //// tano(6)伸ばす //// √tan+u(→o)=tano
vaḍḍh //// vaḍḍha(1)増える //// √vaḍḍh+a=vaḍḍha
vaḍḍh //// vaḍḍhe(7)ある容れ物から別の容れ物に注ぐ //// √vaḍḍh+e=vaḍḍhe
vid //// vida(1)知る //// √vid+a=vida
vid //// vijja(3)存在する //// √vid+ya=vijja
vid //// vinda(2)見つける、得る //// √vid+ṁ+a=vinda
vid //// vede,vedaya(7)感じる、話す //// √vid+e=vede,vedaya
現在系統の活用
第一活用
381. ここまでの節で述べてきた規則に従って、動詞の語基が作られれば、 あと残っているのは、それに適切な人称語尾を付け加えることだけです。 現在系統の時制の人称語尾をここに示します。これは最も、飛びぬけて重要です。 現在分詞についてはここでは述べず、また別に特別の章を割いて扱います。
直説法現在
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// mi //// ma //// e //// mhe
2 //// si //// tha //// se //// vhe
3 //// ti //// nti //// te //// nte,re
未完了
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// a,aṁ //// amhā //// iṁ //// mhase
2 //// o //// ttha //// se //// vhaṁ
3 //// a //// u //// ttha //// tthuṁ
命令法
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// mi //// ma //// e //// āmase
2 //// hi //// tha //// ssu //// vho
3 //// tu //// ntu //// taṁ //// ntaṁ
希求法
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// eyyāmi //// eyyāma //// eyyaṁ //// eyyāmhe
2 //// eyyāsi //// eyyātha //// etho //// eyyavho
3 //// eyya //// eyyuṁ //// etha //// eraṁ
注意 (a) 希求法-単数-能動態の、eyyāmi, eyyāsi, eyya の代わりに、 e が使われることがあります。
注意 (b) 母音で始まる人称語尾が続くとき、語基の母音は落ちます。
注意 (c) 直説法現在の mi, ma が続くとき、語基の a は延ばされます。
注意 (d) 命令法の二人称単数能動態において、hi を使わずに、 語基・語幹のみが使われることがあります。 また、hi が後ろに続くときは、語基の a は延ばされます。
382. 上記 (370) で述べたように、第一活用には四つの区分があります。 そのうちの第一区分、子音で終わる語根に a をつけて語基を作るものは、 きわめてたくさんあります。
383. √pac (料理する) の変化表は以下のようになります。
直説法現在
私は料理する、私たちは料理する、あなたは料理する、あなたたちは料理する、彼は料理する、彼らは料理する
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// pacāmi //// pacāma //// pace //// pacāmhe
2 //// pacasi //// pacatha //// pacase //// pacavhe
3 //// pacati //// pacanti //// pacate //// pacante,pacare
未完了
私は料理した、など
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// apaca,apacaṁ //// apacamhā //// apaciṁ //// apacāmhase,apacamhase
2 //// apaco //// apacattha //// apacase //// apacavhaṁ
3 //// apaca //// apacu //// apacattha //// apacatthuṁ
命令法
私に料理させよ、など
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// pacāmi //// pacāma //// pace //// pacāmase
2 //// pacāhi,paca //// pacatha //// pacassu //// pacavho
3 //// pacatu //// pacantu //// pacataṁ //// pacantaṁ
希求法
私は料理すべし、など
//// 2.能動態 //// 2.反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// paceyyāmi,pace //// paceyyāma //// paceyyaṁ //// paceyyāmhe
2 //// paceyyāsi,pace //// paceyyātha //// pacetho //// paceyyavho
3 //// paceyya,pace //// paceyyuṁ //// pacetha //// paceraṁ
注意 (a) 未完了の、語頭の加音 a は、省略されることがあります。 その場合、paca, pacaṁ, paco などという形になります。
注意 (b) 三人称単数-能動態の末尾の母音は、長くても構いません: apacā, apacū (訳註: 原文ママ)。
384. 七つの活用型の他の特殊語基にも、上に挙げた特殊時制の人称語尾が、 √pac の例と同じように付加されます。
385. 第一活用の第三区分、i, ī, u, ū で終わる語根の場合は、 説明は必要ありません。(371,3) に従って語基を得たあとは、 上の語尾をただ付加すればいいのです。
例
現在-能動
//// . √bhū である (語基 bhava) [. √nī 導く (語基 naya)
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhavāmi //// bhavāma //// nayāmi //// nayāma
2 //// bhavasi //// bhavatha //// nayasi //// nayatha
3 //// bhavati //// bhavanti //// nayati //// nayanti
現在-反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhave //// bhavāmhe //// naye //// nayāmhe
2 //// bhavase //// bhavavhe //// nayase //// nayavhe
3 //// bhavate //// bhavante //// nayate //// nayante
未完了-能動
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// abhava,abhavaṁ //// abhavamhā //// anaya,anayaṁ //// anayamhā
2 //// abhavo //// abhavattha //// anayo //// anayattha
3 //// abhava //// abhavu //// anaya //// anayu
未完了-反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// abhaviṁ //// abhavāmhase //// anayiṁ //// anayāmhase
2 //// abhavase //// abhavavhaṁ //// anayase //// anayavhaṁ
3 //// abhavattha //// abhavatthuṁ //// anayattha //// anayatthuṁ
命令法-能動
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhavāmi //// bhavāma //// nayāmi //// nayāma
2 //// bhavāhi,bhava //// bhavatha //// nayāhi,naya //// nayatha
3 //// bhavatu //// bhavantu //// nayatu //// nayantu
命令法-反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhave //// bhavāmase //// naye //// nayāmase
2 //// bhavassu //// bhavavho //// nayassu //// nayavho
3 //// bhavataṁ //// bhavantaṁ //// nayataṁ //// nayantaṁ
希求法-能動
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhaveyyāmi,bhave //// bhaveyyāma //// nayeyyāmi,naye //// nayeyyāma
2 //// bhaveyyāsi,bhave //// bhaveyyātha //// nayeyyāsi,naye //// nayeyyātha
3 //// bhaveyya,bhave //// bhaveyyuṁ //// nayeyya,naye //// nayeyyuṁ
希求法-反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhaveyyaṁ //// bhaveyyāmhe //// nayeyyaṁ //// nayeyyāmhe
2 //// bhavetho //// bhaveyyavho //// nayetho //// nayeyyavho
3 //// bhavetha //// bhaveraṁ //// nayetha //// nayeraṁ
386. 第一活用第二区分、人称語尾を直接付加する語根 (371,2)は、多くありません。
387. パーリ語では、全ての時制に能動態と反射態がそろっているような語根ばかりではない、 ということを述べておかなくてはいけません。特に、人称語尾を直接付加する語根においては、 そろっていないことが多いです。
例
//// .√yā 行く //// .√vā 吹く //// .√bhā 輝く
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// yāmi //// yāma //// vāmi //// vāma //// bhāmi //// bhāma
2 //// yāsi //// yātha //// vāsi //// vātha //// bhāsi //// bhātha
3 //// yāti //// yanti //// vāti //// vanti //// bhāti //// bhanti
注意: 三人称複数の nti の前では、語根の ā は短くなります。
388. 希求法では、人称語尾の前に y が挿入されます。
yāyeyyāmi, yāyeyya, vāyeyya, vāye, など
389. この区分の語根の中には、(一般的に)反射態と三人称複数現在-能動態において、 強調 (110) を受けるものもあります。
√brū 話す
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// brūmi //// brūma //// brave //// brūmhe
2 //// brūsi //// brūtha //// brūse //// brūvhe
3 //// brūti //// bravanti //// brūte //// bravante
注意: 一・二人称複数-反射態において、時々 u は短くなります。
390. この他、この活用をする語根を挙げます。
√han (打つ、殺す): 三人称単数 hanti ⇔ 三人称複数 hananti。 アオリストは ahani, hani などとなります。
√i (行く): 強調形 e。弱形の語基 ya も使われます (cf. 第一活用第三区分: たとえば √nī には強調形 ne と弱形の語基 naya があります。 同じく √ji の強調形は je で、弱形は jaya です)。 したがって、以下のような変化表になります。
//// 単数 //// 複数
1 //// emi //// ema
2 //// esi //// etha
3 //// eti //// enti,yanti
√ṭhā (立つ): ṭhāti, thāsi など。
√pā (守る): pāti, pāsi など。
注意 (a) この区分の語根は、他の活用型に属する語根と同じように、、 動詞接頭辞と組み合わさることがあります。
例
√khyā (告げる) + ā → ākhyā + ti → ākhyāti。
√ṭhā + ni → niṭṭhā + ti → niṭṭhāti (終わる)。
√han + ni → nihan + ti → nihanti (打ち倒す)。
√i + upa → upe (21) + ti → upeti (近づく)。
注意 (b) √ṭhā の ā は、この語根が畳音されたとき (第一活用-第四区分)、短くなります。
注意 (c) √ṭhā は、動詞接頭辞と組み合わさると、 しばしば特殊語基が ṭhaha という形になります。
例
√ṭhā + saṁ → saṇṭhāti か saṇṭhahati か santiṭṭhati (立つ) (ニッガヒータの連声を参照のこと)。
√ṭhā + pati → patiṭṭhāti か patiṭṭhahati (しっかり立つ)。
√ṭhā + ud → uṭṭhāti か uṭṭhahati (立ち上がる)。
391. 同様に、√dhā も一見第一活用の第二区分に属するように 見えますが、気息を失って daha となり、 √pac と同じ分類 (370,1) になります。 さらに、この語基は、動詞接頭辞と一緒にしか使われません。 この語根はまた、畳音する区分 (372) にも属していて、 その結果 dadhā という語基も持ちます。 語基 dhe もこの語根のものです。これも広く使われます。
例
√dhā 運ぶ、掴む + ni → nidahati か nidadhāti か nidheti (置く)
√dhā + abhi → abhidahati か abhidadhāti か abhidheti (宣言する)。
392. 第一活用-第四区分 (371,4)、畳音するものに属する語根の中にも、 人称語尾を直接繋げて現在時制と命令法を作るものがあります。*
*この章全体で、たくさんのパーリ語文法書を 参考にしました: Saddanīti, Niruttidīpanī, Galonpyan, Akhyātapadamāla など。
393. i で終わる語根のいくつか (371, 第三区分) は、 語尾を直接取る語根と同じ区分に属するかのように見えます。 ですが本当は、これらの語根は第二区分ではなく第三区分に属していて、 語尾は語根そのものではなく、強調された語基 (105) に付いています。 i, ī がまず a の影響で e に変わる (21,i) のです。 そういう語基は、√cur (語基 core, 第七活用) と全く同じように活用します。 それを以下に示します。このような語根の反射態は、aya の形の語基から作られます。
例
√nī, 語基 ne, naya
現在
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// nemi //// nema //// naye //// nayāmhe
2 //// nesi //// netha //// nayase //// nayavhe
3 //// neti //// nenti //// nayate //// nayante
命令法
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// nemi //// nema //// naye //// nayāmase
2 //// nehi //// netha //// nayassu //// nayavho
3 //// netu //// nentu //// nayataṁ //// nayantaṁ
注意: 希求法も ne のほうの語基から作ることができます。
希求法
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// neyyāmi //// neyyāma //// neyyaṁ //// neyyāmhe
2 //// neyyāsi //// neyyātha //// netho //// neyyavho
3 //// neyya //// neyyuṁ //// nayetha //// nayeraṁ
394. 他の語根を挙げますと:
√sī 寝そべる (語基 se, saya)。
√ji 勝つ (語基 je, jaya)。
√ḍi 罠を仕掛ける (語基 ḍe → oḍḍeti の形で)。
注意: 語根を直接使う区分の中で、最も重要なのは √as (である) です。 ですが、これは欠如動詞に分類するほうが良いです。 この変化は特別な章を設けて説明します (欠如動詞、を参照)。
畳音する語根の活用
395. この区分の動詞の特徴は、畳音の音節が前置されることです。 畳音規則は上で述べました (372)。活用は何も難しくありません。 たとえば、√dā の活用は以下のようになります。
//// .現在-能動態 //// .未完了-能動態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// dadāmi //// dadāma //// adada //// adadamhā
2 //// dadāsi //// dadātha //// adado //// adadattha
3 //// dadāti //// dadanti //// adada //// adadu
//// .希求法-能動態 //// .命令法-能動態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// dadeyyāmi //// dadeyyāma //// dadāmi //// dadāma
2 //// dadeyyāsi //// dadeyyātha //// dadāhi,dadā //// dadātha
3 //// dadeyya,dade //// dadeyyuṁ //// dadātu //// dadantu
396. √dā のいくつかの時制は、語基から直接作られます。 それについては、適切な場所で述べます。
注意 (a) √dā には、誤った類推により dajj や de という語基も見られます: dajjāmi, dajjasi, dajjati, dajjāma, dajjatha, dajjanti など、 demi, desi, deti, dema, detha, denti など。
注意 (b) おそらく複数形からの類推で作られた、変則的な単数現在もあります: dammi, dasi, dati。
注意 (c) ほとんどの時制には、反射態がありません。非常に少数のものが 見られるのみです: 一人称単数 dade, 一人称複数 dadāmase。
注意 (d) 語根 √ṭhā では、語基の末尾の ā が長く保たれるのは、 一人称単数/複数現在のみです。
単数 //// 複数
tiṭṭhāmi //// tiṭṭhāma
tiṭṭhasi //// tiṭṭhatha,ṭhātha
tiṭṭhati //// tiṭṭhanti
二人称複数 ṭhātha が語根から直接作られることに注意してください。
第二~第七活用
397. 第二~第七活用も何ら難しくありません。 上に記した第一活用と同じように、人称語尾をつけるだけです。
第二活用
398. √chid, 語基 chinda (373) (切る):
//// .現在-能動態[.現在-反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// chindāmi //// chindāma //// chinde //// chindāmhe
2 //// chindasi //// chindatha //// chindase //// chindavhe
3 //// chindati //// chindanti //// chindate //// chindante
399. 他の時制も規則的に作れます: chindeyyāmi, chindeyyāsi, chindeyya もしくは chinde; chindeyyāma, chindeyyātha, chindeyyuṁ。
他の時制も同様です。
注意: 語根 √rudh (妨害する)には、 語基が五つあります: rundhati, rundhiti; rundhīti, rundheti, rundhoti。
第三活用
400. √div, 語基 dibba (77) 遊ぶ:
//// .現在-能動態 //// .現在-反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// dibbāmi //// dibbāma //// dibbe //// dibbāmhe
2 //// dibbasi //// dibbatha //// dibbase //// dibbavhe
3 //// dibbati //// dibbanti //// dibbate //// dibbante
他の時制も規則的に作れます。例えば未完了は adibba, adibbo, adibba, adibbamhā, adibbattha, adibbu、 希求法は dibbe, dibbeyya, dibbeyāmi, dibbeyyāsi など。
第四活用
401. √su, 語基 suṇā (376) または suṇo 聞く:
//// 単数 //// 複数 //// または //// 単数 //// 複数
1 //// suṇāmi //// suṇāma //// //// suṇomi //// suṇoma
2 //// suṇāsi //// suṇātha //// //// suṇosi //// suṇotha
3 //// suṇāti //// suṇanti //// //// suṇoti //// suṇonti,suṇvanti
注意 (a) 他の時制は、語基 suṇā から作られます。 そのとき末尾の ā は、人称語尾の始めが i, e の場合に落ちます: suṇeyyāmi, suṇeyyāsi など、suṇissāmi, suṇissāma, suṇissasi など。
注意 (b) √sak (できる) はこの活用型に属しますが、複数の語基があります: sakkuṇāti (k が二重に)、sakkoti (同化 sak + no → sakko (57) + ti → sakkoti)。 同様の過程により sakkāti (sak + nā → sakkā + ti → sakkāti)、 またこの a が短くなって sakkati という形もあります。
注意 (c) √āp (達する, 接頭辞 pa をつけて pa + āp = pāp) には三つの形があります: pappoti, pāpuṇāti, pāpuṇoti。 √gah (掴む) の語基は音位転移 (111) により gaṇhā となります: gaṇhāmi, gaṇhāsi など。
注意 (d) ṇ が脱-舌音化する (376,d) ことがとてもよくあるということを、 すでに述べました。つまり、第四活用の語根の多くは、 サンスクリットの第九活用動詞のように、nā を語根に付加することによって 語基を作ります。たとえば、√ci (集める) は、cināti (集める)、 ocināti, ocinati (選び出す、集める) となります。 語基の末尾は長い ā だけでなく、短い a になることもあるので注意してください。 これは、この活用型の語根の多くに当てはまります。 cf. sañcinati, sañcinoti, sañcināti 蓄積する。
注意 (e) √bhū からは、動詞 abhisambhunati, abhisambhunoti (得る) ができます。この動詞の語根が、サンスクリットの √bhṛī にあたるという 文法家もいますが、これはおそらく間違いです。 ネイティブの文法家には、語根として sambhū (Dhammapada にしか現れない) を 与える人もいますが、接頭辞 sam + √bhū だと気付いていないのです。
第五活用
402. √dhū, 語基 dhunā (377) 振る:
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// dhunāmi //// dhunāma //// dhune //// dhunāmhe
2 //// dhunāsi //// dhunātha //// dhunase //// dhunavhe
3 //// dhunāti //// dhunanti //// dhunate //// dhunante,dhunare
注意 (a) この活用型に属する他の動詞:
√jñā, jā, ñā (知る) 語基 jānā
√as (食べる) 語基 asnā
√mun = √man (考える) 語基 munā
注意 (b) 第四活用と第五活用に属する語根は、語基を作る際に非常によく両者を行き来します。 サンスクリットの語根からの間違った類推によるものです。
第六活用
403. √kar (する) 語基 karo (378):
//// 単数 //// 複数
1 //// karomi //// karoma
2 //// karosi //// karotha
3 //// karoti //// karonti
注意 (a) √kar には複数の語基があります: karo, kara, kubb。 この動詞の変化表は、(378,a) で述べたように、 欠如動詞の章で完全に与えます。
√tan (伸ばす) 語基 tano (強調形)、弱い語基は tanu:
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// tanomi //// tanoma //// tanve(27) //// tanumhe
2 //// tanosi //// tanotha //// tanuse //// tanuvhe
3 //// tanoti //// tanonti //// tanute //// tanvante(27)
注意 (a) この活用型の語根はとても少ないです。
第七活用
404. 第七活用の語根は、(379) で注意したように、二つの語基を持ちます。 e で終わるものと、aya で終わるものです。 この語根は、第一活用第三区分 (393) と全く同じように活用します。
不規則な語基
上に述べたいずれの規則にも従わない方法で 特殊語基を作る語根もあります。これらの語根を、不規則と言います。 主要なものをここに挙げます。
√gam 行く特殊語基 gaccha
√yam 抑える特殊語基 yaccha
√guh 隠す特殊語基 gūhe
√dhā 掴む特殊語基 daha, dhe (391)
√dā 与える特殊語基 dajja
√jā, jan 生まれる特殊語基 jāya
√pā 飲む特殊語基 piva
√ḍaṁs (蚊・蛇が)噛む特殊語基 ḍasa
√dhmā 吹く特殊語基 dhama
√vyadh (=vadh) 特殊語基 vadha
√sad 座る特殊語基 sīda
√ṭhā 立つ特殊語基 tiṭṭhā
√is 願う特殊語基 iccha
√vad 言う特殊語基 vajja, vajje, vada, vāde
√mar 死ぬ特殊語基 miya, miyya, mara
√gah 掴みとる特殊語基 gheppa*
√gam 行く特殊語基 ghamma, gaggha*
√jir 老いる特殊語基 jīya, jiyya
√dis, das 見る特殊語基 dakkha, daccha*
これらの形は Saddanīti と Akhyatapadamālā によって与えられています。 これらは gaccha と同様に規則的に活用します: ghammāmi, ghammasi, ghammati など、ghagghāmi, ghagghasi, ghagghati など。 ghammeyya, gagghe, gaggheyya, など。√dis, das の語基 dakkha, daccha は、 未来語基からの誤った類推によります (未来語基については、 未来時制を取り扱うときに見ていきます)。上に挙げた変化の仕方のほとんどは、 サンスクリットの第一・第四・第六活用動詞における、似たような変化に対応します。
アオリスト
405. アオリストは、パーリ語の唯一の本物の過去時制です。 未完了時制とアオリストの人称語尾は、どうしようもないほどに 混ざってしまっていて、ネーティブの文法家たちは、 未完了とアオリストを見分けるに際して、途方に暮れていました。 しかしアオリストのほうが、慨して、未完了より優先されました。 サンスクリットの文法を少し知っていないと、 学習者にはおそらく理解できない変則がたくさんあります。 しかし、今このときは、そういうことを考えて拘束される必要はありません。 未完了の普通の語尾はすでに示しました (381)。 とりあえず、以下に記すことに注意を向ければ、多くを得られるでしょう。
406. アオリストは、語根から作られる、とされています。 しかし実際には、語根からも語基からも無頓着に作られます。
407. アオリストの屈折語尾は以下のようになります。
//// .能動 //// .反射
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// aṁ,ṁ,iṁ,a,ā //// imha,imhā //// a //// imhe
2 //// i,o,ā //// ttha //// se //// vhaṁ
3 //// ā,i,ī //// uṁ,iṁsu,ū //// ā,a //// tthuṁ,atthuṁ
注意 (a) 上の語尾を未完了の語尾と見比べると、未完了とアオリストの区別が 難しいことがわかるでしょう (未完了とアオリストの混合は、 比較言語学の学生にはよく知られていることです)。 唯一の判断基準は、未完了は概して特殊語基から作られ、 アオリストは語根から作られるということです。 しかしこれも絶対の基準ではなく、これら二つの時制の見分けが ほとんどつかないという事実はそのままです。
注意 (b) 上に挙げた語尾のうち、しかし最も一般的に使われて、 かつ最もアオリストっぽい特徴のある語尾は:
//// 単数 //// 複数
1 //// iṁ //// imha,imhā
2 //// i //// ittha
3 //// i //// iṁsu,(isuṁ)
注意 (c) aṁ の鼻音はしばしば省略され、a のみが残ります。
注意 (d) 大部分の動詞のアオリストは、(b) に挙げた屈折語尾で作られます。
408. アオリストは三つの型に分けられます。
(i) 語根アオリスト
(ii) 語幹・語基アオリスト
(iii) シグマ-アオリスト
注意 (a) 名前の通り、語根アオリストは語根から直接作られます。
注意 (b) 語幹アオリストは特殊語基から作られます。
注意 (c) シグマ-アオリストは、語根と (407,b) の人称語尾との間に s が挿入されるのが特徴です。
(i) 語根アオリスト
409. このアオリストはあまり一般的ではありません。 いくつか例を挙げます。アオリストは、未完了と同様に、 加音 a が前置されることがあることに、まず注意してください。
410. √gam, √gā, √gū (√gam の補助形) (行く) のアオリストは以下のようになります。
(a)
//// 単数 //// 複数
1 //// agaṁ,agamā,agamiṁ //// agumha
2 //// agā,agamā //// aguttha
3 //// agā,agami //// aguṁ,agamiṁsu
(b)√as (である) (加音 a とともに):
//// 単数 //// 複数
1 //// āsiṁ //// āsimha
2 //// āsi //// āsittha
3 //// āsi //// āsuṁ,āsiṁsu
411. √ṭhā
//// 単数 //// 複数
1 //// aṭṭhaṁ //// aṭṭhamha
2 //// aṭṭho //// aṭṭhattha
3 //// aṭṭha //// aṭṭhaṁsu,aṭṭhuṁ
注意: 始めの ṭh が二重化することについては、(33) を参照してください。
412. √kar の一人称単数には akaṁ という形があります。 これは、一・二・三人称単数 akā からの類推に違いありません。この akā は、ベーダの語形 akar から、 r の消失を末尾の a の延長で補ってできたものです。
一人称単数は akaraṁ, akariṁ となることもあります。 二人称複数は akattha, 三人称複数は akaruṁ, akarū, akariṁsu です。
413. √hū (√bhū の異形) (である)
三人称単数: ahū, ahu, (母音の前で) ahud。
一人称複数 ahumhā, 三人称複数 ahuṁ。
414. √dā
一・二・三人称単数: adā。
三人称複数 aduṁ, adaṁsu, adāsuṁ。
415. 加音 a は、アオリストから切り離せないわけではありません。 ですから、gā (= agā) などのような形も見られます。
(ii) 語幹アオリスト
416. すでに述べたように、このアオリストは、語根ではなく、 語幹もしくは語基から作られます。 加音は保たれることも、保たれないこともあります。
√pā, 語基 piva, 飲む
//// 単数 //// 複数
1 //// piviṁ //// pivimha
2 //// pivi //// pivittha
3 //// pivi //// piviṁsu
反射態は:
√pā, 語基 piva, 飲む
//// 単数 //// 複数
1 //// pive //// pivimhe
2 //// pivise //// pivivhaṁ
3 //// piva,pivā //// pivu,pivuṁ,piviṁsu,pivisuṁ
417. 原始動詞 (369) の多くが、上の (piva の) ようにアオリストを作ります。 ですからこの形は、加音のある形もない形も、極めて広く使われます。 ここで一度だけ述べておきますが、この加音は詩よりも散文のほうが ずっと良く出てきます。詩においては、加音のあるなしは韻律の要請で決まります。 もう少し例を上げましょう。
[.√bhuj 食べる, 語基 bhuñja [.√gam 行く, 語基 gaccha
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhuñjiṁ //// bhuñjimha,bhuñjimhā //// gacchiṁ //// gacchimha,gacchimhā
2 //// bhuñji //// bhuñjittha //// gacchi //// gacchittha
3 //// bhuñji //// bhuñjiṁsu //// gacchi,gañchi //// gacchiṁsu
(iii)シグマ-アオリスト
418. シグマ-アオリストは、語根の母音か語基の母音と、(407,b)に挙げた人称語尾との間に s を挟んで作ります。
419. その結果、屈折語尾は以下のようになります:
//// 単数 //// 複数
1 //// siṁ(=s+iṁ) //// simha(=s+imha)
2 //// si(=s+i) //// sittha(=s+ittha)
3 //// si(=s+i) //// suṁ(=s+uṁ)
420. すぐにわかるように、このアオリストの作り方は、 母音で終わる語根に使われます。語尾と語根・語基を繋ぐために s が挿入されるのです。しかし後に見るように、 子音で終わる語根に使われることもあります。 そのときは、s はその子音と同化します。
421. シグマ-語尾は、派生動詞、 それも、e で終わる使役動詞 (cf. 派生活用) に使われることがほとんどです。 第七活用の動詞も e で終わりますから、同じようにアオリストを作ります。
例
422. 使役動詞:
//// .√hā 捨てる, 使役語基 hāpe //// .√tas 震える, 使役語基 tāse
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// hāpesiṁ //// hāpesimha //// tāsesiṁ //// tāsesimha
2 //// hāpesi //// hāpesittha //// tāsesi //// tāsesittha
3 //// hāpesi //// hāpesuṁ //// tāsesi //// tāsesuṁ
注意: 三人称複数は、iṁsu の形もよく出てきます: hāpesiṁsu, tāsesiṁsu
423. 第七活用の動詞:
//// .√cur 盗む, 語基 core //// .√kath 告げる, 語基 kathe
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// coresiṁ //// coresimha //// kathesiṁ //// kathesimha
2 //// coresi //// coresittha //// kathesi //// kathesittha
3 //// coresi //// coresuṁ,coresiṁsu //// kathesi //// kathesuṁ,kathesiṁsu
注意 (a) aya で終わる語基には、(407,b) の語尾を (s を挟まずに) 直接つけることもできます。
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// corayiṁ //// corayimha //// kathayiṁ //// kathayimha
2 //// corayi //// corayittha //// kathayi //// kathayittha
3 //// corayi //// corayuṁ,corayiṁsu //// kathayi //// kathayuṁ,kathayiṁsu
注意 (b) 使役動詞も aya で終わる語基を持ちますから、同じことが言えます。
424. シグマ-アオリストの屈折語尾は、第七活用でも派生動詞でもない語根に付加されることもあります。
(i) 母音で終わる語根に。加音 a を付けることも付けないこともあります。
(ii) 子音で終わるいくつかの語根に。 その場合、普通の同化規則 (85) が厳密に適用されます。
(i) の例
√dā, 与える; adāsiṁ, adāsi, adāsimha など。
√ṭhā, 立つ; aṭṭhāsiṁ, aṭṭhāsimha など
√hā, 捨てる; ahāsiṁ, ahāsi, ahāsimha など
√su, 聞く; assosiṁ, assosi, assosimha など
√yā, 行く; yāsiṁ, yāsi, yāsimha など
注意: 誤った語根 √kā (= √kar, する) から akāsiṁ, akāsi, akāsimha など という語形が見られます。また、√ñā (知る) は aññāsiṁ, aññāsi, aññāsimha などとなります。
(ii) の例
425. 以下の二三の段落には、サンスクリットの文法を参照している箇所が いくつかあります。しかし一読目は、おそらく読み飛ばしたほうがいいでしょう。 与えられた語形をそのまま受け入れてください。 しかしもちろん、進んだ学習者はそこもしっかり読んでください。
426. (419) に与えられたシグマ-屈折語尾の最初の s は、 普通の同化規則に従って、語根の末尾の子音と同化します。
(a) √dis (= Sansk. √dṛś) は addakkhi (= Sansk. adrak-ṣ-is) となります。 addakkhī, adakkhi, dakkhi という形も見られます。
(b) √sak (できる = Sansk. √śak) は、sakkhi, asakkhi (= Sansk. śak-ṣ-is) となります。
(c) √kus (罵る = Sansk. √kruś) は、akkocchi となります。 ただし、シグマ-アオリストの s がない形 akkosi も見られます。
(d) √bhañj (壊す) のアオリストは bhaṅki となります。
注意: 子音で終わる語根からシグマ-アオリストを作るときに起きる変化が どういうものか理解するには、上の例で十分だと思います。 語根の子音は一般的に s (= Sansk. ś) です。j のことも時々あります。 サンスクリットでは、末尾の ś (= パーリ s) は、その後ろに 動詞語尾の ṣ が来ると、k に変わります。つまり kṣa となります。 これがパーリ語では kkha となります。 また、別のサンスクリットの音韻規則に従って、末尾の j は g となります。 ですが、単語は有声な黙音で終わることができないので、 この g は無声化して k となります。
ただし、子音で終わる語根のシグマ-アオリストは、多くありません。
完了系統
427. すでに見たように、完了系統には、完了時制と完了分詞があります。 分詞のほうは分詞の章で別に扱います。
428. 完了系統は、語根を畳音することが特徴です。 その規則はすでに (372) で述べました。もう一度入念に読み直してください。
429. 語尾は以下のようになります。
完了時制
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// a //// mha //// i //// mhe
2 //// e //// ttha //// ttho //// vho
3 //// a //// u //// ttha //// re
注意 (a) 子音で終わる語根に、子音で始まる上記の語尾を付けるときは、 i を挟みます。
注意 (b) 完了時制が出てくるのは非常にまれです。
430.
能動態
//// .√pac, 完了語基 papac //// .√bhū, 完了語基 babhūv
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// papaca //// papacimha //// babhūva //// babhūvimha
2 //// papace //// papacittha //// babhūve //// babhūvittha
3 //// papaca //// papacu //// babhūva //// babhūvu
反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// papaci //// papacimhe //// babhūvi //// babhūvimhe
2 //// papacittho //// papacivho //// babhūvittho //// babhūvivho
3 //// papacittha //// papacire //// babhūvittha //// babhūvire
未来系統
431. 未来系統には、未来時制、条件時制、未来分詞があります。 分詞については、特別の章を割いてそこで説明します。
432. 未来系統には、特別な特徴があります。語根と人称語尾の間に ssa を挟むのです。
注意 (a) 未来系統は、現在語基から作られることも多いです。
注意 (b) 母音 i が、語根・語基と ssa の間に挟まれることも多いです。 この時、語根・語基の末尾の母音は落ちます。
注意 (c) 子音で終わる語根に直接 ssa が付加するとき、 ssa の最初の s が同化することで、 シグマ-アオリストで起きたのと同じ変化が、未来系統でも起きます。
433. 未来時制の人称語尾は:
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// mi //// ma //// ṁ //// mhe
2 //// si //// tha //// se //// vhe
3 //// ti //// nti //// te //// nte,re
注意 (a) 能動態の語尾は、直説法現在の語尾 (381) と同じだということがわかります。
注意 (b) mi, ma, mhe が続くとき、ssa の a は長くなります。
例
434. (i) 連結母音 i を使わないもの。
(a) √i (行く), 特殊語基 e (390), 未来語基 essa
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// essāmi //// essāma //// essaṁ //// essāmhe
2 //// essasi //// essatha //// essase //// essavhe
3 //// essati //// essanti //// essate //// essante
(a) √nī (導く), 特殊語基 ne (371,3), 未来語基 nessa
//// 単数 //// 複数
1 //// nessāmi //// nessāma
2 //// nessasi //// nessatha
3 //// nessati //// nessanti
など。
(b) √ṭhā (立つ)
//// 単数 //// 複数
1 //// ṭhassāmi //// ṭhassāma
2 //// ṭhassasi //// ṭhassatha
3 //// ṭhassati //// ṭhassanti
など。
注意: 上は、ssa が語根に直接付く例です。語根の a が短くなることに ついては、(34) を参照。もう一つ例を挙げますと:
(b) √dā (与える)
//// 単数 //// 複数
1 //// dassāmi //// dassāma
2 //// dassasi //// dassatha
3 //// dassati //// dassanti
など。
(ii) 連結母音 i を使うもの。
(c) √bhū (である), 特殊語基 bhava, 未来語基 bhavissa
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// bhavissāmi //// bhavissāma //// bhavissaṁ //// bhavissāmhe
2 //// bhavissasi //// bhavissatha //// bhavissase //// bhavissavhe
3 //// bhavissati //// bhavissanti //// bhavissate //// bhavissante
(iii) ssa が同化するもの。
(d) √bhuj (食べる) の未来語基は bhokkha となります (Sansk. √bhuj = bhok + ṣya = bhokṣya)。人称語尾をつけると、 bhokkhati, bhokkhate, bhokkhaṁ などとなります。
√chid (切る) の未来語基は checcha (Sansk. √chid = chet + ṣya = chetṣya) です。人称語尾をつけると、 checchāmi, checchasi, checchati などとなります。
√dis (見る) の未来語基は dakkha (Sansk. √dṛc = drak + ṣya = drakṣya) です。これに人称語尾をつけると dakkhati となりますが、 もっとよく出てくる形は dakkhiti です。 同様に、語根 √sak (できる) の未来時制は sakkhiti となります。
435. 語基 bhokkha, dakkha などは、すでに未来語基になっていますが、 これにさらに i + ssa を付けた形 (二重未来) も見られます。
例
√sak, 未来語基 sakkha: sakkhissāmi, sakkhissasi, sakkhissati, sakkhissāma など。
436. hoti (bhavati の縮約形) (である) には、以下のようにたくさんの 未来形があります。
単数
1. hemi, hehāmi, hohāmi, hessāmi, hehissāmi, hohissāmi
2. hesi, hehisi, hohisi, hessasi, hehissasi, hohissasi
3. heti, hehiti, hohiti, hessati, hehissati, hohissati
複数
1. hema, hehāma, hohāma, hessāma, hehissāma, hohissāma
2. hetha, hehitha, hohitha, hessatha, hehissatha, hohissatha
3. henti, hehinti, hohinti, hessanti, hehissanti, hohissanti
√kar (する) の未来時制は:
//// 単数 //// 複数
1 //// kāhāmi //// kāhāma
2 //// kāhasi,kāhisi //// kāhatha
3 //// kāhati,kāhiti //// kāhanti,kāhinti
条件時制
437. 条件時制は、語根の前に加音 a を付けます。
438. 人称語尾は以下のようになります。
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// ssaṁ //// ssamhā //// ssaṁ //// ssāmhase
2 //// sse,ssa,ssasi //// ssatha //// ssase //// ssavhe
3 //// ssā,ssa,ssati //// ssaṁsu //// ssatha //// ssiṁsu
注意: この語尾は、語根・語基に i を介してつなげるのが一般的です。
√pac (料理する)
//// .能動態 //// .反射態
//// 単数 //// 複数 //// 単数 //// 複数
1 //// apacissaṁ //// apacissamhā //// apacissaṁ //// apacissāmhase
2 //// apacisse,apacissa,apacissasi //// apacissatha //// apacissase //// apacissavhe
3 //// apacissā,apacissa,apacissati //// apacissaṁsu //// apacissatha //// apacissiṁsu
注意 (a) 条件時制の訳し方は、「仮に料理できるとするならば」とか、 「仮に料理するとするならば」とかになります。
注意 (b) 条件時制はそんなに頻繁には使われません。




