第46節 イカれたオルゴール
「せんぱーい、息苦しいし暑苦しいです〜。これとっていいです? 」
「ダメに決まってんだろ、作戦が台無しになる 」
ヘレダントへと繋がる平原。
そこを1000人を越える大量の部隊で走り続ける。
「というかこの布ってなんの意味があるんっすか? 気味悪いっすよ〜 」
周りを見ても、みんなが顔に布を巻いて誰が誰だか分からない。
「お前、作戦聞いてなかったのか? 」
「聞いてましたけど忘れました〜、脳みそ半分溶けてほとんど覚えられないんっすよ〜 」
「……じゃあ簡潔に話す。今回の目的はアキラと2位との接触、あともう一つの計画は本人しかしらねぇ。俺たちの任務はそれが果たされるための時間稼ぎ。顔を隠してるのは、アキラが俺たちに転生したときに悟られないためだ。いくら不死身とはいえ、1位をその気にさせたら何が起こるか分からないからな 」
「ふーん、じゃあ私たちって囮なんですね 」
「……1位を殺すためだからな。まぁアキラは誰にも強制しちゃいねぇ、お前も逃げたかったら今すぐ逃げろ 」
顔は見えないけど、その声はとても優しかった。
まるで私に死んで欲しくないと言いたげな……そんな声。
「……いやー、大丈夫っすよ別に。身内なんてみんな死にましたし、私ももうすぐ死にますからね〜。まぁあれですよ、1人で死ぬよりみんなで死にたいって感じです 」
「……すまんな 」
「謝んないでくださいよ〜、私たちの仲じゃないっすか〜 」
ヘラヘラと笑い、先輩の服をつまむ。
今死んでも、離れ離れにならないように。
「っ、見えてきたな。散開用意!!! 」
先輩の大声で顔を上げると、布越しにあれが見えた。
巨大な壁……ヘレダントを囲む壁が。
『あーあー……この警告を聞くもの、一切の希望を捨てよ 』
瞬間、脳内に声が聞こえた。
「おいでなすったな……10位!! 全員散開!!! 生存者を一人でも残せ!!!! 」
遠目にある壁の上。
そこに誰かが立っている。
桃色の髪……そしてその手にはマイクが握られている。
『能あるものは自害せよ、愚者なるものは武器を持て。私はすべてを殺すもの、私はすべてを平すもの。そして……あなた達にとっての死神となるものです!!! 』
「来るぞ!! 衝撃に備えろ!!! 」
『天陸宇下 第10位 【十の切り札】 さぁ! 大虐殺の始まりで……え? 』
「おいどうした!? なんで止ま……は? 」
いつの間にか、自分の足が止まった。
みんなの足が止まってる。
「なに……あれ…… 」
とつぜん夜になった空。
そこにある『何か』から目が離せない。
数千はある黒く長い手が、花弁のように咲いている。
その中央には長い足が雄しべのように開き、その中央には……夜よりも闇よりも深い、黒がある。
『ちょっとぉ!? なんで2位のあなたがここに来るんですかぁ!!!!? 』
黒がドクンと脈打った。
(何この……音は? )
物寂しい、音の外れたオルゴール。
騒ぐようなカラスの声。
誰かを呼ぶような……赤ちゃんの声。
「ぁえ? 先輩? 」
先輩がいた場所には、ハエが集る赤紫色の肉塊があった。
それを人の歯をもつカラスが食べている。
「ぃっ……え? 」
お腹に痛みが走った。
気がついた。
赤ちゃんの声は……私のお腹の中から聞こえてる。
「ぁ…… 」
あまりの痛みで地面に倒れる。
すると無数のカラスが、私のお腹の方に集まってきた。
「……ダメ 」
重い手でカラスを払う。
それでもカラスは群がり、私の手を噛みちぎった。
「ダメ……私の赤ちゃんだから……ダメ…… 」
手を払うたびに、手が軽くなっていく。
足をばたつかせるたびに、骨に風が当たる。
白いカラスの歯が、赤く染っていく。
「ぁ……ぁ…… 」
気がつけば、お腹は破れていた。
何かがゆっくり……内蔵をかき分けながら顔を出した。
「アァ!! アァ!!! 」
「ふふっ、ふふふ 」
見えない赤ちゃんが産声をあげ、ゆっくりと胸の方に這い上がってくる。
その子を骨で抱きしめ、ゆっくりと夜に掲げる。
すると赤ちゃんは、夜から降りてきた腕に潰された。
「ごぼっ!! わだじの……あがぢゃ…… 」
【『夢恐魔術』 】
必死に息をしようとしても、赤ちゃんの血のせいで息ができない。
もがこうとしても、いくら咳をしても、血は肺を埋めつくした。
「ぁ……ぁぁ……ぁぼ…… 」
【溺愛 】
最期に……頭を撫でられた。




