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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
自浄自刃編
49/73

48節 クソみたいな作者へ



 覇王は長い眠りにつきました。

 人が生み出してしまった、何かによって。


 それは人間を絶滅させました。

 それは宇宙を呑み込みました。

 それは月を、世界を闇に染めました。

 けれど勇者は、たった1人で、それを殺しました。


「うっぇ吐きそうだ。こんなものを、よく胎内(たいない)に入れてたな 」


 泣き倒れる女の子。

 その腹から剣を抜き、勇者は黒い血を飲み干しました。


「なんで飲むの? 私の血を、なんで……どうして私を、救ってくれるの? 」


 ゲシュペンストの死骸、それに残った人間への憎しみ。

 それらが黒い血となり、彼女に力を与え、心を蝕み、すべてを恐怖によって壊す、何かとなっていました。

 けれどその黒い血は、勇者によって飲み干されました。


 数百とあった手はたった2本に。

 数千とあった足もたった2本。

 数億とあった目もたった2つ。

 巨大な華のようだった体はたった一つに。


 闇は黒い髪に、絶望は紫色の瞳に。

 それはただの、か弱い少女になりました。


「あっ? お前なんて殺してぇよ。俺の覇王を……()()()を傷つけやがって。つーか今から死ぬか? それでも俺は構わねぇけど 」


「あなたって本当に勇者? 勇者って言うと、おとぎ話みたいなカッコイイ存在だと思ってた 」


 少女が見るそれは、勇者とはかけ離れていました。


 空のような青い目には、赤いヒビが走り、炎のような髪からは黒いヘドロが滴り落ちている。

 世界を駆けた両足は無く、左腕すら腐り落ち、内蔵は機能せず、心臓も止まりかけていました。


「ハハッ、まぁな。つーか無茶しすぎた、死ぬわこれ 」


「本当に、なんで私を助けたの? 」


「……お前は作られた存在だ。勝手に産まれて、勝手に悪人になるように仕向けられた。そんなお前に罪はねぇし……似てんだよ、覇王の生まれ方と 」


 勇者は残る右手を握りしめ、止まりかけの心臓を叩き、力強い目で少女に笑いかけました。


「アイツは望まぬ生まれ方をした。それでも必死こいて生きたのに、人間を殺しただけで死ぬべきだと決めつけられた……あいつを産んだのは人間なのによぉ 」


「っ…… 」


「アイツとお前は関係ねぇ。けど……お前を殺しちまったら、覇王に、ハルトに、顔向けできねぇんだよ…… 」


 覇王の名を叫びながら、涙を流す勇者。

 それを見た少女は、酷く後悔しました。


 自らの手で、恩人の最愛を殺したことに。


「……勇者。あなたのお名前は? 」


「名前はリューク・リンネだ。聞いたからには忘れんなよ、ユカリ 」


「……ユカリ? 」


「あぁ、お前の名だ。お前は人間として過ごすんなら……名は必要だろ? 」


「うん。そうしたかったけど、もう遅いよ。人間はもう絶滅しちゃったから 」


「人間なんて後から()()()()()。気にしなくてもいい 」


「えっ? 」


「っ……ほらな 」


 勇者の心臓は、槍によって貫かれました。

 その槍を持つのは下賎な女性、その顔は歓喜に満ち、その瞳は困惑に満ちていました。


「ふふっ、やっと勇者を殺せた……あれ? なんで私、生きてるの? 」


 絶滅したはずの人間は、ただ困惑していた。


「あなたに助けられて、でも闇に呑まれて。あなたに感謝してたのに、なんで私、あなたを刺し」


「寝てろ 」


 勇者はどこにでもある剣を掴むと、それで女性の半身を消し飛ばしました。


「ねぇ、どういうこと? 」


 納得するように頷く勇者と違い、少女はただ困惑していた。

 自らの手で滅ぼした人間がなぜか生きていた。

 そして勇者の心臓を貫いていた。


 そんな現実に。


「まぁ……言った通りだ。人間は滅ぼない、そういう設定を付け加えられてる。だからお前をわざと泳がせた、悪かったとは思うが感謝してる。おかげであいつを見つけられた 」


「意味がわからないよ、あなたは一体……なにと戦っているの? 」


 少女の問いに、勇者は答えない。

 彼はただ場違いに笑い、少女を困らせた。


「なぁ、お前に夢はあるか? この先どんな絶望があっても、生きたいと思える夢は 」


「……? ないよ、そんなもの 」


「ならお前に、2つだけ頼みがある 」


 勇者はボロボロの体を動かし、自らの赤い血を、彼女に呑ませた。

 そして困惑する少女をよそに、勇者はまた笑う。


 太陽を思わせる、明るい笑顔で。


「1つ。これからずっと先に、勇者を名乗るものが産まれる。そいつはお前の敵だ 」


「どういう」


「いつか理解できる。だから今は、黙って聞いてくれ 」


 懇願する勇者。

 その下半身は崩れ、その半身は溶け始めていました。


 もう長くない。

 そう理解した少女は、沈黙を守るために自らの口を力強く噛み締めました。

 

「2つ。いつかは分からないが、いずれ覇王と成るものが産まれる。そいつを愛してやって欲しい 」


「……名前は? 」


「分からない。誰の子かも知らないし、そもそもそれは人間じゃないかもしれない。だが、そいつは愛に飢えてんだ。覇王と、勇者(おれ)みたいに。だからめいいっぱい愛してくれ、頭をたくさん撫でてやってくれ。きっとそいつは、喜ぶはずだ 」


「…………うん、分かった 」


「ありがとう 」


 少女は何も理解せず、ただ決意を宿して頷きました。

 すると勇者は少女を逃がし、死にかけの体で何も見えない虚空に剣を向けました。


「いるんだろ? アルベ・ヴァニタス 」


「あぁいるよ、リューク・リンネ。どうやって私に気がついたのかな? 」


 割れた宇宙からの風。

 それとともに現れた人型の空白。

 それを勇者は憎悪の目で睨み、右手の剣を構えました。


「契約だ。これから蘇る世界。そこに覇王と勇者を産まれなくしろ、そうすりゃ俺たちのようなことは二度と起こらない 」


「ふーん。もうすぐ死ぬから、最期の頼みって訳かな? 」


「勘違いするなよ、クソ作者が 」


 勇者の欠損した体から、黒い血が溢れました。

 それは手となり、足となり、その空白ですらたじろぐ黒い目が、世界を睨みつけました。


「これは脅しだ。お前が頷かなきゃ、この世界を壊す 」


「……私は殺さないの? 」


「殺さねぇよ、殺したらお前の願いを叶えることになるだろうが 」


「……ほんと可愛くない子供だね 」


 勇者はアルベの胸に剣を突き立てると、その空白に人の形と呪いを与えました。


「これは呪いだ。その姿は永久にお前へと継承される、どんなに世界を作り直しても、お前が何度よみがえっても 」


「ふふっ、君は本当に生まれてはダメだったね 」


 アルベの微笑みとともに、勇者は息を引き取りました。

 すると沸いてきた人間が勇者の肉を食い漁りはじめました。


「さぁ食べて。肉片すら残さず、血の一滴すらも舐めとって。心を咀嚼し、存在を腹の中で溶かそう……あぁそうだ、名前を考えなきゃね。勇者と覇王、その両方の力のことを 」


 勇者の肉片を食べた人間たち。

 それらには勇者たちの断片がやどりました。


「うん、魔法と魔術……とてもいいね、呼びやすくて定着しやすい。あぁでも記憶も継承しちゃうかな? まぁおとぎ話にでもしておこう。歴史なんていくらでも改変が効くからね 」


 ブツブツと呟くアルベは、世界を元通りにさせました。

 

 バラバラな空は青く、壊れた大地には優しい花が。

 そして大量の死体を生み出し、人間たちが殺し合うように、ゲシュペンストをたくさん創り殺すように、頭をイジりました。


 それが彼女。

 この世すべてのものは、彼女の力の前では人形そのものでした。


「さぁ、これから忙しくなるね 」


 花畑を踏みながら、アルベは笑いました。

 遠い遠い未来、いつか産まれる、都合のいい子供を思って。





ーー




「で? この意味不明な話がなにに関係すんだよ? 」


 目が覚めた直後、ワミヤさんのキツい言葉が聞こえた。

 でも正直、それには同意見だ。


「僕も同じ意見ですね。おとぎ話が真っ赤な嘘で、勇者がリュークさんで、覇王を殺した者がユカリさんってことは驚きましたけど…… 」


「さっきのは前提だよ。突拍子もないことだけど、あれが今からの話に関係してくるんだ 」


 大量の疑問を無理やりまとめられると、フィレさんはゆっくりと息を吸った。


「まず、この世界は何度も作り替えられている。アルベの、あのクソ野郎の魔術でね。そして彼女らは覇王を求めているんだ 」


「……はい? 」


「覇王の力はね、この世の理を変えれるんだ。魔術無き世に、魔術を産み落としたように。理由は分からないけど、アルベ達はその力が欲しいみたい 」


「いや、えっ、でも覇王は産まれないんじゃ 」


「そう、勇者との契約でこの世に覇王は産まれなくなった。だからこう考えたんだ。覇王が産まれないのなら、覇王に成るものを作ればいいってね 」


「ちょ、ちょっと待ってください? ……作る? 」


 ポンポンと出てくる、不可解の数々。

 それをどうにか理解しようと頑張ってると、ふいに……聞き馴染みのある名前を聞いた。


「すべてに成ることが出来る『詠唱魔術』を持ち、その身に黒い泥を宿したもの。その名は『ハルト・ディアナ』。アルベとリューク、そしてユカリが作りだした最高傑作だよ 」


(…………ハルトさん!? )


「でも覇王に成るためには生贄がいるらしくてね、ざっと一兆人くらいの死体がいるんだ。だから効率よく人が死ぬために、偏見やら戦争やらをこの世界に付け加えているんだ 」


「……ふざけんなよ 」


 重々しい声とともに、フィレさんに掴みかかるワミヤさん。

 その目は、どうしようもない怒りに染まっていた。


「じゃあなんだよ。俺たちゲシュペンストの苦しみも...…ヒカゲ様が死んだのも!! ぜんぶ!!! アルベのシナリオ通りだって言いたいのか!!? 」


「うん……申し訳ないけど、全くもってその通りだよ 」


 涙を流しながら、怒りのままに叫ぶワミヤさんの瞳。

 それ瞳を見ていると、グッと……心の中が重くなった。


(あぁ、そうですもんね )


 ワミヤさんは誰よりもヒカゲさんの事を敬愛していた。

 だからその死に意味があるものだと、その死が無意味にならないようにと、憎むべき人間たちに取り入ってまで、ゲシュペンストを救おうとしてくれた。


 なのにこれだ。

 この世界が作りもので、ヒカゲさんの死は誰かに利用されていただけなんて……

 考えただけで、ドス黒い怒りがこみ上げてくる。


「ワミヤさん、手を離してください 」


「っ、お前はなんで冷静なんだよ!! 」


 ワミヤさんの手が僕の首を絞めてくる。

 けれど冷静に、その腕を優しく握りしめる。


「僕だって全員殺したいですよ。でも……怒りだけで動けば、その先には破滅しかないですよ 」


「っ…… 」


 ヒカゲさんの最期を思いながら説得し、その手を離す。


「フィレさん。もし世界が何度も作り直されてるとしたら、前の記憶は消されるはずです。でもあなたは、久しぶりと言ってましたよね。どうして前のことを覚えているんです? 」


「ちょっとした理由だよ。私はある目的でね、勇者を蝕んだ黒い泥を寄生させてるんだ 」

 

 フィレさんはペロリと服をめくった。

 その下腹部には黒いヘドロが渦巻き、蠢き、なにかを呟くように泡がプツプツと破裂している。


「この泥のおかげで私はアルベの支配から逃れている。ちなみに支配から逃れてるのは私だけじゃない、例えばサクラだって昔の君も覚えているよ 」


「……本当なんですか? 」


「うん。契約魔術で、前の自分と契約し続けるの。そしたら記憶だけは持ちこせる 」


 自慢げに胸を張るサクラさんを見ている、色々と、不可解な行動や考え方に納得がいった。


「だいたいは分かりましたし、突然でしたけど妙に納得がいきました。何百年もつづいてる、ゲシュペンストの偏見が変わってないのが、何よりの証拠ですしね 」


「絶望した? 」


「いいえ、むしろ希望に感じますよ。複雑でめんどくさいゲシュペンストの問題が、たった三人殺すだけで解決するんですから 」


 話し合いなんて、僕たちがする事じゃなかった。

 バケモノはバケモノらしく、殺して解決する方が相応しい。


「気がはやいよ。私が何千年も見てきた感じ、アルベとリュークの説得は不可能だと思う。でもユカリだけはまだ希望があるんだ。だから彼女だけは説得する道も考えて欲しい 」


「じゃあアルベたちをどう殺すつもりで? 今僕たちが戦いを挑んでも、虫のように踏み潰されるだけですよね? しかもアルベの支配がある以上、協力者も集められない 」


「うん、だから支配から外れたもの達に協力を求めて欲しいんだ。私は別件で動けないから君たちがね 」


「……その人たちは? 」


「『ヤマト・ホルテンジエ』 『エリカ・ミオソチス』 そして『ハルト・ディアナ』。彼ら達が集まってギリギリ、奴らに対抗できる 」


 今までの難題に比べれば、その問題はとても……とっても簡単だった。

 だって言葉なんかいらないから。


 痛めつけて、拷問して、頷かせればいいだけだから。


 


 









 

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