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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
自浄自刃編
54/73

第53節 必然の再会



「あれぇ? だいぶ速いねぇ、100ページくらいすっ飛ばしたレベルだよ 」


 白くて何も無い空間。

 そこに落ちてるペンを拾い、開いた本のページを引きちぎる。


「ん〜、ヘレダントの子達を殺されるのは困るなぁ。誰をぶつけようか……そうだ、あの子たちなんていいね 」


 久しぶりのイレギュラー。

 それに心を踊らせながら、筆を走らせる。


 いつか綴られた文字を塗りつぶし、新たな文字で世界を改変させる。


『頭上から、ヤマトに雷が降り注いだ。

 音よりも速いそれをヤマトはギリギリで躱すと、自らの前に誰かが立っていた。

 それは……見覚えのある、金髪の女だった。』




ーーー



(……妙だな )


 ヘレダントに侵入して少し経ったが、大物が誰も来ない。

 これだけ派手に暴れて、殺し回ったってのに。


「はぁ……気持ちわる 」


 背筋を登る快感に舌を噛んで絶え、血や手足がへばりつく廊下を突き進む。


(はやく出てこいよ、『天陸宇下』 )


「や……ヤマト・ホルテンジエさん? 」


「あっ? 」


「わぁ待って!! 攻撃しないでください!!! 」


 慌てるように、瓦礫の影から誰かが飛び出てくる。

 それはエメラルド色の髪をした男、シロ・アイビーだった。


「……久しぶりだな。コロシアムの試合ぶりか? 」


「そうですね……それでえっと、話を聞いて欲しいんです 」


「話? 」


「はい!! ゲシュペンストと人間の共存についてです!!! 」


「っ 」


 苛立ちに耐えきれずに舌打ちをしてしまったが、シロは怯えながらも話を進める。


「ずっと考えてたんです! ヒカゲさんが死んだあの日から!! 」


「……… 」


「ゲシュペンストを人間にする薬の件は()()()()()()。でもそれだけでは足りないということも。だからヘレダントに協力させてください!! 僕たちがゲシュペンストを保護し、その間に人との間に法を作るんです。そうすれば、ゲシュペンストが人間に戻った時に」


「もういい 」


 怒りのまま放った斬撃。

 それはシロの左腕を消し飛ばした。


「ッ゛ぅ!!!? 」


「なぁ、なんでお前は薬の件を知ってる? 誰に教えられたんだ? 」


「っう、そんなの……あれ? 」


「……ていうかよぉ、ゲシュペンスト達が平和を望んでるなんて、本気で信じてるのか? 」


「……えっ? 」


「やりたい放題作りまくって、殺して、俺たちを使い潰し続けた人間どもが提案した平和なんて、誰も賛同しねぇよ。それがどれだけ!! 理にかなっていたとしてもな 」


「そんな……なら対話の余地なんて」


「忘れたのか? 俺たちはバケモノ、お前らが造ったんだぞ? 」


 蠢く大剣を肥大化させ、それをシロに向けて振りかぶる。


「話が通じるバケモノなんて、この世にいねぇ 」


「やめ」


 大剣を振り下ろす瞬間、全身の毛が逆立った。


「っ!? 」


 空から落ちた雷を体で受けると、いつの間にか、シロと俺の合間に誰かが居る。

 それは……綺麗な金髪をした女だった。


「もう……やめましょう、ヤマトさん 」


「ライガか…………ほんっと最悪の趣味だぜ、アルベ・ヴァニタス 」


「……? アルベさんになんの関係が」


 ライガに振り下ろした大剣。

 それは髪と地面を裂いただけで、ライガ本人は俺の後ろへシロを抱えて逃げていた。


「おぉ、お前も強くなってんだな。嬉しいぜ 」


「やめてくださいヤマトさん!! あなたは人なんて殺したくないんでしょう!? だから」


「そういやよ、あの時はヒカゲに邪魔されて最後まで出来なかったな 」


 ライガとは話したくない。

 すぐに大剣を背負い、優しく笑いながら手を差し出す。


「エスコートしてやる。着いて来いよ? 」


「……はい 」


 苦々しく返事をしたライガ。

 その手からは(いかづち)が弾け、螺旋状の槍が姿を現した。

 しかも全身には、赤い雷も溢れている。

 

「……ハハッ 」


 呆れた笑い声が零れた瞬間、耳を砕くような雷鳴とともに、目の前には雷の槍が迫っていた。

 それを左手でかき消し、その先にある顔面を殴りつける。


「この程度かよ 」


 ライガは壁に叩きつけられ、地面に落ちた。

 その首はへし折れていたが、ライガは首を掴み、骨を無理やりはめ直した。

 けれど口や鼻、耳からも血が垂れ、すでに死にかけだ。


「ゴホッ……っ゛ 」


「もう寝てろ、脳みそシェイクで気色わりぃだろ? 」


「なんで……殺さなかったんですか? 」


「あっ? 」


 死にかけなはずだ。

 なのにライガは壁に支えられながら立ち上がり、静かな決意に満ちた眼で睨んでくる。


「あのスピードに反応できたなら、雷を受けられるのなら、私なんて一太刀で殺せたはずです。なのにしなかった……それは何故ですか? 」


「……バケモノに理屈なんて」


「あなたのそれは!! ただの言い訳でしょう!!? 」


 力強い声に、胸が、心が、殺したはずのそれが、震えはじめた。

 

「なんですかその顔は!! 今にも泣き出しそうで!! 逃げ出しそうで!!! 助けてって叫びたいはずなのに!!! どうしてそんな……そんな……死にたそうな目を、ヒカゲさんと同じ目をしてるんですか…… 」


「っ……うるせぇ!!! 」


 零れた涙を噛み潰し、泣いているライガに大剣を振り下ろす。

 けれどいつの間にか、刀身は消えていた。

 いつからか剣は折れ、剣先は壁に埋まっている。


「……ワミヤか 」


「えぇ…… 」


 いつからかライガを守るように、ワミヤがその背後に立っている。


「どんな状況下なんて分かりませんし知りたくない。けど……ヒカゲ様と同じ目をしているあなたを、俺は救いたい。もう……何も出来ずに死なれるのはゴメンだ 」


「クソ野郎が……アルベ・ヴァニタス!!!! 」


「……? なぜアルベの名を」


 何も知らないライガとワミヤのせいで、蓋をしたはずの胸から、熱い感情が溢れだした。


「お前らの考えは! 行動は!! すべてアルベが決めたことなんだよ!!! どんな理由があろうとここに現れた!!! 都合が良すぎると思わないのか!? 俺がヘレダントを攻めた瞬間に!! 俺と面識がある!! 俺が殺したくないお前らが!!! だから無駄なんだよ!!! お前らと話しても!!! だから話なんて意味がねぇ!!!! お前らの意思なんて!!!! 俺の想いなんて!!!!! ハナっから……ぜんぶアイツの幻想なんだよ!!!!!!! 」


 呼吸の度に、涙が零れていく。

 泣く度に、戦いたくないって心底思ってしまう。

 でも……こいつらを殺さないと、ずっとアルベの、クソ野郎の奴隷なんだ。

 だから……


「俺はバケモノだ、お前らとは違う 」


 人の皮膚が剥がれ落ち、体は黒に染まっていく。

 腕は剣に、足はバネのように、そして獣のように醜く、誰よりもおぞましいバケモノに。


「俺たちも、あなたと同じバケモノだ 」


「えぇ、だからこそ寄り添いたいんです。たった一匹で、悲しみを背負って欲しくない 」


 ワミヤの背からは、数百ほどの背骨が。

 ライガの割れた足の隙間からは、数千の足指が溢れ、そのすべてに瞳が開いた。


「ライガ・ヒカガミ 」


「ワミヤ・セキリョウ 」


「「バケモノとして、悲しむあなたを止める!! 」」


 二人のバケモノが、(バケモノ)の前に立ち塞がった。



 





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