うーん、タイトルは適当でいいかな
「よぉ……久しぶりだな、フィレ。いや、ロジーの女王様 」
ずっと変わらない黒い世界に一人……あの女が立っている。
白いベールから覗く肌には骨が浮き、その腹部は泥に汚染され、半開きの赤い目はいつも……悲しそうだった。
「はじめまして、アキラ。今回は可愛らしい格好をしてるね 」
「あぁ、街で有名な美女だったらしいぜ。もっとも……こいつは自分で、死を選んだがな 」
綺麗な緑髪を撫でながら、フィレを見つめる。
だがあいつは、興味がなさそうに暗闇へ目を逸らした。
「で? なんの用事かな? 私はキミが嫌いだから、はやく消えて欲しいんだけどね 」
「なんだよ、まだあの事を根に持ってんのか? 」
「あぁ持ってる。キミが勇者の死体をばら撒かなければ……今頃、本物の覇王が産まれてたはずだからね 」
「……はっ、もう良いじゃねぇか。まがい物でも、覇王はもうすぐ生まれる 」
「私はそれを許さない 」
いつからか俺に向いていた目は、完全に開ききっていた。
瞳孔は憎悪と怒りに満ち、目じりは血走ってる。
「睨むなよ、かわいい顔が台無しだぜ? 」
「気色悪いことを言わないで欲しいかな 」
歩みを進めると、闇が回転をはじめた。
地面は上へ下へ、横へと動き、揺れる腹から吐き気が込み上げてくる。
それでも前に進む。
だがフィレとの距離はいつまでも縮まらない。
「お前もひでぇことしやがるな。なんであのゲシュペンスト共に、あんな嘘を教えた? 」
「……なんの事かな? 」
「とぼけるな。覇王の生贄のために、アルベが偏見を生み出した? それをやったのはてめぇだろうが 」
そこまで問い詰めると、フィレは面をくらったような顔をした。
けれど急に、クシャりと憎たらしい笑みを浮かべた。
「あぁ、でも大丈夫。ユウトくんもワミヤくんも、きっと気が付かないまま死ぬだろうからね 」
「てめぇの目的のためにか? 」
「うん 」
「ふざけるなよ 」
熱い感情が、右腕を軋ませた。
あぁ、これは怒りだ。
自分の命をカンタンに捨てる、こいつへの。
「それはお前が背負うべき罪じゃない 」
「でも誰かが背負わないといけない 」
「それは間違いだ 」
「正しいことなんて、この世には無いよ 」
「覇王の復活なんざ、本物の覇王は望んじゃいねぇ 」
「本人にでも聞いたのかい? 思想を押し付けるのはやめて欲しいね 」
「そりゃテメェもだろうが 」
どこまで言っても平行線。
けれどやっと……地面の回転が止まった。
目の前にはアイツの顔がある。
けれど伸ばした手は、届いてもくれない。
「戦争はもうすぐさ 」
「……そうなったら、俺がお前を止める 」
「止められないよ……もう誰にもね 」
伸ばした手を握りこみ、精一杯目を見開いて、あいつを睨む。
今の俺には、こんなことしかできない。
「……じゃあいいぜ。俺は持てる全てで、お前の邪魔をする 」
「ふっ、まるで子供みたい脅し文句だね。どうやって邪魔をするつもりなのかな? 」
ポケットにある、黒い血が入った小瓶を取りだし、それをわざとらしく見せつける。
するとフィレは、ありえないと言いたげに目を見開いた。
「……それは」
どうやら分かったようだ。
この血の、重要性を。
「あぁ、『ハルト・ディアナ』の血だ。苦労したんだぜ、リュークの目を回潜らなきゃいけねぇからな 」
もはや、フィレの顔は笑っていない。
深い憎悪が目の奥にゆらぎ、その小さな拳はギリギリと握りこまれている。
「ゲシュペンストの造り方は知ってるよな? 素材と遺産……あとは細胞を培養できる機械。遺産はゲシュペンストの死体からいくらでも取れるし、素材はこれ以外にもある。まぁつまり、ハルトもどきを大量生産できるわけだ 」
「そんな事は……許さない 」
「もう遅せぇよ。ヒカゲって奴が死んだ後くらいに、ヤマトとめちゃくちゃ準備したからな。あとはもう……俺の指示がなくても勝手に起動する 」
「……なるほど、キミを殺してもムダってことだね 」
けれど急にフィレは笑って、こっちに歩みを進めた。
「でもさ……キミが居なくなれば、これ以上厄介なことは無くなるよね? だから 」
バキリ……黒の世界に白いヒビがはいった。
瞬間、何かがそのヒビを突き破る。
それは……4本の、巨大な人の腕骨だった。
「キミを消すよ 」
(結局……こうなるのか )
ポケットから小さなライターを取りだし、その火打石を回す。
バッと暗闇に飛び散った火花は、空中で静止……それは闇を蝕む黒い炎となり、俺を守るように飛びまわる。
「手加減は……いらねぇよな? 」
俺の引きつった笑みに、フィレはニッコリと、殺意に満ちた笑みを返した。
「あたりまえ 」
巨大な骨が軋み、それに合わせ黒い炎が燃え盛り、今……それらがぶつか
「ばァ 」
「……はっ? 」
いつからか、人を嘲笑うような気持ちの悪い笑みが、フィレの隣にあった。
「アル」
細い手が、フィレに触れた。
それだけでその体はぱちゅんと弾け、ビチャビチャという音が肉片とともに広がった。
「アルベ!! ヴァニタス!!! 」
全身に怒りが駆け抜け、がむしゃらに前に突っ込
「うるさいよ 」
冷たい目を向けられた。
それだけで体が……凍りついた。
(うご……っ! 自害を!! )
「永久……凍らせた相手を不死にする呪い。これでキミは魔術を使えないね 」
(ふざ……けるな!! )
奥歯が砕けるほど力を入れても、体は動かない。
アルベの、憎い夜空のような目が……俺を、見る。
「長かったよ。うん、本当に…… 」
クルクル周り、アルベは暗闇を見あげた。
その手は大きく広げられ、口も張り裂けそうなほどつり上がり、目には涙が流れ、どこまでも嬉しそうに、笑っていた。
「この身に刻まれた、勇者に刻まれた呪いが!! ハルトの力があれば解けるんだ!!! だからもう、私にとってこの世界は必要ない 」
ふざ……けるな。
ふざけるなふざけるなふざけるな!!
お前の箱庭だろうが、ここで俺たちは生まれた。
育った。
生きて、恋をして、そいつのために行き続けたいと願った。
その世界が必要ないだと?
大概にしろクソ野郎が!!!
「そんなに睨まないで。君たちの頑張りはいい暇つぶしになったんだからさ、すごく助かったよ。まぁその頑張りも、私にとっては 」
ケラケラ笑うアルベの手には、一枚のページが現れた。
それがビリっとやぶっ
「薄っぺらなストーリーだった 」
……?
体が……どうなってる?
景色が二つ……俺の目が見え……あぁ、そういう事か。
裂けたのか……体が、縦に。
ーーー
「ん〜? あぁ、あの時もこんな感じだったね 」
死体二つにこの展開、たしかヒカゲくんの時もこんなだった。
ヤマトくんとライガちゃんが戦うぞって時に、ヒカゲくんが乱入。
今思えば、ものすごく適当な展開だ。
それをワミヤくんと戦わせる時にも繰り返したし……自分で言うのもなんだけど、ほんと無理やりで違和感ばかりのシナリオだ。
でもまぁ、この世界は私だけが満足すればいいんだけどね。
「あははっ!! 」
もう要らない肉片の上で、踊ってみる。
ステップステップ……血で足元が滑るけど、それがスケートみたいで楽しい。
「あー……もう終わりかぁ 」
でも足を止めると、急に物寂しさがこみ上げてきた。
キャラクターの過去が語られないストーリーも、話を聞かずに殺し合う傀儡たちも、ワンパターンな展開も、わかり辛い適当な文も、ぜんぶ私が作ってきたんだから。
それが終わるとなると、寂しいのは当然だと思う。
「だからって、物語はもう続かない 」
指を弾けば、うつうつとした暗闇にフッと、扉が現れる。
それは魔術で創り出した、『目的の場所に必ずたどり着ける扉』。
「さぁ 」
ドアノブを握り、ゆっくりと手をひねる。
「始めようか。伏線回収も無く、過去も語られない……中途半端なエンディングを 」
扉を開ければ、そこにはまた暗闇と、あの子の顔があった。
可愛らしい紫色の瞳に、彼女だけに与えた黒い髪。
愛しい愛しい私の娘、この顔に似た可愛らしい顔。
「アルベ? 」
「ハ〜ルト♡ 」
キョトンとした顔を潰すために、拳を握りしめて、その顔に暗闇に殴りつけた。




