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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
君たちの物語
69/73

第4話



「ヤマトさ」


「入ってくるな!!! 」


 開いたドア。

 とっさに枕を投げつける。

 それだけで白い中身が飛び散り、壁には穴が空いた。


「あっ、ごめ…………っ、頼むから……入ってこないでくれ 」


 暗い部屋……使われてない部屋。

 そこで蹲って、自分の足を指で引きちぎる。

 こうしてないと……誰かを、クスミを、殺しそうなんだ。


「でも……お腹が空きますよ。一昨日も食べてないですよね? 」


「平気だ。人間じゃ……ないんだから 」


「そう……ですか。お腹すいたら声をかけてくださいね。何時でも作りますから 」


「……ありがとう 」


 そっと、クスミは扉を閉めた。

 とうぜん部屋は真っ暗に。

 でも見える。

 人間じゃないんだから。




「……あっ 」


 体内時計で時間が分かった。

 もうすぐ昼だ。


「仕事に……行かなきゃ 」


 窓を開けて、飛び降りる。

 いつもならなんて事ない高さ。

 なのに受け身も取れずに、頭から落ちた。


(……なんか、痛くないな )


 石の道には、穴が空いた。

 頭蓋は無事。

 血もでてないし、痛みも無い。

 でもずっと……胸が苦しい。


 吐きそうで掻きむしりたくて……辛い。

 なんでこんなに辛いのか……分からない。




「おうヤマト〜、遅刻だぞ 」


「……すみません 」


 仕事場に着いた。

 すると先輩が俺の頭に手を置いて、グッと顔を寄せてきた。


「大丈夫か、顔色悪いぞ? 」


「大丈夫です…… 」


「……そうか。まぁ辛いなら速く言えよ 」


「はい 」


 そこから仕事をした。

 大きな柱を何人かで動かして、重い砂を運んで。

 すんなり仕事は進んで、昼休憩の時間になる。

 そこで思い出した。


 弁当を貰ってないことに。




「…………腹減った 」


 食べるものを持ってないから、すみっこで膝を抱えて座り込む。

 爪を噛んで、指を噛んで、飢えを紛らわす。

 そうしてると、先輩が俺の方にやってきた。


「どうした? 」


「いや俺……なにも食べるものが無くて 」


「忘れてきたのか? たくよ〜 」


 先輩はボリボリ髪をかきながら、弁当を差し出してくれた。


「ほら、俺のやるよ 」


「……良いんですか? 」


「あぁもちろんだ。ほら、俺の腹が減らないうちに食ってくれ 」


「……ありがとうございます 」


 お礼を言って、手を伸ばして、先輩の、首を、握り込む。

 肉は分厚くて骨は太くて腹が減ってすごく凄くスゴく美味しそうだ。


「ゴっ!!? がァっ!!! 」


「ありがとうございますありがとうございますいただきます 」


 口を開けて歯を立てて首を肉を食べ



「……あっ 」


 こぼれる血を見て、あの光景が脳裏を横切った。

 俺が殺した……優しい人たちの事を。


 そして気がついた。

 自分が、何をしようとしたかを。


「あっ……ごめんなさい 」


 すぐに手を離す。

 尻から落ちた先輩はゲホゲホとむせ、涙目で俺を睨んだ。


「お前……ゲシュペンストだったのか!? 」


「あっ……俺は」


「本当は喰おうとしてたのか!? あれだけ優しくしてやったのに!!? この……バケモノが!! 」


「…………あっ 」


 苛立ちが手を駆けた。

 殺さなダメだ!!

 あぁ殺したい。

 人喰いたい。

 殺して殺してころしてダメだ!!!


「アッ……あぁぁあ……ァァァァアアア!!! 」


 頭。

 地面に落とす。

 何度も。

 手で。

 爪で。

 顔を裂いて。

 殺したくない。

 喰いたくない。

 なんであれだけ優しくされた!のに、なんで殺そうとした? あれだけ世話になってお金もらって優しくされて食べモノわけテクレタノに!!!


「ヒッ!! 」


「うぅぅ…… 」


 頭が割れた。

 思考が。

 ドボドホこぼれる。

 逃げなきゃ……この人達……殺しちまう。



「ァァアアア!!!! 」


 走る。

 屋根を。

 逃げるみたいに。


 人が居ない所に。

 喰いたくない喰いたくない食べたくない。



「うぅ……えぇ…… 」


 森に来た。

 ここなら誰も居ない。

 腹が減った。

 腹が減った。

 人を喰いたくない。

 人殺しに成りたくない。


「あっ? 」


 何かいた。

 四足の……獣だ。


「いただ 」


 木を蹴って、加速して、


「きマス!!! 」


 足で首を切って、断面に、穴に、舌をねじ込む。


「ウマッ!!! おちしっ!!! 」


 腹減ってたから美味い。

 肉が骨が血管が脂が美味い。

 美味いぅぅぅ


「うぇぇっ!!!! 」


 吐いた。

 生肉をがっつくなんて……こんなの人間じゃない。

 俺は人らしく生きたいんだ。

 クスミと……一緒に。

 なのになんでこんなに腹が減って頭がおかしくなるんデスよぉぉ?

 なんでなんでお腹空いた普通にご飯食べたい肉じゃなくてクスミと一緒にクスミを喰いたい。

 食べたらダメだ食べたらダメだなんで不安なんだ抱きしめて最初から喰ってればなんで急に人間は餌なら喰うのが当然なんでなんでなんでなんでなんで










「なんで普通に……生きれないんだ…… 」


 視界がぼやける。

 ボロボロ熱いのが。

 目から。


 いつの間にか夜になってる。

 ……人を殺したい。


「クソ 」


 木を殴る。

 無心で。

 何度も。

 ボロりと、左腕が落ちた。


 欲求を満たせてないから。

 自己崩壊が始まった。


「あぁクソ 」


 殴る。

 右腕が落ちる。

 頭も落としたい。

 死にたい。

 こんな人殺しのバケモノなんて……生きてる価値なんて無い。

 でも……


「あの家に……帰りたい 」


 生きる理由がある。

 死ねない理由がある。

 だから崩れる足を引きずって、再生しかけの手で草を掴んで、ズルズル……ズルズル。

 ドロドロに溶ける体で、夜の森を進む。



 あの家に帰る。





 壊れた手で、チャイムを鳴らす。


「……なんで出ない? 」


 鳴らす。

 鳴らす鳴らす鳴らす鳴らす。

 ……出ない。


(どうしてどうしてどうしてどうして )


「はーい? 」


 ガチャ……玄関が開く。

 クスミだった。


「あぁ良かった良かった良かった 」


 ドロドロになった手を伸ばす。

 黒く濁る体で近付く。

 汚い醜いバケモノ。

 なのに、


「おかえりなさい 」


 クスミは抱きしめてくれた。

 暖かくて、優しくて、死ぬならこういう風に死にたいって思える。


「どうしたんですか? 」


「人を喰えて……無いから。欲求を満たせてないから……自己矛盾で……コワレカケテル 」


「どうして……食べないんですか? 食べても良いんですよ 」


「食べたくない。殺したくない…………クスミと一緒に、人らしく生きたいカラ 」


 俺も抱き締める。

 そしたらバキって、クスミの腕が……折れた。


「あ……ごめ………ほんと」


「大丈夫ですよ 」


 なのに、クスミは……俺の手を握ってくれた。


「良ければ聞かせて貰えませんか? どうして……そう思ったかを 」


 背中を撫でられて、頭を優しく撫でられて、そう聞かれる。

 そしたら勝手に、口が動いた。


「俺には……何もないんだ 」


 今度はそっと、優しく、手を握り返す。


「家族も、思い出も、生きる理由も……最初から無かったんだ 」


「うん 」


「ただ殺して、喰って、寝るだけで。それ以外は何も無かった。けどさ……人みたいな生活してる時はさ、幸せだったんだ。心が……満たされた。お前と過ごして、寝て、食べて、生きて……それが俺の生きる理由になったんだ。でも……大事で大好きなお前を、この穢れた手で抱きしめたくない。危険な目に合わせたくない。だから!!! ……消えたいんだ 」






「……ヤマトさん 」


 そっと、声が近付いてきて……柔らかいものに、口を塞がれた。




「私ですね、ヤマトさんのことが好きです 」


「……なんで? 」


「あなたが、与えてくれたからですよ 」


 クスミは顔を上げた。

 表情は見えない。

 けれどその頬には、涙が見えた。

 

「私も何も無かったんです。普通に生きてたら体験できるハズの、両親からの愛が。友人と遊ぶ楽しみが。ずっと、ずっっと家に居たから、何も無かった。でもヤマトさんが、自分が欲してたものを全部くれた。だから……あなたの事が好きになったんです 」


「こんな……バケモノを? 」


「はい。バケモノだろうが、人らしく生きようが、どんなに人を殺そうが、どんなに穢ようが、私の大好きなヤマトさんには変わりありません。ですから 」


 顎を優しく撫でられ、指先で、上を向かされた。

 そしたら見えたんだ。

 目が潰れるほどに眩しい、クスミの笑顔が。


「私のために、生きてくれませんか? 」



 不思議だ。

 あれだけ迷って。

 散々自分を否定して、傷つけて、死にたいって本気で思ったのに。

 その一言で、その笑顔だけで、


「あぁ 」


 こんなにも生きたいって、思えるんだから。





 

「おい、まだか? 」


 ふと、家の中から声が聞こえた。

 どこかで聞いた事のあるものだ。


「誰か……居るのか? 」


「あっ、そういえばヤマトさんにお客さんが来てたんです 」


 ガチャって、玄関が開けられる。

 そこには、


「職場の人たちが来てたんです 」


 先輩たちが、角材を振り上げていた。


「あっ 」


 ガンッ、ゴンッ。

 軽い音がして、クスミは頭から倒れた。



「なんで」


 ゴンッ。

 俺も殴られた。


「やっぱりゲシュペンストを匿ってた!! 」

「こいつもゲシュペンストだ!! 」

「国は俺たちを守ってくれねぇ!! 自分たちで」

「殺されかけたんだ!! 絶対に殺せ!!! 」


(やめろよ…… )


 俺は良い。

 痛くない。

 治る。

 でもクスミは違うんだ。


 人間だ。

 血だって赤い。

 折れた骨なんて簡単に治らないんだ。

 なのに蹴って殴って動けないのに何度も何度も何度も何度も。


(やめろよ…… )


 なのになんで動けない。

 こいつらを殺せばでも人らしく生きたでもクスミがクスミが死ぬ死ぬ死ぬな殺すなら俺をやめろやめろやめろやめろ人らしく人らしく人らしく


「じ」



 クスミの声が……聞こえた。


「ゆ、う……に、生き…………て 」


「っう!!!! 」


 振り回した踵が、人間の顔面を削ぐ。




 一瞬で、あいつらは死んだ。

 グチャグチャ、顔のない死体が倒れた。


 辺りには死の匂いがする。

 でもクスミからはしてない。




「はっ、はっ!! 」


 クスミを抱いて、走る。

 まだ助かるんだ。

 まだ。

 だから急げ急げ急げ急げ。


「すみません!! 」


 人らしく、家の扉を叩く。

 クスミから教えて貰ってたんだ。

 ここが医者の家だって。


「なんだい? こんな時間に……ヒッ!? 」


「助けてください!! クスミが死にそうで」


「返り血まみれで何言ったてんだい! このバケモノ!! 」


 バタンっ……扉が閉められた。



「すみません!! 」


 今度はクスミと一緒に行っていた教会。

 その扉を叩く。


「助けてくれ!! クスミが!!! 」


「あなたは……っ!! 」


 ロウソクを持ったシスターが出てきた。

 この人なら俺がバケモノだという事を知らない。

 だから助けてくれ


「………すみません 」


「なぁ助けてくれよ!! クスミが」


「もうその子は助かりません。だって」


 シスターは、ロウソクをそっと近づけた。


「頭が……割れているんですから 」


 頭がひしゃげ、皮がぐにゃりとたるんだクスミの顔に。



「この程度じゃ……死なないだろ? 」


「……お気持ちは分かりますが、もう楽に」


「あぁそっか 」


 もう笑わない。

 動かないクスミを見てると、涙がピチャリ……クスミの頬に落ちた。



「お前は……人間だもんな 」


「えっ、何処に…… 」


 後ろの声を無視して、とぼとぼ……相づちを打つみたいに、街を、森を、歩く。

 まだあそこなら、研究所に持っていけばまだ…………まだ…………


「あっ 」


 森の中で、とても良い匂いがした。

 死の匂いだ。

 近くで動物が死んでるんだ。

 そうだ。

 そうに違いな…………




「……… 」


 目が合った。

 薄暗い照明のような目と。

 何度も何度も何度も何度も、これを見てきたんだ。


 美味しそうな、死人の目を。


「……クソ 」


 そっと死体を地面に置いて、目を合わせる。

 そしたらどうしようも無い感情が、虫のように這い上がってきた。


「クソ……クソ!! クソクソクソクソクソ!!!! あ゛ぁぁァァァあぃぁあぁぁあ゛ぁぁ!!!!!!! 」


 喉が破れ、黒い血が垂れる。

 口が裂けて、黒い血が、人じゃない血が落ちていく。

 でもなのにどうしてずっと……苦しい。

 それが耐えられなくて、走る。

 木々をなぎ倒して、めちゃくちゃに。


「あ゛ぁああァァあ!!!!!!! 」


(どうしたらどうしたらどうしたら良かったんだ!!!! 俺がはやく殺してたら!! 俺の演技が上手かったら!! 欲求を隠せてたら!!! 殺されなかった殺されなかったアイツは今日も生きてたんだ今日も明日もずっとずっとずっとずっと俺が居なかったら!! 生きてた!!! 絶対!!! 俺が居たから居たから俺が俺が俺が)


『凄く……幸せなんです 』


 頭の裏で、クスミの声がした。



「うっ……えっ……あっ………… 」


『大好きですよ 』


「あっ……あぁ!! 」


(俺が居たから……笑ってくれたんだ。好きになってくれたんだ。だから……俺が居たから死んで、俺が居たから幸せになれて…………っう!!! )


「あぁあぁああああ゛!!!!! 」



 あの幸せを作ったのは俺だ。

 あの幸せを壊したのは俺だ。


 どうしたら良かったんだ。

 どう生きたら良かったんだ。

 どうしたらアイツを幸せにできて。

 どうしたら、どうしたら……アイツと一緒に、普通に生きれたんだ。


 生きたかった。

 二人で。

 俺の寿命は短いけど、生きたかった。

 幸せに。


 バケモノなのに、ゲシュペンストなのに、人殺しなのに、人間らしく生きたいって、思ったんだ。

 でももう叶わない。

 クスミが居ない世界で、生きる理由がない。


「うっ……うっ…… 」


 フラフラ、よろよろ。

 森を歩く。

 あの匂いを頼りに。

 死体の元……に。


「あっ 」



 死体を、獣が喰っていた。


「盗らないで 」


 獣を蹴り潰して、噛み跡のある死体を抱き寄せる。

 ドロドロ赤い血が。

 ほのかに腐臭も。


 このまま放ってたら、虫に、獣に、喰われるんだよな?

 なら、



「あ〜 」


 その腕を喰った。


『ヤマトさんのことが好きです 』

(俺も好きだ )


 足を喰った。


『私の大好きなヤマトさんには変わりありません 』

(死体になっても、俺はお前が好きだ )


 胸を喰った。


『凄く幸せなんです 』

(俺も……幸せだったよ )


 顔を喰った。

 でもそこだけ、涙の味がした。


『私のために、生きてくれませんか? 』

(あぁ、生きるよ )


『じゆ、う……に、生き…………て 』

(あぁ、あぁ!! 生きるよ……お前の分まで。自由に、自由に、生き続けるよ )



 肉も、骨も、爪も、髪の毛も。

 一つ残さず食べた。

 何度も吐きかけたけど食べ終えた。


 お腹がいっぱいになって、残った血溜まりの上で横になる。

 まだ匂いが残ってて、ガッて、土を手繰り寄せて、うずくまる。

 今日は色々ありすぎて、すぐに眠くなった。



(もっと……クスミのご飯食べれば良かったなぁ )

 


(もっと……クスミと一緒に居たかったなぁ )




(もっと一緒に……生きていたかったなぁ )



 寝ているのに、後悔が……ずっとずっと、何度も何度も、頭の中で積み重なっていく。


 クスミは居ない。

 それが現実だ。

 なのに考えても仕方が無いことをずっとずっとずっとずっと考えてしまう。


 夢で逢えればいいけど、ゲシュペンストは夢を見れないんだ。

 でも寝ていたい。

 寝てたらいつか、逢えるかもって。

 そう願っていたい。

 

 教会で聞いたんだ。

 人は死んだら、死後の世界に行くって。


 そこでクスミは家族と再会してると良いなぁ。

 俺はバケモノだからそこには行けないだろうけど……


 やっぱり会いたい。

 寂しい。

 こんな世界で……生きたくない。

 でも生きなきゃ。


 私のために生きて欲しい。

 それがクスミの遺言なんだから。




「ん? 」


 眩しさで目が覚めた。

 もう朝になってたみたいだ。


 池で返り血まみれの顔を洗う。

 なんと無く、森を歩く。

 ゆっくり……アイツと一緒に歩くように。

 


 街に着いた。

 でも何もしたくなかったから、なんとなくあの高台に行った。


 狭苦しい街中がよく見える。

 あんな場所なのに、楽しかったなんて思えたのは、きっとアイツが居たからだろうな。



「あっ 」


「っ!! 」


 気配を感じて振り返ると、そこにはシノブが居た。

 その顔はすっげぇ怖くて、その右手は背中の剣を握りこんでいる。

 

「キミは……何をしたの? 」


「何って? 」


「……あの家で、8人の遺体が見つかった 」


「あぁ、俺が殺った 」


「……クスミちゃんは何処? 」


「俺が喰った 」


 そう言ったら、シノブは剣を抜いた。

 それだけで全身に悪寒が駆ける。



「やっぱり……お前は殺すべきだった 」


「あぁ。俺もそう思う 」


「…………はっ? 」


 斬られやすいように、わざと距離を詰める。

 でもシノブは剣を振ってくれない。


「俺は死ぬべきだった、産まれるべきじゃなかった、アイツに近づくべきじゃなかった。ただの人殺しで、バケモノで、人間のふりもろくに出来ないゴミだ 」


「なに……言って…… 」


「でも俺は自由に生きなきゃならないんだ。クスミがそうしてくれって言ったから。だからたくさん食べて、たくさん殺して、たくさん満たされて死ぬんだ 」


「さっきから何を!! 」


「それが自由だろ!!? 人なんか喰いたくねぇし、殺したくないけどさ……自由に生きなきゃ。家族なんて居ないし、常識なんて無いし、人殺しで産まれた事が間違いな俺には……もう!!! 」





「クスミの遺言しか無いんだよ 」


 ボロボロ落ちる目の雫。

 それを拭って、拭って、シノブの胸ぐらを掴む。

 斬って欲しかったのに、シノブは剣を降ってくれなかった。

 何も言ってくれなかった。


 だからその横を通り過ぎて、研究所に帰った。





 俺が殺した先輩たちの死体。

 その隣にクスミの血が付いた角材があったから、襲われて仕方なく反撃したという話になった。

 だから処罰は無かった。


 俺が研究所に帰った日から、二つ変わったことがあった。


 一つはシノブがゲシュペンストとの和平を唱え始めたこと。

 誰しも気が狂ったと言っていた。

 俺もそう思う。

 だってこんなバケモノと平和なんて……叶うはずが無いじゃないか。


 二つ目は、フィレを見なくなったこと。

 いっつも研究所の中をウロウロしてたのに、その日からバッタリ姿を現さなくなった。

 そして魔道具で一言、こう言われた。


『キミは失敗作だ。本当に残念だよ 』


 意味が分からなかったから無視した。




 そして生きた。

 生きた。

 生きた。

 毎日辛くて毎日後悔して毎日死にたいって思うけど……生き続けた。


 俺は本来、ケルパー王国を滅ぼすために運用されるハズだったらしい。

 けど自己矛盾と想定外の自我が芽生えてしまったとかで、再生速度もパワーも規定以下に落ちたと研究者は言った。

 寿命もあと五年ほどになったみたいだ。


 だからこう言われた。

 ヘレダントに入学して魔法を身に宿せと。

 そうすれば俺を再利用する時に価値が上がるらしいから。


 もちろん承諾した。

 寿命が分かっていても、自由に生きなきゃならないから。



 自由に。

 自由に生きて、アイツの分まで満たされて死ななきゃならない。

 自由に、自由に。

 自由に!!!





「うぉ〜、でっけぇ壁ー 」


 馬車から見えるでっかい壁。

 それを越えて、ヘレダントに向かって、人間みたいに入学式を受けた。

 でもいざ授業を受けようとしたら驚いた。

 あのリューク・リンネが……フィレいわく最強だと言っていたリュークが、先生になったんだから。


 戦ってみたかった。

 絶対勝てないだろうけど。

 きっと俺が死ぬだろうけど。

 でも、


「なぁ、あんた。リューク・リンネだろ? 」


 ここで挑まなきゃ、自由じゃない。





ーーー




「……ん? 」


 眩しさで目が覚めた。

 今のは……夢か?


「……ハハッ。バケモノでも夢見れんだな 」


 髪をワシャワシャ掻きむしり、人みたいにゆっくりと森を進む。

 そしたら見えた。

 Raigaと十字架に刻まれた墓が。


 その前に跪き、手を合わせる。


「ライガ、ちょっと死んでくるよ。ワミヤ達に、未来を託してな 」


 立ち上がり、今度はギュッと……自分の胸に手を当てる。


「クスミ、見ててくれ。これが自由に生きた俺の証だ 」



 地面に刺してた大剣を背負い、今度はバケモノみたいな速度で、森を翔ける。

 俺は今日、ロジー王国に攻め、ワミヤに殺される。

 きっとアイツなら、俺を殺してくれるだろう。



(あぁ……今日は平和な日になるな。世界一必要ないバケモノが、今から死ぬんだからさ )


 世界が平和になる。

 そのために死ねる。


 そう考えたら、自然と笑ってしまった。






 

 

第4話 自由に縛られた獣

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