第43節 作り物の道
『ヒカゲの遺産はどこだ? 』
どうしてあなたが……それを求めるんですか?
『殺し合いの途中に喋んじゃねぇよ 』
なんでそんなに、つまらなさそうなんですか?
『欲しくはねぇよ、ただ必要だっただけだ 』
なんでゲシュペンストの希望を、ヒカゲさんの遺産を、壊したんですか?
『とりあえず死んでろ 』
どうして僕と目を合わせないんですか?
『どうした? そんなバケモノを見るような目をしてよぉ 』
なんでそんな……泣きそうな目をしてるんですか?
答えてくださいよ、ねぇ
「ヤマト……さん 」
「サクラだよ〜 」
ぼやける視界に、ずいっと赤い髪と笑顔が入ってきた。
……サクラさんだ。
「おはよ〜ユウト!! 」
「あっ、おはようございます……というかここは? 」
起き上がって辺りを見る。
ここは白いベットたちが綺麗に並ぶ、見たことのない部屋だった。
「ロジー王国の医務室だよ〜。隊長さんが気を使ってくれたみたい 」
「……そうですか。ちなみに何か言ってませんでした? 」
「言ってたよ! 落ち着いたら会議に出てくれって!! 」
「じゃあ今から行きます。伝言ありがとうございますね 」
「えへへ〜、どう致しまして!! 」
可愛らしく笑うサクラさんの頭を撫で、壁にかかっている服。
白い生地を金で装飾された隊服に、袖を通す。
「お待たせしました、行きましょうか 」
「うん!! 」
廊下に出たあと二人で会議室へ向かい、扉を叩いて中に入る。
そこは巨大な円卓がある一室。
それを囲むように3人が座り、その中にはワミヤさんもいる。
「ユウト・カイナ、ただいま戻りました 」
「サクラ・カブリでーす! 」
「ちょうどいい所に来たね。ワミヤくんの隣が空いてるからそこに座るといい 」
軽く頭を下げ、金と銀が入り乱れる髪をした女性……『シノブ』さんの言葉に従う。
席に座ると、シノブさんは凛とした態度で話を進めはじめた。
「二人のために会議の内容をざっと説明するよ。ワミヤくんと観測部隊の報告で、ケルパー王国が落ちたことは間違いない。そこは君たちの計画通りだったとして、イレギュラーがあった 」
「ヤマトさん……ですね 」
「うん。彼はシグレ・アオギリと結託し、ケルパー王国を滅ぼした。そしてロジー王国へこんな手紙を出してきたんだ 」
手渡された白い紙には、ヤマトさんの黒い血で文字が書かれていた。
一加色後にこの国とヘレダントを滅ぼす、せいぜい足掻けよ人間共……と。
(どうしてあなたが…… )
「宣戦布告されたことも問題だけど、一番問題なのは『分からない』ということなんだ。彼がケルパー王国を滅ぼした理由も、ロジー王国への宣戦布告も、その何もかもが不明。これじゃあ交渉の余地もないよ 」
「交渉なんていらねぇだろ、来るなら殺す。それだけで十分だ 」
突然口を挟んできた、シノブさんの隣にいる赤茶髪の男。
ルーと呼ばれるそいつはボサボサな髪を掻き回し、自分の拳同士を威嚇するようにぶつけ始めた。
「あのねぇルー。相手はケルパー王国一の部隊を殺し、その余波だけで残りの『天陸宇下』すらも殺した男だよ? 87位となってはいるけど、あの破壊力なら『闇の星』までには匹敵する 」
「ぷるとーね? 」
首をひねるサクラさん。
その表情を見てか、シノブさんは少し笑いながら頷いた。
「ロジー王国独自の考え方だよ。順位の危険性をランク付けしてる。
100位から75位までは『血の星』、一国を滅ぼせる強さ。
50位までは『支配の星』、世界征服も余裕。
そこから11位までは『闇の星』、人類滅亡なんて簡単って感じかな? 」
「10位以上は? 」
「……『閉ざすもの』。彼らにはこの星が狭すぎる、だから敵対すれば終わりってことでそう呼んでるよ 」
初めて聞く話なのに、妙に納得してしまう。
ヤマトさんですら大地を割るほどの一撃を放てるのに、それよりも圧倒的に強いものたちがたくさん居るんだから。
「でもヤマト程度なら、あんたの魔術があれば勝てるじゃねぇか 」
ヤマトさんをその程度というルー。
とうとうイカれたかと思っていたのに、どうしてかシノブさんは頷きながらも目を伏せた。
「たしかに勝てる、でも戦えば犠牲者が出ることを忘れてはいけない。だから交渉したいんだけどね……ユウトくん、ワミヤくん、彼の目的に心当たりはないかい? 」
「自分はありません!! 一時間ちょっとしか喋ってませんので!!! あと人間は喋りかけて来るな殺すぞです!!!! 」
「あーん!? てめぇシノブに向かって何言ってやが」
「はいはい落ち着いて、ユウトくんは何かないかい? 」
笑顔のワミヤさんとキレ散らかすルー。
その二人をなだめながら、シノブさんの黒い瞳から見つめられる。
けれどあの人の事なんて、僕も知らない。
「……ありませんね。同じルームメイトでしたけど、ヤマトさんはあまり自分のことを喋らなかったので 」
「なんでもいいんだ、印象に残ったことでもね 」
少し首をひねり、細かなことを色々と思い出してみる。
「……よく、星を見てました、特に北の空を。あと……自分はバケモノだってよく言っていました。なのに食事方法とか話し方とかが人間らしくって、その……上手く言えないんですけど、バケモノを演じているような人でした 」
「……そう 」
「まぁなんでもいいって言ったシノブが悪いわな 」
「えっ!? 」
「ユウト〜、なんだか惚気みたいだったよ〜 」
「えぇ!? 」
サクラさんからもルーからもため息をつかれ、少しアワアワしてしまう。
「退席する、あまり有益な情報が得られそうじゃねぇしな 」
微妙な空気の中、ずっと黙っていた灰髪の男……バーンと呼ばれる人間が席から立ち上がった。
しかもその青い目は僕だけを睨んでいる。
「……なんですか? 」
「……俺はお前を信用してねぇ、それだけはおぼっ」
椅子を蹴りあげる音がした。
隣にいたはずのサクラさんは消え、その手はバーンの口を鷲掴みにしている。
「ねぇねぇ。ユウトを悪く言ったらさぁ、殺すって言ったよね? 」
「サクラくん、手を離してくれるかい? 部下の非礼は私の責任だ、当たるなら私にしてくれ 」
「……うん、分かった! 」
シノブさんの言葉に、サクラさんは満面の笑みで手を離した。
するとその足はバーンの顔面を蹴り、その体は五階の窓ガラスを突き破った。
「よし! スッキリ!! 」
「サ……サクラさん? 」
「大丈夫大丈夫、バーンが全面的に悪いし、あれくらいじゃ死なないよ 」
人が落ちていった状況に混乱していると、隣に来たサクラさんが体を擦り寄せてきた。
そのせいで肩が跳ねてしまう。
(……ほんとこの人、よくわからないなぁ )
サクラさんとはヒカゲさんの紹介で出会った。
初対面なのにベタベタくっ付いてきて、僕がヘレダントを抜ける時も、人を殺し、退学になってまで着いてきた。
……ほんと変な人だ。
「とりあえずみんな、ちょっとユウトくんと二人にしてくれないかい? 彼だけに聞きたいことがあるんだ 」
「ヤダ 」
「お断りしますよクソ人間。二人になったら殺すつもりだろうが 」
目を見開き、二人はシノブさんを睨みつける。
けれど当の本人は余裕そうに笑った。
「私が殺すつもりなら三人ごと殺せるから。君たちが居ても変わらないよ 」
「あっ? 」
「ん〜? 」
「大丈夫ですよ二人とも、たまには僕を信じてください 」
サクラさん達に笑いかける。
一瞬不満そうな顔をされたけど、二人はルーとともに出ていってくれた。
足音が遠のくを確認し、とりあえず耳をふさぐ。
すると案の定、シノブさんの大声が鼓膜を揺さぶった。
「あーー疲れた!!! 隊長なんて柄じゃないんだよ私!!!! 」
「嫌なら辞めればいいじゃないですか 」
「辞めたくないから頑張ってるんだよ!!!! 」
はしたなく首と胸元のボタンを外し、ぐったりと机に伏せるシノブさん。
しかも葉筒を咥えて煙まで吸い始めた。
「あー美味しい……煙最高…… 」
「あの、それで話ってなんですか? それ嫌いなので早く済ませて欲しいんですけど 」
「なら単刀直入に聞くね。なんでゲシュペンスト人間化の薬をさ、魔術で取りに行かなかったの? 」
聞かれたくないことを問われた。
そのせいで目線が下を向いてしまう。
「……その場所が崩壊してると、自分の体に異物が入りこむんです。だから転移しな」
「でも君って王宮に居たんでしょ? ならそこが無事かくらい分かるんじゃないの? 」
急いで考えた言い訳も、簡単に見破られてしまった。
鼓動がはやまり、腕をギュッと握りしめてしまう。
「私は責めてるわけじゃない。ただ君のことを知りたいだけなんだよ 」
「…………たしかにあの時、転移すれば回収できましたよ。でもしませんでした 」
「どうして? 」
「あなた達にあれを渡すのが怖かったんです。壊されるんじゃないか、利用されるんじゃないか。そんな考えがチラついて……回収できませんでした 」
ケルパー王国の時だってそうだったから。
家族を人質に取られて、やりたくない事を強いられてきたから。
「……うん、話してくれてありがとう 」
シノブさんは円卓に足を乗せ、地面に灰を落とした。
「君たちがロジー王国に亡命してきて三加色……まぁそのくらいの期間じゃ、信用は得られないよね 」
「……それだけです? 」
「ん? 」
「亡命してきたゲシュペンストがしくじったんですよ? 殺すなり刻むなりすればいいじゃないですか 」
「そんな事しないよ。むしろアレだけのイレギュラーがあったのに、生存してくれたことが有難い 」
「……気持ち悪い 」
人間から善意を向けられる。
それがあまりにも不快で、小声でそう呟いてしまう。
「……私の目的はさ、ゲシュペンストと人間の共存なんだ。でもこれには問題が山積みなんだよ。欲求、枷、人間とゲシュペンストの確執。それをどうにかしないとそんな世界は訪れないし、何より協力者なんて居ないんだよね〜 」
「……でしょうね 」
「だから君の目的、『ゲシュペンストが必要とされない世界を作る』と聞いたときは嬉しかったよ。仲間がいたって思えたからさ 」
「僕の目的じゃありませんよ。ただあの人の……道半ばで終わった願いを、何がなんでも叶えたいだけですから。ロジー王国に亡命したのもそれが理由です……さすがに僕たちでやれることは少ないですから 」
窓の外を眺めながら、あの人を思い浮かべる。
周りを救ったのに、自分だけを救わなかったあの人を。
「まぁでもかなり困ったね。その解決策があの薬しか無かったんだから、これからどうしようかな…… 」
シノブさんは葉筒をガジガジと噛み、眉間にシワをよせている。
そんな姿を見ていると、ちょっとした疑問が生まれた。
「シノブさんって、ゲシュペンストに特別な思い入れでもあるんです? 」
「ちょっとあるねー。でも、一番は死んだ友人がそんな世界を望んでて……まぁ君と一緒かな、死んだあとも未練を抱えてるなんて可哀想じゃん。だから代わりに叶えてあげようって感じだよ 」
「……そうですね 」
人間は嫌いだ。
でもその意見だけには頷いてしまった。
するとシノブさんはケラケラと笑い、火のついた葉筒を握りつぶした。
「さっ、センチメンタルになるのは終わり。またがんば」
「失礼します!!!! 」
(えっ、扉がえっ…… )
文字通り吹き飛んだ扉。
それに困惑してると、肩で息をする人間が部屋に入ってきた。
「偵察部隊所属のものです!! 緊急の用がありご報告にまいりました!!! 」
「ヤマトくん達に動きでもあったかい? 」
「い、いえ!! 動きがあったのはヘレダントです!!! 」
「ん? 」
「現在ヘレダントは、謎の部隊により襲撃を受けています! 正確には不明ですが間違いなく一万はこえる数です!! 」
一万。
その数に驚いてしまい、目を見開いてしまう。
「いや……そんなの」
「うん、少なすぎる。あの学園には『1位』『2位』『3位』『10位』が居るんだ、億でも少ないくらいなのに一万……逆に怖いね。とりあえず周辺の観測部隊に退避命令、念のために非番をふくむ防衛部隊全員に声掛け。私とバーンは前線に立つ、ルーは自由にさせといて 」
「了解しました!! 」
「気張るよ。下手したら余波でこの国が滅ぶからね 」
さっきとは打って変わり、シノブさんは凛とした態度でテキパキと命令していく。
「ユウトくん、君にも頼みがある 」
「はい? 」
「サクラくん達と合流し、三人で女王の護衛に当たって欲しい 」
「護衛って……ロジーの女王は4位ですよね? なら護衛なんて 」
「頼んだよ 」
一方的にそう言い残すと、シノブさんは足はやに外へ行ってしまった。
頼んだ。
そう言われたけど、あの薬が壊れた以上この国に留まる理由はない。
正直、サクラさんたちを連れて逃げたほうが安全だ。
(いや……今さら安全なんて意味ないか )
僕は作りもの。
安全があったって、幸せを築いたって、どうせ壊れるんだ。
だったらもう……
「うん、頑張ろう 」
どうせ壊れるのなら、壊れるまで足掻こう。
指で口角を上げながらそう決意し、命令通り女王の間へと向かった。




