表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

単独行動開始

 拠点外に出て、当てもなく歩く――なんて事は無い。行きたい場所はある。

 アラサーが年甲斐もなく、家出なんてものはしない。

 あのまま拠点に居続けても、ベネディクトにまた無断で持ち出されるだけだ。

 未完成品を無断で持ち出されるのが嫌なら、完成させるまで戻らなければ良い。材料集めもついでに行う。

 大陸に上陸したばかりの頃とは違い、今なら大抵の魔物は一人で対処可能だ。

 ある程度拠点から離れたら、こっそり作った自転車を道具入れから取り出す。

 この大陸でゴム製品の材料は入手出来なかったが、魔法を使って道を均し自転車で走るのに最適な道を作りながら走る。

 ……学生時代、パンクした自転車の修理費を少しでも減らす為に、自力で修理をしていた経験が役に立った。

 こんなところで役に立たずともいい気がするが、自転車って便利なんだよね。体力の続く限り、徒歩よりも速い速度で移動が可能だし。

 暫くの間、無心で自転車を漕ぎ続けた。

 疲労が心地よいと感じたところで休憩を取る。荒野のど真ん中だが、吹き抜ける風は適度に湿度を含んでいるので心地良い。

 一人用にカットしたブルーシートを敷いて座り、水筒の水を飲んで一息吐く。ついでに仰向けに寝転がって、雲の少ない青い空を見上げる。

 音も無く風が吹く。風に吹かれて前髪が遊ばれた。息を吐けば、音が大きく響いた。

 他には何も聞こえない。それは何故か?

「ずっとあの拠点に居て、毎日誰かと会っていたからだよね」

 この四ヶ月間、苦楽を共にした仲間との日々を振り返る。何時から亀裂が入ったのか。

 起き上がり、膝を抱えてこの四ヶ月間出た情報を思い出す。


 元々、不明者の捜索が上陸した目的だった。

 だが、どこを探しても見つからない。魔法を使って大陸の端から端まで移動した事もあったけど、手掛かりは何も見つからなかった。

 それどころか、上陸前に発見されていた民家らしい建物は無くなっていた。

 事前に聞いた座標のところに向かい、GPSを使って現在位置を確認したのに、そこに建物は無かったのだ。

 民家はどこに消えた? 周辺に破壊された痕跡は無い。

 行方不明の人々はどこに消えた? 死体すら見つかっていない。大陸各地に存在する魔物に捕食されたのか?

 仮にどこかに隠れて生き残っているとしても、隠れる場所はダンジョン以外にはない。だが、ダンジョン内で生きた人間と出会った事は無い。

 そもそも、ダンジョン内には数多の魔物が生息している。とてもでは無いが、生身の人間が生きられる環境ではない。

 現在、ダンジョン攻略に精を出しているのは、ここ以外に調べる場所が無いからだ。

 ダンジョンを初めて攻略した時に発見した、あの魔方陣に使用されていた文字の解析は進んでいない。

 地球上で使用されたどの文字とも一致せず、毎日言語研究家達による激しい議論が行われているらしいが、結論は出ない。

 時間だけが徒に過ぎる状況だ。

 ダンジョン内を調べた――いや、攻略を続けた結果、出口に当たる場所にあの魔方陣がある事だけが判明した。他に判明している事はない。

 あるとしても、魔物棲み処である事以外に何も無い。

 以前気にした、ダンジョン内の魔物が外に出て来る『スタンピード』の発生は、今のところ起きていない。


 ダンジョンと魔物と言えば、ゲーム時代と違う点が存在する。

 ダンジョンの外にいる魔物を討伐すると死体がそのまま残った。ダンジョン内で討伐した魔物は死体が消えるのに、ダンジョンの外で討伐した魔物の死体はその場に残る。

 しかも、通常の生物と同じように時間の経過と共に腐って行く。

 これは、魔石欲しさに休憩がてらにちょっと待っていた時に発覚した。この時にダンジョンの外で討伐した魔物は、口から火を噴く牛っぽい見た目だった。

 火を噴くのならば、炎関係の魔石が手に入るかも知れない。

 そう思ったんだけど、予想に反して死体は何時までも残った。

 このままでは血の匂いで他の魔物を呼び寄せるかもしれない。燃やしてしまおうかと思った時、ラノベで見掛けた魔物に関する設定を思い出した。

 ――魔物の肉は美味しい。

 ラノベによっては、魔物の血肉は人間にとって毒なので食べられないと言う設定もある。

 人体にとって有害であるか否かは鑑定魔法で調べられる。

 パーティメンバーに不審な目で見られながらも調べた結果、毒は無かった。

 毒が無いなら、食べてみよう。美味しかったら、新鮮なお肉が手に入る!

 緊急時用のナイフで苦労しながら魔物の皮を剥ぎ、掌サイズの肉片を切り出した。地面に氷属性の魔法で氷の箱を作りだして置き、そこに水属性の魔法で生み出した水を注いで肉片を入れる。

 本音を言うと、塩を入れたいんだけど、大量にある訳でも無いので使用は控えた。


 ……確か、レバーの血抜きのやり方がこんな感じだった筈。


 身内に健康の為とか言って、急遽購入した市販のレバーの血抜きをやり始めた人物がいた。スーパーで売られている肉は既に血抜き済みなのに、何をやっているんだと突っ込んだのは良い思い出だ。

 本当の血抜きのやり方は違うと思うが、水に浸けて血が付着した肉片を洗った。

 洗った肉片から一枚薄く切り、浮遊の魔法で宙に浮かせて魔法で乾かしてから、両面を魔法で焦げ目が付くまで焼いて、食べてみた。

 血抜きは仕留めてからすぐに行う。そうしないと、肉の中に残った血が苦みとして残ってしまう。

 うろ覚えの知識通りに、苦みが残っているかと思いきや、魔物に肉は予想をはるかに超えていた。

 先ず、臭みが無い。次に、時間が少し経過しているにも拘らず、苦みも無い。そして何より美味しかった。

 残りの肉片を薄く切り、同様の処理を行ってから焼いて、皆にも食べて貰った。

 マルタとロン以外はすぐに食べて、その味に驚いていた。皆の反応を見た二人も遅れて食べて驚いていた。

 誰が言い出した訳でも無く、牛の魔物はその場で解体し、肉塊は氷漬けにして全て持ち帰った。

「この牛の群れを襲えば、毎日高級肉でバーベキューが出来るんじゃないか?」

 その日の夕食時。

 串に刺して塩を振って焼いただけの肉を頬張りながら、アルゴスが真顔でそんな事を言った。あちこちから同意の声が上がった。

 だが、この時の実力では、魔物の群れに挑むのは無謀だった。

 ――次に見つけたら絶対に狩ろう。

 皆の思いが一つになった。


 こうして振り返ると、たまに愉快な事が起きるが、基本的に調査状況が良くないな。

 行方不明者はどこに消えた? 

 この大陸は何故出現した?

 上陸可能な人間が、ゲームのテスターに選ばれたものだけの理由は何なのか?

 分からない事だらけだ。

 深呼吸と伸びをして、ブルーシートを道具入れに仕舞い、再び自転車に乗って移動を再開した。



 そして、単独行動を三日も続けた。

 移動途中に、材料集めも行った。

 だが、一度撤退したダンジョンボスを斃すには、もう一度あのダンジョンに向かわなくてはならない。

 ダンジョンボスを斃す武器を作るには、ボス部屋に続く道中で倒した魔物の魔石を使った武器が必要だ。ドラゴンを斃す為に、ドラゴンの骨爪牙を用いた武器を準備するようなものだ。

 即席で作ったものがダンジョンボスに対して有効だったので、この仮説は正しいと思われる。

 でも、ベネディクトがどこかに流してしまったので、もう手元には無い。

 もう一度作らなくてはならないんだけど、要となる魔石は手元に残っていない。ダンジョンに潜り、魔石を集めなくてはならない。

 単独でダンジョンに潜るのは危険だが、現状を考えると致し方無い。

 装備を確認し、出入り口傍の地面に緊急脱出用品を埋め、色々と覚悟を決めてダンジョンに潜った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ