第39節 忘れられたゴミ箱
闇が晴れると、辺り一面には花が咲いていた。
空はとても青くて、周りを見渡しても果てがない。
「ここは? 」
「私が作った空間……誰にも見つからない場所さ 」
「……だから変なんだ 」
桜や梅に紫陽花、スズランにアサガオ。
木やツタから咲くはずの花たちが土から顔を出している。
「お気に召さないかい? 」
「うんん、とっても綺麗 」
「ならよかった。さっ、行こうか 」
エリカから手をつながれ、二人で花の海をすすむ。
「そういえばなんだけど……あなたはエリカ? 」
「急にどうしたんだい? 君の目にはエリカ以外に見えるのかな? 」
「見た目も臭いもエリカだけどさ、立ち姿というか……気配が違うように感じる 」
「……ふふっ、気のせいだよ 」
はぐらかすように笑わられ、ちょっと納得がいかない。
そのせいで唇がとがってしまう。
「あぁ、見えたよ 」
「……あっ 」
エリカの言葉で、誰かが横たわっていることに気がついた。
瞬間、体が勝手に走りだした。
「わっ!! 」
花に足をとられて転んだ。
それでも走って、やっと亡骸の前にやってこれた。
「……久しぶり、ヒカゲ 」
ヒカゲを抱きしめる。
心臓は動いてないし喋りもしない。
でも会えたことが、涙がでるほど嬉しかった。
「落ち着いたかい? 」
「……うん 」
あれからたくさん泣いたあと、お墓から離れた場所に連れていかれた。
そこでぼんやり座っていると、涙も変な感情も収まってくれた。
「なんか最近変なの。ヒカゲのことを思い出すと泣いちゃうし、ヤマトが離れようとすると止めちゃうの 」
「……確かにそれは変だね。以前の君なら『どうでもいい』で片付けてたはずだろうに 」
「……ほんとにね。どうしてだろ? 」
膝を抱いて首をひねってみる。
でも一人じゃなんの答えも出てくれない。
「寂しいからじゃないかい? 」
「……寂しい? 」
急にそんなことを聞かれた。
でも……絶対にそんなことはないと思う。
「寂しくなんてないよ。そもそも……ヒカゲたちと長い付き合いじゃないもん 」
「ヒカゲを思い出して泣いたりするかい? 」
「うん 」
「ヤマトが死んだらって考えたらどう思う? 」
「…………胸がキュッとする 」
「それをね、ふつうは寂しいって言うんだよ 」
「でも」
「ヒカゲたちと一緒にいて楽しかったんだろう? だから長い付き合いじゃなくても、彼が居なくなって寂しいと思うんだよ 」
「…………そうなんだ。これが寂しさなんだね 」
平らな胸を抑え、この感情が逃げないようにギュッと体を丸めてみる。
するとエリカが隣に腰を下ろした。
「今まで寂しいと思ったことはないのかい? 」
「ない。お姉ちゃんが死んでも、ユイナ……妹と離れることになっても、ちっとも寂しくなかった。だからほんと……産まれてはじめての感情でビックリしてる 」
「嫌かい? 」
「少し気持ち悪い。でも……嫌じゃない 」
そう言うと、エリカからそっと抱きしめられた。
「そっか……それなら本当によかった 」
「……ねぇ、どうしてエリカって私のことを気にかけてくれるの? 男のフリをしてた時はかなり無愛想だったのに……あの時からずーっとこんな感じだし 」
「…………私にはね、ずっと好きだった男の人がいたんだ。世界が滅んでも、世界が見捨てても、幸せになって欲しい人が。そんな彼に君が似てたからだよ 」
「似てるだけで……ここまで出来るの? 」
「出来るさ、私には彼以外すがる物がなかったからね。似てるだけで、命をかけて守りたいんだよ 」
「……変わってるね 」
「お互い様さ 」
トクトクと動くエリカの心臓。
それを聞いてると、なんだか頭がぽわぽわしてくる。
「ねぇ……言ったらいいか分からないけどさ、ケルパー王国を滅ぼさないかって誘われたの。私に滅ぼす理由はないけど、ヤマトがそれに加担するって言ってるの。どうしたらいいと思う? 」
「ヤマトは強くなったからね、守らなくて平気さ 」
「でも……ゲームが終わってからさ、ヤマトの笑顔が増えてるの。なんというか、死に方を見つけたみたいに 」
「不安なのかい? 」
「うん、すっごく 」
「ならそばに居るといいよ。守らなくてもいいし、人を殺さなくてもいい。でも……彼が遠くに行こうとしたなら、ギュッとその手を握るといいさ。それだけで救える命もあるからね 」
「そうなんだ 」
そう言われたから、ギュッとエリカの手を握りしめる。
するとエリカの体が震えたのを感じた。
「エリカもさ、あんまり遠くに行かないでね。私って意外と寂しがり屋みたいだから 」
「……………はぁぁぁぁ、ほんと君は卑怯だね 」
手を絡められ、お互いの手を握りあう。
ただそれだけで……幸せに思えた。
「約束するよ。絶対に……君の元へ帰ってくるさ 」
「うん。あっ、それとエリカにずっと聞きたいことがあったの 」
「なんだい? なんでも答えてあげるよ 」
エリカは優しく笑ってくれた。
だからこっちも……ニッコリと笑ってしまう。
「勇者を殺したのは……誰? 」
なんでも答えてくれると言うから、そう聞いてみた。
それだけなのに……エリカはありえないと言いたげな顔をした。
「……エリ」
首をひねった瞬間、体から力が抜けた。
意識があるのに動けない。
「なんで……まだこれだけじゃ…………リューク……リュークか……ふざけるなよ……クソ野郎 」
意識が落ちる寸前、静かで重い声が聞こえた。
「おいハルト? まだ寝てんのか? 」
「……ん 」
声で目を覚ますと、そこは寮だった。
辺りを見回してもエリカの姿はなくて、代わりにヤマトがいる。
「なんか……用事? 」
「いやもう深夜なんだよ。一応どうするか聞いた方がいいかと思ってな 」
いつの間にかかなり時間が経ってるらしい。
外は暗いし、目ヤニが酷い。
「で、どうする? 」
「私も行く 」
「……念の為に言っとくけどよ、これはただの」
「殺戮はしない、でも行く。私って寂しがり屋みたいだから 」
ニッコリ笑ってみると、ヤマトは頭を抑えてため息を吐いた。
でも……仕方なさそうに笑ってくれた。
「らしいぜ、シグレ 」
「それは好都合ですね〜 」
あの声が聞こえると、窓がひらいた。
ガタガタと風で揺れる窓の上にシグレは立っている。
「それじゃあ満場一致という事ですね 」
「そういえばどうやって向かうの? ふつうはこの学校から出れないはずでしょ? 」
「いえいえ〜それが出れちゃうんですよ。私たちは特別ですので 」
「『天陸宇下』は一時的に帰国が出来んだよ。じゃねぇと、国が貴重な戦力を外に出すわけねぇからな 」
「……たしかに 」
二人の説明に頷くと、シグレは意味深に口角を上げた。
「では向かいましょう。罪と死体の国、ケルパー王国へ 」




