表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/32

閑話29.5話「頬に残る毛並みと、腕に残る嫉妬」

婚約披露が終わった翌日、晴れて正式に王太子の婚約者となったリエルに会いに、公爵邸を訪ねた。


案内された先は、彼女の私室。


部屋に入ると、豪奢な天蓋付きベッド。絹のように柔らかそうなカーテンは半ば開かれ、そこに積み重ねられた枕やクッションの海に、少女がすっぽりと沈み込んでいる。

ネグリジェ姿のリエルは、俺が婚約内定の証として渡した紫のストールにくるまり、膝の上には分厚い本。

テーブルには侍女が用意したらしい果物や焼き菓子が山と並び、甘い香りが部屋中に漂っている。


ちらりと俺の姿を確認したが、挨拶の一つもなく、再び活字の世界に没頭してしまう。

……本当に、この子は。


躊躇うことなく彼女の隣へ歩み寄り、ベッドに腰を下ろす。布が沈み、肩先が触れそうになる。

それでもリエルは目を上げず、ページを繰る指先だけが忙しく動いていた。


俺は気にせず、テーブルから摘んだ果物や菓子を彼女の口元へ差し出す。

最初こそ『え?』と戸惑ったように瞬きをしたが、次の瞬間には小さく口を開き、素直に受け入れる。

一口、また一口。何気なく差し出すたび、白い喉がこくりと動く。


それが、可愛くてたまらなかった。

口元についた果汁を指で拭えば、その指先ごと唇に触れ、柔らかな熱に痺れそうになる。


やがて、彼女の指に一瞬かすめた俺の指を、思わず舐め取ってしまった。

甘味と温もりが絡み合い、どんな菓子よりも濃密な味が脳を直撃する。

危ういほどの衝動に、自分でも息が詰まる。


ふと視線を向けると、リエルは本を読みながら時折クスクス笑い、眉尻を下げ、目に涙を滲ませていたり……頬をほんのり赤らめたり。

ころころ変わるその表情が、どうしようもなく愛おしい。


……こんなに無防備で、愛らしくて。

この腕の中に閉じ込めてしまいたくなる衝動を、どうやって抑えろというんだ。


「……何見てんだよ」

「いや、我が婚約者殿は麗しいなと思って」


からかうように告げれば、リエルはぷいと顔を背け、本に逃げ込む。

耳の先までほんのり赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。


「食べ物は?」

「……もう、お腹いっぱい」


差し出した果物を小さく手で押し返す。

その仕草すら愛らしい。

だが、耳まで赤いのは、俺の言葉をしっかり受け止めている証拠だ。


本なんて読ませるつもりはない。

彼女の肩越しにそっと腕を回し、背後から抱きすくめる。

細い肩がびくりと震え、美しくしなやかなリエルの髪が俺の頬や首筋をかすめた。


「ぷっ……ちょっと、くすぐったいってば」


くすぐったいと言いながら、堪えきれずに笑う顔が可愛い。

だからつい、首筋に口づけを落としてしまった。


途端に小さな身体がびくっと震える。

逃げようとしても、軽く抱いただけで簡単に捕らえられてしまう。

その戸惑いさえも、甘美で、愛しくて。


「……怖がらせてすまない。もう少しだけ」


自分でも理性が揺らいでいるのがわかる。

彼女の唇に何度も触れ、深く味わってこのまま奪い尽くしてしまいたい。

けれど。


……いや、まだだ。

泣かせるようなことはしたくない。


欲望と理性のせめぎ合いで、心臓の鼓動が荒く耳に響く。

思わず彼女から身を離し、深く息を吐く。


このまま進めてしまいたい気持ちと、王太子として結婚まで待たねばならない責任感が鬩ぎ合う。

いざ……行動にしてしまおうと思っても、ちゃんと彼女と最後まで為せるのか不安になってしまう。

……余裕の顔を繕っているが、本当はいつもぎりぎりなんだ。


気まずい沈黙が落ちる。耐えきれなくなったのか、リエルが叫んだ。


「~~~!!!断りもなくキスすんなぁぁぁ!!!」


ベッドから逃げようとするリエルを、反射的に引き寄せる。

抑えなければと思えば思うほど、離れてしまうのが耐えられず、腕の中に閉じ込める。


「リエル……愛してる」

「お前は話を聞けよ!!!!」

「おや?君がいつも読んでる物語の王子と俺は近いと思うんだけど?」

「は?え?」


抵抗とも言えない小さな拳で肩を叩く姿すら愛おしい。


「俺なら、全て叶えてあげるよ?」

「……読むのと実行されるのとは違っ……!!」


観念したのか、やがて大人しくなり、俺の胸に顔を埋めてくる。

その心地良い鼓動と体温を感じていると……


「わんっ!」


……邪魔が入った。


ふかふかの白い毛玉、リエルがワンワンと名付けた犬がベッドに飛び乗ってきた。

俺とリエルの間に割り込むように寝転がり、当たり前の顔で居座る。


リエルは一瞬きょとんとしたが、次の瞬間には吹き出すように笑い、犬を抱きしめた。


『だって、こんなに綺麗で、大きくて堂々として……』

『エドにそっくりじゃないですか♡』


彼女はそう言っていたが、どこがだ。納得いかない。

腕の中より、犬の毛並みの方が安心するのか。

理性を取り戻すにはちょうどよかったのかもしれない。

けれど、犬に彼女を奪われたような妙な悔しさが胸を締めつける。


尻尾を振りながらリエルの膝に飛び乗り、当然のように抱きつくワンワン。

彼女は嬉しそうに笑い、頬を擦り寄せている。


……ワンワン。この貴重な時間を邪魔するとは……お前だけは絶対に許さない。


「ワンワン♡今日も可愛いねぇ」

「……」


俺の腕から、するりと抜けていくリエル。

代わりにその腕に収まったのは犬。

本来の俺の場所を奪ったのは犬。


「くすぐったい~!やめてよワンワン♡」


舌で頬を舐められ、ころころ笑う彼女。

……俺だって、そこまでしてないのに。


そんなことを考えながら、戯れているアリエルを眺めていると犬と視線がぶつかる。

黒い瞳がキラリと光り、『ワフッ!』と誇らしげに吠えた。

……ドヤ顔をしている、気がする。

いや、気のせいじゃない。挑発だ。間違いない。


リエルはくすくす笑いながら、俺と犬を見比べる。


「も~、ワンワン相手に睨むなって」

「マウント取られてる気がするな」

「ぶっ!気のせいだって!!」


けれど、どうしても引けなかった。


「……リエル」

「ん?」

「ワンワンは……結婚後、どうするんだ?」


犬越しに投げた真剣な問いに、彼女は即答する。


「え?連れてくよ」

「……っ!」


……崩れ落ちそうになる。

王太子妃として迎える婚約者より、犬の扱いの方が早いのか。

国王陛下に婚約を認められた俺より、即答か。


「……ワンワンめ……」


犬を睨むと、リエルが笑いながら俺の頭を撫でてきた。


「エドも、ワンワンも、どっちも大事だってば」


肩ががくりと落ちる。

犬と同列。王太子、婚約者と犬が同じ括り。


「……俺と犬を一緒にしないでもらいたいな」

「だって、ワンワンと私はもう家族だし。結婚したら、エドも家族になるんだろ?」


さらりと告げられ、胸が跳ねる。

犬と同列にされて腹を立てるどころか、結局その一言で胸が満たされてしまう。

……そんな言葉を向けられて、反論できるはずもない。

結局、彼女の笑顔にすべてを許してしまう。


「……なら、俺だって示させてもらおうかな」


ぐいっと腕を伸ばし、リエルを引き寄せる。

頬に口づけ、そして唇を奪った。


「んっ!?ワ、ワンワンの前でやめろって!」

「誰の前であろうと、俺のものだと示したいんだ」


背後から『ワフッ!』と抗議の声。

それを無視して、もう一度深く口づけた。

犬にだって譲れない……そう伝えるために。

「転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!」1巻完結になります。

最後までお付き合いありがとうございました。


ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション、感想、レビュー

頂けると嬉しいです*⸜(*´꒳`* )⸝*


まだまだ、二人の物語は始まったばかりです。

近い内に、お話の続きを投稿予定です。

その際は、またよろしくお願いしますミ(o _ _)o


※この物語は第2巻へと続きます。

続きはこちらからお読みいただけます。

→【第2巻リンク】https://book1.adouzi.eu.org/n9210lk/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ