第42節 シナリオからの脱線
「久しぶりだな。というかどうしたよその髪 」
久しぶりに見たユウトの緑髪。
長かったそれはバッサリ切られ、短くスッキリしている。
「ちょっとした事ですよ、元々国に帰ったら切るつもりでしたし 」
「……ちょっとした事ねぇ。ていうか、シグレの言ってた協力者ってお前だったんだな 」
たしかにシグレは、協力者のことを『匹』と数えていた。
……もっとはやくに気がつくべきだったな。
「はい、元々この国は滅ぼすつもりでしたからね。利害の一致ということで 」
「……復讐か? 」
「いいえ。そんなモノに囚われるのは、もうやめました 」
ユウトは悲しそうな目で俺を見つめてきた。
「僕の目的は……ゲシュペンストの滅亡です 」
「……そりゃ大した心変わりだな。理由は? 」
「僕たちは産まれながらに間違いな生き物です。生きるだけで奪う、失う、苦しめる。傷付けることしか出来なくて、誰も救えない 」
「だから人間のために、みんなで仲良く死のうってか? 」
「人間のためじゃありませんよ……でも、間違いは潰すべきですから 」
「……なるほど、ゲシュペンストの製造を止めるためにこの国を滅ぼしたいんだな 」
静かに頷くユウトとアイツの姿が重なった。
夢想に囚われ、なにも成し遂げられずに死んだ人間と。
「……それだけか? 」
「えっ? 」
「俺はヒカゲを殺した。恨み文句のひとつくらい吐けよ 」
そういう覚悟はしていた。
なのにユウトは目を閉じ、そっと自分の胸に手を置いた。
「恨んでなんていません。むしろ……申し訳ないと思ってます 」
「あっ? 」
「あの人が限界だったのは知っていました。でも……僕には殺す勇気がなかったんです。大切だったから、恩人だったから、殺せなかった 」
「……… 」
「僕が殺せなかったから、あなたが必要も無い罪を背負ったんです。だから……申し訳ない 」
「……ハッ、あの人間なんて気にかけても無意味だ 」
「えっ? 」
「あーそうだったそうだった。お前に一つ、聞きたいことがあったんだよ 」
笑みを浮かべ、ゆっくりと間合いを詰める。
ユウトは未だに……とぼけた顔をしている。
「聞きたいことですか? はい、なんでも聞いて」
「ヒカゲの遺産はどこにある? 」
ここでやっと気がついたらしい。
俺が……殺す気だってことに。
「なんでそれを……いえ! なんだろうと絶対に゛!!! 」
腹を蹴りあげ、浮いた体を大剣で殴りつける。
吹き飛んだ体は壁や天井を壊し、血をまき散らしながら何度もバウンドする。
(『空翔』 )
体を加速。
地面を突き破り、ユウトに大剣を振り下ろす。
だがそれは
(……止めやがった )
その一振は右手だけで止められていた。
「っぐ!!!! 」
(まっ、だからなんだよって話か )
あいた横腹に蹴りを打ちこみ、その体をぶっ飛ばす。
すると上から降りそそぐ瓦礫にユウトは押しつぶされた。
「……はぁぁ、抵抗すんなよめんどくせぇ 」
いつの間にか右足が無くなっている。
たぶん、蹴ったときに持っていかれた。
「なぁなぁ、早いとこ教えてくれよ。お前は俺には勝てねぇし、殺さずに聞き出すってストレス溜ま」
(……なんだ、この音? )
足を再生させて瓦礫の山に近づく中、なにか……音が聞こえた。
ブチブチと……布を裂くような。
ゴリゴリと……石を擦り合わせるような。
それが咀嚼音だと気付いた瞬間、なにかが瓦礫を消失させた。
それは四つの関節をもつ、白い右腕。
腕には数百の口と歯があり、なにかを喰うために特化した形をしている。
たぶん斬撃や瓦礫を喰ったのもあれだろう。
「僕は……あなたと敵になりたくないんです。だから」
「『力』 」
ユウトはなにかを喋ろうとした。
その隙に黒いヒビを走らせ、一振で目から下を吹き飛ばす。
「…………? 」
「殺し合いの途中に喋んなよ 」
ユウトの落ちた頭。
それを拾いあげ、さっきから気になっていた地面を靴底で叩いてみる。
(空洞音……なるほどな )
その場所を踏みつけると、地面はひび割れ、その向こうにある巨大な空洞に落ちていく。
(デケェな、元はなんだったんだここ? )
その空洞は100mをゆうに超えている。
なのに周りは明るいし、なぜか暖かい。
それに……なんでか懐かしい気がする。
「っ……雪? 」
着地すると気がついた。
なぜか周りに雪が積もっていることに。
「あれ〜? ヤマトさんどうしたんですか? 」
「おっ。探す手間がはぶけたぜ、シグレ 」
背後には、なぜか雪まみれのシグレがいた。
「ユウトの記憶を見てくれ。どうせこいつの事だし、お前と目を合わせてないんだろ? 」
「あーなるほどぉ、ありがとうございます。ヒカゲさんは自分の脳をイジって記憶処理してたのでね〜、知ってるのはユウトさんだけだったんですよ 」
ユウトの頭を差し出すと、シグレはニッコリと笑った。
「……ちょうど良かったですね。遺産はここにあるみたいですよ〜 」
「ハハッ、マジで丁度いいな 」
ユウトとの頭を投げ捨て、シグレについた雪を払いながらついて行く。
「というか良かったんです? あなたの記憶を見るに、ユウトさんってお友達でしょう? 」
「あぁ。でも仲良くする意味がなくなったからな、別になんとも思わねぇよ 」
「……そうですか、ご友人は大切にした方がいいですけどね 」
「まっ、どうでもいいさ。というか、ここって元はなんだったんだ? 」
「ゴミ捨て場ですよ、人のね 」
なぜかその言葉だけには威圧感があった。
「ケルパー王国ってですね、昔っから非人道的なことをしてたんです。まぁふつうは燃やすべきなんですけど、なにを思ったかその死体をこの中に投げ入れてました。天井に届くくらいに、文字通り山ほど 」
「……… 」
「まぁその時に殺された女性が妊娠してたらしいんです。知ってます? 女性って死後でも子を産めるんですよ 」
「……その時に産まれたのが覇王って訳か 」
「えぇ。でもそれを再現するには死体が足りなかったらしくてですね。だから特別なゲシュペンスト以外はここに捨てていたらしいんです 」
「なるほど、ゲシュペンストの処分命令はそのためでもあるのか 」
「でも私が死体を雪にしましたからね〜。あとはここを壊せば、覇王復活は無理でしょう 」
「そうだな 」
話が終わる頃には、ここの壁に着いていた。
その一部をシグレは指先で押す。
すると壁が動き、その奥には暗い一室があった。
「国が探しても見つからないわけですね〜。まさか死体の下にあるなんて 」
「まぁヒカゲの魔術なら不可能じゃねぇよな 」
とりあえずその部屋に入ると、見たことのある椅子と机があった。
(確か……ここから右後ろの引き出しに )
「あった 」
「なんですかそれ? 」
「ゲシュペンストを人間にする薬だ 」
「へー、ヒカゲさんは凄いですねぇ 」
瓶を引き出しから取り出した瞬間、部屋の入り口に気配を感じた。
それは丸裸のユウトだった。
「なんであなたは……それが欲しいんですか? 」
「別に欲しくはねぇよ、ただちょっと必要だっただけ 」
「必要? 」
「あぁ 」
ユウトに笑いかけ、引き出しに大剣を振り下ろす。
とうぜん瓶はすべて割れ、辺りには緑色の液体が散らばった。
「……っ!! おまっ」
ユウトの顔面を殴りつけ、地面に叩きつける。
そのまま喉を蹴りあげ、浮いた体をさらに殴る。
「ヒュー!! ずっガッ!!! 」
「とりあえず死んでろ 」
悶え苦しむユウト。
それに笑いかけながら全身に黒いヒビを走らせ、大剣を振り下ろす。
瞬間、無音だけが世界に響いた。
「……ツムギさんみたいですね〜 」
「いんや、あいつのはもっと鋭い 」
前方には青空が見える。
地下だった場所は更地になり、抉れた地面は底が見えない。
「ん? 」
「はぁ! はぁ!! 」
更地の上に誰かがいた。
そいつの隣には血を吐くユウトもいる。
「おっ、ワミヤじゃねぇか!! 久しぶりだな 」
たぶんワミヤの魔術だな。
じゃなきゃ、あの一撃で生き延びられるはずがない。
「……っ 」
「どうした? そんなバケモノを見るような目をしてよぉ 」
笑いかけながら剣を振りあげる。
だがワミヤたちの背後に鏡が現れ、ユウトの蹴りがそれを砕いた。
「……チッ、転位したか。つかもう一人の協力者ってワミヤのことだったんだな 」
「えぇ、まぁ見事に裏切られちゃいましたしね〜。目を合わせましたけど、ゲシュペンストを逃がしてたみたいですから 」
「……やっぱりか 」
「……? どうかしましたか? 」
「なんでもねぇ。てかお前、貴族とかは殺したのか? 」
「はい!! でも王は逃がしましたね〜、まさか表向きに出てたのが偽物だったんですもん。でも王は逃げ、貴族域と平民域は消失、ゲシュペンストの製造も止まった。もうこの国は陥落したと言ってもいいでしょうね 」
「そっか、あっという間だな 」
青空の下で伸びをし、大剣を背負いなおす。
「くぅぅ……あぁ。じゃあハルト殺してくるわ 」
「どうしてですか? あの人は裏切ってはないのに 」
「ん〜、アイツが敵になるとマズイ気がすんだよ。だから今のうちに殺しときたい、俺の目的にアイツは邪魔だ 」
「じゃあ私も手伝いましょうか〜? やること無くて暇ですし 」
「すげぇ助かるけどなぁ……お前はここに居てくれ。転移系の魔術で技術を持ち出されたらめんどくせぇ 」
「確かにそうですねぇ 」
「頼んだぞ 」
そう言い残して飛び上がろうとした寸前、シグレから服を摘まれた。
「一つ気になるんですけど、ヤマトさんの目的ってなんですか? 友人だったものをことごとく殺そうとしてますけど 」
「俺の目的は世界を壊すことだ……お前と一緒でな 」
「一緒……ですか。ふふっ、心を読む魔法ですか? 」
「いんや、言動でなんとなく察しただけだ。こいつは俺と同類だってな 」
手を弾いて今度こそ地面を蹴る。
地下から空に飛びあがり、そのまま平民域だった白い砂の上に着地する。
(さーてと、ハルトはどこ)
「あ〜!! ヤマト〜!!! 」
「っ!? 」
誰もいなかったはずの背後からアイツの声がした。
すぐさま振り返る。
だがそれを見た瞬間、頭が真っ白になった。
「……は? 」
「どうしたの? 」
見覚えのある、薬指だけで作られた二対の翼。
それがハルトの背には備わっていた。
「ねぇヤマト〜? なんで私の顔を見ないの? 」
「なんでお前が……その翼をもってんだよ 」
「ヤマト〜? あれ〜? どこにいるの? ……モモカ? 」
「おい? 」
急にハルトは膝から崩れ落ちた。
それに駆け寄ろうとした瞬間、ハルトの顔からなにかが落ちた。
「……はぁ? 」
それはひび割れた顔の半分だった。
「モモカ? 知らない。ミュル? ……誰? 好きじゃなくて、嫌いで、あれ? ゲシュペンストを救って? 俺は……私は……誰? 」
割れた顔から黒いヘドロが垂れていく。
その髪の色も、体つきも、手の大きさも、だんだんと変わっていく。
(こいつは……なんなんだ? )
「痛い……痛いいだいいたい!!!! ヤダ!!! 寒いのはもうヤダ!!!! ねぇ誰か」
「言ったよな 」
体をまるめて暴れ苦しむハルト。
その顔を誰かの手が覆い隠した。
「お前にその目は似合わねぇって 」
灰の匂いがした。
するとハルトの顔はもとに戻り、叫び声は寝息に変わった。
「リューク……か? 」
「おかえり、待ってたぞ 」
いつからかそこに居るリュークは、俺を無視してハルトに頬ずりし始めた。
どこまでも……甘えるように。
「さぁ帰ろう、俺たちの始まり……『ヘレダント』に 」
その言葉とともに、二人は音もなく消えた。
自分だけになった砂漠の上。
そこでとりあえず息を吸う。
「…………意味わかんねぇぇぇぇ!!!! 」
空に向かって心の中身をぶちまける。
「なーんでリュークがここにいんだよ!! なんでハルトとあんな関係なんだよ!!! ハルトもなんであの翼もってんだよ!!? つーかアイツって人間じゃねぇのかよ!!! あと殺し損ねたわクソが!!!! あー!!!!! …………うし、スキッリした 」
髪をぐしゃぐしゃに掻き回し、落ちついた体で砂漠の上を進む。
(あー……ハルト殺そうとしたらリュークが出てくんのかぁ。しかもエリカがどっちに付くかもわかんねぇしなぁ、下手したらヘレダント中を敵に回すかもなぁ )
「まっ、その方が好都合だな。アハハハハハハハハッ 」
楽しみだから笑ってるのに、なぜか涙がこぼれてきた。
それでも笑い続ける。
じゃないと辛さで……どうにかなりそうだから。




