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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
終わりへ行こう
63/73

さーて、最終回だ



「よォ!! 」


 飛び出た先。

 何もない白い空間が広がり、そこにはポツリと、アルベが立っていた。


「アルベ!!! 」


 左腕の肉を増殖し、作り出した大剣を振り下ろす。

 が、アルベは動かず、ニコッと笑って俺に手を振った。


「あっ、やっほ〜 」


 首に刃が通り、その笑顔は宙を舞う。

 けれど回る顔面ずっと、こっちを見ていた。


「ヤマトく〜ん 」


「っ!!? 」


 頭のない体がギュルッと回り、その勢いのまま蹴りが放たれる。


 剣を盾に。

 だが、踏ん張ろうとした足首は壊れ、そのまま吹き飛ばされた。


(ただの蹴りで!! コレかよ!!? )


「いや〜来てくれて助かったよ。おかげで」


 突き刺した剣で勢いを殺し、顔を上げる。

 そこには、落ちた頭を首に引っつけたアルベが、ニコッと笑っていた。


「いい暇つぶしになりそうだ 」


(ハッ……俺たちよりバケモンだな )


 そんな事を思ってると、ふと……あれを思い出した。

 花の世界で聞いた、エリカの話を。


『アルベの魔術は、この世に存在しないものを具現させる。まぁ簡単に言うと、宇宙巻き込む爆弾作ったり、この世の権限を操ったりできる 』


『色々聞きてぇことはあるけど……権限ってのは? 』


『言ってしまえばなんでも出来るってことさ。指を弾けば攻撃が無効化され、心臓や脳を破壊しても死なない。最悪、アルベが二人になるかもね 』


『……ハハッ。めちゃくちゃだろ 』


『あぁめちゃくちゃさ。正直、アルベがその気になったら終わりだよ 』



 話で聞いたバケモノが、目の前にいる。

 そんな絶望を前に、腹の底から何かが湧き上がってくる。

 ドロドロと……マグマのような、怒りが。


「てめぇに一つ、聞きたいことがある 」


「いいよ〜! なんでも聞いて!! 今の私はすっごく機嫌がいいからね 」


「なんでライガを殺した? 」


 今思い出しても、腹の奥で憎悪が渦巻く。

 だと言うのに、アルベは眉間にシワを寄せ、こめかみをトントンとたたき始めた。


「ライガ? てえぇっと……誰だっけ? 」


「……あ゛っ? 」


「いやごめんね、キャラが多くてぜんぜん覚えてないの。前後のストーリーを言ってくれたら思い出すかもだけど…… 」


 謝るアルベは、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


(あぁ……そういう事か )


 全身が怒りで燃え上がり、頭と目の血管がブチブチちぎれる中で、ようやく理解できた。

 腹の底に渦巻く、憎悪とも言えぬドス黒い感情を。


 アルベにとって俺たちは、玩具でしかないんだ。


 自分の目的のために、救いようがない世界を強制し、俺らの人生や意思は関係なく、ただ自分の思い通りなストーリーだけを描き続け、邪魔するものは暇つぶしがてらに削除する。


 勝手に産んで、勝手に見限り、勝手に用無しと決めつけられて殺される。


 こんな奴が居たんじゃ、誰も幸せになれないわけだ。


「もう……喋るな 」


 込み上げる怒りは黒いヒビとなり、それが全身に広がっていく。


「テメェは……ここで殺す 」


「え〜……聞いてきたのキミじゃん。急にそんな事言われても困るよ〜 」


 何か言っている。

 ゴミがなにか。

 ……殺す。


落命(らくめい)


 静かに振り下ろした刃は、無音の斬撃を産んだ。

 これな




『わぁ……すっごく大きい 』


 時が止まった世界で、じーっと黒い斬撃を観察してみる。


『あー、斬撃の中に自分の細胞を混ぜ込んでるんだ。それが相手の体に吸着して壊死。それで再生を阻害してるんだね。ふふっ……これ喰らったら私でもマズイかも 』


 ちょっと喰らってみたさはあるけど、もう少しヤマトくんの攻撃を見てみたい。

 だから斬撃を手で拭い取り、そっとヤマトくんのお腹にあてがってみる。


『はい、自分からのプレゼントだよ……受け取って♡ 』




「っ!!? 」


 油断はしてなかった。

 なのに気がついた時には腹が消え、頭と手足が宙を舞っていた。


(何が起こっ……た?なんで俺の……斬撃が……自分に!? はやく……再生を!! )


「キミの再生には限度があるんだよね? 」


 あの声とともに、バラバラになった手足の感覚が消えた。


「手足は数光年先に送っといた。引っ付けるのと腕をゼロから作るじゃ、体力の消費が違うから疲れるよね〜。しかも頭から全身だなんて……あーぁ 」


「っ!? 」


 アルベの指先が俺の眉間に向き、


「かわいそう 」


 光よりも速い何かが、頭蓋を貫いた。


(まっ……ずぃ )


 中身が漏れる。

 記憶は細胞で保持しているが、脳が無くなれば体の運動機能も落ちる。

 

「もど……れぇ!! 」


 部分的に皮を肥大させ、散らばる脳みそを包み込む。

 そのまま体を再生。

 空を蹴ってアルベに突っ込む。


「いいね。でも」


 下から現れた赤黒い槍から、腹を串刺しにされた。


「それは単純じゃない? 」


「っ!! 」


 腹を自切し、腕だけの力でアルベに突っ込む。

 だが横から来た赤黒い大剣が俺の拳を阻み、空中へ弾き飛ばされた。


(寄生(エンリッチ)駄作(フェイリア)空翔(ヴルーヒュル) !! )


 魔法で体を再構築。

 空を蹴ってもう一度突っ込む。

 アルベの周りからは赤黒い数千もの剣が現れ、すべての刃先が俺に放たられる。

 だがすべて遅い。


 刃を躱し、剣の側面を踏みこみ、何度も体を加速させる。


「かっこいいねぇ。でもこれは……躱せる? 」


 アルベはまた指先を立てる。

 けれど何かが放たれるよりはやく、自切した下半身の蹴りがその横腹を抉った。


「へー。遠隔で動かせるんだ 」


 やはりダメージは無い。

 下半身も黒い剣で串刺しにされた。

 だがここまで、攻撃を直撃させられるゼロ距離まで近付けた。


憎世(ぞうよ)!! 」


 醜く肥大した右腕が、アルベを握りつぶした。


(……居ねぇ!? )


 だがその手の中には何もなかった。


(どこ)


「私に戦いを挑んだんだからさ 」


 声は上から聞こえた。

 そこには空に立つアルベが、人差し指を立てていた。

 その先端には、小さな光の粒が浮かんでいる。


「もちろんこの対策は……してるよね? 」


「ッ!!! 『(イスクス)』!!!! 」


 駆け上がる悪寒。

 最速で全身にヒビを走らせ、最速で剣を生み、最速の全力を振り下ろす。


バイバイ(ディール・ワルツ)


喑楽(あんらく)!!! 」


 宇宙を呑む白き爆発に、世界を呑む黒き一撃をぶっぱなす。

 黒はすべてを呑み、壊し、その爆発は無音とともに消失した。


「……オェッ!! 」


 だが体力をごっそり持ってかれた。

 目と口からは黒い血が、反動で足は壊れ、息を吸っても肺は膨らまない。

 というか内蔵が何個かイカれた。


 視界も機動力も体力も消費したが、それだけのことをしなければ、アレは防げなかった。


(危なかったが……ラッキーだな。存在しない物の具現……なら、一度防いでしまえば二度は使え)


「あれを防ぐなんて凄いねぇ。じゃあ」


 声が聞こえた空には、あの光が星空のように広がっていた。


「もう千個……行ってみようか 」


「……うおぉぉぉぉ!!!!! 」


 全身に黒いヒビを。

 また大剣を振り下ろす。


 反動で腕が千切れ、内蔵が潰れる。

 だが止まってる暇は無い。


(なんで……あぁそうか!! 同じ攻撃を繰り返す空間的なものを作れば、これくらい訳ねぇよな!!! )

 

 力で、意地で、怒りで、何度も爆撃を防ぎ続ける。

 けれど星はまだ死ぬほど残ってる。


(っ!! 来た!!! )

 

 そんな地獄の中で、頭の中で疼きがあった。

 それは合図だ。


「頼むぞ!! 」


「任せて 」


 空中に現れた夜は、数多もの星を一瞬で呑んだ。


「キミも来たんだ……ユカリ 」


「お前は……ここでころ!! 」


「でもさ 」


 夜から這い出たユカリの頭は、アルベの腕によって貫かれた。


「リュークならまだしも、キミは脅威にはならない。私たちの相性は最悪だからね 」


 それでも夜の闇はその腕にへばり付く。

 だがアルベが指を弾けば、その体にはヒビが走り、甲高い音とともに砕け散った。


(悪ぃな、時間稼ぎに使わせちまって )


「ん? 」


 ドス黒く染まった六本指の足。

 それで跳躍した瞬間、地面には巨大な亀裂が走り、不完全な腕の刃はアルベの首を切り落とした。


「おー……やっとお出ましだね。不完全の獣くん 」


 空を蹴って起動を変え、四肢をバラす。

 胴をこま切れに、さらに体を加速させ、空中にある生首を踏み潰す。


 死ななくても脳が無くなれば動きは鈍る。

 だから俺がやるべき事は一つ。


(このまま殺し続ける!! )


 蠢く脳をすり潰し、動く四肢を切り伏せ、再生する体を細切れにしつづけ


「はい、残念 」


「……はっ? 」


 ふと気が付けば、ニコッと笑うアルベが背後に立っていた。


「っ!!!? 」


 遅い拳が頬を掠める。

 それだけで顎が飛び散った。


 脳が揺れる。

 足が動かない。

 その隙に放たれた重い蹴りが、腹を貫通した。


「ガハッ!!!! 」


「ヤマトくん見てるとさ〜、私もしたくなっちゃった 」


 足爪で吹き飛ばされる体を減速させながら顔を上げる。

 すると見えた。

 拳を構える、アルベの笑顔が。


「近接戦 」


「ハハッ……やって野郎じゃねぇか!!! 」


 体を前に倒し、全速力で距離を詰める。

 音速を越える一閃も蹴りも、アルベはヒラヒラと躱し、ただ放たれた拳が俺の頬を貫通した。

 が、すぐさまアルベの腕を噛み、万力の力でそれを噛みちぎる。


(それはさっき見てんだよ!! )


「あっ? 」


 けれど宙を舞う腕から頭を掴まれ、握りつぶされた。


 これくらいじゃ死なない。

 だが視界は潰された。


(何も見え)


「どーん!! 」


 上から振り下ろされた何か。

 それを両腕で受けるが、足は砕け、背骨も折れた。


「や〜!! 」


「っ゛!!? 」


 そして蹴られた。

 ボールのように。

 それだけで右半身が弾け飛び、そのままぶっ飛ばされた。


(っぐ!! 止まっ……れぇ!!! )


 骨で無理やりブレーキをかける。

 止まる。

 だがもう一度突っ込もうとは思えなかった。


 アルベはただ、遊んでいるんだ。

 俺が他のオモチャより少し変わってる。

 それだけの理由で、弄ばれているだけだ。


「あれぇ? もうおしまい? 」


 あんなに遠くに居たのに、アルベはもう目の前に居る。

 体の再生は終わっているのに、腕が上がらない。


「どうしたの? 心でも折れた? 」


 子供を心配するような声で問われる。


「あぁ。とっくの昔に折れてるよ 」


「そうなんだ。それは辛いね 」


 子供を心配するように、頭を撫でられる。


「じゃあ……死のっか 」


 頭を掴まれ、そのまま握りつぶ



「えっ? 」


 される前に放った拳は、アルベの頭蓋を砕いた。


「心が折れたんじゃなかったの〜? 」


 足でブレーキをかけたアルベは笑う。

 それを前に、もう一度立ち上がる。


「あぁ折れてるよ! お前に勝てねぇよ!! でも……ここでお前を殺さなきゃ!!! 誰も普通に生きられねぇだろうが!!!! 」


 背に四本の腕を。

 その真ん中に黒い肉を異常増殖させ、ただ一本の剣に凝縮する。


 これにすべてを賭ける。


 俺は死んでもいい。

 でもここでコイツも殺す。


 ハルトやユウト……(のこ)されたアイツらが、普通に生きて、普通に死ねるようになって欲しいから。


「へー……これはヤバそう♡ 」


 凝縮された質量は、地面はおろか、空間すらも崩壊させ始めた。

 それをただ、全力で振り下ろ


「あっ? 」


 剣が傾く寸前、世界に鐘の音が響いた。


「あっ、ごめん。もう時間みたいだからさ、遊びはここで終わろっか 」


「何言って」


 ふと気が付くと、目の前にニコッと笑うアルベが見えた。


「おやすみ 」


 それが最期の光景だった。









「あー……楽しかった 」


 ヤマトくんだった黒い肉塊の上で、ググっと背中を伸ばす。


 正直に言えば最後の一撃をしっかり見たかったけど、万が一にもイレギュラーがあったら困っちゃう。

 だから仕方ない。


「よし。じゃあ……行こう 」


 ただデコピンをすれば、世界の壁が壊れた。

 一歩進めば体は落ち、目的の場所……ハルトがいる場所に着地した。


「おー……ここはどこだろう? 」


 そこは異質な場所だった。


 なぜか空中に咲く花。

 土の上に花開く桜。

 誰かの世界なのは間違いないけど、その誰かは分からない。


「あっ 」


 でも次の瞬間には、そんな疑問は些細なものに変わり果てた。

 だってそこには、ハルトが寝てたんだから。


「ねぇハルト……起きてる? 」


「……… 」


「良かった。ちゃんと意思だけ消えてる 」


 試しに指先で、頸動脈を引きちぎる。

 反応は無い。

 でも血だけは、ドクドクと止めどなく溢れてくる。


 それは真っ黒な血……()()の根源であり、()()にもっとも近い物。


「……ごめんね 」


 空中に生み出した短剣をしっかりと握り、ゆっくり……でも痛みが一瞬で済むように、左胸に刃を沈める。

 ドクドクドクドク……鼓動が鳴るたびに、血が溢れていく。


 これが世界を覆えば、この世界は消える。

 私も死ねる。

 だからもう……後は待つだけでいい。





「ねぇハルト。暇だからさ、少しだけ私の話を聞いて 」


 何も言わない彼女に、そっと耳打ちをする。


「私ってね、ゲシュペンストだったんだよ 」


 返事は無い。

 だからわざとらしく笑ってみる。


「驚いたでしょ〜? 」


「……… 」


「昔ね、とある星の王様がこう言ったの。『土地が足りないのなら、新たな星を作ればいい』って。私はその核にされたゲシュペンスト……死にたいと思っても、腕がないから死ねなかった。誰かと話したくても、口がないから話せなかった。ぜんぶ取られて外されて、肉片になった私と数億の死体が、新しい星になった 」


 ボーッと、綺麗な花空を見上げる。


「星の上で誰かが死ねば、それが私の栄養になる。だからいつまで経っても死ねなくて、死にたくて……そんなことを続けてたらね、私は溶けだしたの。トロトロ……ドロドロ……意思だけが固まって、宇宙になって、果てのない命になって……でも意思だけはあるから、死にたい気持ちだけが残った……だからさ、自分を殺せるような力を持った人たちを、自分で創ろうとしたの。そして産まれたのが」


 あの子の鼻先に、ツンと指先を当てる。


「キミ達 」


 ゴロンと転がれば、もう黒い血は花を食い尽くしていた。


「神話みたいな話だけど、事実だよ。だから私が死ぬにはね、この宇宙そのものを消さなきゃいけなかった 」


「……… 」


「自殺はできなかった。本体には実態は無いし、この体は勇者の呪いが残した物だから……これだけが頼りだったんだ。すべてを喰らい尽くす、覇王の力が…… 」


「……… 」


「キミたちには感謝してるんだ。気が狂いそうな長い時間に、確かな楽しみをくれたから 」


 ニコッと笑って、(ハルト)を見つめる。

 するとポロって、涙が出てきた。


「ねぇ……私も普通の人間ならさ…………普通に生きて、普通に死ねたのかな? 」


 黒い血が、私たちを覆い尽くした。


 もうこの体は動かなくなる。

 でもそれでいいんだ。

 これでやっと……死ねるんだから……

 それが私の……ハッピーエンドなんだから……


(ありがとう、ハルト )


 溺れる寸前で、そう心の中で呟いた。

 覇王と成ってくれたキミへ、感謝を込めて







              いずれ覇王と成るキミへ

                    【END】

 

 

 

 



















    そんな終わり方を、許すとでも?

 

 


 

 

 

 

 

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