さーて、最終回だ
「よォ!! 」
飛び出た先。
何もない白い空間が広がり、そこにはポツリと、アルベが立っていた。
「アルベ!!! 」
左腕の肉を増殖し、作り出した大剣を振り下ろす。
が、アルベは動かず、ニコッと笑って俺に手を振った。
「あっ、やっほ〜 」
首に刃が通り、その笑顔は宙を舞う。
けれど回る顔面ずっと、こっちを見ていた。
「ヤマトく〜ん 」
「っ!!? 」
頭のない体がギュルッと回り、その勢いのまま蹴りが放たれる。
剣を盾に。
だが、踏ん張ろうとした足首は壊れ、そのまま吹き飛ばされた。
(ただの蹴りで!! コレかよ!!? )
「いや〜来てくれて助かったよ。おかげで」
突き刺した剣で勢いを殺し、顔を上げる。
そこには、落ちた頭を首に引っつけたアルベが、ニコッと笑っていた。
「いい暇つぶしになりそうだ 」
(ハッ……俺たちよりバケモンだな )
そんな事を思ってると、ふと……あれを思い出した。
花の世界で聞いた、エリカの話を。
『アルベの魔術は、この世に存在しないものを具現させる。まぁ簡単に言うと、宇宙巻き込む爆弾作ったり、この世の権限を操ったりできる 』
『色々聞きてぇことはあるけど……権限ってのは? 』
『言ってしまえばなんでも出来るってことさ。指を弾けば攻撃が無効化され、心臓や脳を破壊しても死なない。最悪、アルベが二人になるかもね 』
『……ハハッ。めちゃくちゃだろ 』
『あぁめちゃくちゃさ。正直、アルベがその気になったら終わりだよ 』
話で聞いたバケモノが、目の前にいる。
そんな絶望を前に、腹の底から何かが湧き上がってくる。
ドロドロと……マグマのような、怒りが。
「てめぇに一つ、聞きたいことがある 」
「いいよ〜! なんでも聞いて!! 今の私はすっごく機嫌がいいからね 」
「なんでライガを殺した? 」
今思い出しても、腹の奥で憎悪が渦巻く。
だと言うのに、アルベは眉間にシワを寄せ、こめかみをトントンとたたき始めた。
「ライガ? てえぇっと……誰だっけ? 」
「……あ゛っ? 」
「いやごめんね、キャラが多くてぜんぜん覚えてないの。前後のストーリーを言ってくれたら思い出すかもだけど…… 」
謝るアルベは、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
(あぁ……そういう事か )
全身が怒りで燃え上がり、頭と目の血管がブチブチちぎれる中で、ようやく理解できた。
腹の底に渦巻く、憎悪とも言えぬドス黒い感情を。
アルベにとって俺たちは、玩具でしかないんだ。
自分の目的のために、救いようがない世界を強制し、俺らの人生や意思は関係なく、ただ自分の思い通りなストーリーだけを描き続け、邪魔するものは暇つぶしがてらに削除する。
勝手に産んで、勝手に見限り、勝手に用無しと決めつけられて殺される。
こんな奴が居たんじゃ、誰も幸せになれないわけだ。
「もう……喋るな 」
込み上げる怒りは黒いヒビとなり、それが全身に広がっていく。
「テメェは……ここで殺す 」
「え〜……聞いてきたのキミじゃん。急にそんな事言われても困るよ〜 」
何か言っている。
ゴミがなにか。
……殺す。
「落命 」
静かに振り下ろした刃は、無音の斬撃を産んだ。
これな
『わぁ……すっごく大きい 』
時が止まった世界で、じーっと黒い斬撃を観察してみる。
『あー、斬撃の中に自分の細胞を混ぜ込んでるんだ。それが相手の体に吸着して壊死。それで再生を阻害してるんだね。ふふっ……これ喰らったら私でもマズイかも 』
ちょっと喰らってみたさはあるけど、もう少しヤマトくんの攻撃を見てみたい。
だから斬撃を手で拭い取り、そっとヤマトくんのお腹にあてがってみる。
『はい、自分からのプレゼントだよ……受け取って♡ 』
「っ!!? 」
油断はしてなかった。
なのに気がついた時には腹が消え、頭と手足が宙を舞っていた。
(何が起こっ……た?なんで俺の……斬撃が……自分に!? はやく……再生を!! )
「キミの再生には限度があるんだよね? 」
あの声とともに、バラバラになった手足の感覚が消えた。
「手足は数光年先に送っといた。引っ付けるのと腕をゼロから作るじゃ、体力の消費が違うから疲れるよね〜。しかも頭から全身だなんて……あーぁ 」
「っ!? 」
アルベの指先が俺の眉間に向き、
「かわいそう 」
光よりも速い何かが、頭蓋を貫いた。
(まっ……ずぃ )
中身が漏れる。
記憶は細胞で保持しているが、脳が無くなれば体の運動機能も落ちる。
「もど……れぇ!! 」
部分的に皮を肥大させ、散らばる脳みそを包み込む。
そのまま体を再生。
空を蹴ってアルベに突っ込む。
「いいね。でも」
下から現れた赤黒い槍から、腹を串刺しにされた。
「それは単純じゃない? 」
「っ!! 」
腹を自切し、腕だけの力でアルベに突っ込む。
だが横から来た赤黒い大剣が俺の拳を阻み、空中へ弾き飛ばされた。
(寄生! 駄作! 空翔 !! )
魔法で体を再構築。
空を蹴ってもう一度突っ込む。
アルベの周りからは赤黒い数千もの剣が現れ、すべての刃先が俺に放たられる。
だがすべて遅い。
刃を躱し、剣の側面を踏みこみ、何度も体を加速させる。
「かっこいいねぇ。でもこれは……躱せる? 」
アルベはまた指先を立てる。
けれど何かが放たれるよりはやく、自切した下半身の蹴りがその横腹を抉った。
「へー。遠隔で動かせるんだ 」
やはりダメージは無い。
下半身も黒い剣で串刺しにされた。
だがここまで、攻撃を直撃させられるゼロ距離まで近付けた。
「憎世!! 」
醜く肥大した右腕が、アルベを握りつぶした。
(……居ねぇ!? )
だがその手の中には何もなかった。
(どこ)
「私に戦いを挑んだんだからさ 」
声は上から聞こえた。
そこには空に立つアルベが、人差し指を立てていた。
その先端には、小さな光の粒が浮かんでいる。
「もちろんこの対策は……してるよね? 」
「ッ!!! 『力』!!!! 」
駆け上がる悪寒。
最速で全身にヒビを走らせ、最速で剣を生み、最速の全力を振り下ろす。
「バイバイ 」
「喑楽!!! 」
宇宙を呑む白き爆発に、世界を呑む黒き一撃をぶっぱなす。
黒はすべてを呑み、壊し、その爆発は無音とともに消失した。
「……オェッ!! 」
だが体力をごっそり持ってかれた。
目と口からは黒い血が、反動で足は壊れ、息を吸っても肺は膨らまない。
というか内蔵が何個かイカれた。
視界も機動力も体力も消費したが、それだけのことをしなければ、アレは防げなかった。
(危なかったが……ラッキーだな。存在しない物の具現……なら、一度防いでしまえば二度は使え)
「あれを防ぐなんて凄いねぇ。じゃあ」
声が聞こえた空には、あの光が星空のように広がっていた。
「もう千個……行ってみようか 」
「……うおぉぉぉぉ!!!!! 」
全身に黒いヒビを。
また大剣を振り下ろす。
反動で腕が千切れ、内蔵が潰れる。
だが止まってる暇は無い。
(なんで……あぁそうか!! 同じ攻撃を繰り返す空間的なものを作れば、これくらい訳ねぇよな!!! )
力で、意地で、怒りで、何度も爆撃を防ぎ続ける。
けれど星はまだ死ぬほど残ってる。
(っ!! 来た!!! )
そんな地獄の中で、頭の中で疼きがあった。
それは合図だ。
「頼むぞ!! 」
「任せて 」
空中に現れた夜は、数多もの星を一瞬で呑んだ。
「キミも来たんだ……ユカリ 」
「お前は……ここでころ!! 」
「でもさ 」
夜から這い出たユカリの頭は、アルベの腕によって貫かれた。
「リュークならまだしも、キミは脅威にはならない。私たちの相性は最悪だからね 」
それでも夜の闇はその腕にへばり付く。
だがアルベが指を弾けば、その体にはヒビが走り、甲高い音とともに砕け散った。
(悪ぃな、時間稼ぎに使わせちまって )
「ん? 」
ドス黒く染まった六本指の足。
それで跳躍した瞬間、地面には巨大な亀裂が走り、不完全な腕の刃はアルベの首を切り落とした。
「おー……やっとお出ましだね。不完全の獣くん 」
空を蹴って起動を変え、四肢をバラす。
胴をこま切れに、さらに体を加速させ、空中にある生首を踏み潰す。
死ななくても脳が無くなれば動きは鈍る。
だから俺がやるべき事は一つ。
(このまま殺し続ける!! )
蠢く脳をすり潰し、動く四肢を切り伏せ、再生する体を細切れにしつづけ
「はい、残念 」
「……はっ? 」
ふと気が付けば、ニコッと笑うアルベが背後に立っていた。
「っ!!!? 」
遅い拳が頬を掠める。
それだけで顎が飛び散った。
脳が揺れる。
足が動かない。
その隙に放たれた重い蹴りが、腹を貫通した。
「ガハッ!!!! 」
「ヤマトくん見てるとさ〜、私もしたくなっちゃった 」
足爪で吹き飛ばされる体を減速させながら顔を上げる。
すると見えた。
拳を構える、アルベの笑顔が。
「近接戦 」
「ハハッ……やって野郎じゃねぇか!!! 」
体を前に倒し、全速力で距離を詰める。
音速を越える一閃も蹴りも、アルベはヒラヒラと躱し、ただ放たれた拳が俺の頬を貫通した。
が、すぐさまアルベの腕を噛み、万力の力でそれを噛みちぎる。
(それはさっき見てんだよ!! )
「あっ? 」
けれど宙を舞う腕から頭を掴まれ、握りつぶされた。
これくらいじゃ死なない。
だが視界は潰された。
(何も見え)
「どーん!! 」
上から振り下ろされた何か。
それを両腕で受けるが、足は砕け、背骨も折れた。
「や〜!! 」
「っ゛!!? 」
そして蹴られた。
ボールのように。
それだけで右半身が弾け飛び、そのままぶっ飛ばされた。
(っぐ!! 止まっ……れぇ!!! )
骨で無理やりブレーキをかける。
止まる。
だがもう一度突っ込もうとは思えなかった。
アルベはただ、遊んでいるんだ。
俺が他のオモチャより少し変わってる。
それだけの理由で、弄ばれているだけだ。
「あれぇ? もうおしまい? 」
あんなに遠くに居たのに、アルベはもう目の前に居る。
体の再生は終わっているのに、腕が上がらない。
「どうしたの? 心でも折れた? 」
子供を心配するような声で問われる。
「あぁ。とっくの昔に折れてるよ 」
「そうなんだ。それは辛いね 」
子供を心配するように、頭を撫でられる。
「じゃあ……死のっか 」
頭を掴まれ、そのまま握りつぶ
「えっ? 」
される前に放った拳は、アルベの頭蓋を砕いた。
「心が折れたんじゃなかったの〜? 」
足でブレーキをかけたアルベは笑う。
それを前に、もう一度立ち上がる。
「あぁ折れてるよ! お前に勝てねぇよ!! でも……ここでお前を殺さなきゃ!!! 誰も普通に生きられねぇだろうが!!!! 」
背に四本の腕を。
その真ん中に黒い肉を異常増殖させ、ただ一本の剣に凝縮する。
これにすべてを賭ける。
俺は死んでもいい。
でもここでコイツも殺す。
ハルトやユウト……遺されたアイツらが、普通に生きて、普通に死ねるようになって欲しいから。
「へー……これはヤバそう♡ 」
凝縮された質量は、地面はおろか、空間すらも崩壊させ始めた。
それをただ、全力で振り下ろ
「あっ? 」
剣が傾く寸前、世界に鐘の音が響いた。
「あっ、ごめん。もう時間みたいだからさ、遊びはここで終わろっか 」
「何言って」
ふと気が付くと、目の前にニコッと笑うアルベが見えた。
「おやすみ 」
それが最期の光景だった。
「あー……楽しかった 」
ヤマトくんだった黒い肉塊の上で、ググっと背中を伸ばす。
正直に言えば最後の一撃をしっかり見たかったけど、万が一にもイレギュラーがあったら困っちゃう。
だから仕方ない。
「よし。じゃあ……行こう 」
ただデコピンをすれば、世界の壁が壊れた。
一歩進めば体は落ち、目的の場所……ハルトがいる場所に着地した。
「おー……ここはどこだろう? 」
そこは異質な場所だった。
なぜか空中に咲く花。
土の上に花開く桜。
誰かの世界なのは間違いないけど、その誰かは分からない。
「あっ 」
でも次の瞬間には、そんな疑問は些細なものに変わり果てた。
だってそこには、ハルトが寝てたんだから。
「ねぇハルト……起きてる? 」
「……… 」
「良かった。ちゃんと意思だけ消えてる 」
試しに指先で、頸動脈を引きちぎる。
反応は無い。
でも血だけは、ドクドクと止めどなく溢れてくる。
それは真っ黒な血……覇王の根源であり、勇者にもっとも近い物。
「……ごめんね 」
空中に生み出した短剣をしっかりと握り、ゆっくり……でも痛みが一瞬で済むように、左胸に刃を沈める。
ドクドクドクドク……鼓動が鳴るたびに、血が溢れていく。
これが世界を覆えば、この世界は消える。
私も死ねる。
だからもう……後は待つだけでいい。
「ねぇハルト。暇だからさ、少しだけ私の話を聞いて 」
何も言わない彼女に、そっと耳打ちをする。
「私ってね、ゲシュペンストだったんだよ 」
返事は無い。
だからわざとらしく笑ってみる。
「驚いたでしょ〜? 」
「……… 」
「昔ね、とある星の王様がこう言ったの。『土地が足りないのなら、新たな星を作ればいい』って。私はその核にされたゲシュペンスト……死にたいと思っても、腕がないから死ねなかった。誰かと話したくても、口がないから話せなかった。ぜんぶ取られて外されて、肉片になった私と数億の死体が、新しい星になった 」
ボーッと、綺麗な花空を見上げる。
「星の上で誰かが死ねば、それが私の栄養になる。だからいつまで経っても死ねなくて、死にたくて……そんなことを続けてたらね、私は溶けだしたの。トロトロ……ドロドロ……意思だけが固まって、宇宙になって、果てのない命になって……でも意思だけはあるから、死にたい気持ちだけが残った……だからさ、自分を殺せるような力を持った人たちを、自分で創ろうとしたの。そして産まれたのが」
あの子の鼻先に、ツンと指先を当てる。
「キミ達 」
ゴロンと転がれば、もう黒い血は花を食い尽くしていた。
「神話みたいな話だけど、事実だよ。だから私が死ぬにはね、この宇宙そのものを消さなきゃいけなかった 」
「……… 」
「自殺はできなかった。本体には実態は無いし、この体は勇者の呪いが残した物だから……これだけが頼りだったんだ。すべてを喰らい尽くす、覇王の力が…… 」
「……… 」
「キミたちには感謝してるんだ。気が狂いそうな長い時間に、確かな楽しみをくれたから 」
ニコッと笑って、娘を見つめる。
するとポロって、涙が出てきた。
「ねぇ……私も普通の人間ならさ…………普通に生きて、普通に死ねたのかな? 」
黒い血が、私たちを覆い尽くした。
もうこの体は動かなくなる。
でもそれでいいんだ。
これでやっと……死ねるんだから……
それが私の……ハッピーエンドなんだから……
(ありがとう、ハルト )
溺れる寸前で、そう心の中で呟いた。
覇王と成ってくれたキミへ、感謝を込めて
いずれ覇王と成るキミへ
【END】
そんな終わり方を、許すとでも?




