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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
自浄自刃編
44/73

第43節 作り物の道



『ヒカゲの遺産はどこだ? 』


 どうしてあなたが……それを求めるんですか?


『殺し合いの途中に喋んじゃねぇよ 』


 なんでそんなに、つまらなさそうなんですか?


『欲しくはねぇよ、ただ必要だっただけだ 』


 なんでゲシュペンストの希望を、ヒカゲさんの遺産を、壊したんですか?


『とりあえず死んでろ 』


 どうして僕と目を合わせないんですか?


『どうした? そんなバケモノを見るような目をしてよぉ 』


 なんでそんな……泣きそうな目をしてるんですか?

 答えてくださいよ、ねぇ


「ヤマト……さん 」


「サクラだよ〜 」


 ぼやける視界に、ずいっと赤い髪と笑顔が入ってきた。

 ……サクラさんだ。


「おはよ〜ユウト!! 」


「あっ、おはようございます……というかここは? 」


 起き上がって辺りを見る。

 ここは白いベットたちが綺麗に並ぶ、見たことのない部屋だった。

 

「ロジー王国の医務室だよ〜。隊長さんが気を使ってくれたみたい 」


「……そうですか。ちなみに何か言ってませんでした? 」


「言ってたよ! 落ち着いたら会議に出てくれって!! 」


「じゃあ今から行きます。伝言ありがとうございますね 」


「えへへ〜、どう致しまして!! 」


 可愛らしく笑うサクラさんの頭を撫で、壁にかかっている服。

 白い生地を金で装飾された隊服に、袖を通す。


「お待たせしました、行きましょうか 」


「うん!! 」


 廊下に出たあと二人で会議室へ向かい、扉を叩いて中に入る。


 そこは巨大な円卓がある一室。

 それを囲むように3人が座り、その中にはワミヤさんもいる。


「ユウト・カイナ、ただいま戻りました 」


「サクラ・カブリでーす! 」


「ちょうどいい所に来たね。ワミヤくんの隣が空いてるからそこに座るといい 」


 軽く頭を下げ、金と銀が入り乱れる髪をした女性……『シノブ』さんの言葉に従う。

 席に座ると、シノブさんは凛とした態度で話を進めはじめた。


「二人のために会議の内容をざっと説明するよ。ワミヤくんと観測部隊の報告で、ケルパー王国が落ちたことは間違いない。そこは君たちの()()()()だったとして、イレギュラーがあった 」


「ヤマトさん……ですね 」


「うん。彼はシグレ・アオギリと結託し、ケルパー王国を滅ぼした。そしてロジー王国へこんな手紙を出してきたんだ 」


 手渡された白い紙には、ヤマトさんの黒い血で文字が書かれていた。


 一加色後にこの国とヘレダントを滅ぼす、せいぜい足掻けよ人間共……と。


(どうしてあなたが…… )


「宣戦布告されたことも問題だけど、一番問題なのは『分からない』ということなんだ。彼がケルパー王国を滅ぼした理由も、ロジー王国への宣戦布告も、その何もかもが不明。これじゃあ交渉の余地もないよ 」


「交渉なんていらねぇだろ、来るなら殺す。それだけで十分だ 」


 突然口を挟んできた、シノブさんの隣にいる赤茶髪の男。

 ルーと呼ばれるそいつはボサボサな髪を掻き回し、自分の拳同士を威嚇するようにぶつけ始めた。


「あのねぇルー。相手はケルパー王国一の部隊を殺し、その余波だけで残りの『天陸宇下』すらも殺した男だよ? 87位となってはいるけど、あの破壊力なら『闇の星(プルトーネ)』までには匹敵する 」


「ぷるとーね? 」


 首をひねるサクラさん。

 その表情を見てか、シノブさんは少し笑いながら頷いた。


「ロジー王国独自の考え方だよ。順位の危険性をランク付けしてる。

100位から75位までは『血の星(マルテ)』、一国を滅ぼせる強さ。

50位までは『支配の星(サトゥルノ)』、世界征服も余裕。

そこから11位までは『闇の星(プルトーネ)』、人類滅亡なんて簡単って感じかな? 」


「10位以上は? 」


「……『閉ざすもの(エンドロール)』。彼らにはこの星が狭すぎる、だから敵対すれば終わりってことでそう呼んでるよ 」


 初めて聞く話なのに、妙に納得してしまう。

 ヤマトさんですら大地を割るほどの一撃を放てるのに、それよりも圧倒的に強いものたちがたくさん居るんだから。


「でもヤマト程度なら、あんたの魔術があれば勝てるじゃねぇか 」


 ヤマトさんをその程度というルー。

 とうとうイカれたかと思っていたのに、どうしてかシノブさんは頷きながらも目を伏せた。


「たしかに()()()、でも戦えば犠牲者が出ることを忘れてはいけない。だから交渉したいんだけどね……ユウトくん、ワミヤくん、彼の目的に心当たりはないかい? 」


「自分はありません!! 一時間ちょっとしか喋ってませんので!!! あと人間は喋りかけて来るな殺すぞです!!!! 」


「あーん!? てめぇシノブに向かって何言ってやが」


「はいはい落ち着いて、ユウトくんは何かないかい? 」


 笑顔のワミヤさんとキレ散らかすルー。

 その二人をなだめながら、シノブさんの黒い瞳から見つめられる。

 けれどあの人の事なんて、僕も知らない。


「……ありませんね。同じルームメイトでしたけど、ヤマトさんはあまり自分のことを喋らなかったので 」


「なんでもいいんだ、印象に残ったことでもね 」


 少し首をひねり、細かなことを色々と思い出してみる。


「……よく、星を見てました、特に北の空を。あと……自分はバケモノだってよく言っていました。なのに食事方法とか話し方とかが人間らしくって、その……上手く言えないんですけど、バケモノを演じているような人でした 」


「……そう 」


「まぁなんでもいいって言ったシノブが悪いわな 」


「えっ!? 」


「ユウト〜、なんだか惚気みたいだったよ〜 」


「えぇ!? 」


 サクラさんからもルーからもため息をつかれ、少しアワアワしてしまう。


「退席する、あまり有益な情報が得られそうじゃねぇしな 」


 微妙な空気の中、ずっと黙っていた灰髪の男……バーンと呼ばれる人間が席から立ち上がった。

 しかもその青い目は僕だけを睨んでいる。


「……なんですか? 」


「……俺はお前を信用してねぇ、それだけはおぼっ」


 椅子を蹴りあげる音がした。

 隣にいたはずのサクラさんは消え、その手はバーンの口を鷲掴みにしている。

 

「ねぇねぇ。ユウトを悪く言ったらさぁ、殺すって言ったよね? 」


「サクラくん、手を離してくれるかい? 部下の非礼は私の責任だ、当たるなら私にしてくれ 」


「……うん、分かった! 」


 シノブさんの言葉に、サクラさんは満面の笑みで手を離した。

 するとその足はバーンの顔面を蹴り、その体は五階の窓ガラスを突き破った。

 

「よし! スッキリ!! 」


「サ……サクラさん? 」


「大丈夫大丈夫、バーンが全面的に悪いし、あれくらいじゃ死なないよ 」


 人が落ちていった状況に混乱していると、隣に来たサクラさんが体を擦り寄せてきた。

 そのせいで肩が跳ねてしまう。


(……ほんとこの人、よくわからないなぁ )


 サクラさんとはヒカゲさんの紹介で出会った。

 初対面なのにベタベタくっ付いてきて、僕がヘレダントを抜ける時も、人を殺し、退学になってまで着いてきた。

 ……ほんと変な人だ。


「とりあえずみんな、ちょっとユウトくんと二人にしてくれないかい? 彼だけに聞きたいことがあるんだ 」


「ヤダ 」


「お断りしますよクソ人間。二人になったら殺すつもりだろうが 」


 目を見開き、二人はシノブさんを睨みつける。

 けれど(とう)の本人は余裕そうに笑った。


「私が殺すつもりなら三人ごと殺せるから。君たちが居ても変わらないよ 」


「あっ? 」


「ん〜? 」


「大丈夫ですよ二人とも、たまには僕を信じてください 」


 サクラさん達に笑いかける。

 一瞬不満そうな顔をされたけど、二人はルーとともに出ていってくれた。


 足音が遠のくを確認し、とりあえず耳をふさぐ。

 すると案の定、シノブさんの大声が鼓膜を揺さぶった。


「あーー疲れた!!! 隊長なんて柄じゃないんだよ私!!!! 」


「嫌なら辞めればいいじゃないですか 」


「辞めたくないから頑張ってるんだよ!!!! 」


 はしたなく首と胸元のボタンを外し、ぐったりと机に伏せるシノブさん。

 しかも葉筒(はづつ)を咥えて煙まで吸い始めた。


「あー美味しい……煙最高…… 」


「あの、それで話ってなんですか? それ嫌いなので早く済ませて欲しいんですけど 」


「なら単刀直入に聞くね。なんでゲシュペンスト人間化の薬をさ、魔術で取りに行かなかったの? 」


 聞かれたくないことを問われた。

 そのせいで目線が下を向いてしまう。


「……その場所が崩壊してると、自分の体に異物が入りこむんです。だから転移しな」


「でも君って王宮に居たんでしょ? ならそこが無事かくらい分かるんじゃないの? 」


 急いで考えた言い訳も、簡単に見破られてしまった。

 鼓動がはやまり、腕をギュッと握りしめてしまう。


「私は責めてるわけじゃない。ただ君のことを知りたいだけなんだよ 」


「…………たしかにあの時、転移すれば回収できましたよ。でもしませんでした 」


「どうして? 」


「あなた達にあれを渡すのが怖かったんです。壊されるんじゃないか、利用されるんじゃないか。そんな考えがチラついて……回収できませんでした 」


 ケルパー王国の時だってそうだったから。

 家族を人質に取られて、やりたくない事を強いられてきたから。


「……うん、話してくれてありがとう 」


 シノブさんは円卓に足を乗せ、地面に灰を落とした。


「君たちがロジー王国に亡命してきて三加色……まぁそのくらいの期間じゃ、信用は得られないよね 」


「……それだけです? 」


「ん? 」


「亡命してきたゲシュペンストがしくじったんですよ? 殺すなり刻むなりすればいいじゃないですか 」


「そんな事しないよ。むしろアレだけのイレギュラーがあったのに、生存してくれたことが有難い 」


「……気持ち悪い 」


 人間から善意を向けられる。

 それがあまりにも不快で、小声でそう呟いてしまう。


「……私の目的はさ、ゲシュペンストと人間の共存なんだ。でもこれには問題が山積みなんだよ。欲求、枷、人間とゲシュペンストの確執。それをどうにかしないとそんな世界は訪れないし、何より協力者なんて居ないんだよね〜 」


「……でしょうね 」


「だから君の目的、『ゲシュペンストが必要とされない世界を作る』と聞いたときは嬉しかったよ。仲間がいたって思えたからさ 」


「僕の目的じゃありませんよ。ただあの人の……道半ばで終わった願いを、何がなんでも叶えたいだけですから。ロジー王国に亡命したのもそれが理由です……さすがに僕たちでやれることは少ないですから 」

 

 窓の外を眺めながら、あの人を思い浮かべる。

 周りを救ったのに、自分だけを救わなかったあの人を。

 

「まぁでもかなり困ったね。その解決策があの薬しか無かったんだから、これからどうしようかな…… 」


 シノブさんは葉筒をガジガジと噛み、眉間にシワをよせている。

 そんな姿を見ていると、ちょっとした疑問が生まれた。


「シノブさんって、ゲシュペンストに特別な思い入れでもあるんです? 」


「ちょっとあるねー。でも、一番は死んだ友人がそんな世界を望んでて……まぁ君と一緒かな、死んだあとも未練を抱えてるなんて可哀想じゃん。だから代わりに叶えてあげようって感じだよ 」


「……そうですね 」


 人間は嫌いだ。

 でもその意見だけには頷いてしまった。

 するとシノブさんはケラケラと笑い、火のついた葉筒を握りつぶした。


「さっ、センチメンタルになるのは終わり。またがんば」


「失礼します!!!! 」


(えっ、扉がえっ…… )


 文字通り吹き飛んだ扉。

 それに困惑してると、肩で息をする人間が部屋に入ってきた。


「偵察部隊所属のものです!! 緊急の用がありご報告にまいりました!!! 」


「ヤマトくん達に動きでもあったかい? 」


「い、いえ!! 動きがあったのはヘレダントです!!! 」


「ん? 」


「現在ヘレダントは、謎の部隊により襲撃を受けています! 正確には不明ですが間違いなく一万はこえる数です!! 」


 一万。

 その数に驚いてしまい、目を見開いてしまう。


「いや……そんなの」


「うん、少なすぎる。あの学園には『1位』『2位』『3位』『10位』が居るんだ、億でも少ないくらいなのに一万……逆に怖いね。とりあえず周辺の観測部隊に退避命令、念のために非番をふくむ防衛部隊全員に声掛け。私とバーンは前線に立つ、ルーは自由にさせといて 」


「了解しました!! 」


「気張るよ。下手したら余波でこの国が滅ぶからね 」


 さっきとは打って変わり、シノブさんは凛とした態度でテキパキと命令していく。


「ユウトくん、君にも頼みがある 」


「はい? 」


「サクラくん達と合流し、三人で女王の護衛に当たって欲しい 」


「護衛って……ロジーの女王は4位ですよね? なら護衛なんて 」


「頼んだよ 」


 一方的にそう言い残すと、シノブさんは足はやに外へ行ってしまった。


 頼んだ。

 そう言われたけど、あの薬が壊れた以上この国に留まる理由はない。

 正直、サクラさんたちを連れて逃げたほうが安全だ。


(いや……今さら安全なんて意味ないか )


 僕は作りもの。

 安全があったって、幸せを築いたって、どうせ壊れるんだ。

 だったらもう……


「うん、頑張ろう 」


 どうせ壊れるのなら、壊れるまで足掻こう。

 指で口角を上げながらそう決意し、命令通り女王の間へと向かった。


 


 


 


 

 

 



 

 




 


 




 






 

 


 

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだこの、核弾頭がそのへんでバナナみたいに揺れてる世界(゜A゜;)ヤベェ…… 特にヤバいヘレダントに10万は少なすぎるは会話の次元がバグってて好きです(笑)さておきこの10万はヤマトなんで…
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