第5話 獣の終わり
「彼には何もないんだ。生きる理由も、死ぬ理由も……このままだときっと、寿命が尽きるまで苦しみ続ける。だから終わらせてあげたい。もう楽に……せめて、友の手で。人らしく 」
「…………あぁ 」
「やぁ、ごきげんよう 」
「はぁっ!? シノブ!? 」
ロジー王国に面する平原。
そこにある一つのテント。
そこにシノブは近づいて行く。
「おう、止まれ 」
けれど当然、中から出てきたルーが武器を構える。
「お前、国家反逆罪として指名手配されてるぞ? 」
「じゃあ女王に伝えて。逮捕するなら全力で暴れるよって。これからヘレダントを滅ぼした者と戦うのに……そんな余裕あるのかな? 」
「……まぁねぇな 」
「おいおいおい、けっこう勝手だな 」
テントの奥からずいっとやってくる灰髪のノッポ。
それはバーンと呼ばれていた、シノブの側近だった。
「やぁ。元気〜? 」
「いいや寝不足だ。女王がゲシュペンスト処理しちまったからさ、避難とかに手こずった……で? お前はどっち側だ? 」
ギロっと、鋭い目がシノブを睨む。
「もちろん人間側だよ。ヤマトくんは殺す……それは変わらない 」
「じゃあ良いや。お前にも理由があるだろうしな 」
「助かるよ〜。ここで人間同士の戦いなんて」
「だが 」
鋭い、牙のような目。
それが俺に向いた。
「そいつはなんだ? ゲシュペンストだろ? 」
「ヤマトくんの友達さ。彼は味方してくれる事になった 」
「まぁ……そうですね 」
「……分かってんのか? 」
シンっと、あたりの空気が冷える。
それと同じように、バーンの青い目の光が濃くなり、俺の首に剣を近づけた。
「これは人間とゲシュペンストの戦争だ。なのに、人間側に味方すんのか? 俺たちが勝てばお前は処分されるんだぞ? 」
「……分かってる。でも今は、ヤマトさんを殺したい。もう楽に……あの人と同じような結末にはさせたくない 」
「……はぁ 」
短いため息。
それと共に空気は元に戻り、バーンの剣は鞘に戻される。
「んな事言われてもよく分からねぇよ……が、利用はしてやる。付いてこい、作戦を伝える 」
「……あぁ 」
「あぁその前にさ 」
シノブがバーンを呼び止める。
その言葉はやけに重みが乗っていた。
「ユウトくん達は見つかった? 」
「いや、見つかんねぇ。まぁ今はいない奴より目の前のことに集中しろ 」
「んじゃま、作戦を伝える 」
こじんまりとしたテントの中。
そこで伝えられた作戦はこうだ。
シノブが最前線。
その後ろに俺。
ルー。
バーン。
各々がボーダーラインとなり、それを越えさせないようにするため戦う。
ヤマトさんは一人。
だからこっちは、お互いに援護する動きで持久戦に持ち込むらしい。
「作戦は分かったが……これで勝てるのか? 」
「いや安心しろ。俺たちは強いから余裕で勝てる!! 」
バカみたいに自信満々なルーは、自分の拳同士をパンパンとぶつけている。
だが不安だ。
たった数人と一匹。
これだけで戦うとなると……本気のあの人に勝てるか……
「大丈夫だよ 」
でもシノブはニコッと、俺を安心させるように笑った。
「私たちは防衛に関しては最強だから。かつてのケルパー王国が、武力での侵略を諦めるほどにね 」
そこから淡々と準備が始まった。
血も脂も付いていない剣を貰い、装備する。
お互いに距離を取り、そして平原に立つ。
俺の数メートル前に、シノブが居る。
俺の数メートル後ろに、ルーが居る。
作戦通りの位置取り。
あとはヤマトさんを待つだけだ。
(本当に……これで良かったんだろうか )
ふいに迷いが、胸にチラつく。
ヤマトさんは間違いなく死ぬ気だ。
死ぬ理由を見つけたのだから。
でもそんなの……ヒカゲさんと同じじゃないか。
いや……迷うな。
あの人は生きてても辛いだけだ。
生き続けてもあと数年で死ぬ。
だから殺してやるんだ。
楽にするんだ。
ヒカゲさんに出来なかった事を……楽に……楽に。
殺すんだ。
楽にするんだ。
それが一番だ。
正しいんだ。
きっと……きっと……でも
「っ!? 」
風が。
逆巻く。
音。
何かが、落ちて
「よォ!!! 」
平原に巨大なクレーターが。
その中央には、3メートルほどの大剣の上に立つ、ヤマトさんが居た。
「久しぶりだな! シノブ!! 」
「うん、久しぶり 」
獣のように笑うヤマトさんに、シノブは静かに答える。
「いやぁ変わんねぇなお前 」
「そういうキミもね。ところでどうだった? ヘレダントは 」
「変なやつばっか居たよ。一週間くらい寝る奴とか、外見綺麗なのにめちゃくちゃ脳筋な奴とか……俺と似たような奴とか……初恋のために命かける奴とか。ほんと色々な 」
「それは大変だったね 」
「まぁでも楽しかったよ。今じゃ良い思い出だ 」
「……そう 」
その言葉を最後に、空気が変わった。
「……殺る? 」
「あぁ 」
シノブは刀を抜いた。
それだけで風はやみ、静寂が辺りを包む。
「遺言は? 」
「……ありがとよ。ワミヤを連れ来てくれて。おかげで…… 」
ヤマトさん。
は、大剣をつかみ、
「寂しくない 」
「っ!! 」
振りかぶる。
全身には黒い炎が上がり、星が悲鳴をあげるように、大地は軋むような音を立てた。
「落命!! 」
空気は割れ、黒い波動が空を覆う。
「骸誕魔術 」
「っ!? 」
けれどその一撃を、シノブは刀で受け止めた。
細い腕で。
真っ向から。
なんの技術もない、力任せの一撃で。
「ハハッ。やっぱパワーじゃ勝てねぇか 」
「さぁ……開戦だよ 」
「っ!? 」
シノブの蹴り。
ヤマトさんは打ち上がり、その体を力任せな拳が撃ち抜いた。
吹き飛ぶ体。
折れた大剣。
けれど怯まず、ヤマトさんはシノブに突っ込む。
だが素手で拳を止められ、爆風のような頭突きがヤマトさんの顔面を抉った。
(ヤマトさんが……力負けをしている? )
骸誕魔術……噂程度に聞いたことがある。
自らが守る土地で死んだ死者たちの筋力。
それのみを自分の物とする、単純明快かつ万力の魔術。
「でもよぉ!! 」
頭蓋を再生させながら、続く拳をヤマトさんは掴んだ。
「っ!? 」
「もう見てんだよなぁ!! 」
腕を掴んだまま。
回る。
とうぜん回転に巻き込まれた腕は悲鳴をあげ、その勢いのまま蹴りが放たれる。
だが、
(腐追魔術 )
俺の魔術で、不完全を付け足す。
そうしたヤマトさんの足は自身のスピードに耐えきれず、壊れた。
「……ハッ 」
安心したように笑うヤマトさん。
けれどもう一本の足でシノブの顔面を蹴り、吹き飛ばし、そのまま俺の後ろに突っ込んでいく。
けれど、
「海煉魔術 」
空を焼き尽くす太陽が、それを阻む。
「暗塞!!! 」
「っ!? 」
落ちてきた熱炎が、ヤマトさんを焼き尽くした。
「ハハッ!! 」
笑い声とともに、何かが炎を突き抜ける。
それは噛み切られた舌だ。
肉が増殖。
復元されたヤマトさんが、そのままロジー王国に突っ込
「監制魔術 」
だがその体は空中に固定された。
「この空間の支配者は…… 」
呑気にタバコを吸うバーン。
それとは正反対に、ヤマトさんはまったく動けていない。
「俺だ 」
「っ!? 」
重い言葉。
それと共に、ヤマトさんは後ろに吹き飛んだ。
けれどその右腕が肥大。
視界を覆うほどの鎚が、現れる。
「憎世!! 」
(ヤマトさん…… )
だが俺の魔術で、その右腕は根元から壊れた。
(もう……辞めませんか? )
「バッ!? 」
横から飛んできたシノブの蹴り。
ヤマトさんのこめかみを抉る。
頭は半分潰れ、その体は肥大した黒い鎚に突っ込んだ。
そして、
「骸誕…… 」
振り上げられたシノブの刀が、静かに振り下ろされた。
「束刀・肉花火 」
目に見えたのは一閃だった。
なのに黒の巨塊は、転落死体のように弾け飛んだ。
「殺った? 」
「まだ。ズラされた 」
後ろからやってきたルーに、シノブは淡白に言葉を返す。
無意味だろうが、俺も砕け散った肉片たちを警戒する。
アレはぜんぶヤマトさんの一部だ。
急な一撃がいつ来てもおかしくな、
「なぁ、なんか妙じゃね? 」
ふいに、ルーが首をひねった。
「何が? 」
「いやアイツ……ロジーのゲシュペンストだろ? なら俺たちの魔術知ってんのに……馬鹿みたいに突っ込むだけなんておかしいだろ。何か狙ってんのか? 」
「っ…… 」
(ヤマトさん……やっぱり )
「俺バケモノだからさぁ!!! 」
瓦礫。
が吹き飛び、下から。
黒い獣が現れた。
「人間の言葉わかんねぇわ!!!! 」
「ほざけよバケモ」
遅れてきた。
音。
ルーが消し飛び、風が吹き荒れる。
(はやっ)
吹き飛ぶルー。
空中で、直角に曲がる獣の斬撃が、全方位から迫る。
「はえぇな!! でも 」
「っ!? 」
「焼き尽くしゃ問題ねぇ!! 」
目が蒸発する。
ほどの温度がルーから発せられ、
「空間は固定した。焼け 」
「オーケー!!! 」
紅い熱波が俺たちごと地表を焼いた。
けれどバーンのおかげで俺たちは無傷。
ヤマトさんだけが黒焦げのまま、空を舞う。
「この程度じゃあ……死な」
蠢く肉。
を、シノブの踵がえぐる。
それは地面深くにめり込んだ。
瞬間、
「「「「っ!!? 」」」」
地震が起こった。
ただの地震じゃない。
世界が傾いてると錯覚するほどの、揺れ。
「なんで俺がよぉぉ、わざとらしく的になったと思う?? 」
夜が。
いや違う。
黒い夜空のような翼が、地面から伸び、空を覆う。
「地下で増殖させてたんだよ!! 折れた剣先をなぁァ!!! 」
蠢く数億の羽。
あの一つ一つは……すべて剣だ。
「さァあ!! 星ごと砕けろ!!! 」
肌を舐める、死。
翼はグラりと傾き、終わりを撒き散らしながら、落ちてくる。
「憎
世
安
楽
暗 」
けれどそれは……あまりにも無意味な一撃だった。
「空間支配・加速 」
「焔纏・太壊陽 」
「腐追魔術 」
「束刀 」
ヤマトさんは一人なんだ。
対してこっちは三人と一匹。
そんなの……勝てるわけないじゃないか。
「星千切 」
俺たちの援護を受けた、シノブの居合。
それは空を軽々と裂き、黒い翼を、その体を、一瞬で焼き尽くした。
「はハ歯Haハッ!!! 」
まだ立つ。
焼けた死体から、肉が蠢く。
けれど身体中には黒い痣が浮かび、手足にはヒビが入ってる。
自己矛盾。
過度な再生。
ヒカゲさんと同じだ。
もう……長くない。
「もう終わりかぁァ!? 人間どもがよぉぉぉ!!! 」
叫ぶ獣。
その前に立ち、ゆっくりと剣を抜く。
「ヤマトさん…… 」
「ワミヤ…… 」
「……好きでしょ? 殺し合い 」
笑い、合い、お互いに剣を、牙を構える。
「……あぁ!! 」
亜音速で突っ込んでくる獣。
その両腕に不完全を付け足し、一太刀で上半身を切り落とす。
だが下半身だけが空を蹴り、逆さの踵が落ちてくる。
「っう!! 」
左腕。
を盾に、受ける。
バキャッと骨が顔を出し、腕がへし折れ、地面に叩きつけられた。
広がるクレーター。
砕けた頭。
でもこの程度だ。
速度も、さっきに比べて遅い。
「もう……終わりにしましょう 」
頭の血をぬぐい、剣を構える。
そして空から降ってくる獣の……
「ハハハハハハはっ」
袈裟を、下から切り裂いた。
「ヤマトさん…… 」
「あー……楽しかったぁ 」
満足したように、ヤマトさんは笑う。
もう傷は再生してない。
残った指先も崩れ始めている。
後は……トドメを刺すだけだ。
「……っ 」
一歩近付く。
ヤマトさんは安心したように、心地良さそうに笑う。
(……殺すんだ )
二歩。
握る剣が震え始める。
(今度は……俺が!!…… 楽にするんだ )
三歩。
無理やり剣先を、ヤマトさんの心臓。
左胸に沈める。
(突き刺せ……それで終わる。なのになんで、なんでしな)
「ワミヤ 」
「っ!? 」
ヤマトさんの。
左手。
そこから何かが飛んできた。
それは……ただの小瓶だった。
「……これは? 」
「ゲシュペンストを……人間に戻す薬だ 」
「……壊したんじゃなかったんですか? 」
「あの大剣は俺の細胞を使ってる。だから壊したものはぜんぶ収納できんだよ。だからワミヤ……これでゲシュペンストを救ってくれ 」
あぁ……あなたも同じことを言うんですね。
ヒカゲさんと。
「残念ですけど、ロジー王国のゲシュペンストは全滅しましたよ。フィレ女王が殺しました 」
「あぁ、あのクソ女がか……ならしゃあねぇ、ワミヤが飲んでくれ。ユウトとサクラには絶対飲ませるな。そして人として……生きてくれねぇか? 」
「しゃあねぇ……って 」
「俺にとっちゃゲシュペンスト救済はオマケだ。まぁ出来たらヒカゲにいい報告が出来たと思ったけどな…… 」
「……なんで 」
「あっ? 」
「なんで! 自分のために生きないんですか!? 」
もう……怒りだった。
なんでこうも……この人たちは……ここまで自分を蔑ろにできるんだ。
「それをあんたが飲んだら、普通に生きれたじゃ無いですか!! 人間になれば欲求も抑えられる! 寿命も伸びる!! なのになんで……俺に、生きろって言えるんですか…… 」
あの人と重なる。
ヤマトさんの姿が、声が、生き様が。
涙が溢れてきた。
悲しくもないのに。
むしろ苛立ってる。
なのにヤマトさんは……やっぱり笑った。
「……そりゃあ、ヒカゲと一緒さ。もう誰かに裁いて欲しかった。永久に許さないでいて欲しかった。もう一緒に生きたいって思う人も居ない。死にたかった。でも死ねない理由があった……でもさ、丁度いい死ぬ理由を見つけたんだよ。だからもう……終わりたい。楽になりたいんだ 」
「……っ 」
「殺ってくれ。俺を殺せば……お前は英雄になる。その後に人間になりゃ、お前の立場はマシだろ。シノブが守ってくれるだろうしな 」
「……… 」
まだ……迷ってしまう。
分かってるんだ。
この人が生き延びたのしても、幸せなんて無いって。
だから心で息の根を止めるのが正解なんだ。
正解なんだ!!
でも……でも……俺は……
「…………ヤマトさん。ごめんなさい 」
貫いた。
ヤマトさんの。
腹を。
「あっ? なに……して!? 」
トポトポ……空いた穴に薬を流し込む。
剣を通して。
これでヤマトさんは……人間に成る。
「なんで……なんで!! 」
ヤマトさんの困惑の表情。
そんな予想通りな顔には、笑顔を返すって決めていた。
「逃げますよ、ヤマトさん 」
「だから……なんで」
「シノブに止められてたけどよぉ 」
空。
には。
三つの太陽とルーが。
「やっぱこうなるかっ? 」
その左腕。
炎に、不完全を付け足す。
炎は自身の熱によって燃え尽き、ルーの腕は風圧で自壊した。
「というかアンタらは自分勝手過ぎるんですよ!!! 」
近付いてくるルーの拳。
身を低くして掻い潜り、その体を蹴りで押し飛ばす。
「っ!! 」
「自分だけが辛いだの! 自分だけが不幸だの!! 残されるこっちの身にもなれ!!! つーか終わりたいんだったら勝手に死んでろ!! なのに俺は不幸だから、幸せになれないから! お前たちだけでも幸せに慣れって……正直迷惑なだけですから!! そんな事よりも! 俺は!! 」
「海煉魔術! 」
空に浮かぶ青い炎。
それはさっきよりも強大で、この距離でも目が蒸発する。
そんな物が、
「永! 炎!!! 」
落ちてきた。
でもまだ。
まだ不完全を付け足せば、
「空間支配・暴走 」
瞬間、その炎は空を飲んだ。
そう錯覚するほどに、膨れ上がった。
この量は無理だ。
不完全を付け足しても意味が無い。
じゃあ……言いたいこと、ぜんぶ言ってやる。
「ワミヤ! 逃げ」
「ヤマトさん 」
振り返り、剣を捨て、思いっきり笑ってやる。
「俺は……ヒカゲさんに生きて欲しかったんですよ。理屈とかどうでもいいから、苦しんででも、生きて欲しかった。でももう言えないから、あの人にそっくりな……あなたに言います 」
服が、皮膚が、髪が、頭が、焼ける。
でも笑い続けて、
「死ぬ理由とか生きる理由とかどうでもいいから!!! 生きて下さいよ!!!! 」
そう言ってやった。
「なんで」
「友達に! 生きて欲しいって思った人に!! 生きて欲しいから!!! それ以外に」
目の前に。
落ちてくる炎に。
手を伸ばす。
「理由なんてありませんよ 」
笑って、ぶつかってくる熱波に、不完全を付け足す。
俺は燃える。
死ぬ。
でも、後ろにいるヤマトさんは燃えない。
届かない。
「ワミ」
「さよ゛うなら! もっど……あなたど!! ……喋り……たかっ」
あーあ。
呪いみたいなの残しちゃったな。
でもいっか……俺もバケモノだし。
どうか人らしく生きようとするあなたに呪いあれ。
抗って苦しむなら、欲望のまま……生きてください。
ーーー
クレーターの真ん中。
そこには一人の人間と、黒焦げの足だけが残されていた。
「ワミ……ヤ? 」
ヤマトはその遺体の前で困惑していた。
当たり前だ。
自分を殺してくれと願った友が、自らを守り、死んだのだから。
困惑していたのはルーも同じだった。
バーンも。
信用はしていなかったが、協力していた物が、突然敵を守り、死んだのだから。
だが、
「束刀 」
シノブだけが動いた。
「億ツ胴!! 」
ただの横薙ぎ。
それはヤマトごと星の地表を削りとった。
(考える暇を与えるな!! この場で殺す!!! )
もうヤケだった。
シノブもこの状況が分かっていない。
けれど時間が経てば、自分のためにワミヤが死んだとヤマトが理解すれば、さらなる苦しむを負うことになる。
そうとだけは、理解していた。
「バーン! 星を保護して!! 」
「っ!? 」
使い物にならない自らの左腕。
シノブはそれを切り落とし、口で掴み、崩れ去る地表に腕を投げ飛ばした。
地表を貫き、腕は確かにヤマトをえぐった。
けれどその手応えはあまりにも軽かった。
ゆえに、
「洛星・逆日ノ出!! 」
シノブは全力の一撃を振るった。
『骸誕魔術』
それは、地に落ちた人間の肉が対象である。
ここにはシノブの腕が落ちた。
魔術により、強化された腕が。
それがシノブの全身を強化し、その全身から放たれる全力の一閃は……ヤマトごと。
容易く星を刈った。
これ以上の威力を出せば、バーンの魔術許容を越え、星すら砕いてしまう。
ゆえに先の一撃が、シノブに許される最大の一撃だった。
「はぁ……はぁ…… 」
息を切らすシノブ。
その足元には、裂けた平原だったものが広がっている。
バーンに魔術により、ギリギリ星は砕けていない。
そして……ヤマトの肉体は完全に消滅した。
(終わっ……た? )
込み上げてくる疲労から引っ張られるように、シノブは膝をつく。
そして聞いた。
赤子の声を。
「っ!? 」
空を。
見上げた。
そこには居たのだ。
浮かんでいたのだ。
赤いへその緒で首を吊る、黒い胎児が。
(なに……アレ? )
ライガの遺産。
首吊りの胎児が。




