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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
君たちの物語
70/73

第5話 獣の終わり



「彼には何もないんだ。生きる理由も、死ぬ理由も……このままだときっと、寿命が尽きるまで苦しみ続ける。だから終わらせてあげたい。もう楽に……せめて、友の手で。人らしく 」


「…………あぁ 」




「やぁ、ごきげんよう 」


「はぁっ!? シノブ!? 」


 ロジー王国に面する平原。

 そこにある一つのテント。

 そこにシノブは近づいて行く。


「おう、止まれ 」


 けれど当然、中から出てきたルーが武器を構える。


「お前、国家反逆罪として指名手配されてるぞ? 」


「じゃあ女王に伝えて。逮捕するなら全力で暴れるよって。これからヘレダントを滅ぼした者と戦うのに……そんな余裕あるのかな? 」


「……まぁねぇな 」


「おいおいおい、けっこう勝手だな 」


 テントの奥からずいっとやってくる灰髪のノッポ。

 それはバーンと呼ばれていた、シノブの側近だった。


「やぁ。元気〜? 」


「いいや寝不足だ。女王がゲシュペンスト処理しちまったからさ、避難とかに手こずった……で? お前はどっち側だ? 」


 ギロっと、鋭い目がシノブを睨む。


「もちろん人間側だよ。ヤマトくんは殺す……それは変わらない 」


「じゃあ良いや。お前にも理由があるだろうしな 」


「助かるよ〜。ここで人間同士の戦いなんて」


「だが 」


 鋭い、牙のような目。

 それが俺に向いた。


「そいつはなんだ? ゲシュペンストだろ? 」


「ヤマトくんの友達さ。彼は味方してくれる事になった 」


「まぁ……そうですね 」


「……分かってんのか? 」


 シンっと、あたりの空気が冷える。

 それと同じように、バーンの青い目の光が濃くなり、俺の首に剣を近づけた。


「これは人間とゲシュペンストの戦争だ。なのに、人間側に味方すんのか? 俺たちが勝てばお前は処分されるんだぞ? 」


「……分かってる。でも今は、ヤマトさんを殺したい。もう楽に……あの人と同じような結末にはさせたくない 」


「……はぁ 」


 短いため息。

 それと共に空気は元に戻り、バーンの剣は鞘に戻される。


「んな事言われてもよく分からねぇよ……が、利用はしてやる。付いてこい、作戦を伝える 」


「……あぁ 」


「あぁその前にさ 」


 シノブがバーンを呼び止める。

 その言葉はやけに重みが乗っていた。


「ユウトくん達は見つかった? 」


「いや、見つかんねぇ。まぁ今はいない奴より目の前のことに集中しろ 」




「んじゃま、作戦を伝える 」


 こじんまりとしたテントの中。

 そこで伝えられた作戦はこうだ。


 シノブが最前線。

 その後ろに俺。

 ルー。

 バーン。


 各々がボーダーラインとなり、それを越えさせないようにするため戦う。


 ヤマトさんは一人。

 だからこっちは、お互いに援護する動きで持久戦に持ち込むらしい。


「作戦は分かったが……これで勝てるのか? 」


「いや安心しろ。俺たちは強いから余裕で勝てる!! 」


 バカみたいに自信満々なルーは、自分の拳同士をパンパンとぶつけている。

 だが不安だ。

 たった数人と一匹。

 これだけで戦うとなると……本気のあの人に勝てるか……


「大丈夫だよ 」


 でもシノブはニコッと、俺を安心させるように笑った。


「私たちは防衛に関しては最強だから。かつてのケルパー王国が、武力での侵略を諦めるほどにね 」



 そこから淡々と準備が始まった。

 血も脂も付いていない剣を貰い、装備する。

 お互いに距離を取り、そして平原に立つ。


 俺の数メートル前に、シノブが居る。

 俺の数メートル後ろに、ルーが居る。

 作戦通りの位置取り。

 あとはヤマトさんを待つだけだ。



(本当に……これで良かったんだろうか )


 ふいに迷いが、胸にチラつく。


 ヤマトさんは間違いなく死ぬ気だ。

 死ぬ理由を見つけたのだから。

 でもそんなの……ヒカゲさんと同じじゃないか。


 いや……迷うな。

 あの人は生きてても辛いだけだ。

 生き続けてもあと数年で死ぬ。

 だから殺してやるんだ。

 楽にするんだ。

 ヒカゲさんに出来なかった事を……楽に……楽に。

 殺すんだ。

 楽にするんだ。

 それが一番だ。

 正しいんだ。

 きっと……きっと……でも


「っ!? 」


 風が。

 逆巻く。

 音。

 何かが、落ちて


「よォ!!! 」


 平原に巨大なクレーターが。

 その中央には、3メートルほどの大剣の上に立つ、ヤマトさんが居た。


「久しぶりだな! シノブ!! 」


「うん、久しぶり 」


 獣のように笑うヤマトさんに、シノブは静かに答える。


「いやぁ変わんねぇなお前 」


「そういうキミもね。ところでどうだった? ヘレダントは 」


「変なやつばっか居たよ。一週間くらい寝る奴とか、外見綺麗なのにめちゃくちゃ脳筋な奴とか……俺と似たような奴とか……初恋のために命かける奴とか。ほんと色々な 」


「それは大変だったね 」


「まぁでも楽しかったよ。今じゃ良い思い出だ 」


「……そう 」


 

 その言葉を最後に、空気が変わった。



「……殺る? 」


「あぁ 」


 シノブは刀を抜いた。

 それだけで風はやみ、静寂が辺りを包む。


「遺言は? 」


「……ありがとよ。ワミヤを連れ来てくれて。おかげで…… 」


 ヤマトさん。

 は、大剣をつかみ、


「寂しくない 」


「っ!! 」


 振りかぶる。

 全身には黒い炎が上がり、星が悲鳴をあげるように、大地は軋むような音を立てた。


落命(らくめい)!! 」


 空気は割れ、黒い波動が空を覆う。


骸誕魔術(がいたんまじゅつ)


「っ!? 」


 けれどその一撃を、シノブは刀で受け止めた。

 細い腕で。

 真っ向から。

 なんの技術もない、力任せの一撃で。


「ハハッ。やっぱパワーじゃ勝てねぇか 」


「さぁ……開戦だよ 」


「っ!? 」


 シノブの蹴り。

 ヤマトさんは打ち上がり、その体を力任せな拳が撃ち抜いた。


 吹き飛ぶ体。

 折れた大剣。

 けれど怯まず、ヤマトさんはシノブに突っ込む。

 だが素手で拳を止められ、爆風のような頭突きがヤマトさんの顔面を抉った。


(ヤマトさんが……力負けをしている? )


 骸誕魔術(がいたんまじゅつ)……噂程度に聞いたことがある。

 自らが守る土地で死んだ死者たちの筋力。

 それのみを自分の物とする、単純明快かつ万力の魔術。



「でもよぉ!! 」


 頭蓋を再生させながら、続く拳をヤマトさんは掴んだ。


「っ!? 」


「もう見てんだよなぁ!! 」


 腕を掴んだまま。

 回る。

 とうぜん回転に巻き込まれた腕は悲鳴をあげ、その勢いのまま蹴りが放たれる。

 だが、


(腐追魔術(ふついまじゅつ) )


 俺の魔術で、不完全を付け足す。

 そうしたヤマトさんの足は自身のスピードに耐えきれず、壊れた。


「……ハッ 」


 安心したように笑うヤマトさん。

 けれどもう一本の足でシノブの顔面を蹴り、吹き飛ばし、そのまま俺の後ろに突っ込んでいく。

 けれど、


海煉魔術(かいれんまじゅつ)


 空を焼き尽くす太陽(ルー)が、それを阻む。


暗塞(あんそく)!!! 」


「っ!? 」


 落ちてきた熱炎が、ヤマトさんを焼き尽くした。


「ハハッ!! 」


 笑い声とともに、何かが炎を突き抜ける。

 それは噛み切られた舌だ。


 肉が増殖。

 復元されたヤマトさんが、そのままロジー王国に突っ込


監制魔術(かんせいまじゅつ)


 だがその体は空中に固定された。


「この空間の支配者は…… 」


 呑気にタバコを吸うバーン。

 それとは正反対に、ヤマトさんはまったく動けていない。


「俺だ 」


「っ!? 」


 重い言葉。

 それと共に、ヤマトさんは後ろに吹き飛んだ。

 けれどその右腕が肥大。

 視界を覆うほどの鎚が、現れる。


憎世(ぞうよ)!! 」


(ヤマトさん…… )


 だが俺の魔術で、その右腕は根元から壊れた。


(もう……辞めませんか? )


「バッ!? 」


 横から飛んできたシノブの蹴り。

 ヤマトさんのこめかみを抉る。

 頭は半分潰れ、その体は肥大した黒い鎚に突っ込んだ。

 そして、


骸誕(がいたん)…… 」


 振り上げられたシノブの刀が、静かに振り下ろされた。


束刀(たばねがたな)肉花火(にくはなび)


 目に見えたのは一閃だった。

 なのに黒の巨塊(きょかい)は、転落死体のように弾け飛んだ。



「殺った? 」


「まだ。ズラされた 」


 後ろからやってきたルーに、シノブは淡白に言葉を返す。


 無意味だろうが、俺も砕け散った肉片たちを警戒する。

 アレはぜんぶヤマトさんの一部だ。

 急な一撃がいつ来てもおかしくな、


「なぁ、なんか妙じゃね? 」


 ふいに、ルーが首をひねった。


「何が? 」


「いやアイツ……ロジーのゲシュペンストだろ? なら俺たちの魔術知ってんのに……馬鹿みたいに突っ込むだけなんておかしいだろ。何か狙ってんのか? 」


「っ…… 」


(ヤマトさん……やっぱり )


「俺バケモノだからさぁ!!! 」


 瓦礫。

 が吹き飛び、下から。


 黒い獣が現れた。


「人間の言葉わかんねぇわ!!!! 」


「ほざけよバケモ」


 遅れてきた。

 音。

 ルーが消し飛び、風が吹き荒れる。


(はやっ)


 吹き飛ぶルー。

 空中で、直角に曲がる獣の斬撃が、全方位から迫る。


「はえぇな!! でも 」


「っ!? 」


「焼き尽くしゃ問題ねぇ!! 」


 目が蒸発する。

 ほどの温度がルーから発せられ、


「空間は固定した。焼け 」


「オーケー!!! 」


 紅い熱波が俺たちごと地表を焼いた。

 けれどバーンのおかげで俺たちは無傷。

 ヤマトさんだけが黒焦げのまま、空を舞う。


「この程度じゃあ……死な」


 蠢く肉。

 を、シノブの踵がえぐる。

 それは地面深くにめり込んだ。

 瞬間、


「「「「っ!!? 」」」」


 地震が起こった。

 ただの地震じゃない。

 世界が傾いてると錯覚するほどの、揺れ。


「なんで俺がよぉぉ、わざとらしく(まと)になったと思う?? 」


 夜が。

 いや違う。

 黒い夜空のような翼が、地面から伸び、空を覆う。


「地下で増殖させてたんだよ!! 折れた剣先をなぁァ!!! 」


 蠢く数億の羽。

 あの一つ一つは……すべて剣だ。


「さァあ!! 星ごと砕けろ!!! 」


 肌を舐める、死。

 翼はグラりと傾き、終わりを撒き散らしながら、落ちてくる。


「憎

  世

  安

    楽

     暗 」


 けれどそれは……あまりにも無意味な一撃だった。


空間支配(ディメンション)加速(オーバー)

焔纏(エンチャント)太壊陽(サンブレイク)

腐追魔術(ふついまじゅつ)

束刀(たばねがたな)


 ヤマトさんは一人なんだ。

 対してこっちは三人と一匹。

 そんなの……勝てるわけないじゃないか。


星千切(ほしちぎり)


 俺たちの援護を受けた、シノブの居合。

 それは空を軽々と裂き、黒い翼を、その体を、一瞬で焼き尽くした。



「はハ歯Haハッ!!! 」


 まだ立つ。

 焼けた死体から、肉が蠢く。

 けれど身体中には黒い痣が浮かび、手足にはヒビが入ってる。


 自己矛盾。

 過度な再生。

 ヒカゲさんと同じだ。

 もう……長くない。


「もう終わりかぁァ!? 人間どもがよぉぉぉ!!! 」


 叫ぶ獣。

 その前に立ち、ゆっくりと剣を抜く。


「ヤマトさん…… 」


「ワミヤ…… 」


「……好きでしょ? 殺し合い 」



 笑い、合い、お互いに剣を、牙を構える。


「……あぁ!! 」


 亜音速で突っ込んでくる獣。

 その両腕に不完全を付け足し、一太刀で上半身を切り落とす。

 だが下半身だけが空を蹴り、逆さの踵が落ちてくる。


「っう!! 」


 左腕。

 を盾に、受ける。

 バキャッと骨が顔を出し、腕がへし折れ、地面に叩きつけられた。


 広がるクレーター。

 砕けた頭。

 でもこの程度だ。

 速度も、さっきに比べて遅い。


「もう……終わりにしましょう 」


 頭の血をぬぐい、剣を構える。

 そして空から降ってくる獣の……


「ハハハハハハはっ」


 袈裟を、下から切り裂いた。





「ヤマトさん…… 」


「あー……楽しかったぁ 」


 満足したように、ヤマトさんは笑う。

 もう傷は再生してない。

 残った指先も崩れ始めている。


 後は……トドメを刺すだけだ。


「……っ 」


 一歩近付く。

 ヤマトさんは安心したように、心地良さそうに笑う。


(……殺すんだ )


 二歩。

 握る剣が震え始める。


(今度は……俺が!!…… 楽にするんだ )


 三歩。

 無理やり剣先を、ヤマトさんの心臓。

 左胸に沈める。


(突き刺せ……それで終わる。なのになんで、なんでしな)


「ワミヤ 」


「っ!? 」


 ヤマトさんの。

 左手。

 そこから何かが飛んできた。

 それは……ただの小瓶だった。


「……これは? 」


「ゲシュペンストを……人間に戻す薬だ 」


「……壊したんじゃなかったんですか? 」


「あの大剣は俺の細胞を使ってる。だから壊したものはぜんぶ収納できんだよ。だからワミヤ……これでゲシュペンストを救ってくれ 」


 あぁ……あなたも同じことを言うんですね。

 ヒカゲさんと。




「残念ですけど、ロジー王国のゲシュペンストは全滅しましたよ。フィレ女王が殺しました 」


「あぁ、あのクソ女がか……ならしゃあねぇ、ワミヤが飲んでくれ。ユウトとサクラには絶対飲ませるな。そして人として……生きてくれねぇか? 」


「しゃあねぇ……って 」


「俺にとっちゃゲシュペンスト救済はオマケだ。まぁ出来たらヒカゲにいい報告が出来たと思ったけどな…… 」


「……なんで 」


「あっ? 」


「なんで! 自分のために生きないんですか!? 」


 もう……怒りだった。


 なんでこうも……この人たちは……ここまで自分を蔑ろにできるんだ。


「それをあんたが飲んだら、普通に生きれたじゃ無いですか!! 人間になれば欲求も抑えられる! 寿命も伸びる!! なのになんで……俺に、生きろって言えるんですか…… 」


 あの人と重なる。

 ヤマトさんの姿が、声が、生き様が。


 涙が溢れてきた。

 悲しくもないのに。

 むしろ苛立ってる。

 なのにヤマトさんは……やっぱり笑った。


「……そりゃあ、ヒカゲと一緒さ。もう誰かに裁いて欲しかった。永久に許さないでいて欲しかった。もう一緒に生きたいって思う人も居ない。死にたかった。でも死ねない理由があった……でもさ、丁度いい死ぬ理由を見つけたんだよ。だからもう……終わりたい。楽になりたいんだ 」


「……っ 」


「殺ってくれ。俺を殺せば……お前は英雄になる。その後に人間になりゃ、お前の立場はマシだろ。シノブが守ってくれるだろうしな 」


「……… 」


 まだ……迷ってしまう。


 分かってるんだ。

 この人が生き延びたのしても、幸せなんて無いって。

 だから心で息の根を止めるのが正解なんだ。

 正解なんだ!!

 でも……でも……俺は……








「…………ヤマトさん。ごめんなさい 」


 貫いた。

 ヤマトさんの。

 腹を。


「あっ? なに……して!? 」


 トポトポ……空いた穴に薬を流し込む。

 剣を通して。

 これでヤマトさんは……人間に成る。


「なんで……なんで!! 」


 ヤマトさんの困惑の表情。

 そんな予想通りな顔には、笑顔を返すって決めていた。


「逃げますよ、ヤマトさん 」


「だから……なんで」


「シノブに止められてたけどよぉ 」


 空。

 には。

 三つの太陽とルーが。


「やっぱこうなるかっ? 」


 その左腕。

 炎に、不完全を付け足す。

 炎は自身の熱によって燃え尽き、ルーの腕は風圧で自壊(じかい)した。


「というかアンタらは自分勝手過ぎるんですよ!!! 」


 近付いてくるルーの拳。

 身を低くして掻い潜り、その体を蹴りで押し飛ばす。


「っ!! 」


「自分だけが辛いだの! 自分だけが不幸だの!! 残されるこっちの身にもなれ!!! つーか終わりたいんだったら勝手に死んでろ!! なのに俺は不幸だから、幸せになれないから! お前たちだけでも幸せに慣れって……正直迷惑なだけですから!! そんな事よりも! 俺は!! 」


海煉魔術(かいれんまじゅつ)! 」


 空に浮かぶ青い炎。

 それはさっきよりも強大で、この距離でも目が蒸発する。

 そんな物が、


(えい)(えん)!!! 」


 落ちてきた。

 でもまだ。

 まだ不完全を付け足せば、


空間支配(ディメンション)暴走(オーバー)


 瞬間、その炎は空を飲んだ。

 そう錯覚するほどに、膨れ上がった。


 この量は無理だ。

 不完全を付け足しても意味が無い。

 じゃあ……言いたいこと、ぜんぶ言ってやる。


「ワミヤ! 逃げ」


「ヤマトさん 」


 振り返り、剣を捨て、思いっきり笑ってやる。



「俺は……ヒカゲさんに生きて欲しかったんですよ。理屈とかどうでもいいから、苦しんででも、生きて欲しかった。でももう言えないから、あの人にそっくりな……あなたに言います 」


 服が、皮膚が、髪が、頭が、焼ける。

 でも笑い続けて、


「死ぬ理由とか生きる理由とかどうでもいいから!!! 生きて下さいよ!!!! 」


 そう言ってやった。


「なんで」


「友達に! 生きて欲しいって思った人に!! 生きて欲しいから!!! それ以外に」


 目の前に。

 落ちてくる炎に。

 手を伸ばす。


理由(ワケ)なんてありませんよ 」


 笑って、ぶつかってくる熱波に、不完全を付け足す。

 俺は燃える。

 死ぬ。

 でも、後ろにいるヤマトさんは燃えない。

 届かない。


「ワミ」


「さよ゛うなら! もっど……あなたど!! ……喋り……たかっ」

















 あーあ。

 呪いみたいなの残しちゃったな。

 でもいっか……俺もバケモノだし。

 

 

 どうか人らしく生きようとするあなたに呪いあれ。

 抗って苦しむなら、欲望のまま……生きてください。









ーーー



 クレーターの真ん中。

 そこには一人の人間と、黒焦げの足だけが残されていた。


「ワミ……ヤ? 」


 ヤマトはその遺体の前で困惑していた。

 当たり前だ。

 自分を殺してくれと願った友が、自らを守り、死んだのだから。


 困惑していたのはルーも同じだった。

 バーンも。

 信用はしていなかったが、協力していた物が、突然敵を守り、死んだのだから。

 だが、


束刀(たばねがたな)


 シノブだけが動いた。


億ツ胴(オクツドウ)!! 」


 ただの横薙ぎ。

 それはヤマトごと星の地表を削りとった。


(考える暇を与えるな!! この場で殺す!!! )


 もうヤケだった。

 シノブもこの状況が分かっていない。

 けれど時間が経てば、自分のためにワミヤが死んだとヤマトが理解すれば、さらなる苦しむを負うことになる。

 そうとだけは、理解していた。


「バーン! 星を保護して!! 」


「っ!? 」


 使い物にならない自らの左腕。

 シノブはそれを切り落とし、口で掴み、崩れ去る地表に腕を投げ飛ばした。


 地表を貫き、腕は確かにヤマトをえぐった。

 けれどその手応えはあまりにも軽かった。

 ゆえに、


洛星(らくせい)逆日ノ出(サカヒノデ)!! 」


 シノブは全力の一撃を振るった。


 『骸誕魔術(がいたんまじゅつ)

 それは、地に落ちた人間の肉が対象である。

 ここにはシノブの腕が落ちた。

 魔術により、強化された腕が。


 それがシノブの全身を強化し、その全身から放たれる全力の一閃は……ヤマトごと。

 容易(たやす)く星を刈った。


 これ以上の威力を出せば、バーンの魔術許容を越え、星すら砕いてしまう。

 ゆえに先の一撃が、シノブに許される最大の一撃だった。




「はぁ……はぁ…… 」


 息を切らすシノブ。

 その足元には、裂けた平原だったものが広がっている。


 バーンに魔術により、ギリギリ星は砕けていない。

 そして……ヤマトの肉体は完全に消滅した。


(終わっ……た? )


 込み上げてくる疲労から引っ張られるように、シノブは膝をつく。

 そして聞いた。


 赤子の声を。


「っ!? 」


 空を。

 見上げた。

 そこには居たのだ。

 浮かんでいたのだ。


 赤いへその緒で首を吊る、黒い胎児が。


(なに……アレ? )


 ライガの遺産。

 首吊りの胎児が。


 

 

 


 

 





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