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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!  作者: 木風


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第28話「あなたの視線ひとつで、胸のどこかが温かくなる」前編

「王太子殿下エドガー・ルクス・アストリア殿下と、クローバー公爵令嬢アリエル・C・ラバー様のご入場です!」


扉が開かれると同時に、眩しい光と音が一気に雪崩れ込んでくる。

豪奢なファンファーレが天井に反響して、胸の奥まで響いた。

エドに手を引かれ、広間の中央へ進む。


左右に大きな鏡と窓が並び、そこに映る自分の姿が信じられないくらい煌びやかで、同時に足がすくむ。

シャンデリアの光が幾重にも反射して、視界がキラッキラと光に満たされる。


窓の外はもう真っ暗で、余計に室内の豪華さが際立っていた。

大理石の柱や金の装飾、天井には天界を描いたような絵が広がっている。

人のざわめきと香水の匂い、花々の甘い香りが混ざって、めまいがしそうになる。


……数百人?いや、下手すれば千人近いんじゃないか?

まるで私の身体に穴が開くんじゃないかと思うほど、会場中の視線が一斉に突き刺さってきた。


体育館かよ……ってか、バレーの試合でもできそうな広さなんですけど!?

しかもこっちは、全員から一斉にガン見されてるんだよ!?


「……ゲロ吐きそう……」

「大丈夫、俺だけを見て」


エドの声は落ち着いていて、妙に静かに響いた。

その一言だけで、荒れ狂う鼓動がほんの少しだけ落ち着いていく。


見てって言われても……でも、そうか。

私は一人じゃない。

聖夜祭に一人で突っ込んだアリエルのことを考えると、胸が締めつけられる。


深呼吸して、ぎゅっと目線を上げる。

アリエル……きっとエドなら大丈夫だ。

お前を一人で入場させるようなことはしないよ。


中央で一礼すると、音楽がぴたりと止み、空気が張り詰める。

やがてゆったりとした旋律が流れ出す。


足がすくみそうになるけど、エドのリードに従うと不思議と身体が自然に動いた。

広いフロアに靴音が静かに響き、スカートが揺れる。


「……踊るのは収穫祭以来だな」


エドの言葉に思わず、あの時のことを思い出す。

庶民に混ざって笑って飛び跳ね、ずれてもお構いなしで踊った、あの自由な時間。


「ぷっ。あんなのは踊りなんて言わなくない?」

「……やはり、君は笑顔が一番似合う」


正装のエドがそんなことを真顔で言うから、余計に笑ってしまう。

でも、自然と肩の力が抜けて、足取りが軽くなった。

気づけば、周りの視線が少しずつ気にならなくなっていた。


目の前のエドと視線を交わす。

微笑んで、気恥ずかしくなって、また逸らして……

そんなやり取りを繰り返すうちに、曲が終わり、温かな拍手が降り注ぐ。


「もう終わりか。残念だな」


人の気も知らないでそんなこと言うから、思わずジロリと睨む。

でも、目が合うとまた笑ってしまう。


「ふっ……お前、よっぽど私が好きなんだな」

「……知らなかった?」

「……いや、知ってた……」


くそ……やっぱりこの人は余裕すぎる。

それでも、手は繋いだまま。

手袋越しでも伝わる温もりに、安心するのが悔しい。


会場の端に移動しようとした時、エドがふと振り返った。

そして小柄な少年を連れて来る。


黒色の髪、透き通るような氷青色の瞳。

何よりエドと同じ面影を持つその顔。


「本来なら后妃もこの場に立つはずだったが、体調が優れず欠席している。

……代わりに弟を紹介しよう。セシル・ルクス・アストリアだ」

「アリエル様、どうかよろしくお願いいたします」


后妃……?あそこにいる王妃とは別の存在?

複数妃が普通にいるのか……?

ってことは、いつかエドも私以外に妃を迎える可能性がある……?

チクリと胸が痛む。


でもそれ以上に衝撃だったのは、セシルの姿。


背はアリエルより小さい。150そこそこだろう。

隣に立つエドとは30センチ以上の差。

そのあどけない顔立ちに、気品ある所作。


エドの顔なのに、年齢が下がるだけで……可愛すぎる。

尊すぎる……なんだこの存在……


「もし、よろしければ姉上とお呼びしても?」

「姉上!?もちろんです!!」


即答だった。声が少し裏返った。

ああもう、この幼さでエドの面影を感じるとか、反則でしかない!!

エドも、こんな年頃の時があったのかと思うと……惜しい、非常に惜しいことをした気がする。


「もし許していただけるなら、僕と踊っていただけますか」


差し伸べられた小さな手。

チラリとエドに視線を送る。


「行ってくるといい」

「ありがとうございます。光栄です」


セシルの小さな手を取ると、周囲から「おお……!」と小さなざわめきが広がる。

高位貴族の視線も、どこか温かな眼差しに変わっているのを感じる。


手袋越しに伝わる温もりは、さっきまでとは違う種類の安心感があった。

次の曲に合わせて、セシルとダンスの輪へと歩き出した。

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