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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
自浄自刃編
56/73

第55節 イレギュラー



「……どうした? 俺を殺さないのか? 」


 ワミヤの目は、殺意で満ちている。

 その腕は怒りで震え、いつ撃たれてもおかしくは無い。

 だと言うのに、いつまで経っても弾は発射されない。


「お前の魔術なら、俺が避けることも防ぐこともできずに殺せるだろ? さっさと撃てよ 」


「なんで……泣いてるんですか? 」


「泣いてる? ……あぁ今俺、泣いてんのか 」


 ライガに夢中で気がついていなかった。

 確かにライガの頬は、俺の涙で濡れている。


「なんで……殺したんですか? 」


「……もうこいつを、誰かの奴隷から解放してやりたかったんだ 」


「……はぁ? ライガは自由だったじゃないですか!? 人間からの枷は外れて! 自分らしく生きれたじゃないですか!!! なのになんで!! 殺す必要があるんだよ!!!! 」


「……あぁ、そうだよな。ごめんな……ほんと 」


 ワミヤは知らない。

 作者(アルベ)のことを。

 だが伝えたとしても、結局ライガと同じように遺産を暴走させられ、使い捨てられる。


 だから大人しく、その罵倒を受け入れるしかない。


「あんたは何を考えてるんだよ!! 」


「……… 」


「ライガは……ずっとあんたを心配してたのに 」


「……… 」


「っ……なにか言えよ!! このバケモノが!!! 」


「っ!! 」


 地面を全力で蹴り、ワミヤを押し飛ばす。

 瞬間、伸ばした左腕は轟速の水によって切り落とされた。


「あれ、今の反応できるんだ 」


「……アレで終わらねぇとは思ってたが、お前が来るか 」


 ヘレダントにはアルベ達を含め、9人の『天陸宇下』がいる。

 しかもその全員が10位以上。


 10位とアルベたちは動かないと聞いた。

 けれど俺の前にやって来たのは、一番戦いたくない奴だ。


(第5位 『不死身の水体(アクエリオン)』 ……で、間違いねぇな )


 色素の薄い青髪に、すべてを見透かすような透明な瞳。

 そして特徴的な赤いマントを来た細みの女。

 すべて事前に聞いていた情報と一致する。


「で? 俺はともかく、なんでワミヤを狙った? 」


「……? 邪魔だから 」


「ハッ。それにしても、いくら5位だからって一人で来るのは悪手じゃねぇのか? 」


「……ひとりじゃないよ 」


「っ!! 」


 突如として辺りが暗くなった。

 すぐさま上を見上げれば、雲の上から巨大な山が落ちてきていた。


「落命!! 」


 生み出した大剣を振るい、その剣圧で山を砕く。


認識(ルック)


「っ!? 」


 誰かの声。

 それとともに身体中に鎖が繋がり、しかもその先には幾千もの山の瓦礫がある。


追突(ショック)


 すべての鎖は収縮し、とうぜん瓦礫たちは俺へと迫る。

 だが大した量じゃない。


 右腕に巨大な鎚を生み出し、思いっきりそれを振りかぶった瞬間、目がボコボコと沸騰し、視界が塗りつぶされた。


(っつ!? )


 目だけじゃない。

 手足、内蔵、筋肉、血、脳。

 身体中のありとあらゆる水分が沸騰し、動きが鈍った瞬間に、数千の岩から体を押しつぶされた。


(っ!? なにか来る!! )


驟雨(しゅうう)臨界(りんかい)


 岩越にも伝わる熱発。

 咄嗟に右腕の肉を増殖させた直後、空からは落ちた一滴の水が、すべてを吹き飛ばした。


「はーっ! はーっ!! 」


「あれで生きてるんだ 」


「凄いねぇ、ひっさしぶりの上物じゃん 」


「少し落ち着かんかい。確実に奴を殺すぞ 」


 肉を盾にして、辛うじて致命傷は避けた。

 けれど右腕は焼け落ち、顔半分は熱波で焦げ、爆風でイカれた両足からは骨が突き出ている。


(しかも……アイツらまで来るか )


 顔をあげれば、新たな人影が2つある。


 赤い魔女のような服をした、長い灰髪の女……7位『空越の魔女(ダルク)

 黒いヘルメットで顔を隠し、黒い服で身を隠したジジイ……8位『運命指揮(ザリア)


(あー……マズイな )


 一人でもキツイってのに、3人も来ちまった。

 しかもライガたちと話してしまったせいで、自己矛盾が激しくなった。

 そのせいで上手く再生ができない。

 

「ゲホッ……わりぃな、髪焦がしちまった 」


 なんとか守ったライガの頭を撫で、ゆっくりと立ち上がる。


 仮に手足が治るまで耐えたとしても、ライガを持ってじゃこの場から逃げられない。

 ライガを置いていけば、必ずアルベはその死体に何かをするだろう。


(…………悪いな、ライガ )


「はっ!? 」


 ワミヤの首根っこを掴み、空に向かってその体を投げる。

 これならアルベに操られたとしても、俺のところに来るまで時間はあるし、この戦いに巻き込まれない。


「さぁ人間ども 」


 ライガの死体を諦め、増殖させた腕から大剣を生み出す。

 ここで死ぬのは本当に悔しいが、ここで死ねるなら孤独は感じずに済む。

 

「殺ろうか!! 」


 踏み込もうした瞬間、頭には響き渡るような無音が現れた。


(…………悪い、『天陸宇下』は一人も殺せてねぇ )


『気にする事はないよ。ライガのことは……ごめん、そうとしか言えない。だからここは任せて欲しい、ライガの意志を無下にしたくないんだ 』


(……すまねぇな。ずっとお前に頼りっぱなしだ )


『いいや。こっちこそ君に辛い思いをさせ続けてすまないと思ってる……だからここは良いさ、ライガを頼んだよ 』


(……あぁ。頼んだぞ、()()() )


「任せたまえ 」


 本を開くような音とともに、アイツは俺の前に現れた。


 絹のように細い紫色の髪に、不健康に細く小さな体。

 そしてその目は、濁った湖のように、世界を呑むように澱んでいる。


「『名無き死者(ジェーン・ドウ)』 エリカ・ミオソチス……さぁアルベの操り人形、私が相手だよ 」


 エリカはただ静かに、その手に持った本を開いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ・うおおお!!ここでエリカ氏!!!! ・ワミヤくんどこまで飛んでったの!!? ・(前話から)マジかよアルベマジ最低だな(ライガ関係) ・そうは言っても宇下3人はやばいでしょ。今のイケイケヤ…
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