第41節 滅びの日
『こんにちは皆様。昼の放送は私、カリヤ・ゲイルが担当させて頂きます 』
『キャー!! いい声!!! 』
『やった〜!! わたしこの人の大ファンなの!!! 』
『こーら!! 店の中なんだから静かにしないと!! 』
『そういうアイリだってうるさいじゃん! 』
『いらっしゃーい! 今日は特別な魔具が入ってるよ〜!! 』
『おっ!! 最新鋭の魔具じゃねぇか!? お前金ある!? 』
『一応ある 』
『なら二人で買おうぜ!! これで試験に合格しよう!!! 』
『……はぁぁ、お前は言っても変わらねぇしなぁ 』
『よっしゃぁ!! サンキューな!!! 』
『気にすんな。日頃付き合ってくれてる礼だ 』
『お母さん? どこ? 』
『ん? 迷子なのかい? 』
『……うん 』
『こらこら泣くんじゃないよ。お姉ちゃんが一緒に探してあげるから、あなたは』
「子死唄 」
体から伸びた影。
それが蠢いた瞬間、街から声が消えた。
「ふん、ふふん、ふっふ〜ん 」
若い女の子たちの死体。
仲が良さそうな二人の男子たち。
子供と手を繋いだ灰髪のお姉さん。
そのお目目はまっかっか。
血涙はドーロドロ。
そんな死体を踏みつけながら、鼻歌交じりに踊ってみる。
「あっ、合図待つの忘れてた…………まいっか! 全員殺すことが目的だしね!! 」
そういう事にして手を空にあげる。
「今日はあなたの誕生日。今日は私の終わりの日 」
詠唱をはじめた瞬間、頭にノイズが走る。
「覚めない現はいつまでも。覚めない悪夢はいつまでも。あなたはバラバラ、私は消える 」
黒い髪。
赤い髪。
紫色の瞳。
青空の瞳。
槍、心臓、一突き、バラバラ、咀嚼、赤いヒビ。
断片的な映像が頭の中でチカチカと点滅する。
「でもね、私はあなたに会いたい。それが出来ないのなら、こんな世界は作り直そう。あの日から、私たちの出会いから 」
拳をギュッとにぎり、ゆっくりそれを振り下ろす。
「っ!! 何事だ!? 」
「止まれ!! そこのおん……」
「どうし…… 」
やってきた二人は私に剣を向けた。
でもその目は空に釘付けになってる。
「わぁ、凄いね〜!! 」
綺麗な青空。
そこには場違いな空白があった。
色がない白。
世界を塗りつぶす白。
それがゆっくりと……地上に迫ってくる。
「バイバ〜イ 」
空気が震え、地面も震えた。
瞬間、辺りは白に包まれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「合図…………いや、平民域の方だしハルトか。しっかし派手だなぁ 」
時計塔の上から見える平民域だった場所。
そこは白い砂に覆われ、あそこだけ世界が違うように見える。
「さーてと、んじゃ俺も……好き勝手はじめるか 」
背中から落下し、空に右手を伸ばす。
「『駄作』 『寄生』『鳥籠』『結晶 』」
魔法の多重発動。
右腕の細胞が増殖し、肥大し、固まり、巨大かつ異様な大剣となった。
それを掴み、ただ着地する。
それだけで辺りの地面は砕け散った。
「っ!? 」
「何者だ貴様!!! 」
「はいはい。ちょっと黙っててくれねぇかなぁ!!! 」
大剣を振るう。
それだけで時計塔の見物人、虐げられていたゲシュペンスト、建物、遠目に見える城の一部。
そのすべてが切断され、崩れ落ちた。
「……ハッ、威力やべぇな 」
握りこむ赤紫色の大剣。
それには赤い目や黒い血管が無数に絡みあい、見た目的にはちょっと気持ち悪い。
けど威力は桁外れだ。
(さーてと、そろそろ来るか? )
これだけ派手な一撃を貴族域でぶっ飛ばしたんだ。
そろそろ来てもおかしくな
(っ! 上か!? )
「おーラッ!!!! 」
上からの一撃を大剣で受ける。
だが衝撃を受け止めきれず、大剣が背にめり込んだ。
『こいつ……受け止めやがった!! 』
「ハハッ、すげぇ一撃だな 」
そいつを弾き飛ばそうとした瞬間、白い光から腹と心臓を貫かれた。
「ふっ 」
『やべぇ!! 』
それでも強引に大剣を振るい、上にいる奴を地面に叩きつける。
(この手応え……受け身? じゃねぇな、魔術か )
あの一撃で叩きつけたのに、殺したときの気持ちよさを感じない。
案の定、叩きつけた男は身軽に回転し、地面に着地した。
「あっぶねぇ!! なんなんっすかアイツ!? 」
「分からない。だがここから城を攻撃した奴だ、恐らく『天陸宇下』レベルで間違いない 」
「だるいなぁそりゃ 」
「はいはい、さっさと片付けるよ。こいつだけとは限らないし、平民域の方での一撃が気になる 」
「……ハハッ! いいねぇ!! 『天陸宇下』が四人もか!!! 」
立ち塞がる四人。
青髪に銀の双剣、そして俺の一撃を防いだ若い奴……たぶん48位。
光の狙撃に金髪、瞳の中に炎がうねる青年……間違いなく51位。
黒い鎧と兜を来た男……見たことはねぇが、さっきの二人より強い。
そして赤髪と背の低い女……この中で誰よりも弱いが、なんか面倒くさそうな感じがする。
「で、お前は何者だ? いや……どこのゲシュペンストだ 」
再生を見られたらしい。
あからさまに……全員の雰囲気が変わった。
「俺の名は『ヤマト・ホルテンジエ』。この世界を……壊す物だ 」
大剣を背負い、その4人に中指を立てる。
瞬間、六つの光が空に浮かんだ。
「フォーメーションC。ゲシュペンストの処理を開始する 」
「「「了解 」」」
「せいぜい足掻けよ、人間共が 」
大剣ですべての光を弾く。
その隙に双剣使いから接近され、剣から巨大な衝撃波が放たれた。
「っう!! 」
大剣を盾に防いだが、ここは空中。
逃げ場のない場所でまた光が瞬いた。
(もう見てんだ……よ? )
いつの間にか、右眼に闇のような刃が突き刺さっていた。
しかも右脳を貫通してる。
(風の揺れも音もねぇ……間合いガン無視の一撃か )
刃を引き抜くよりはやく、光から左足と左腕を持っていかれた。
そして地上にはあの双剣使いがいる。
(一人くらい、ここで殺すか )
「やべ!! 」
首をふるって刃を抜き、双剣使いに大剣を振り下ろす。
その余波で辺りの建物は吹き飛んだが、攻撃は受け止められた。
(……おっ? )
着地した瞬間、右足が溶け落ちた。
しかも再生できない。
「今だ!! 」
尻もちをついた瞬間、光から首を切断され、回る視界に黒い剣が突き刺さった。
しかも心臓は双剣使いに切り裂かれる。
重要臓器二つ潰れた。
さすがにこれは……
(あーぁ、死んじまったな )
「……っ!! まだだ!!!!! 」
「えっ? 」
頭のない体を動かし、大剣の突きを双剣使いにぶつける。
「っう!! 」
防がれた。
だがその体は空に打ち上がり、味方から引き剥がした。
(『寄生』……解除。『空翔』 」
使い捨ての頭から意識を切断。
最速で右脳と片目を再生させ、最速で双剣使いに追いつく。
「この」
「おせぇ 」
空中で加速。
双剣ごとその体を切り殺し、ついでに頭を握りつぶす。
「カイリ!!! 」
(あー……やっぱあの女は治癒系の魔術か )
溶けた足を切り落とし、その断面で空中を蹴る。
「おま」
「ケリー!? 」
首だけの女はなにかを喋っていた。
それを金髪の男にパスし、動揺したそいつを大剣で殴りつける。
(んっ、コイツは脆いな )
金髪の体はぐちゃぐちゃに潰れ、吹き飛んだ死体は無数の家を貫通して城にぶち当たった。
もう少し手応えがあると思ったが……あと一人しか残ってない。
「……お前は何製だよ? 」
足と頭を再生させていると、鎧の男が話しかけてきた。
「なんだよ、不利になった途端おしゃべりか? 」
「あぁ、時間稼ぎだ 」
「……まぁいいぜ、答えてやる。俺の素材は人間だ 」
「人間? ゲシュペンストの素材は、ふつう人以外だろ 」
「普通ならな、けど俺は勇者の失敗作だ。歴戦の戦士、勇士、天才、天才の親、そいつらをドロドロに溶かして勇者の型に流し入れた、それが俺だ 」
「……なおさらわからん。たかが人の素材で、そこまでの強さが出るとは思えん 」
『なんだコイツは……どんなタネを持っている? 』
「……なるほどな 」
下手に攻めてこない理由がわかった。
だから大剣を下ろし、無防備をアピールしながら話をつづける。
「俺は109個の魔法を持っているんだ。だからお前の心も読める 」
「は? 」
「でもわかんねぇよな、すべての魔法は誰でも使える『盾』で防げる。いくら魔法をつかえたからって、それじゃあ誰も殺せねぇ。だからこうした……俺自身を魔法で変異させる 」
そう言うと、鎧の男は半歩引いた。
「『駄作』……駄作を生み出す魔法。これで全細胞に、極小の臓器と筋肉を増殖させる。
『寄生』……触れた対象に意識を移す。これで脳やら心臓やらが潰れても、細胞の臓器が生きていれば再生できる。
『結晶 』『鳥籠』……増殖させた細胞を固めて剣にしてる。
あとは『空翔』で体を加速させたりとかな 」
「……それだけか? 」
「あぁ、それだけだ 」
時間稼ぎにわざわざ付き合ったんだ。
これでようやく、こいつの全力が拝めるはずだ。
「……『夜ノ太刀』 」
案の定、鎧の男は空に手を掲げる。
瞬間、黒い煙が空をおおった。
「おっ? なんだあれ? 」
空には巨大な刃があった。
しかもそのデカさは空の端から端まではある。
「あの刃は夜そのものだ。誰だって夜からは逃れられないだろ? 」
「回避不可能の超広範囲攻撃か。いいのか? んな事したら国が終わるぞ 」
「気にするな、俺の魔術……『夢界魔術』はターゲットにしか影響を及ぼさない。ベラベラ喋ってるうちにマーキングさせてもらった 」
なるほどな。
だからコイツは貴族域をまもっていたのか。
どんなに暴れても……周りに被害を出さないから。
「ちなみに俺を殺しても太刀の落下は終わらない……お前の詰みだな 」
「へー、そうかよ 」
勝ち誇った声とともに、空から刃が迫る。
それに応じて大剣を構え、口が裂けるほどの笑みを浮かべる。
「……? 何をして」
「俺さっき言ったよな? 全細胞に極小の臓器や脳を生み出せるって。脳、筋肉、心臓、消化器官。これがあるってことは……それは一つの生物なんだよ 」
「だからな……っう!!!! 」
『まさか!! 』
「そっ。魔法はこの世すべての生物が使える 」
勘づいた男は闇のような刃を無数に放つ。
それは脳、心臓、足を貫くが……すべての細胞を滅するまでには至らない。
「『力』 」
60兆ほどの全細胞。
そのすべてに黒いヒビが走り、破れた血管からは黒炎が立ちのぼる。
「止ま」
「『落命』 」
剣を振り下ろす。
ただそれだけで……刃はおろか、空も夜も、無音が消し飛ばした。
「っ……ぅ…… 」
「感謝してるぜ、お前らのおかげで自分の力量を測れた。なにより……空からの一撃で助かったよ、これを地上に撃ったら大陸ごとぶっ壊れてたろうしな 」
空にむかって剣を振ったにも関わらず、貴族域は命の痕跡すらない更地になっていた。
かろうじて鎧の男は生きているみたいだが、余波をもろに喰らっている。
右半身は消し飛び、残った方もボロい布切れみたいだ。
「おま……ぇは……なんのため…… 」
「世界を壊すことだ。他に目的はねぇよ 」
その頭を大剣で潰す。
すると吐き気がするほどの快楽が全身に回った。
「…………行くか 」
吐き気を無理やり飲み、顔をあげて地面を蹴る。
それだけで体が跳ね上がり、遠巻きに見えた城は目の前に見える。
(力……解除 )
「おらよっと 」
壁を蹴破って最上階から侵入する。
そこには紙束を抱えた科学者たちが、怯えた顔をしていた。
「なにも」
「バケモノだ 」
大剣に血をめぐらせ、それを剣圧とともにぶっ飛ばす。
「あっ? 」
科学者たちは廊下ごと消えたが、その奥には誰かが残っていた。
しかも血の斬撃は消えている。
(受け止めた? いや……なにかに呑み込まれた感じだな )
「コイツは……手応えがありそ」
「あれ、ヤマトさん? 」
「……はっ? 」
そこに立っていたのは、ユウトだった。




