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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
君たちの物語
64/73

第0話



「……えっ? 」


 終わったハズの暗闇の世界。

 その中に、白い一筋の光が差し込んだ。


 いや違う。

 暗闇を掴む手が、世界の扉をこじ開けているんだ。


「あれだけ好き勝手やっておいてさ……みんなを不幸せにしといてさ……自分だけがハッピーエンド? そんな終わり方……私は絶対に…………ユルサナイ 」


 扉が強引に開かれ、世界が砕けた。




「ようこそ 」


 気が付くと、黒い世界に立っていた。


「私の世界へ 」


 空から声が聞こえた。

 上を向くと、果ての見えない逆さの螺旋階段を、誰かがゆっくりと降りてくる。

 あの紫色の髪は……


(エリカ? ……ケルパー王国のゲシュペンストがなんでここに )


「はじめまして、アルベ・ヴァニタス。いや……私はずっと前から知っていたよ。憎くて堪らない、君のことを 」


「……私はキミを知らないね。そもそもどうして、ゲシュペンストがここに居るのかな? 」


 空を睨む。

 逆さ吊りのエリカはニタリと笑う。


「じゃあ答え合わせも込めて、自己紹介と行こうか 」


 エリカの手元にある本は、誰に触られた訳でもなく、パラパラパラパラページが捲られていく。

 そして空には、ヒビが走った。


「私の名はエリカ・ミオソチス 」


 空は砕け、それは姿を現した。

 淀んだ海のように汚い色をした、巨大な目が。


「この世界の……作者さ 」


 ニヤリと歯を見せて笑う少女。

 私にとってそれは異質という他ない。


(この世界? ならここは魔術で出来た空間って事だろうけど…… )


「なんでこんな魔術を、キミが持っているのかな? エリカの魔術は何かを勘違いさせるだけの弱い能力なはずなんだけどね 」


「おやおや? 作者様であろうクソがそんな事もご存知ないのかな? 自分の頭でも作り直してみたらどうだろうねぇ? 」


「……質問に答えて欲しいかな 」


「あぁ良いさ、頭の足りない君に教えてあげよう 」


 黒い世界に白い板が浮かび上がる。

 それは数百数千と数を増やし、果てのない階段となった。


「君はこの世すべての生物を把握している 」


 ゆっくり、エリカは階段を降りていく。


「だから表立った行動はできない。見つかれば最後、救いようのないクソみたいな運命(ストーリー)に編み込まれてしまう。でも……作者(おまえ)に忘れられた死者なら回避できる。それが最初に死んだモブなら尚更ね 」


(最初に死んだ……モブ? )


「ほら覚えてない。だからここまで来れたたんだ。この最高のタイミングまで存在を認知されず……君を私の世界に引きずり込めた 」


 バキリ……とつぜん右腕が悲鳴をあげた。

 腕は見えない何かによって握りつぶされ、折れた骨が皮膚を引き裂き、ピューピュー血が吹き出している。


 ……これだけなの?


「……ガッカリだよ 」


「っ!? 」


 エリカの背後に瞬間移動。

 こめかみを露出した骨で穿ち、腕をそのまま振り抜くと、バキュリ……回ったエリカと目が合った。


「がっ…… 」


「この空間ってけっこう無理して作ったんじゃないの? この程度の攻撃も無効化できないし、そもそも登場人物すら殺せない作者なんて……たかが知れてるよ 」


 闇に落ちていく死体にため息を吐き、そっと立てた指先に、白い光を凝縮させる。


「こんな世界……いらな」


「あぁそうだよ。だいぶ無茶をした 」


 そんな声が聞こえた瞬間、辺りの時間が急激に遅くなった。


「君を閉じ込めることを優先したからね、文字を消すのも付け加えるのも、たった一行くらいしか出来ない。でもそれは……この世界での話だよ 」


(ナニヲ…… )


「向こう側は今、作者が不在なんだ。だから文字を消しても、付け加えられない。勝手にストーリーを変えても、書きかえられない 」


(イッテ…… )


「まだ分からないのかな!!? じゃあ見せてあげるよ!!!! 」


 エリカの手元に本が現れる。

 あの表紙は……私の世界が記された本だ。


『そ̶れ̶が̶最̶期̶の̶光̶景̶だ̶っ̶た̶ 』


『彼は、この世界の主人公と成った 』


「よぉ!!! 」


 時の収束が終わった瞬間、それは闇を砕いた。

 ツンツンとした白い髪に、燃えるような赤い瞳。

 その瞳孔は獣のように鋭く、その腕は塔のような大剣を軽々と扱う。


 黒き血の失敗作(ロクト・ゴーレム)……ヤマト・ホルテンジエ。

 私の最後の遊び相手になる存在が、今……現れた。


「アルベ!! 」


 振り下ろされた大剣は私の体を真っ二つに割った。

 だけど爆発はまだ


「ふっ!!! 」


(えっ? )


 銀河すら呑む爆発は、ロウソクでも消すように剣で掻き消された。


 いや……どう考えたっておかしい。

 死の改変ならぜんぜん分かる。

 でもこれは違う。

 明らかにこの力は、さっきとは別次元。

 なんで


「分からねぇのか? 」


 隕石のような蹴りから、頭を砕かれた。

 新たに生み出した数千の光も、目で追えない大剣から掻き消され、全身を細切れにされた。


「俺はこの世界の主人公に成った。主人公ってのは特別なもんだろ? だから色々と強化されてんだよ 」


「そして彼は『他物願望権限者(メアリー・スー)』でもある。(さくしゃ)からの理想を一身に受け、伏線も理屈もなく、突然パワーアップする存在。まぁ、回りくどく言わず結論を言うとね 」


 体の復元が終わる。

 すると見えた。

 にこやかに笑うエリカの後ろに立つ、二対の翼を生やすヤマトくんが。


 その翼には瞳が蠢き、腕が圧縮され、足は空を向き、(いびつ)で歪んでいる。

 それはあの翼と……ヒカゲくんのものと同じ。


「この空間でのみ、彼はすべての魔術を扱える 」


影現魔術(えいげんまじゅつ)…… 」


 一歩踏み出したヤマトくんは闇に落ちていく。

 頭からゆっくりと……自殺するように。


善人(ヒカゲ)


 ボソリと声が聞こえた瞬間、目の前を黒い大剣が覆っていた。


「っ!? 」


 頭が吹き飛ぶ。

 音が、風圧が遅れてやってくる。


夢恐魔術(むきょうまじゅつ)


「やば」


 指を立て、極大のブラックホールを上空に放つ。

 けれどそれすらも呑む闇の海が、空から落ちてきた。


絶淵(ぜつえい)


 頭を復元し、テレポートで遥か遠くの上空へ逃げる。


「おい 」


 なのに、目の前にはヤマトくんが居た。


「えっ? 」


「逃げてんじゃねぇよ 」


 振り下ろされた踵にまた頭蓋を砕かれ、そのまま下へと蹴り飛ばされた。


「いっ」


「影現 」


 落ちながら空を見上げると、空に振り上げられた剣に、人の腕の束が巻き付くのが見えた。


「血楽 」


 腕に、剣に、赤い血管が浮かび上がり、


(イスクス)


 その全てに、黒いヒビが走った。


 星すらも両断しそうな剣。

 それが今……グラりと傾いた。


界滅(かいめつ)


 振り下ろされた一撃。

 時を止めれば避けられる。

 瞬間移動と併用すれば確実に。

 でもなんだか……この戦いに飽きてきた。


 私は蹂躙が好き。

 こんな血みどろの戦いなんて、私は楽しくない。

 だから、


「あっ? 」


 蹂躙しよう。


神鏡権写(カガミノタチ)


 すべてを写し出す鏡の刀。

 それを人の首をはねる様に優しく、横に振る。

 瞬間、振り下ろされた一撃は光の一閃によって砕かれ、それはヤマトは愚か、空の目さえも斬った。


「どうして私が……1位と呼ばれていたか分かる? 」


 ヤマトの技をすべて反射する刀を右に。

 ヤマトの攻撃すべてを防げる、透明な盾を左に。

 ヤマトのすべてのスピードに対応できる目を。

 ヤマトが反応できない速度を持つ足を。

 そんな存在しないモノを、すべて生み出す。


「絶対に、勝てるからだよ 」


「っ」


 すれ違いざまに、ヤマトの頭を割った。


(えい)げ」


 光速を越える柄で心臓を潰し、


「んまじゅ」


 脊髄を断ち、


「つ 」


 体を百枚におろす。


後悔(ライガ)


 (イカヅチ)が空を駆け、涙のような落雷が雷鳴とともに降り注ぐ。

 だけど、


「うん、遅いね 」


 数千の落雷を縫い潜り、反応できてないヤマトの眉間を刀で穿つ。


「ん? 」


 いつの間にか、背から生えた腕が刀に巻き付いていた。


「落命!!! 」


 腹から飛び出た刃から、黒い斬撃が放出された。

 でも盾を構えればそれは煙のように消え、


「返すよ 」


「っ!? 」


 構えた刀から、黒い斬撃が放出された。


「ぐっ……ぶっ!!! 」


 胴が消え、頭と手足だけになったヤマト。

 けれど手足から生えた無数のムカデの足が集合し、無理やり体を形成、繋ぎ上げる。

 でもなんだか、もう飽きてきた。


「ねぇヤマト……いやヤマトくん。もう諦めて自殺しない? 」


「……あっ? 」


「だってさ、私は際限なく再生する。でもキミは消耗しっぱなしで、何をやろうが決定打にはならない……こんな事をし続けて、意味があるの? 」


「そう聞かれて、はいそうですかって、死ぬ訳にはいかねぇんだよ 」


「うん。でもさ……無炎魔術も効かない私を、殺せるの? 」


「っ…… 」


 ヤマトはイラつくように顔をしかめた。


「気が付いてないと思った? キミと戦い始めた時からずっと命が消えてるような感覚がしてたの。でも……無になった命はまた造ればいい。消えた概念は生み出せばいい……もう一度聞くよ? 」


 剣先を向け、冷たく……ヤマトくんの目をジットリと睨む。


「この戦いに意味があるの? 」


 何も返事は無い。

 じゃあもう……終わらせ


「意味はある 」


「……どんな? 」


「例えばまぁ……時間稼ぎとかな? 」


 時間稼ぎ?

 何を言って


「気が付かねぇのか? あのお喋りが、さっきから何も喋ってねぇことに。まぁ無理もねぇよな……だってお前、ずっと俺に釘付けだったもんなぁ!!? 」


「っ!? 」


 突如、二本の光がヤマトの前に落ちてきた。

 それは対の剣……金色の刀身を持つ美しい刃と、人の手足が凝縮されたような、おぞましく歪んだ黒の刃。

 あれは……何?


「時間稼ぎありがとう 」


 空からエリカの声が聞こえる。

 

「あとは思う存分やりたまえ。きっと彼らは、力を貸してくれる 」


「あぁ 」


 ヤマトが剣に手をかけた。

 瞬間、幾億年ぶりの死が、背中を駆け上がった。

 だから、


「あっ? 」


 その両腕と首を切り落とし、その首に手を伸ばす。


(彼方に飛ば)


「悪ぃけど、俺のワガママに付き合ってくれ 」


(また時が!? )


 時間だけが……遅くなる。

 でも手は、もう触れ


「ヒカゲ……ライガ 」


「っ!? 」


 何かが脇腹を抉る。

 それは螺旋の尾だった。


「卑怯だって思うなよ? 」


 螺旋の尾は翡翠色の枯葉をまとい、ヤマトを守るように体へと巻きついた。


「ラスボスはよォ、力合わせて倒すもんだからなァ!! 」


(……えっ? )


 反応が遅れた。

 目の前には金色の刃が見える。


「っ!!? 」


 間一髪で空中にテレポート。

 振られた刃からは雷が爆ぜ、空間には黒い炎の焼き跡が付いた。


(どういう事? )


 でもそこじゃない。

 今の私がヤマトより遅いことが、何よりも有り得ない。


(……もしかして、さっきよりもスピードが上がってる? )


「影現!! 」


 得体の知れない鳥肌が全身に浮かぶ。


冷たき被葬(ユキノヒ)


 地面に生まれた数億の右腕の塊。

 それが光を越える速度で打ち上げられた。


(今のヤマトよりもはやく!! )


 空気を二度蹴り、地上にいるヤマトの首を狙う。

 でも刀身は黒い刃に弾かれ、金色の刃が私に向いた。


後悔懺悔(ニクノナミダ)


 視界を埋め尽くす雷の炎。

 テレポートでそれを避けるが、その先にはヤマトの足があり、頭を砕かれた。

 心臓を穿たれた。

 腕を切り落とされた。


(やっぱり、そうだ、しかも無炎、で、速度を焼かれ続けてる、だから今の私、より、ヤマトの方が、はやい、はやくなり続けてる!! )


「無炎夢恐無有 」


「っ!! 」


 ズタボロにされた体の上に、小さな三本の剣が現れた。

 すぐに刀を


「おせぇ 」


 その刀身は見えない一撃に砕かれた。

 そして三本の剣からは、闇と無と虹が溢れ、


(まずっ)


常牢怪縛(じょうろうかいばく)


 空間が震え、白い爆発が世界を呑んだ。




「はー……はー…… 」


 体の時が戻り、肉体が復元される。

 なのに体が重い。

 再生も遅いし、息が切れる。


「キツそうだな 」


 螺旋の尾で身を守るヤマトが、空から降りてきた。


「私に……何を…… 」


「ヒカゲの魔術だ。斬るたびに、お前に未知の物質を蓄積させてんだよ 」


(なら除去を)


「言っとくが、この剣でそれは除去できる。無有魔術は存在するモノは生み出せねぇんだろ? 」


「……あぁそうだよ。無有魔術は早い者勝ち……対策もバッチリだねぇ 」


「あぁ、エリカがずっと準備してくれたよ……テメェを殺すためにな 」


(来る…… )


 金の雷が爆ぜ、赤い炎が空間に焼き付き、それが翼のように見えた。

 瞬間、


「……ばっ? 」


 全身を細切れにされた。

 けれど次に迫る刃は、生み出したバリアで防ぐ。


「っ!? 」


「ふふっ。33時間私を守る絶対領域……これならキミの攻撃は喰らわない……ゆっくり傷を」


全霊(オール)


 ヤマトは刃を構える。

 それだけで世界が軋み、巨大な……宇宙みたいな……闇の刃が……現れた。


(大丈夫、この空間はぜった……い? )


 ふと気が付くと、目の前にな透明な鏡があった。


「遠界魔術…… 」


「……あっ 」


 鏡が割れ、遥か上空に転移させられた。

 そして、


無命(むめい)


 闇すら呑む黒が、私に放たれた。

 でも、


「ねぇ。それがこの世で一番強い攻撃なら……それを越える一撃は存在しないんじゃないの? 」


 ニッコリ笑って、人差し指を銃のように突き出す。

 その先端には、闇を呑む白き光が出現した。


終わりの光(ピリオド)


 光を放つ。

 光速の何億倍ものそれは闇を掻き消し、ヤマトの体を消し飛ばした。


「言っただろう? 」


 どこからか、声が聞こえた。


「この世界なら、一文は消せるって 」


『ヤ̶マ̶ト̶の̶体̶を̶消̶し̶飛̶ば̶し̶た̶ 」


「っ!!? 」


 背後に、死を感じた。


「うおおおぉぉ!!!! 」


 すべてを防ぐ絶対の盾を背に。

 一撃は防いだ。

 でも盾にはヒビが入り、既に崩壊しかけてる。


(無炎で焼かれ…………どうして )


 自分がもう壊れされるって直前、溢れてきたのは……そんな感情だった。


「どうして私の夢を邪魔されなきゃいけないの? 私はただ……普通に生きたか」


「知るか死ね!!!!!!! 」


 世界を割るような怒鳴り声。

 盾のヒビが広がっていく。


「俺はアイツらに生きて欲しいんだ!! テメェの夢なんざ、どうでもいいんだよォ!!!!! 」


 盾が砕けた。


「じゃあ死んで 」


「……あっ? 」


 ガクンと、ヤマトの体が下に落ちた。

 螺旋の尾も炎の翼も、もう消えている。


「魔術を奪う魔術なんて……存在しないもんね? 」


 落ちるヤマトを殺すために、すべての魔術をひとかたまりに、

 

「バァァァカ 」


「……えっ? 」


 私の体も落ち始めた。

 魔術を…………?

 なにこの感覚……記憶が…………消えていく?


「奪われる寸前に与えといた。もう使用した、『詠唱魔術』をな 」


「っ!!! 」


「テメェが設定したんだぜ? それを一度使った者は、人格が消えてくってよォ!! 」


(まずいマズイまずいまずい!!! 魔術与えていやヤマトの方が先に、魔術を無効にダメだ存在して消す無炎今すぐに)


空翔(ヴルーヒュル)


 空を蹴ったヤマト。

 黒の刃が、眉間に迫る。

 だからゆっくりと手を開き、光る欠片をそっと放り投げる。


 さっき……砕かれた時に、ずっと握っておいた。

 あの刀の……すべてを反射する刀身の……欠片を。


「ゴボッ 」


 反射された黒い刃が、ヤマトの喉を貫いた。


(……あははははっ!! やった!!!! 私は勝っ)


 バチリ、世界に赤い稲妻が走った。

 それはヤマトの首に刺さる、()()()()から発せられたものだった。


(なんでアレが!? もう一個の剣はどこに)


「いつも……迷惑をかけてごめんね 」


 背後からあの声が聞こえた。

 後ろには、黒い剣を持つエリカが居た。


(勘違いさせるまじゅっ)


「ヒカゲ 」


 ザンっ……斜めに体を切り落とされた。


(はやく復元を)


 爆ぜる雷から、首をはね飛ばされた。


「ヒカゲ 」

     「ライガ 」






「「今、終わったよ 」」


 二つの刃から、頭を叩き斬られた。




























 

 


 


 





「はぁ……はぁ…… 」


 床に転がるアルベの亡骸。

 それはもう動かない。

 再生も復元もしない。

 ……やっと、終わったんだ。


「ヤマト!! 私たちの勝………… 」


 振り返れば、ヤマトは倒れていた。

 すぐに胸へ手を当てる。

 でも動いていない。

 鼓動が聞こえない。


「そん……な………… 」


 お互いに死は覚悟していた。

 失敗することも。

 でもこんな終わり方……あって言い訳が……





「大丈夫……だよ 」


 ズルズル……カタチ無き黒いモノが、ヤマトに近付いていく。


「ユカリ? ……生きてたんだ 」


「うん……私の恐怖と…………バケモノが復活する恐怖を……利用すれば……彼は生き返る 」


「……君がそんな事をする理由はあるのかい? 」


「強いて言うなら……自由な彼を……見たいから。他人では無く……自分のために生きる彼を 」


「………………そうかい 」


「だからエリカ…… 」


「言われなくても分かってる。私は……私がやるべき事をやる 」


「…………うん 」





 闇の向こうへ、ひたすら向こうへ、この世界の端まで、走り続ける。


 向こうの世界には今、作者が居ない。

 世界は停滞したまま、崩壊を迎える。

 だから私が作者に成る。

 

 身勝手に運命(シナリオ)を紡ぐアルベのような者じゃなく、自我も意識も無い、無機質に彼らの行動を書き写し続ける物として。




 果てなく続く闇。

 そこにある透明な階段を登る。


 一歩、一歩……膝にかかる負荷を感じながら、確実に登り続ける。

 そして付いた。

 先のない、頂点に。

 あとは飛び降りるだけだ。


(……震え? )


 いつの間にか、足が震えていた。


 ……怖いさ。

 確かに怖い。

 でも……示したいんだ。

 こんなクソ野郎が、こんなバケモノが、誰かのために生きて、誰かのために死ねたという事を。

 それを何も持たずに産まれた彼女に……伝えたいから。



 震えは止まった。

 だから虚空に向かって一歩……


「あぁ最期に……恩人の言葉を借りようか 」


 踏み出した。

 

「滅ぼしたければ滅ぼして良いんだ。救いたければ救って良いんだ。死にたければ死んでも良い……そこはもう自由だ。何にも縛られることは無い 」


 落ちる。

 落ちる。

 私はもう死ぬ。

 あぁでも最期に、私が恋した彼女に……一つだけ、呪いを込めたかった。






「いずれ覇王と成る(ハルト)へ……どうか君の果てに、自由が……ありますように 」








 落ちた。

 潰れた。

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