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自分は何処にでもいる凡人です  作者: 天原 重音


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初めての実戦

 鉱脈の出入り口は洞窟の出入り口と変わりない外観をしている。

 入るまではゲーム時代とほぼ同じだった。

「――え?」 

 高さ三メートル、横二メートルの洞穴に入った瞬間、空気が変わった事を肌で感じ取った。

 ゲーム時代との最大の違いは、明かり代わりの青白く光る鉱石があちこちに見える事か。青白く光る鉱石のお陰で、鉱脈の内部は薄暗い程度の光度を保っている。

 他に変わりは無いが、耳を澄ませると遠くから小さな音が聞こえる。

 異変に気づいたのは皆も同じだった。自分の左腕を掴むロンの震えが伝わって来る。

 悩まず皆に異変について説明すると、皆の顔が曇った。予想外の異変に、ベネディクトの顔も曇っていた。

「ベネディクト、罠探知……出来る?」

「出来ますよ! そこだけは疑問形にしないで下さい!」

 ベネディクトは怒鳴り、腰のロープを外してから皆の前に出た。いとも簡単にロープを外された事で、ペドロが何とも言えない顔をしたけど、空気を読んで何も言わなかった。

 ベネディクトが地面や壁を叩くなどして調べる様子を見て、アルゴスとギィードから説明を要求された。皆もベネディクトの行動の意味を知りたそうな顔をしていたので回答する。

「罠探知、トラップサーチとでも言えば解る? 例えが地雷とワイヤートラップになるけど、このまま安全に進めるか調査しているの」

「そんな事をする必要が有るのかい?」

「有るよ。どうやらここは、ダンジョン化しているみたいなの。言い方は悪いけど、即死トラップが発動して、全滅なんて嫌でしょう?」

 クラウスの疑問に回答してから皆の顔を見回した。

 自分の回答を聞いた皆は嫌そうな顔をしている。やっぱり『全滅』の単語を使った事が功を成したか。代わりにロンが自分の腕を掴む力が強くなった。

 そうこうしている内にベネディクトが戻って来た。

 このまま進んでも罠の類は無いが、代わりに凶暴そうな顔をした兎――魔物が三匹もいるらしい。

「このまま進むと魔物に遭遇し、戦闘に発展します」

「一度引き返して、あたしとベネディクトで改めて進んでも良いけど、どうする?」

 ベネディクトの罠探知結果と斥候して得た情報を聞き、己の意見を述べてから、険しい表情を浮かべている皆を見た。

「どうって……、直接見た方が今後の為になるって、話し合って来たんだ。引き返してどうするんだよ」

 アルゴスの言葉に殆どの面々が頷いている中、『えっ!?』って顔をしたのはロンとマルタだ。当然のように皆の視線が二人に集中する。

 いきなり命懸けの実戦を行う事になったのだ。命懸けだから怖気づいてしまうのはある意味しょうがないと、ベネディクトと二人でフォローし、どうするか話し合う。

 碌に訓練をしていない中で来ているのだ。引き返した方が良いと何度も主張したが、『実戦で得られるものがある。目標を定める為にもやりたい』との意見が、ルシアとミレーユ、アルゴス、ギィード、クラウスの五人が頑なに主張した。ベネディクトとペドロは中立、自分とマルタとロンは反対した。

 多数決と話し合いの結果。

 ベネディクトが撹乱、自分は魔法でフォロー、賛成した五人が戦い、止めを刺すまで行う手順で、初実戦に臨む事になった。反対したマルタとロン、医者のペドロは不参加だ。

 ベネディクトが兎の前に躍り出るなりナイフを投擲して、固まっていた三匹をばらけさせる。

 別れた三匹のそれぞれに、五人がそれぞれの得物を手に攻撃を始めた。


 ――ここまでは良かった。


 兎は魔物なので、普通に回避して、普通に反撃して来た。

 大上段から振り下ろされたクラウス剣を、兎は軽い身のこなしでひらりと躱し、宙へ高く跳び上がった。

 ミレーユとルシアが左右から兎に向かって攻撃したが、こちらも躱された。攻撃を回避した兎は助走を付けて跳び上がった。綺麗なフォームのドロップキックだ。

 兎はギィードの剣をひらりと躱し、アルゴスに向かって跳び蹴りを放った。

 直後、鈍い音と悲鳴があちこちから上がった。

「ベネディクト!」

 声を上げながら、五人に向かって治癒魔法を放った。

 一方、ベネディクトは自分に呼ばれるよりも先に動き始めていた。

 ベネディクトは再びナイフを投擲して兎の気を引き、近づいて来た一匹を短剣で切り付けて素早く退却する。短剣で切り付けられた兎は苦悶の鳴き声を上げるが、すぐに毛を逆立てて他の二匹と共にベネディクトに襲い掛かる。

 三匹の兎は自分に背を向けている。逃せない隙だ。

光獄(こうごく)、げっ!?」

 光属性の捕縛魔法を使い、兎を光の檻の中に閉じ込めた。だが、一匹だけ逃してしまった。捕縛魔法から逃れた一匹の兎は進行方向を無理矢理変えて、自分に向かって突撃して来た。

光盾(こうじゅん)

 光の盾を正面に展開して、兎の跳び蹴りを防御した。光の盾は兎の跳び蹴りに耐え切り、自分を守った。未だに自分の左腕を掴んだままのロンが、情けない悲鳴を上げて抱き着いて来た。ええ加減、離せよ。

 兎は再度、光盾に跳び蹴りを叩き込んだが、砕けないので悔しそうに唸り声を上げた。ベネディクトがその隙を見逃さずに回収したナイフを兎に向かって投擲した。

 兎は背後から飛んで来たナイフを機敏に回避して、自分の後ろへ跳んだ。

「――え?」

 背後からマルタの呆けた声が聞こえた。

 不味い。後ろには無防備なマルタとペドロがいる。慌てて振り返ろうにも、自分に抱き着いているロンが邪魔になり、足場の悪さからバランスを崩して尻餅を着いた。

 せめて逃げろと警告だけでも声を上げようとした。

「きゃっ、あ、ぉあああああっ!」

 マルタの悲鳴が上がり、ぐしゃっと、生々しい湿った音が響いた。

『……』

 その場にいた全員が呆然として、壁に沿ってずるりと地面に落ちた『兎だった物体』を見た。兎と言うには、原形を留めていなかったが、肉片は飛び散っていない。

 皆の視線が兎だった物体からマルタに戻る。そこには、教科書に乗せたいぐらいに綺麗なフォームの右ストレートを放ち、残心を維持したままのマルタがいた。

「ふぅー、ったく、小動物の分際で、か弱いシスターを狙うなんて……、あれ? 皆さんどうしたんですか?」

 キリっとした顔で残心を解き、顔に掛かった髪を片手で後ろに払ったマルタだが、そこで漸く、皆の視線を一身に集めている事に気づき目を丸くした。

 意外な戦力の発見だが、どう反応すれば良いんだろう?

 捕縛魔法で閉じ込められて外に出られず、キィキィと鳴いている兎の存在を忘れて、皆で困惑する。

「あー、そのー、マルタ、アレを見て下さい」

「? アレ?」

 埒が明かないと判断したベネディクトがマルタに声を掛けて、壁の染みを指差した。

 訳が分からないと言った顔をしたマルタだったが、壁の染みを見て、染みに沿って地面に落ちている物体を見て血相を変えた。

「あ、ああああああっ!? わ、わた、私はま、またっ、祈らないと、祈りましょう、祈りましょう」

 自身が何をしたのかを、正確に理解したマルタは目に見えて狼狽え始め、『あぁ、やっちゃった』と頭を抱えて嘆き始め、両手を握って祈り始めた。

 何と言うか、色々な意味で遅い。つか、『また』って何よ?

 未だに自分に引っ付いているロンを引き剥がし、負傷した五人の治療を行う。

 幸いにも、骨折をしたものはいなかった。打撲と骨に罅が入っただけだった。骨に罅が入れば十分重傷だが、魔法ですぐに治療可能な範囲だ。

 こんな事ならペドロに治癒魔法を教えるんだったと、内心で後悔しながらペドロと一緒に治療を行う。治癒魔法についてペドロに説明しながら使って見せると、ペドロはあっと言う間に習得した。

 ……やっぱり医者だから習得が速いのかな?

 ペドロは、ヒールとキュアの名称で治癒魔法を覚えた。その内、ハイヒールとハイキュア、リザレクションとかも覚えそうだな。

 五人の治療が終わったら、捕縛と言うか、捕獲したままの兎二匹を皆で取り囲む。

 炎属性の魔法で焼いてしまおうとしたが、五人が一匹ずつリベンジしたいと、頑なに主張した。

「今日はもう引き返そうよ」

「いや駄目だ。兎一匹殺れんようでは今後が心配だ。せめて一匹だけでも殺りたい」

 ルシアの主張に他の四人も力強く頷いた。

 殺意に満ちた面持ちの五人を見たロンが引いた。

「一匹ずつ、確実に殺るわよ! ロン、アンタも混ざりなさい」

「えええええっ!?」

 ミレーユに掴まり、ロンは逃げようとしたが反対側からルシアに捕まりそのまま連れて行かれた。

「おい、ベネディクト。聞きたい事が有るからこっちに来い」

 ギィードが有無を言わさぬ迫力でベネディクトを捕まえて別方向へ連れて行く。その先にはアルゴスとクラウスがいた。そのまま四人で話し合う。誰もマルタの事は気にしない。

「いや、拠点に戻ろうよ!」

 自分の意見は却下され、一匹ずつ解放した兎とリベンジ戦になった。



 ルシア、ミレーユ、ロンの三人で、兎をどうにか一匹倒した。

 ロンは終始、魔法銃を手にオロオロしていたが、ルシアとミレーユがどうにかして弱らせた兎に止めを刺した。と言うか、止めを刺す役をやらされていた。

 ロンに止めを刺させた二人は、戦闘が終わったのに、剣を振り回しながら文句を言い合っていた。二人は剣を振り回す体力が尽きると、今度は猫手で叩き合い、互いの頬を抓り合う、キャットファイトを始めた。

 ペドロとベネディクトが無言で二人を羽交い絞めにして引き離した。

 そしてロンは、腰を抜かしたのか、その場に座り込み呆然としていた。

 戦果の割にあんまりな状態だ。嘆息した自分はマルタの頭を叩いて正気に戻し、涙目になっているロンを回収した。ロンを回収した際に抱き着かれたが、どうにか出入り口付近にまで移動した。

 マルタは涙目になっているロンを見てギョッとした。マルタがどこかに向かって祈り始めていた間に起きた事を説明すると、血相を変えて目に見えて狼狽え始めた。

 自分がロンとマルタを宥めている間に、第二戦が行われた。

 こちらはクラウスが積極的に兎の気を引き、ギィードとアルゴスの二人掛かりで 攻撃を仕掛けた事で危なげなく兎を倒した。兎に勝利したあとのノリは『脳筋体育会系』のノリだった。

 

 ……兎三匹でこの大騒動。大山鳴動して、鼠ならぬ、兎狩り。そんな状態だな。

 幸先悪いようにも見えるが、何が何でもやり遂げると言う、皆の固い意志が見える。


 全員の怪我の有無などを確認し、改めて拠点に戻るか否か、再び話し合った。

「このまま行くに決まっているでしょう! ちょっと凶暴な兎を見て引き下がっていたら、やって行ける筈が無いでしょ!!」

 ミレーユの力説に、自分と怖じ気づいたロン以外の面々が賛同した。

「魔法の練習とか、剣の練習とかをしてからでも良くない?」

 最低限の必要そうな練習をしてからでも良い気がする、と言うかしてからでも遅くはない。

「あのなぁ。俺ら以外の連中はそんな訓練をしないで上陸するんだぜ。装備が充実している俺らが、チンタラと練習してからじゃ遅い」

 兎に負けたのが、よっぽど悔しかったのか。拳を天に突き上げてギィードが力説する。同調したアルゴスも『そうだそうだ』と声を上げた。

 そんな中、クラウスが提案をした。

「時間を惜しむのなら、移動しながらでも良いんじゃないか? 簡単な魔法なら難しくも無いだろう?」

「……クラウス。そこまで言うのなら、当然、魔法を使う際の条件とかも覚えているよね?」

「簡単な魔法を使う時には詠唱は不要。ただし、使いたい魔法のイメージを明確にしないと失敗するだっけ?」

「一番大事な点は確かにそこだけど、自分の魔法適性とか覚えているの?」

「………………ごめん、忘れた」

 呆けた顔をしたクラウスは長い沈黙を挟んでから、目を逸らして回答した。

 何故、二番目に大事な点を何故忘れるのか。思わず、肩を落として嘆息した。

 他の面々に自身の魔法適性が何であるか覚えているものがいるか確かめたところ、ルシア、ベネディクト、ペドロ以外は皆忘れていた。

 ステータスプレートは拠点に置いて来ている。

 マルタ、ミレーユ、ロン、クラウス、ギィード、アルゴスの六名の魔法適性を調べるには拠点に戻らなくてはならない。

 手元に有る鑑定プレートは鉱石用だが、魔法技能の鑑定を使って調べられないか試してみた。結果は成功だが、再度適職を知る事になり、マルタに納得の視線が集中した。

 兎を一撃でミンチにした以上、誤魔化しは不可能だ。

 マルタは絶望顔で地面に崩れ落ちた。皆でマルタを慰めてから、奥へ移動を始めた。


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