第5節 懐かしい2人
「やぁやぁそこのイケメンくん、腕が治って良かったね 」
「……… 」
「あれ!? 聞こえてないのかな? おーい……おーい!! 無視しないでよ〜 」
(誰に言ってんだ? )
廊下を歩いてると、後ろで誰かが騒ぎはじめた。
気になりながらもさっさと歩いていると、急に後ろから抱きつかれた。
脆い枝のような腕。
それに驚きながらも、抱きついてきた女の頭を掴んで引き剥がす。
「何すんだよ 」
「いだだだだだぁぁ!!!! ちょ痛い!!! 文字通り頭が割れそうだよ!!?! 」
騒ぐ女は紫色の髪と淀んだ海のような瞳をし、ヘレダントの白い制服を着ていたが、面識のないこいつに話しかけられる理由がわからない。
「誰だお前? 」
とりあえず手を離し、そう聞いてみる。
「覚えてないのかい? 君に席を教えた絶世の美女さ!! 」
「あー……そんな奴も居たな。悪い、人の顔覚えられないんだ 」
「んぅ? 物忘れが激しいのかい? 」
「いいや、普通に目を離したら人の顔を忘れるだけだ 」
「……そうかい、それは難儀だね。じゃあほら 」
「……? 」
頭に手を回され、そのまま胸に顔を押し付けられた。
その胸に肉は感じられず、ゴツゴツとしたアバラしか感じられない。
「匂いで覚えるといいさ。その方が覚えられるだろう? 」
「……確かに。あと体勢がきつい、お前背が低すぎ 」
「ハハッ、酷いね〜……でも君らしいよ 」
(君らしい? )
その言葉に違和感を感じた瞬間、頭に鼻を押し付けられ、めいいっぱい匂いを嗅がれた。
「いだだだだだだだ!!! ちょ頭!!! 頭はやめようよ!!! 」
「んでお前、なんか用事があるのか? 」
「あぁ、そうだったね 」
女はケロリと俺の手を払うと、わざとらしく笑いながら、何かを頼み込むように手を合わせた。
「寮に案内してくれないかい? あのクソ教師……リュークの説明を一切聞いてなかったからさ 」
「俺も聞いてねぇぞ、寝てたから。だから今は迷子だ 」
「……じゃあ迷子同士、適当に散歩でもしようよ。適当に歩いてたら見つかるかもしれないしさぁ 」
「あぁ 」
とりあえず二人で行動することになった。
その途中、なぜか女は自分の名前を語り始めた。
「まずは自己紹介だね〜、私は『エリカ・ミオソチス』。気軽にエリカと呼んでくれると嬉しいね!! 」
「そうか 」
「いやいやいや、そうかじゃないよ! 名乗られたなら名乗り返さないと!! 」
「そうなのか? 『ハルト・ディアナ』だ 」
「……それだけかい? 」
「あぁ、変なのか? 」
エリカはなぜか、眉間にシワを寄せながら睨んでくる。
その行動に首を傾げていると、ヤレヤレと言いたげにため息を吐かれた。
「どうした? 息切れか? 」
「うんん、なんでもないよ。ところでさ、君ってなんでこんな得体の知れない場所に来たんだい? 」
「得体? 」
エリカは目を鋭くさせ、急にこちらをじっと見つめてくる。
「だって考えて見なよ、ここには人がほとんど居ないんだ。そんな学校から逃げられないなんて、恐ろしいとは思わないかい? 」
「人が居ない? 人しかいねぇじゃねぇか 」
「残念だけどね、私は人じゃないんだ 」
左手を捕まれ、その小指を折られた。
しかもエリカの口からは虫の足が出ており、それが俺の小指を食いちぎった。
「あー美味しいね 」
「それは良かったな 」
「……なんだい? その余裕そうな表情は。気持ち悪いとは思わないのかい? 」
「あぁ別に。というか、なにが人じゃないんだ? お前は人だろ? 」
人の姿をして、人の言葉を話して、人のように抱きしめてくれた。
だからそう言っただけなのに、エリカは面を食らったように固まり、虫の足は口の中へと引っ込んで行った。
「……本気で言ってるのかい? 」
「……? 」
「いや……うん、君はそう言う人だったね 」
エリカは微笑んだ。
泣きそうな、懐かしそうな、不思議な表情で。
「まぁ気をつけてたまえ。それだけは本心だからね 」
「さっきから何言って……ん? 」
ふと気がつくと、そこには誰も居なかった。
誰かと話してた気がするが、なんだか記憶が無い。
左手に違和感はあるが、そこに傷は無い。
「……あぁそうだった、寮に向かってるんだった 」
違和感の中で思い出し、ただ適当に、廊下を一人で進み続けた。




